【本編完結】つよつよ神竜イルクスさん   作:デュアン

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前書きキャラ紹介〈アガルタ法国編〉

シルフィ・ショート・バクタール
 アガルタ法国艦隊司令であり、同国大魔導師。98歳の町エルフ。(一応)原作キャラ。初登場は24話『フォーク海峡海戦(中編②)』にて。
 法国魔法開発局第一課課長であり、そこで『艦隊級極大閃光魔法』の開発を主導。しかしフォーク海峡海戦にてそれがグラ・バルカス帝国機に対しあまり効果が無かった為改良を重ね、放った後暫く進み、やがて無数の小さな光線へと拡散する『艦隊級対空閃光魔法』を開発した。


第三次イルネティア沖大海戦(後編③)

 場所は変わり、世界連合艦隊後方を航行中の空母部隊。今、彼等はかつてない程の攻撃にさらされていた。

 

「敵機8機撃墜!」

「2時、5時、10時それぞれの方向より3機接近!」

「次弾充填急げ!!」

 

 既に二隻いたロデオス級航空魔導母艦とアクセン級魔導竜母の両方、そして同じく二隻いたペガスス級竜母の内一隻は撃沈され、残るはライカの眠る『エディフィス』のみとなっていた。

 その彼女の周囲を六隻の魔導艦───アガルタ法国魔法艦隊が取り囲み、決死の対空防御を行っている。ミリシアル製の高性能魔導機関から生み出される膨大な魔力を総動員し艦隊級対空閃光魔法(アルケイン・スペイズカノン)を敵編隊の中へ次々と打ち込み、艦の周囲は絶え間なく魔法陣が輝き続ける。各艦も個別に対空砲を乱射し、空を光弾と黒煙で埋め尽くす。

 また、少し離れた場所では未だ雷竜や風竜、エルペシオ、そしてイルクスが敵機と戦い続けている。イルクスには誰も騎乗していない為これまでの様な機動は出来ていないが、それでもなお強力な戦力であり他の騎との連携で多数を撃墜していた。

 

 だが、減らない。いつまで経っても敵の数は減るどころか寧ろ増えている様にさえ感じる。そして、それは実際正しかった。

 何せ、帝国はほぼ全ての航空戦力をここに向けているのだ。本隊の空母からは絶えず攻撃機が発艦し、次々とここに送り込まれている。

 アンタレスであってもこれ程の数がいれば苦戦は必至である。しかし今回はその中にカノープスも混じっているのだ。機動力で勝る雷竜はともかく、速度でも機動力でも負けているエルペシオ4や3改などは勝つことなど到底不可能であり、まるでアンタレスに軽くあしらわれるワイバーンの様であった。

 既に彼等の母艦は残っていない。唯一残っているエディフィスは竜母としての改造を受けている為戦闘機は着艦する事が出来ないのだ。着艦したければ前方の艦隊にいる()の空母に向かうか、もしくはムー国機動艦隊と行動を共にする地方艦隊の空母に向かうしかない。そうして弾を撃ち尽くした機の中には何とかそれらの艦へ向かう者もいれば死なば諸共と敵機に体当たりする者もいる。

 雷竜や風竜には弾切れという概念は無いものの、やはり生物である為疲労が溜まってくる。そうして動きの鈍った騎から機銃の餌食にされていた。

 

 そして───

 

 

 極太の光線が発射され、それが接近する敵編隊の直前で無数の光の矢へと拡散する。無造作に散布されたそれらは当たらない物が殆どだが、いくつかは機体に命中し爆散させていた。

 艦隊級対空閃光魔法(アルケイン・スペイズカノン)───法国史上最大規模にして最強の対空魔法。それはグラ・バルカス帝国機に対し凄まじい効果を上げていたが、しかしこう何度も使われていては次第に対策も取られるというものだ。

 攻撃機隊はその魔法の効果範囲よりも更に散開し、一度の攻撃で撃墜される数を減らしていた。少数の犠牲は厭わない、正に圧倒的な数が可能とする戦法である。

 

「敵機5機撃墜!」

「左舷より敵雷撃機6機接近」

「次弾充填そのまま、通常兵器で迎撃しろ!」

 

 詠唱を並行しつつバクタールがそう指示を出す。それに応え、艦に装備された高角砲や対空魔光砲を左舷へと向けて撃ち放っていく。

 如何せんこういった最新兵器───法国基準───には未だ慣れていない部分が多い為操作はおぼつかないが、それでも何とか1機は墜とす。

 

「魚雷投下!」

「回避運動、防壁展開!」

「了解。回避運動、面舵一杯」

「7時から8時、防壁展開!」

 

 艦が旋回し、それと同時に手の空いていた魔導師が短文詠唱を行う。すると艦の左舷後方に薄い光の膜が現れる。そこはちょうど避けきれないであろう魚雷の進路上であった。

 魚雷がその膜───魔力障壁に当たり、信管が作動、爆発する。砲弾には速度がある為弱い防壁では貫かれるだけで終わるが、魚雷にはそれが殆ど無い為進路上に障害物を置くだけで防ぐ事が出来るのだ。

 

「敵魚雷排除!」

艦隊級対空閃光魔法(アルケイン・スペイズカノン)、発射まで残り10秒!」

「よし、総員対ショック防───」

 

 と、そう言いかけたその時だった。

 

 

「───ぎょふッ」

 

 バクタールの口から鮮血が吐き出される。

 気付けば、空にあった光が、そして艦同士を繋ぐ六芒星がいつの間にか消えていた。

 

「し、司令!?」

「かはッ、がッ、ゲホッ」

「し、司令!! 衛生兵!!」

 

 彼女はその場に蹲り、喉を押さえ口や鼻、目からさえも血を流し出す。ドロドロと甲板や彼女の軍服が血に汚れていく。

 この時、一隻の魔導艦が沈められていた。その艦は艦隊級対空閃光魔法(アルケイン・スペイズカノン)の魔法陣を構成している内の一つであり、それが突然破壊され、中断された事によって本来魔法の発動と共に空気中へ逃がされる筈の負荷が彼女に降りかかったのだ。

 身体全体を引き裂かれるかの様な痛み、それが彼女に降りかかる。

 

「……ッ、不要、だ……」

「し、しかし」

「ぐ……各艦に通達…個艦防御に移行せよ……ッ」

 

 並みの人間、いやエルフであればショック死していてもおかしくないその痛み。しかし、彼女は衛生兵を呼ぼうとした部下を静止し、杖を支えにふらふらと立ち上がる。

 

「被害…報告……!」

「は、はい。三番を担当していた『ウェインガルド』が沈没しました」

「ッ……陣形を五芒星へ変更、対空防御に穴を作るな……!」

「了解しました!」

 

 そんな状態であっても、彼女は的確に指示を出す。

 

 しかし、悪い事というのは続くもので。

 

「前方の艦隊より通信! あ、『アダマンタイト』、ち、沈没!!」

「な!?」

「み、ミリシアル最新鋭の戦艦が!?」

「……」

 

 魔信より送られてきたその報告。それに示した反応は皆同じだった。何も言わなかったバクタールですら、動揺を隠しきれていなかったのだ。

 ちなみにこの時既に『イルネティア』も撃沈されているのだが付近に友軍艦がいなかった為知られる事はなかった。もし、それも知らされていれば彼女の精神はここで折れてしまっていただろう。

 

「も……もう駄目だ……」

「ミリシアルでも勝てないのか……我々なんて……」

 

 そしてこの時、その事を知らせなかったのがグラ・バルカス帝国最大の誤ちとなった。

 

 

「───ッ、狼狽えるなァッ!!」

 

 

 彼女は血を吐きながらそう叫ぶ。

 

「ッ……」

「し、しかし……」

 

 一喝。しかし、部下達の士気は上がらない。

 

「勝利の女神はいない!! だが、我々には“希望”が()()!!」

「希望……!」

 

 だが、その言葉を聞くやいなや皆は顔を上げ、少し表情を明るくする。その様子に、彼女は少し複雑な思いを抱いていた。

 ああ、情けない。自分はあの傷ついた少女を利用する事でしかもう部下の士気を上げる事は出来ないのだ。そして、自分自身も。

 結局の所、今こうして命がけであの竜母を守っているのは心のどこかで彼女が目覚めてくれると信じているからだ。皆、奇跡が起こると信じている。信じなければ立っている事など出来ないのだ。

 

「右舷より敵機!」

「チッ!!」

 

 そんな事情などつゆ知らず、一隻沈んだのを好機と見た敵が攻撃を仕掛けてくる。

 そんな相手に、彼女はポケットから数十粒の小さな魔石を取り出し、続けて杖の先で空中に魔法陣を描き、最後にその魔石を魔法陣に向けて投げる。するとそれらは赤いオーラを纏いながら勢いを増し、敵の進路上で静止する。

 そして、それらのある場所を敵が通った瞬間。

 

点火(イグニッション)!!」

 

 そう、叫ぶ。

 

 瞬間、静止していた魔石が一斉に爆発し、その場を通りかかっていた攻撃機を粉々に砕いた。

 高威力爆裂魔法を付与させた魔石を空中に静止、こちらの合図で一斉に爆発させる魔法。彼女が個人で扱える魔法としては最大の威力を誇る。しかし欠点として魔力の消費が激しい事、高純度の魔石を一回で複数個消費する事、そして身体への負担が大きい事があった。

 

「ぐッ……」

 

 激しい苦痛に顔を歪め、ぐしゃりと胸を押さえる。鼻からポタリと垂れる血を拭う。

 

「敵機直上!」

「右舷より再度接近!」

「左舷からも三機来ます!!」

「ッ! 上部は私がやる、一番主砲は右舷、二番は左舷を対処しろ!!」

 

 一隻沈み、“あの光線”が飛んでこなくなった。当然帝国側の士気は上がり、彼等は一気に残りの艦を沈めるべく攻勢を強める。

 それらに対し艦各所から光弾や青い光線───高角魔導砲───が放たれる中、彼女は残りの魔石を全て取り出し先程の要領で今度は空へと放ち、一斉に爆破、爆撃機を一網打尽にする。

 だが、それもここまでだ。もう発動に必要な魔石は残っていない。そもそもこの魔法は奥の手の中でも更に奥の手扱いであり、ここまで多用するとは想定していなかった。まあ、仮に想定していたとしても大して変化は無かっただろうが。

 ディバイン級魔導艦を六隻導入し、それらの改造、兵員の訓練、液状魔石の購入……それらを経て法国の軍事費はかなり圧迫されていた。今使った魔石とて彼女が念の為にとポケットマネーで可能な限り購入していた物なのだ。

 

「想定が甘かった……というよりも地力の差か……」

 

 ぱらぱらと降り注ぐ破片を横目にそう呟く。見れば、先程撃墜した数倍の量の爆撃機がこちらに向かってきていた。

 左後方では二番艦『シェヘラザード』が炎上しながら中央より真っ二つに折れ沈んでいる。反対では六番艦『フィレモスフィア』が、その後方では五番艦『グルギーヴ』が、それぞれ喫水線下に大孔を空けて転覆している。残っているのはこの艦と四番艦の『エルーブルー』のみとなっていた。

 彼女は自らの杖を握り締め空を睨みつける。光弾と黒煙が埋め尽くすその中で、無数の飛行機械がその銃口をこちらに向けていた。

 

 瞬間、左脇腹を銃弾が抉り取る。彼女だけではない。甲板は焦げた孔だらけになり、その場にいた多くの魔導師達がその身体を貫かれ、抉られ、砕かれていた。

 彼女は倒れ伏す前に杖で身体を支え、続けて詠唱し眼前に魔法陣を投影、そこから無数の光弾を放つ。それは機銃掃射を終え上昇しようとしていた一機のアンタレスに当たり、炎上させた。

 

 震える両足で身体を支え、何とか杖を構え直す。

 

 魔法陣を杖の先端に発現させ、そこから赤紫の光線を放つ。それはしばらく進むと三つに拡散し、偶然にも一機に命中する。ある方向では魔法陣を空中に投影し、そこから無造作に光弾を吐き出し続ける。殆どは外れるが、ごくまれに命中し墜落していく。

 しかし、敵もただやられているだけではない。カノープスの30㎜機銃が、アンタレスの20㎜機銃が、7.7㎜機銃が、それぞれ『ディバイン』に向け放たれる。銃弾の雨が彼女らを襲う。

 杖を持つ腕を千切られた。エルフの誇りである長い耳を削られた。自慢だった翡翠色の瞳を砕かれた。魔導師の命たる杖を折られた。足を、腹を、頬を抉られた。それでもなお、反撃の手は緩めない。口から血を吐きながら、目から血涙を垂れ流しながら、それでもなお魔法を放ち続ける。最早痛みなど感じていなかった。

 いつの間にか、甲板で動いているのは彼女一人となっていた。高角魔導砲は青い灯を吹かず、対空魔光砲からは一発の光弾も撃ち上げられない。それらには例外なく冷たい肉塊が寄りかかり、紅黒い血を染み込ませているのみだった。

 

 そして、そんな彼女も。

 

 

「……」

 

 

 彼女の身体を支える足はもう無い。片方は離れた場所に無造作に放り出され、もう片方は膝を半ばから抉り取られあり得ない方向へと曲がっている。

 片手も無く、唯一残った右手で只の金属棒となった杖を握り、呆然と爆撃機が降下してくる空を見つめていた。

 全身の感覚が無い。どの部位が取れ、どの部位が残っているのかさえ分からない。分かるのはただ視界の半分が黒く、もう半分もぽつぽつと紅く染まっている事のみだ。

 

「……あ、とは……」

 

 爆撃機が爆弾を落とす。

 

「まか……せ…………た…………」

 

 紅い斑点が浮かぶ翡翠色の瞳から光が消える。

 

 次の瞬間には、落とされた爆弾が甲板を貫いた。

 

 

 アガルタ法国、空母護衛魔法艦隊は全滅した。最新艦であるディバイン級魔導艦六隻が、最後の一隻である一番艦『ディバイン』が沈むまでに撃墜した敵機の数、235。これはこの作戦に参加した帝国軍機の一割強にも及んだ。

 それ程までに艦隊級対空閃光魔法(アルケイン・スペイズカノン)は強力であり、魔法の強さを知らしめる結果となった。

 

 だが、敵が全滅した訳ではない。彼女らの活躍は、『エディフィス』が撃沈されるまでの時間を数分延ばすだけに留まった。護衛艦を失い殆ど無防備となった『エディフィス』は攻撃機にとって恰好の的となり、投下された無数の魚雷を舷側に受けた。

 発生した破孔から流れ込む海水は、最早注水で抑えられる量を遥かに超えていた。艦は急激に傾いていき、数多の乗員と共に海へと沈んでいく。

 

 そして、眠っていたライカも。

 イルクスは必死に飛んだが、無数の戦闘機に阻まれる。軍医が背負い海に飛び込んだものの沈没の際に生まれた渦に巻き込まれ、救命ボートに乗ることも出来ず暗い海の底に引き摺り込まれていったのだった。

 

 

「ライカぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!!」

 

 

 戦場に、一匹の竜の悲痛な慟哭が響き渡った。

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