「大きい……」
「これ程とは……」
ゲルニカより降りた記者団は、早速ドイバの港へと来ていた。
そこには拿捕した艦船が繋留されており、中でもグレードアトラスターは彼らがこれまで見たどんな船よりも大きかった。
───こんな物を造る様な相手に、勝てるのだろうか。
船を見た者達の中に、その様な感情が生まれる。
神聖ミリシアル帝国において最も大きな艦砲は、最新鋭艦であるミスリル級魔導戦艦が搭載する霊式38.1cm3連装魔導砲だ。その船にはそれが2基設置されており、この世界の如何なる戦艦であろうと敵わない───そう、思っていた。
だが、目の前の戦艦はどうだ。
全長、全高、全幅どれをとってもミスリル級より大きく、主砲も明らかに口径38.1cm以上の物の3連装砲が3基も搭載されている。
今は戦列艦の攻撃によって全て破壊されているが、他にも数多くの対空兵器が搭載されていたという。
「よく……勝てましたね……」
「ええ。戦列艦隊の奮戦、竜騎士隊による決死の突撃、そしてライカ殿とイルクス殿による敵戦闘機の撃墜、そのどれか1つでも欠けていれば我々は今頃ここには居なかったでしょう」
「成程……」
記者団はこれを見て「所詮は文明圏外国にやられるような戦艦」などと嘲笑する事は出来なかった。
寧ろ、これを前にして1歩も引くことなく戦った王国軍の兵士達に尊敬を覚える程である。
彼らの帝国民としてのプライド。それをこの空前絶後の超巨大戦艦はいとも容易く打ち砕いたのだった。
「……それでは、撮影を始めましょうか」
───────
〈グラ・バルカス帝国領 レイフォリア〉
『はい! こちらはレポーターのウレリアです。今、私は先日グラ・バルカス帝国による侵攻を受けた第2文明圏外国のイルネティア王国に来ています!』
食堂にてシエリア達が見つめる中、画面の女はマイクを持って話し続ける。
『ご覧下さい! これがあの、美しい街として評判であったドイバ市街です!』
女は背後に無惨な姿を晒すドイバ跡を手で指した。
そこにはかつてあった美しい街並みは存在せず、代わりにあるのは瓦礫ばかりだ。
『これを行ったのは、現在第2文明圏を騒がせ、列強レイフォルを滅ぼしたグラ・バルカス帝国の戦艦、グレードアトラスターです!』
女の言葉にカメラが移動する。
「なっ!!?」
「そんなっ!?」
そこで映った光景に、シエリア達は驚愕する。
なにせ、そのドイバ港に繋留されていたのは、グラ・バルカス帝国が誇る最大最強の戦艦、グレードアトラスターそのものであったのだから。
グレードアトラスターは対空兵器こそ破壊されていたものの、船体はほぼ無事であり、拿捕されたという言葉が本当であるという事を如実に示していた。
『それにしても大きいですね……それでは乗ってみましょう』
女が取り付けられたタラップを上り、グレードアトラスターの甲板へと上がる。
そして主砲へと近付き、これみよがしに手を開いて大きさを強調してみせる。
『今回、敵の主砲口径を計る為にメジャーを用意しています。早速計ってみましょう』
そう言うと、女はメジャーを砲の開口部へと当て、伸ばしていく。
メジャーはどんどんと伸びていき、遂にはミスリル級の38cmを超え、一般兵達に教えられている
『な、なんと!! この主砲の口径は46cm! 46cmです!!』
帝国の機密が、よりにもよって世界全体に公開される。
この事を知らなかった一般兵や下士官、外務職員達に動揺が走る。
シエリアは目眩を覚えた。
『一体、この様な化け物をイルネティア王国軍の方々はどうやって攻略したのでしょうか? 解説役として、王国軍の将軍であるニズエルさんに来てもらっています』
『に、ニズエルです』
ニズエル、と呼ばれた男は何処か緊張している様に見えた。それも放送による物ではなく、もっと別の事で緊張している様に彼女には見えた。
『ニズエルさん、一体あなた達はどうやってこの戦艦を下したのですか?』
『は、はい。まず、ドイバ防衛艦隊に所属していた戦列艦18隻がこの戦艦に対して魔導砲による猛攻撃を加えました。その後、我が国の誇る最強の竜騎士、ライカ殿が上空に居た敵戦闘機12機を全て撃墜、最後に竜騎士隊30騎が戦艦に乗り込み、戦闘開始より約1時間後、敵より降伏が示されました』
『凄まじいですね……戦列艦隊や竜騎士隊の活躍もさる事ながら、そのライカさんの功績が凄いですね』
『はい。また、敵戦闘機を全滅させた彼女はそのまま単独でドイバ沖120kmに居た敵艦隊に接近、これを壊滅させました』
『それがこの、敵艦17隻撃沈、ですね。一体どうやってこの様な戦果を上げたのか。実際に本人に聞いてみましょう。ライカさーん?』
シエリア達は、撃沈された艦艇の全てがたった1騎によるものだという事に驚愕し、同時にそれを行った人物が見られるという事で、固唾を飲んで画面を見守る。
一体どんな屈強な軍人が出てくるのか……
『は、はいっ! ら、ライカですっ!!』
だか、そんな彼女らの予想に反し、出てきたのは1人の少女であった。
『ではライカさん。あなたはどの様にして艦隊を壊滅させたのですか?』
『ひゃ、ひゃい! え、ええとですね。それを言うにはまず最初に、私が
『はーい、僕がイルクスでーす!』
そして、次に出てきたのはこれまた少女。こちらの頭には角が、背には翼が、尻には尻尾が生えているので人間ではないのだろう。
だが、今の彼女らにはそんな事はどうでもよかった。
彼女らの頭にあるのは、何故竜が紹介される筈の場面でこんな少女が出てくるのか、という事だ。……まあ、薄々勘づいてはいるが。頭が理解を拒んでいた。
『イルクスは、通常の飛竜とは異なるんです。音よりも速く飛べたり、力がとても強かったり……』
『お、音よりもですか。ちょっと信じられませんね……』
『でもなんと言っても、彼女はこうして人の姿を取る事が出来るんです』
『竜人形態のイルクスでーす!』
『それらを聞いていると、私としてはある伝説の存在を思い出してしまうんですが……』
『はい、概ねそれで合っています。イルクスは、あの神竜なんです』
『神竜!! まさかこんな所で神話の生物に出会えるとは思いませんでしたーーー』
その後、神話に出てくる神竜とインフィドラグーンについての説明がされる。
それらの話を、彼女らは半ば魂が抜けた様な顔で聞き入っていた。
次に彼女らが反応を示したのは、艦隊を壊滅させた事を実際に行ってみる、という場面が始まった時であった。
『それでは、実際にやってもらいましょう! ライカさん、イルクスさん、お願いします!』
『はい!』
『はーい!』
2人が元気に返事をすると、イルクスと名乗った少女の身体が眩い光に包まれ、それが収まるとそこには先程の有角の少女の姿は無く、代わりに大きな白い竜が鎮座していた。
その竜はこの世界で見たどの飛竜よりも洗練された身体を持ち、これならば音を超える、というのも本当かもしれないと思わせるだけの雰囲気があった。
その竜にもう1人の少女が乗り込み、竜が羽ばたく。
『な、なんと! 滑走は必要ないのですか?』
『はい。神竜はその場で垂直に飛ぶ事が出来るんです』
そう言った直後、凄まじい風と共に白竜が浮き上がる。レポーターは飛ばされない様になんとか耐え、カメラはガタガタと揺れていた。
そして白竜はある場所に向かって飛ぶ。その方向にあったのは───
「あ、あれはキャニス・ミナー級!!」
「た、確かに派遣艦隊に同行した『ハルナオン』だ……」
それはグラ・バルカス帝国海軍のキャニス・ミナー級駆逐艦『ハルナオン』であった。
その艦は確かに数日前に文明圏外の島国へ向かった物と同じであった。
『今回、2人には実際にあの小型艦を持ち上げてもらいます』
「も、持ち上げるだと!?」
「馬鹿な、一体何トンあると思っているんだ!! そんな事出来る筈がない!!」
職員や兵士達が声を上げる。
だが、そんな彼らを嘲笑うかの様に。
『おおおおお!!! ご覧下さい!! 全長100m超えの鉄の塊が、たった1頭の飛竜によって浮き上がっています!!』
ハルナオンの船体に白竜の爪が食い込むと、一瞬で艦全体が仄かな光に包まれる。
そして再び白竜が羽ばたくと、先程よりかは緩慢ながらに浮かび上がり、同時にハルナオンも港から離水したのであった。
この世の景色とは思えない映像……それを見て、彼らは唖然とする。
「……」
そんな中、シエリアの脳内には地獄の様な光景が広がっていた。
このレイフォリアに突然現れる白竜。その竜は港に留められていた駆逐艦を掴むと、持ち上げて次々と投げていく。
数千トンにも及ぶ質量攻撃。そんな物を防げる筈もなく、軍は為す術もなく壊滅、レイフォリアはたった1頭の竜に陥落する。
ここより西方にあるグラ・バルカス帝国本土。夜の闇に紛れ、その沖合に1つの小舟が辿り着く。
その後、帝都ラグナにて1頭の竜が出現し、帝国の誇る高層ビルを次々とちぎっては投げ、ちぎっては投げ……潰れる自動車、立ち上る炎。人々の悲鳴はとどまることを知らず、しかしやがては収まっていく。
そして最終的には皇城であるニブリス城も───
「───っ!!!!」
そこで彼女の意識は現実に戻される。画面では、持ち上げた駆逐艦を水上へと戻している最中であった。
呼吸が苦しい。冷や汗が止まらない。
「か、課長、大丈夫ですか?」
「……少し、休む」
彼女は自分の部屋へと戻り、あの白竜にどうやって対抗するかを考えるのだった。
これを見たグラ・バルカス帝国の者達の反応は様々であった。
あんな物は作り物だと言って信じない者、あまりの非現実さに呆然とする者、そしてこれはまずいと対策を考え始める者などだ。
人型になれるという事を態々放送したのは、帝国にそういった危機感を抱かせ、下手に手出し出来なくさせる為で
しかし、これの本当の目的は、列強のとある国を釣り上げる為であった。
その国はかつて栄えた竜神の国の末裔であり、人口数百万人とかなりの少なさでありながらも列強第3位に位置する国である。
その国の名は───
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とある国……一体何ール王国なんだ……