「久しぶりだね、イルネティアの神竜騎士君」
「お久しぶりです、ローグライダー大魔導師……で、今日は一体どんな用事で……?」
「ふむ、今日はイルクス君は居ないようだねぇ。珍しい」
イルクスがアルデナと共にマギカライヒ共同体へと向かった頃、ベッドで寝ていたライカの元に客が訪れる。
来訪者は二人。一人は神聖ミリシアル帝国、魔帝対策省古代兵器戦術運用対策部運用課に所属する大魔導師、メテオス・ローグライダー。
彼はいつもの様に謎の仮面を被り、寧ろその姿を目立たせながらここに来ていた。
そして、もう一人は。
「あ、メールリンスさん」
「やあライカ。怪我の調子はどうだい?」
「傷自体はとっくの昔に完治してますよ……何だか謎な組み合わせですね。面識とかありましたっけ?」
「いいや、さっき初めて会った所さ」
ライカと親しげに話す彼はユーリス・フォル・メールリンス。イルネティア王国の魔導工学技術者である。
比較的若い彼はこの戦争初期、彼女が頭角を現し始めた頃から積極的に質問などをしに行っていた為それなりに面識があったのだ。
そんな彼と、列強第一位のエリートが共に居る。あまり理解出来ない組み合わせであった。
「今日は君にとある提案があってねぇ……と、まずは謝罪をしないとねぇ」
「?」
「いや何、先日の戦闘の事だよ。まさか敵に空中戦艦を撃沈し得る兵器があるとは想定していなかったのだよ。とは言ってもこんな物は言い訳にはならない。一足先に撤退してしまった事、謝罪する。……君達には無理をさせてしまったねぇ」
彼は頭を下げる。
先の海戦の折、彼の乗るパル・キマイラ2号機は1号機がグティ・マウンに撃沈された事によって敵の第三先遣艦隊を全滅させた後に撤退した。
もしあのまま戦い続けていればここまでライカ達が無理をする事もなかっただろう。それを理解して、彼は頭を下げていた。
「いえ。戦闘には想定外が付き物です。私がこんな事になったのは私自身の不手際ですし……」
「そうか。君は優しいねぇ……」
「それで、提案とは?」
「詫びという訳ではないのだが……君に義肢を作ろうと思っていてね」
「義肢……ですか」
彼女はちらりと自分の左腕を見る。
もし、ここに元の様に動かせる腕が出来るのなら……彼女はイルクスに聞かれたら
「ですが今の技術では」
「君が欲しがっている様な代物は出来ない……そこで彼さ」
彼は隣にボーッと立っていたメールリンスを指す。
「彼はあの魔導魚雷を開発した。あれは我々には……いや、古の魔法帝国ですら考え付かなかった代物だ」
「いやまあ、それ程でも……」
「謙遜はよくないねぇ。確か風神の涙を海中に装備する方式を考案したのも君なのだろう? その発想力は尊敬に値する」
メールリンス式魔導魚雷。魚雷の後尾に風神の涙を取り付け、軌跡を発生させない"魔法版酸素魚雷"だ。しかも酸素魚雷よりもずっと取り扱いは簡単で構造も簡易、コストも低い。フォーク海峡海戦で世界連合側がグラ・バルカス帝国艦隊に勝てたのはこの魚雷の功績が大きい。
実は魔帝の遺跡からも魚雷は発見されていた。しかし、それが兵器である、という事が判明したのはイルネティア王国がグラ・バルカス帝国の艦艇を鹵獲し、魚雷という概念がミリシアルにもたらされた時だった。
しかし、その魚雷の構造は非常に複雑で、結局解析が完了する前に魔導魚雷が開発されてしまったのだ。
そして、魔帝製魚雷の推進方法は風神の涙ではなくスクリュー式であった。どうやら魔帝製の物は追尾式である様だったが、魔導魚雷の構造を応用すればもっと単純かつ安価に作れそうだった。
つまり、彼の発想力は魔帝を超えていたのだ。
これにメテオスは歓喜した。これまで自分達は魔帝の後追いしかしてこなかった。魔帝の技術を再現する事は出来ても、それを超える事は出来ない、そう思っていた。
人類は神話を超える事が出来ない。そんな彼の固定観念をメールリンスという男は打ち砕いたのだ。嫉妬すら覚える程だった。
「君の発想力と我々の技術。それを組み合わせればきっと今は想像もつかない物が創り出せる。そう思ったのだよ」
「買い被りすぎだと思いますけどね……」
「全く、君はネガティブだねぇ……まあ、勿論それだけではないよ。本国は勝利に喜んでいるが、上層部はそうでは無い。今回の損害は非常に大きかった。焦っているのだよ」
今回の海戦、最終的には世界連合側が勝利したものの艦隊の被害は非常に大きかった。最後にライカが復活しなければ確実に負けていた事だろう。その事実を帝国軍の上層部は重く受け止めていた。
「つまり、メールリンスさんの発想力で新しい兵器を作り出したい、という事ですか」
「そういう事になるね。尤も、ただ借りていくだけではそちらに利が無さ過ぎるだろう。そこで君の義肢さ」
「要するにミリシアルはライカの戦線復帰を望んでるのさ。全く、負傷したばかりだってのにな」
「いえ……」
メールリンスが呆れた様に言う中、彼女は内心喜んでいた。
「……さて、少し君に聞きたい事がある」
「何ですか?」
「あの時の空母艦隊の生存者達が皆口を揃えて言うのだよ。君が、海魔を操っていた、とね」
「……」
彼のその言葉で、彼女の心は一転して凍り付く。
あの時の自分はどこかフワフワとしていた。皆の目の前で、隠す素振りすら見せずに海魔を使役してしまったのだ。こうして彼の様な人物の耳に入るのも当然だろう。
「海魔は魔物、対話が出来る様な頭脳は持っていない。となると神竜による物でもない」
「……」
「魔物を使役する。そんな話を何処かで聞いた事があると思ってね……」
「そう、魔王さ」
彼は言った。
その瞬間、その場の空気が一気に冷えつく。ライカは真顔でメテオスを睨み、彼は薄く笑みを浮かべている。そんな二人の外でメールリンスは無言で目を伏せていた。
「……で、私をどうするつもりですか。殺しますか?」
「まさか。君を殺すなど世界の損失だろう。例え神が命じても私は実行しないだろうね」
「では、何を?」
「重要なのは、君が魔物を操る能力を持っているという点だ。それを応用すれば意のままに動かせる義肢を作れるかもしれない……と、彼が言ってね」
彼女はメールリンスを見る。彼は申し訳なさそうに目を逸らす。
「いやはや。私の目に狂いは無かった。私は魔導工学によって作る事ばかり考えていたが、まさか生物学の方面から考える事によって可能性を高めるとは!」
「ただ、これで作れるのはあくまでもライカ
「今はまだそれでいい。そこから汎用性を高めていくのが魔導工学の仕事さ」
彼は目を輝かせる。
彼は歳柄にもなく興奮していた。これまで構想段階にすら無かった"本当の手足の様に動かせる義肢"を作り出せるかもしれないのだ。技術者としての血が騒いでいた。
「まあ、それとは別に君が魔王かもしれないというのにも興味はあるんだが……」
「別に私は魔王の血をひいてる訳じゃありませんよ。詳しくは言いませんけど」
「えーっ、そうなのかい!? なんだ、つまらないな」
彼は何故か肩を落とし、続けての様々な測定に移るのだった。
神話以来となる、高性能義肢の誕生はもうすぐだ。
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〈第二文明圏 マギカライヒ共同体 バルーン平野〉
第二文明圏、ムー大陸南東部に存在する国家、マギカライヒ共同体。そこにあるとある平野に
「百田さん、今から来るっていう神竜ってどんな感じなんですかね。凄く強いって事だけは知ってるんですけど」
「城島、俺に聞くな……何か変身出来る、とは聞いた事があるが」
「変身?」
「ああ。どうやら人間になれるらしい」
「そんな漫画じゃないですから……」
「俺に言うな」
陸上自衛隊、第二文明圏派遣団。
グラ・バルカス帝国との戦争が本格化してから、ムー国やマギカライヒからの『自衛隊を派遣して欲しい』という要望がかなり出されていた。
それは戦力としてではない。科学文明国である彼らは自衛隊という自分達よりも遥か先にある技術の塊を一目見ておきたかったのだ。今回の派遣はそれに応えた形となる。
つまり、今ここに彼らがいるのは完全に偶然なのだ。しかし、彼らには余裕があった。
先程言った通り、彼らは技術力を見せに来たのだ。なのでここには高機動車や軽装甲機動車の他に90式戦車が一輛いる。余程の敵でも来ない限りは大丈夫だろう、そんな戦力だった。
「おおい、まだその神竜の反応は無いのか?」
「まだ確認出来ません」
「遅いな……」
百田は高機動車に向けてそんな事を尋ねる。
ワイバーンなど敵に飛行戦力が居た場合に備え、ここにいる高機動車のうち一台には対空レーダーが装備されている。そこに、まもなく到着するであろう神竜の反応が無いかを尋ねたのだが……画面上には
「まあいい。幸いまだ敵さんは出てきていない。それにあちらさんもやる気みたいだしな」
彼はマギカライヒ共同体が派遣している軍へと目を向ける。
そこにいる兵隊が装備しているのは古き良きマスケット銃───ではなく、銃剣を装着したボルトアクション式のライフル銃だ。大砲も近代的なカノン砲であり、その様相は第二次大戦時の軍を思わせる。
マギカライヒはムー国の技術進歩の恩恵を最も受けている国だった。
ムーでは旧式となった銃や砲を買い取り、自国の技術力をこの数年で大きく伸ばしている。ほんの数年前までは軍の装備は前装式のマスケット銃とナポレオン砲だったのだ。
ともかく、あれならばまあ大丈夫だろう。それにもし抜かれたとしても我々がいるのだ。
そう思い、彼が安心しているとマギカライヒ共同体首都防衛部陸上隊将官のルイジルが近付いてくる。
「モモタ殿、まもなく神竜様が到着されるそうです」
「そうですか……え?」
「え?」
彼は耳を疑った。
「おい! 反応は!?」
「え? まだありませんが……」
「何!?」
慌てて振り向き、レーダー員へと尋ねる。だが、返ってきた答えは先程と全く変わらない物だった。
「あ! 見えましたぞ!」
「へ!? ど、どの方角ですか」
「あちらですな」
彼はルイジルが指さした方向を見る為に双眼鏡を取り出し───その必要はすぐに無くなった。
「なっ!?」
彼がその方向を向いた瞬間、頭上を何か大きな物が通り過ぎていく。
驚愕する彼を置き去りに、降り立った白銀の竜は眩い光に包まれる。数秒経ちそれが収まった場所に居たのは、右目に眼帯を着けた少女、それを両手で抱える頭に角、背に翼、そして尻尾の生えた背の高い少女の姿だった。
竜人(?)の少女は抱えた少女をそっと地面に降ろすと口を開いた。
「イルネティア王国、雷竜騎士団所属大尉のイルクスです!」
「中央法王国所属大魔導師の〜、アルデナ・ウィレ・ノイエンミュラーです〜。今日は〜、よろしくお願いします〜」
「イルクス様にアルデナ様、ようこそいらっしゃいました。私はマギカライヒ共同体首都防衛部陸上隊将官、ルイジル・ヴィルゴーニュと申します」
二人とルイジルが挨拶を交わす中、百田は硬直していた。
「た、隊長」
「……」
「は、反応は……ありませんでした」
「……」
そう、レーダーには
更に、今その竜は
変身するという事自体は知ってはいたものの、どこか信じていない自分がいたのも事実。
しかし、こうして目の前で見せつけられては信じる他無い。
「……」
「……と、取り敢えず挨拶はしておいた方がいいんじゃ……」
「……そうだな」
彼は一旦思考を止め、彼女らの元へと歩いていくのだった。
イルクスは大尉、ライカは中佐で副団長。
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