【本編完結】つよつよ神竜イルクスさん   作:デュアン

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戦場を駆ける"時代遅れ"(後編)

「何も見えねえ。砲兵(後ろの奴ら)は何やってんだ? 撃たれっぱなしじゃねえか」

 

 一方その頃、第一塹壕のとある場所。そこで重機関銃を構えている兵士がそんな愚痴を吐いていた。

 周囲は敵からの砲撃と思われる物が着弾し続け、それで起こった煙で囲まれている。地響きを殆ど感じないので力が無いのは分かるのだが、この状況では撃つことはおろか構える事すら難しく煩わしい事この上なかった。

 

「まあいいだろ。この砲撃の中なら敵も来れない。俺達は警戒してるだけでいいのさ」

「それもそうだが……ん?」

「どうした?」

「何だこの音……」

「音?」

 

 彼は耳を澄ませてみる。だが、聴こえてくるのは敵の砲撃が着弾する音のみ───

 

「……? 確かに何か……これは……」

 

 ガスッ、ガスッ、ガスッ。地面を蹴りつける様な音が小さくだが彼の耳にも聴こえてくる。

 それは徐々に大きくなり、また小さくだが砲撃とは違う種類の地響きも感じ取れていた。

 

 それが、何かの集団が近付いてきている音だと気付いた時にはもう遅かった。

 

「なっ───」

 

 白煙の中に大量の影が現れる。それを敵だと判断し、即座に機関銃を向けるも間に合わない。

 白煙の中から飛び出したそれ───大量の騎兵は彼らの頭上を飛び越え、走り去っていく。

 

「くそっ!!? 騎兵だと!?」

「野蛮人共め!! 根絶やしに……ん? 何だこ───」

 

 機関銃を後方に向けようとして、気付く。足元に何かがある事に。

 それが手榴弾だと認識した瞬間、彼らの意識は途絶えた。

 

 

───────

────

 

 

「突撃ィィィィィィ!!!!」

「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」

 

 かつて文明国が存在し、現在はグラ・バルカス帝国が治める島、パカンダ島。

 帝国は地球でいう所のWW2末期程度の技術力を持つ国であり、そんな彼らがこのグレンド平野に築いた防御陣地もそれ相応の、野戦砲や塹壕、トーチカに戦車などが無数に存在する現代的な物である。

 

 そこは今イルネティア側の攻撃によって白煙に包まれているのだが……そんな中を、明らかに時代錯誤な兵達が駆け抜けていた。

 頑強な馬、それに跨る軽装な兵。そう、騎兵である。

 周囲の光景に似合わぬ騎兵隊は混乱する塹壕を飛び越え、その際に手榴弾を投げ込んで破壊していく。

 視界の悪い中、フレンドリーファイアの可能性のある帝国兵達は無闇に発砲する事は出来ず、唖然としている間に次々と破壊されていく。

 

「次弾、放てぇッ!!!」

 

 そんな彼らの先頭でロングソードを掲げる老兵がそう叫ぶ。それに呼応し、周囲の兵が手に持っていたクロスボウを構え、放つ。

 放たれた矢は異常な加速を見せ、通常では有り得ない程遠方に突き刺さり、発破。周囲に白煙と爆音を撒き散らす。

 この矢の名は『ルーンアロー』。パンドーラ大魔法公国がかつて発明した兵器である。鏃が魔石で出来ており、発射された後に仕込まれた風神の涙が発動、空気を噴射して推進する。

 そして、着弾した後には本来であれば爆裂魔法が作動するのだが今回のこれには音響魔法と発煙魔法が仕込まれており、これによって敵の目と耳を奪うのだ。

 反動も少なく軽く、騎乗した状態でも扱える。また、今回ルーンアローを扱っている兵は全員が屈強な獣人であり、通常は足を使わなければならない再装填を手で行う事が出来る。これにより、ルーンアローは持ち運び式の煙幕弾として使用する事が出来る様になったのだ。

 

 彼らは進む。道中の敵を薙ぎ倒し、斬り捨て、爆破して。

 野戦砲に接近すれば鞄を投げ入れる。それからは煙が吹き出しており、砲兵が気付いた瞬間に爆発する。

 そうして帝国の砲は次々と破壊されていく。この突撃の目的はこれなのだ。

 

 また───

 

 

「敵戦車発見!!」

「破壊せよ!!」

 

 右往左往する敵兵の中、どうすればいいか分からず動けない戦車を発見する。

 その瞬間、ある一人の兵が背負っていたそれ───先端に膨らみのある棒───を構え、狙いを定めてトリガーを押す。

 すると、先端の膨らみが勢いよく発射される。それは真っ直ぐに戦車へと向かっていき───着弾。ユグドでは無敵を謳われたハウンド中戦車はいとも簡単に撃破された。

 

 彼が今使用したのは『パンツァーファウスト』。かつてナチス・ドイツが使用していた対戦車無反動砲である。

 その威力は絶大で、今使用した物は140mmもの装甲を貫通する事が出来る。命中した、ハウンド中戦車の側面装甲は25mm。耐えられる筈もない。

 イルネティア王国軍がこれを使用している理由は単純で、対戦車兵器が無かったからだ。流石に機銃では歯が立たず、野戦砲は命中率が低い。

 そこで開発されたのがこれだ。これは日本で情報収集をしていた諜報員伝いに知った物で、構造も単純である為この作戦をするにあたり製造されたのだ。射程は短いが今回では接近する為問題は無い。

 

 そうして対戦車兵器を保有するに至った王国軍騎兵隊は破竹の勢いで防御陣地を突破していく。

 対して帝国軍は煙の中どうする事も出来ず、また騎兵は速度がある為散発的な攻撃は大して当たらず、結果として最奥部まで侵入される事になったのだった。

 

 

 

「ッ……何が起こっているのだ……」

 

 煙、爆音、悲鳴。視界が塞がれ、今や戦況すらも把握する事は出来ない。

 司令官のメーガスは唖然とし、その場に立ち尽くしていた。

 

 だが、そんな彼の我を無理やり引き戻す事態が起こる。

 

「ん……? ───ッ!!!?」

 

 目の前の白煙に何か黒い影が現れ───次の瞬間には、剣を構えた騎兵が飛び出してくる。

 彼は咄嗟に腰の軍刀を引き抜き、自らを切り裂かんとする斬撃を防ぐ。その衝撃で転倒するが、すぐに起き上がり敵へと向き直る。

 その騎兵は彼の視線の先で静止していた。そこで気付く。その騎兵が自分と同じ程度老いており、その美麗な軍服には勲章が多数着いている事に。

 

「……その勲章の数々、さぞ数々の功績を上げた士官であるとお見受けするが、名は何と?」

 

 彼は軍刀を構え直し、聞く。

 

「私はイルネティア王国陸軍西部方面軍団長にして上級大将、ニズエル・クランツフォード。貴殿の名は」

「私はグラ・バルカス帝国陸軍パカンダ守備隊司令にして同じく上級大将大将、メーガス・アルバート。貴軍の作戦、実に見事。我々は何も出来ぬまま、今こうして壊滅しようとしている」

「敵の大将にそう言われるとは光栄だ。降伏するならば命は保証するが、如何に?」

「断る。帝王陛下より賜りし軍をみすみす壊滅させておきながらどうして降伏など出来ようか」

「そうか……では、参る!」

 

 会話が終わり、ニズエルが彼に向かって突撃する。

 ドドドドド、と蹄が地面を蹴り飛ばす音が向かって来る中、メーガスは軍刀を片手で持ち、もう片方の手を腰へと伸ばす。

 そこにあるのはホルスター。そこから拳銃を取り出し、彼へと向ける。

 

 鳴り響く銃声。二人はすれ違い、少し進んだ所でニズエルが止まる。

 

 

「……見事」

 

 

 果たして、この一騎打ちを勝利したのはニズエルであった。

 ドサリ、と操り紐が切れた人形の様にメーガスが倒れる。彼の首は半ばまで斬られており、血管から血が溢れ出る。

 

「……貴殿が腰の拳銃に意識を集中させていたのは分かっていた。撃たれると分かっていれば避けるのは容易だ」

 

 彼はそう言い、踵を返して周囲を見渡す。既に煙は晴れ始めていた。

 野戦砲やトーチカ、戦車などはその殆どが破壊されており、今抵抗を続けているのは残った歩兵のみ。だが、それもすぐに制圧されるだろう。

 

 うぉぉぉぉ、という声が響いてくる。森から大勢の歩兵が飛び出してきたのだ。

 騎兵はあくまでも前座。騎兵隊が砲を破壊し、生き残った歩兵は歩兵で倒す。それが今回の作戦の全貌だ。……まさかこうして敵の大将までも討ち取る事が出来るとは正直予想外だったのである。

 

 

 かくして、騎兵が現代軍に対して勝利した最初で最後の戦闘であるグレンド平野会戦は幕を閉じた。

 その後王国軍は破竹の勢いで進軍し、上陸から僅か1ヶ月後の4月3日にはパカンダ島全域を占領する事に成功した。

 これによりレイフォルと帝国本土は完全に遮断される事となり、それは同時に連合国軍によるレイフォル攻撃を容易にする事となったのである。




この陸戦の元ネタは分かる人には分かると思います

因みにですが、これまで描写する機会がなかっただけでニズエルさんはめっちゃ強いです。文中で言ってた拳銃避け理論もその身体能力があってこそなので普通の人はほぼ不可能です。具体的にいえば京極さんです。っていうか強くないと先陣きったりしません
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