【本編完結】つよつよ神竜イルクスさん   作:デュアン

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レイフォル解放作戦 -落日のレイフォリア(後編)-

〈中央歴1643年4月1日〉

 

 ラルス・フィルマイナが炎上する一週間前。

 レイフォル領西部沖合、雲一つない青空の下。波もあまりない穏やかな海にて作業を行う艦隊の姿があった。

 その艦隊は凹凸の少ない艦体をもっており、()()()が見ればステルス艦だと勘違いしてしまうだろうその艦隊は、神聖ミリシアル帝国から派遣された物である。

 

「浮上してきました!」

「爆破せよ」

 

 その中の一隻が通った跡に謎の物体が浮かび上がってくる。それは球体に無数の棘が付いた様な形状をしている───即ち、機雷であった。

 それはその姿を現した直後にその艦から放たれた光弾に貫かれ、爆発し巨大な水柱を残して消滅する。そんな光景があちらこちらで行われていた。

 

 そう、現在この海域で行われているのは神聖ミリシアル帝国による大規模な掃海作戦である。

 第一次イルネティア沖海戦時の捕虜からの情報によって"機雷"という兵器の存在を知った帝国はその対策法も考案してきたのだ。そして、このタイミング───帝国によるレイフォル解放作戦の為に開発された掃海の為の新兵器が初めて投入されたのである。

 トネリコ級魔導掃海艇。磁気機雷を作動させない為に艦体を比較的魔力伝導率の高いトネリコの木材で造られ、また音響機雷を作動させない為にスクリューではなく『人魚の唄声』によるウォータージェット推進方式が採用された全長75mの小型艦である。

 この艦は機雷除去の為にパラべーンという防雷具を使用する。パラベーンは魚雷に似た形状をしており、それにワイヤーを繋げて海中に投下、牽引する。

 グラ・バルカス帝国が主に使用している機雷は繋維機雷という種類の物であり、これはワイヤーによって機雷本体を海中に留めているのだが、パラベーンはそのワイヤーを切るのだ。そして浮かび上がってきた機雷を機銃によって爆破処理する。これが掃海の手順である。

 

 また、この場にいる掃海艦隊の役割は機雷除去だけではない。

 

「魔探に感あり! 前方11時の方向、距離9NM(ノーティカル・マイル)!」

「直ちに向かえ!」

 

 機雷除去が完了した海域をゆっくりと航行するリード級小型魔導艦。その艦橋にてレーダー員が何かを感知する。

 彼が見ていたのは帝国が実用化した魔導電磁レーダー……ではなく、従来の魔力探知レーダーだ。しかし、その対象は海上や空中ではなく海中である。

 海中に感じたその目標に彼女は向かい、そこでとある新兵器を使用する。

 

「対潜攻撃、用意!」

「対潜迫撃魔導砲発射用意。左32度、仰角35度、距離240(フタヨンマル)、撃てぇ!!」

 

 彼のその言葉と共に、艦首に装備された新兵器───25連装対潜迫撃魔導砲が旋回し次々と発射される。発射された弾道は目標の位置に着水し───

 

ドォン!!

 

───巨大な水柱が上がる。続けて黒煙と共に水面に破片と油が浮かび上がり、そこに何か人工物があった事が分かる。

 

 この兵器はかつて地球でも使用されていた対潜兵器『ヘッジホッグ』とよく似た物であり、迫撃砲を無数に発射して海中の潜水艦を撃破する兵器である。

 これの利点は命中しなければ爆発しない事であり、余計な水柱で対潜行動を阻害されないのだ。

 ソナーよりも遥かに広い範囲を探索出来る水中への魔力探知レーダー、爆雷よりも命中率が高く効率的な対潜迫撃砲、これらも第一次イルネティア沖海戦時の捕虜からの情報によって潜水艦の存在を知った帝国が開発した───日本の資料も活用したが───物であり、この2つの画期的な新兵器により、ミリシアルは水を得た魚の様に潜水艦を狩り続けていたのである。

 

 

「もうすぐ作戦開始か」

()()()()がしっかりと作動する事を祈りましょう」

 

 今、彼等が居るのはレイフォルより西に約150km程離れた海域である。

 パカンダは墜ち、近付いたグラ・バルカス帝国艦船は全て撃沈するか拿捕している為、ここに彼等が居る事は帝国には知られていない。尤も、知ったとして迎撃に出せる程今の帝国に余裕は無いのだが。

 この海域の機雷を除去する事は軍事的に重要であった。ここは北回りでレイフォリアへ向かう際に通る海域であり、大規模反攻作戦発動の為には除去は必須であったのだ。

 

 その作戦開始は4月7日、今日の日付である。

 この海域にはミリシアル・ムー連合艦隊が集結している。その数、80。機雷で失われた艦は存在しない。初の掃海作戦ながら上出来であった。

 

 そんな彼等の頭上を巨大な機体が飛んでいく。

 全長45m、全幅52mにもなるその巨大な機体の名はゲルニカ37型『トライデント』。これより使用される()()()()()の為だけに開発された新型大型爆撃機である。

 

『こちら066、ガイドビーコンは正常に作動中』

「こちらトライデント。こちらからも確認した」

 

 機体のコックピットではレイフォリアに潜入中の工作員からの通信を受け取る。

 

「"天の火"、射程まであと5km」

 

 内部の兵士が操作する。

 この機体の兵装ポッドに配備されたたった一発の兵器、それを発射する為に。

 

「5、4、3、2、1……発射!」

 

 そうして、爆撃機からそれ───誘導魔光弾が放出され、一瞬自由落下した後に後部から火を噴き、急加速してレイフォリアへと一直線に飛んでいく。

 試製ウルティマ式空対地誘導魔光弾、通称"天の火"。弾頭に魔導爆弾"ジビル"を採用した帝国初の空対地誘導魔光弾である。

 それはレイフォリア沖に居た守備艦隊の対空砲火をかいくぐり、レイフォリアの街の頭上を飛び越え、その先にあったラルス・フィルマイナに着弾する。

 ジビルは強力な爆弾である。その一発で基地は半壊し、レーダーは全て破壊され軍事基地としての役割は完全に果たせなくなっていた。

 

 

『っ……こちら066、天の火の正常な起爆を確認』

「了解した……!」

 

 工作員から、作戦成功の報せが届く。

 その瞬間、旗艦たるミスリル級魔導戦艦『コールブランド』の艦橋は湧いた。何しろ、栄えあるミリシアルが世界で初めて(諸説あり)誘導魔光弾の実戦での使用に成功したのである。

 神話の時代の究極兵器。それの再現に遂に成功したのだ。

 

「総員静粛に!! まだ作戦は始まったばかりなのだぞ!!」

 

 そんな歓声を艦隊司令のバッティスタは一喝する。だが、彼も表には出していないだけで内心では偉大なるミリシアルを讃え続けていた。

 

「これより本艦隊は戦闘に移行する! 第一次攻撃隊の準備は」

「既に完了しています」

「よし。第一次攻撃隊出撃せよ! 目標はレイフォリア守備艦隊だ!!」

 

 その号令で、艦隊に所属する七隻の空母から一斉に艦載機が飛び立っていく。

 この艦隊には新たに建造された二隻のマカライト級を含んでおり、その総保有機数は500機にも及ぶ。

 一方で標的にされていた守備艦隊でも艦載機を発進させていたが、この艦隊は本来ラルス・フィルマイナからの支援を受ける前提であり、それが吹き飛んでしまった為に彼等は僅か二隻のペガスス級に頼らざるを得なくなった。

 

 果たして、世界連合側の攻撃隊は守備艦隊へ到達した。

 先日の第三次イルネティア沖大海戦の折に新型機であるカノープスはその殆どが取られており、更に残った機体も殆どがラルス・フィルマイナに配備されていた為に今この艦隊に居る戦闘機は殆どがアンタレスであったのだ。

 対する世界連合側は、ミリシアルが増産に増産を重ねた結果70機のエルペシオ5、100機のエルペシオ4が配備されており、戦力差は絶望的であった。

 この攻撃により旗艦のヘルクレス級『マルゼラン』を含む10隻が撃沈、その他の艦艇も多くが損傷する。そんな凄惨たる状況を見たバッティスタは第二次攻撃隊の出撃を不要と判断し、残りの敵は艦隊戦で掃討する事とした。

 

 結果は語るまでもないだろう。

 守備艦隊は殆ど一方的に嬲られ続け、連合側の被害はほぼゼロであった。

 連合艦隊には新造艦が多く含まれていた。

 ミリシアルの開発したイシルディン級魔導戦艦『クトネシリカ』は小型の船体にどれだけの火力を搭載できるか、というコンセプトで開発されており、ミスリル級とほぼ同程度の船体に41cm三連装砲を二基搭載している強力な艦だ。

 また、その他にもリード級よりも火力を増大させたアイアン級小型魔導艦*1などもおり、現ミリシアルでは最強であろう艦隊なのだ。守備艦隊など相手になる筈が無かったのである。

 

 こうして、レイフォル周辺の制海権は完全に失われ、戦場は陸へと移っていく───

*1
二代目

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