「……まだ敵は見つからんのか!」
哨戒機の第一陣が一通り帰投したが、敵の発見報告は一向にもたらされない。
この海域に入ってから既に半日が経過している。このままでは何の妨害もなく帝国本土まで到達してしまう。沿岸砲と艦隊に挟撃されるのは避けたいので、彼らはここで敵を何としても発見し、撃滅せねばならないのだ。
「何か少しでも気になるものはないのか」
「偵察員の報告では、海や島の他にはスコール程度しか……」
「島の影に隠れている可能性もある! もっとよく探すのだ!」
彼がそういった時だった。
「注水音、魚雷です!!」
「何!?」
音探員が報告すると共に、艦橋上部に繋がる伝声管から声が響く。
「四時、七時の方向に雷跡を確認!!」
「"唄声"解放!! 面舵一杯!!」
艦底部に設置された風神の涙──"人魚の唄声"が作動し、有り得ない速度で艦が曲がる。
カウランはコンソールに掴まりながら外を見る。青い海原の中、無数の白い筋がこちらへと向かってきていた。
艦隊の各々がそれぞれ回避行動をとっていく。必死の回避行動によりほとんどの艦は回避できたが、それでも幾つかの艦は命中し、小型艦、或いは当たり所が悪かった艦は海底に引き摺りこまれていく。
「……だがこれで敵潜水艦の位置は分かった。第一三、第一四、第二九水雷戦隊は対処にあたれ! 魔探は不審な反応があれば即座に報告せよ!! 分かったな!」
「は、はい!!」
神聖ミリシアル帝国の対潜戦法は少し特殊であり、科学国家で使われている音探、そして魔力を探知する魔力探知レーダーを併用して捜索する。
ほんの数年前──具体的には、第一次イルネティア沖海戦まで魔力探知レーダーは対艦、対空にしか使われていなかったのだが、潜水艦という兵器の存在を知った軍部はこれの探知の為に魔力探知レーダーを使用することとしたのだ。
グラ・バルカスの艦艇に魔力は宿っていないが、それに乗る人間からは微弱ながら魔力を発している。一つ一つは微弱でも集まれば遠距離からでも探知できる量になる。
ただし海中には同じ様に群れている海魔や魚類が無数におり、これの探知のみでは潜水艦とは断定できない。だからこそ、音探と併用するのだが──今回はそれが裏目に出た。魔力探知レーダーは確かに潜水艦を探知していたが、機関を停止させ潜んでいたそれを音探は拾えなかったのだ。
「不審な箇所には全てヘッジホッグをばら撒いてやればいい。こちらにはそれができる物量があるのだ」
そう言う彼はしかし、苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。
今の攻撃で小型艦や巡洋艦が幾分か沈み、戦艦にも一部被害が出た。こんな勝利が確定している戦闘で死ぬこと程馬鹿らしいことはないのだ。
と、そんな時だった。
「報告!! 三時の方向より敵航空隊接近!! 距離10、数およそ100!」
「なんだと!? 何故もっと早く気付かなかった!!」
「敵は海面スレスレを飛び続けていたようです!!」
輪形陣の外周の一部から光が飛び、その先の海面に無数の水柱と黒煙が生み出される。
それに呼応するように直掩機が向かうが、既に対空攻撃が始まっている状況では近づけず、そもそも気付いた段階が余りにも遅すぎた。
だが、それでも連合国側の対空砲撃は苛烈だった。
リゲル型雷撃機が魚雷を投下しようとした瞬間、彼らのいた空域を光の帯が埋め尽くす。
それはアガルタ法国の艦隊が放った『
そのデータは生存した魔導師によって本国に持ち帰られ、今こうして本格的に実戦投入されていた。
地を這う根の如く、拡散した無数の光線が次々とリゲルを貫き、叩き落としていく。運よく逃れた他の機も通常の防空火器の放つ爆発に絡めとられる。
だが、それでも三分の一程度──およそ30機は投下に成功した。
それらの更に三分の一が艦艇に命中した。数隻の空母と戦艦の足が遅くなる。ただそれだけだ。艦隊の進撃を止めるには余りにも足りない。
所詮はこの程度か、カウランは内心安堵する。攻撃がこれで終わりとは思わないが、決死の奇襲ですらこの程度の被害なのだ。この先直掩や索敵の精度を高めれば防ぐことは容易い……
しかし──彼は、追い詰められた者が見せる
「──!? なんだ、何が起きた!!」
被害を受けた空母『ミストルティン』の甲板部が突如爆発する。
「ら、雷撃を終えた後の敵機が突っ込みました!!」
「突っ込んだ!? 何と、愚かな……」
彼は日本よりもたらされた書物で見たものを思い出す。
かつて地球で起きた大戦において、追い詰められた日本は航空機や艦艇を敵に突っ込ませる──"特攻"という戦法をとったのだという。
今回のそれは恐らく、組織だって命令されているわけではないのだろう。雷撃を終えた後帰路についている機もいるのだから、先ほどのものはあの機が自主的に行ったものだ。確かに損傷し戻れる見込みのない機が敵へ体当たりを仕掛ける事はあるが……
「……雷撃を躱したあとも油断するな!! ミストルティンの状況は!!」
「右甲板使用不能! 左甲板のみで運用いたします!」
飛行甲板が一枚使用不能になろうとも、もう一枚を使えば空母として運用は可能──双胴空母の面目躍如である。
だが、一息ついたのも束の間。
ドーン!!!
ミストルティンの左舷に巨大な水柱が立つ。
魚雷のそれよりも大きい。側面に大穴が空いたミストルティンは次の瞬間大爆発を起こし、左船が浮力を失ったことで急速に傾いた結果接合部が折れ、艦橋や主砲が海面に落下する。あとに残されたのは指揮系統を失った右船のみ。
続けて重巡洋艦や小型艦も同じく巨大な水柱と共に沈む。一体何が起きているのか──その答え合わせは、偵察員の悲痛な叫びによって知ることとなる。
「さ、左舷海中に機雷を確認!! こちらに流れてきています!!」
「流れている……浮遊機雷か! だが何故気付かなかった!?」
「突如浮かび上がりました!!」
「浮かび上がった、だと? ……まさか、我々の知らない海流でもあるというのか!?」
彼の予想は的中していた。
通常、浮遊機雷といえば海面にそのままプカプカと浮かんでいるものである。だが今回彼らが食らっているものは海中から浮かび上がり、そのまま流れて艦隊に被害を与えていた。
この海域には諸島の位置関係によって特殊な沈み込む海流が生まれており、彼らが今進んでいる海域は沈み込んだ海流が丁度上がる位置にあるのだった。それでも位置は多少ずれておりよく海面を確認すれば気付けた筈だが、航空攻撃がそれから目を逸らさせていた。
「雷竜騎兵団は海面を飛び機雷の発見、処理に当たれ!! 各艦、海面への警戒を高めろ!!」
環境特性を知り尽くし、利用する戦法──カウランはここで、敵の指揮官が尋常ではない人物であることを悟る。
実に三倍もの差がありながら、ここまで彼らは一方的に被害を受け続けているのだ。
これでは、神竜がいなければ勝てないという論調を更に助長することとなる。彼は平静を取り繕いながら内心焦りを高めていた。
だが、ここで救いの一手がもたらされる。
「偵察機より発光信号!! "ワレ、敵艦隊発見セリ"!!」
つよイルはグ帝編が終わったら一旦完結とさせていただきます。
(多分この調子だとアニュ皇編とかやりだしても一生完結させられないので……)
楽しみにしていただいていた方には申し訳ございません。
という訳で、このまま完結まで突き進みます。
よろしくお願いします。