【本編完結】つよつよ神竜イルクスさん   作:デュアン

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パkリスペクトです


帝国最後の悪あがき -ロウム沖海戦(後編)-

「クソッ、敵の奴等どこに隠れていやがるんだ……」

 

 連合国艦隊より出撃した偵察機は、されどここまで全く敵の姿を発見できずにいた。

 未知の磁気嵐によってレーダーが使えない今、彼らだけが艦隊の"目"である。その重圧がパイロットを焦らせていた。

 

「二時の方向、スコールです」

「こんな時に邪魔な雲だ……いや、待てよ」

 

 パイロットは無視しようとしたスコールを凝視し、操縦桿を傾ける。機首がスコールの巨大な雲へ向き、後部に座っていた偵察員は驚愕する。

 

「ちょ、何してるんですか!?」

「俺達がまだ探していない場所があったンだよ!!」

「まさかスコールですか!? 無茶ですよ!!」

「無茶苦茶でもやるんだよ!!」

 

 そうして彼はスコールの大嵐の中に突っ込んでいく。

 前が見えない程の豪雨。彼は集中して操縦桿を握り締め──

 

 

「──いた!!」

 

 

──────

───

 

 

「敵偵察機発見、撃墜します」

「敵にも骨のある者がいるようじゃな。ここまでか……全艦、会敵に備えよ!! 戦闘は近いぞ!!」

 

 大きく揺れ動く艦橋の中、グラ・バルカス帝国艦隊司令であるビュゴート・オイゲン・アレクサンドラ元帥は自らの制帽を直し、前を見据える。

 現在はうねる波と暗い空、そして雨しか見えないが、この先には確かに敵がいるのだ。

 

 

 

「──此度の戦い、我々は嵐の中に潜む」

 

 会戦前の会議にて、ビュゴートは幕僚たちにそう告げた。

 反対意見は幾つも出た。スコールの中進むのは非常に危険であり、戦う前から全滅しかねないこと。そもそもそう都合よくスコールが現れる可能性は低いこと……

 だが、それら意見を彼は予想していた。

 

「情報部がもたらした敵艦隊の出撃日から予測するに、恐らく敵はこの日にこの海域を通過するじゃろう。儂は転移後からの気象情報を分析したところ一定の周期で一定の軌道を進むスコールが発生しておる。その日に合うよう、機雷を撒いて進軍速度を遅らせる」

 

「我々は会敵までスコールの中に潜み続ける。その間、敵の集中力を削ぐために第一、第二、第三潜水艦隊を潜ませ奇襲させ、加えて付近の航空基地より発進した航空隊にも攻撃をかけさせる」

 

「また、この海域には特殊な海流があることも分かっている。上流より機雷を流し、敵の目前で浮上させ被雷させることも可能だ」

 

 それぞれの戦法を彼は簡単に言ってのけるが、これらはタイミングを一歩でも誤ればすべて破綻してしまうような代物だ。

 だが、その反論が飛び出す前に彼はタイムラインを提示した。そこには完璧な計算と彼が持つ勘から導き出された攻撃タイミングが記載されており、幕僚陣は息をのむ。

 

 今、彼らが相対しているのはただの老人ではない──かつて冬戦争で帝国を勝利に導いた猛将、ビュゴート・オイゲン・アレクサンドラなのだ。

 

「仕上げは艦隊決戦じゃ。敵に発見されるか、このポイントに達した段階で我々はスコールを抜け、航空隊を全機発艦させ攻撃、その後砲撃戦によって片を付ける」

 

 

「この戦いが、何よりも"機"が重要なのは一目瞭然じゃろう。完遂するには皆の尽力が必要不可欠──皆の命を、この老い耄れに預けてもらいたい」

 

 

 

「スコールを抜けるぞ。艦隊、二時の方向に転進せよ!!」

「了解、二時の方向へ転進!! 全航空隊発艦準備!!」

 

 荒れた海の中でも、艦隊は一糸乱れぬ動きでスコールの端へと向かっていく。その間、空母では慌ただしく艦載機の発艦準備が進められていた。

 そうしてスコールから抜け、全空母から次々と航空機が発艦していく。シリウス型爆撃機、アークトゥルス型雷撃機、そして最早旧式機と化したリゲル型雷撃機。それらが発艦し終わったのち、今度は戦闘機隊が発艦する。

 しかしながら、最新鋭のカノープスは僅かに五機程度、それ以外はすべてアンタレスだ。

 

 そして当然、航空隊出撃の間があるのはこちらだけではなく。

 

「一時の方向、敵機です! 数……250!」

 

 偵察員が叫ぶ。

 空の彼方から夥しい数の航空機が向かってきている。それらのほとんどにはプロペラが無く、帝国のそれよりも遥かに速い。

 

 直掩機が突撃し、迎撃を開始する。だが、250という数はグラ・バルカス艦隊に所属する全航空機の数とほぼ同じであり、それでいて質も相手の方が上となれば勝てる道理はなかった。

 奇しくも彼らは、かつて自らが文明圏外国にしたのと同じ仕打ちを受ける事となったのである。

 数少ないカノープスは最高時速940km/hを誇るエルペシオ5によって封殺され、アンタレスは最高時速730km/hのエルペシオ4によって次々と叩き落されていく。そうしている間に他の攻撃機は艦隊に接近する。

 

 ドン、ドン、と艦隊より対空砲が放たれる。だが、いつものグラ・バルカス帝国のそれよりも撃墜率は低い。

 磁気嵐の影響により近接信管が使えない為、時限信管を使用するしかないのだ。これは連合国側も同じであったが、彼らには『艦隊級対空閃光魔法』があった。科学国家たる帝国には存在しない。

 ジグラント4やジグラント2改、やや遅れてムーのテンペスト型艦上攻撃機から次々と魔導魚雷が投下される。これらは雷跡を出さず、攻撃機の軌道から予測するほかない。

 

 そもそも予定よりも早く発見された時点で今次作戦は破綻したようなものであったのだ。

 何か一つでも狂えば崩壊する……起死回生の策とはそういうものだ。寧ろ、スコールの中に飛び込むという判断をした偵察機の乗員に敬意を払うべきだろう。

 

 かつてマグドラ群島沖にて第零式魔導艦隊が航空隊の数に圧殺された様に、今度はグラ・バルカス帝国艦隊が魔導国家の航空隊に圧殺されていく。

 

「三時の方向!! 敵機です!!」

「回避運動、取舵一杯!!」

「間に合いません!!」

 

 そして、『ラス・セレナール(旗艦)』も。

 彼女の右舷より幾つもの機体が接近し魚雷を投下していく。それらは音も姿もなく突き進み、必死に曲がる彼女の側面を──

 

 

「ベラトリクスが!?」

「!!」

 

──穿つことはなく、代わりに間に入り込んだオリオン級戦艦『ベラトリクス』の側部に夥しい量の水柱が立つ。

 

「盾となって……」

「ッ……」

 

 オリオン級はヘラクレス級の前々級であり、最早旧式艦である。そんな艦がこれほどの魚雷を食らってしまえばどうなるかなど、火を見るよりも明らかだ。

 ベラトリクスは一気に速度を落とし、みるみるうちに傾いていく。

 

「ベラトリクスより発光信号。"ケントウヲイノル"……」

 

 刹那、彼女は転覆し大爆発を起こす。あの様子では生存者は一人もいないだろう。

 

 かくして、ラス・セレナールは航空攻撃を凌ぎ切る。

 だがその代償は余りにも大きく、この時点で浮いている艦は当初の三分の二程度になっており、戦闘可能まで絞れば半分以下という有様である。

 

「全艦に通達、重傷者を戦闘不能な艦に移乗させ近隣の海軍基地へ帰投しろ。戦闘可能艦は我に続け」

 

「船足を上げろ、これより本艦は敵艦隊へ最後の突撃を敢行する!!」

 

 彼の言葉でラス・セレナールの速度が上がり、彼女を先頭に残存艦艇が突き進む。

 勝ち目などない。ただ、彼らはこうするしかないのだ。

 

 

 砲戦可能距離となり、双方から煙が立ち上る。無数の砲弾が空を切り裂き次々と海面に着弾する。

 純粋な力と力のぶつかり合い。であれば、数と質で上回る方が勝利する。

 

「ケフェウス轟沈!」

「ベイド、戦列を離れます!」

「アゴウト、サヨナラを告げています……」

 

 轟音が鳴り響く中、艦橋には次々と沈没報告が入ってくる。

 通信士が一言いう度に、数百、数千の命が散っていく。

 

 ガクン、と船が大きく揺れる。だがビュゴートが動揺することはない。既にこの艦にも幾つもの砲弾が命中していた。

 それでもなお、一矢報いる為にラス・セレナールは進み続ける。白熱する程に主砲を打ち続け、一隻でも多くの敵艦を沈めるために。

 

 やがて、ひと際目立つ艦艇が正面に現れる──連合国艦隊旗艦、コスモだ。

 両者は同時に主砲を放つ。四発の41cm砲弾と六発の46cm砲弾が空中で交錯し、それぞれへと着弾する。

 

 果たして、コスモには一発が命中したものの、それは船足を止めるには至らず。

 そしてラス・セレナールには。

 

「第一砲塔、司令塔沈黙!! 機関部に浸水!!」

「……」

 

 ビュゴートは目を伏せたまま静かに口を開く。

 

「総員退艦。もう充分じゃろうて。これ以上付き合う必要はない」

「はっ……総員退艦! 急げ!!」

 

 その声で皆、悲痛な表情を浮かべながらも脱出していく。

 副官は動こうとしないビュゴートへも言う。

 

「元帥もお早く」

「分かっているじゃろう。儂はここに残る」

「しかし!!」

「帝国にはジークスがおる。老い耄れは沈みゆくのが定めよ」

 

 そういうと、彼は席に深く座る。

 それを見た副官は暫く俯いたのち、その場を離れる。残されたのはビュゴートただ一人。

 傾きゆく艦橋の中、彼は自らの人生を想起する。

 

 

「閣下」

「……何故脱出しなかった。お前まで儂に付き合う必要はないと言ったじゃろうに」

「脱出したところで同じことです。それよりも、良い物を持ってきましたぞ」

 

 副官が握りしめた酒瓶を見せる。

 それにビュゴートは笑みを浮かべ、渡されたグラスに紫色の液体が注がれるのを見つめる。

 

「あまり上等な酒ではないな」

「戦場の荒々しさに繊細な味は合いませんよ」

「それもそうじゃな」

 

 

『グラ・バルカスに栄光あれ!』

 

 

 そう言いながら、彼らはグラスを打ち合わせた。

 

 

 かくして、かつて一つの世界を席巻した栄光の帝国艦隊はここに消滅したのである。

 

 最早帝国には戦える戦艦も船も、一隻も残ってはいなかった。

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