【本編完結】つよつよ神竜イルクスさん   作:デュアン

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5年前にはった伏線をようやく回収できました。


ありがとう、さようなら

『元気チャージ、ポルゾン500! カルマリオ製薬!』

『次のニュースです。先進生物研究所へと予算削減が閣議決定……』

『皇国の存続には東征が不可欠です! その為にも国民の皆様の……』

 

 雲をつく摩天楼、空を飛び交う回転翼機、地上を駆ける大量の自動車、そんな中を縫って歩く大勢の()()()()()人間。高層ビルに取り付けられた大型液晶は映像を垂れ流し、カーラジオは止めどなく言葉を吐き出し続ける。

 ある者は談笑し、ある者は携帯に話しかけ、またある者はパンを口に咥えて走る。

 季節は夏。雲一つない青空は恵みの光を平等に降り与え、しかしここにいる涼し気な格好をした人々は誰もそれを恵みだとは思わない。持っていた資料で、小さな手で、または服を摘んで動かし、体表に流れる塩水を少しでも蒸発させようとする。とどのつまり、暑い。

 

 アニュンリール皇国、皇都マギカレギア。()()()()世界一の大国であるこの国の最大都市。本日の最高気温は35度であった。

 外界が戦争の後処理で忙しなく奔走している中、この国だけは日常風景を保っていた。

 

 

「ん〜! 甘ーい!!」

「確かに……ん"っ"!!? げぼっ、げほっ、けほっ!!」

「ラ、リカーー!!? だ、大丈夫!?」

「タ……タピオカが喉に……」

 

 街角にあるとある喫茶店。

 モダンでお洒落な雰囲気のテラスに、向かい合って座る少女が二人。皆様お察しの通り、ライカとイルクスである。

 だが、アニュンリール皇国は単一民族国家、有翼人以外の者がいたらすぐにばれてしまうだろう。では、どうするのか。

 

 答えは、以前習得した"変身魔法"である。戦艦並みの魔力が無ければ扱えないこの魔法だが、イルクスであれば使用可能だ。それを自分とライカにかけ、今二人は有翼人の少女としてアニュンリール皇国に潜入していた。

 何の為に、と言われれば人探しである。以前からライカが探し求めていた"答え"が、このアニュンリール皇国にあることが分かったのだ。だからこそ、このようなリスクを冒してまで潜入を敢行しているのである。

 因みにこの潜入について知っているのはイルネティア国王であるイルティス13世のみだ。ライカの出生の秘密を知っている彼ではあったが流石にこの行動には反対した。しかし、ライカは珍しく我を通した。

 

 潜入した方法としては、海を潜った。以前空にいた時に撃墜されかかったので、ならば海から、という訳だ。イルクスの能力で結界を張りつつ、ライカの能力で大型の海魔の中に入ってブランシェル大陸近海まで移動。その後は夜の闇に紛れて上陸した。

 作戦は面白い程成功した。まさか海魔を自在に操れる者が国外にいるとは思ってもおらず、自国の警戒システムに絶対の自信を持っているアニュンリールは一度内側に入ってしまえば上陸は容易であり、加えて鎖国中の単一種族国家である為有翼人同士では一切の疑いを持たないのだ。

 

 金銭は適当にチンピラから奪った。ブシュパカ・ラタンで使用されている貨幣は全て本土へ移動する時に本土で流通している貨幣へと両替されてしまう為使えない。貴金属の換金も考えたが、万が一身分証明を求められるリスクを考えればあまりやりたくはない。ならばこの手に限る、という訳だ。*1

 

 まあという訳で、今の二人は有翼人の女子高生、ルクスとリカである。

 

 二人はミルクティーを飲み終えると皇都観光案内所へ向かう。二人共皇国内の地理など何も知らず、これから向かおうとしているとある施設の位置すらも知らないのだ。

 

「お嬢さん二人で旅行?」

「はい。けれど見た事もないような大きい建物ばかりで圧倒されてしまって……地図をいただけませんか?」

 

 メインストリートにある観光案内所。その受付で老女と話す。

 言語については大陸共通言語をアレンジして使用している。これはラヴァーナル帝国の言語を祖に持ち、皇国で使われている言語とも共通している所が多々あった。

 仮に人間の姿ならば疑われただろうが、有翼人の姿であれば地方の訛りとしか思われない。

 

 さて、地図を要求された老女は微笑みカウンターの下から冊子を二部取り出す。

 

「皇都近郊のランドマークや有名飲食店を網羅した観光ガイド。これさえあれば大丈夫よ」

「ありがとうございます」

「おばあちゃんありがと!」

「元気でいいわねえ……あ、そうよ。渡せってお上から言われてるものがあったんだわ」

 

 そういうと彼女は一枚の紙を取り出して見せ──刹那、ライカは目を見開く。

 

「こ、れは……」

「あら、知っているの? こういうのに興味があったりする?」

「……え、ええ。私とっても魔物に興味があって。大学もその方面に進もうと思って今勉強してるんですよ」

「そうなの。なら都合がいいわね。申し込みの手続き、代わりにやってあげましょうか?」

「いいんですか? ならお願いします。私はリカ、こっちはルクスです──」

 

 ライカが言った情報を老女は紙に書き込んでいく。

 

 老女が取り出したものは、とある施設の見学案内であった。

 その施設は今より数十年前に事件を起こし、元々都内にあったものが郊外に移転されたのだ。それ以降あまり目立った功績をあげられることもなく、予算は減らされ続け、今こうして一般人の理解を高めようとわざわざ見学の案内まで出しているのである。

 

 

 その施設の名は『先進生物研究所』──中央暦1619年に処分予定であった『ナンバーズ』の脱走事件を起こし、ライカの両親を作り出した施設である。

 

 

──────

 

 

「見学者の皆様! 遥々この様な僻地にお越しくださり誠にありがとうございます! 私は当研究所所長のヴァール・ベッツです! それではまず、簡単にここの経歴をご説明させていただきます──」

 

 目の前の講壇で中肉中背の有翼人の男がどこか必死さも感じさせる笑みで説明を始める。

 この研究所はかつてのラヴァーナル帝国が実用化していた様々な生体制御技術を再現するべく設置され、以来様々な輝かしき成果を上げてきたのだという。

……それにしては施設のあちこちがひび割れているし、所長が身に着けている白衣もツギハギが目立つ。事前に仕入れていた情報通り、25年前に母たちが脱出した事件で大きく予算が削られているらしい。

 

 隣で座るイルクスはうつらうつらと船をこいでいる。変身魔法は自動で発動するようにしているので大丈夫だが、それ以前に相手の気を害しないか不安である。

 ただまあ、私達の他にも数人の見学客がいるが彼ら彼女らも皆つまらなさそうな顔をしていた。わざわざここに来るような人々は、それこそ生物そのものに興味があるのであって研究所の詳細など求めてはいないのだ。

 

 そんな空気を感じ取ったのだろう、ヴァールは若干の焦りをもって説明をキリの良いところで切り上げる。

 

「そ、それではこれより研究所内部の見学と参りましょう!」

 

 

「ほう、これは……」

「この魔物は……」

 

 研究所内部に入り、先ほどまでのつまらなそうな雰囲気から一転、見学者達は興味津々といった様子であった。

 何しろ動物園には置けない様な希少な魔物や狂暴な魔物を生で見る事が出来るのだ。

 

「……」

「この魔物、強いね」

 

 私がある檻に入れられている魔物を眺めていると、横からイルクスがそんな事を言う。

 ああ、そうだ。この魔物は強い。今使われている魔物制御装置は予算不足からか古くなっているようで、何か切っ掛けがあれば簡単に暴走してしまうだろう……

 

「皆様、あちらをご覧ください。こちらは世にも珍しき鬼人族の姫です! 恐らくこの世界で最も魔族に近い人族でしょう……」

 

 少し離れた場所の檻では、黒い身体に黒い目、頭に角を生やした女性が見世物にされていた……反吐が出る。

 

 

──ふいに、覚えのある気配を感じた。

 

「そして皆様、こちらが本日の目玉! 我が研究所の優秀な魔物使い! 特務研究員のアデムです!」

「皆さん、お初にお目にかかります。それでは早速、私の力をお見せしましょう」

 

 有翼人ではない、普通の人間の姿。

 如何にも胡散臭そうな顔立ちをした怪しげな男……どこか、鏡で見る顔の面影を感じさせる、男。

 

 アデムは檻の中で様々な曲芸を披露する。オークキング数百体を同時に操って見せたり、扱いの難しいシーサーペントにキャッチボールをさせてみたり。

 それを見た見学客は面白そうに眺めている……もっと面白い状況にしてあげよう。私はそっと念導波を送る。

 

 

 

 

「……ん? なんだ、これは──!?」

「どうした、何をしているアデム君!?」

「わ、分かりません! 制御が、効かないッ!?」

 

 それまで従順であったオークキングが突如として檻へと駆けだし、ガンガンと叩き始める。優雅にキャッチボールをしていたシーサーペントが、突然アクリルガラスに頭を叩きつける。

 それにアデムは動揺し念導波を強めるが、魔物達は全く言う事を聞かない。

 

「エエイ、勿体ないが仕方ない。排除システムを──」

 

 と、ヴァールが魔物を一掃しようとした直後。

 

 

 ガアン!!

 

 

「──な」

 

 けたたましい音を立て、他の檻に閉じ込められていた大型の魔物が檻を破る。

 それは全長20メートルにもなる巨大な魔獣──

 

「じ、ジオビーモスが……」

 

 ヴァールは一瞬絶句し、直後警報システムを作動させる。

 それに見学客や研究員達は蜘蛛の子を散らす様に逃げ惑う。暴走を止めようとする程の気概をもった者は、最早この研究所にはほとんど残ってはいない。

 彼ら彼女らは一目散に出口へ向かい、その傍らでジオビーモスは次々と的確に魔物の檻を破壊していく。解放されたゴウルアスが火を吹き、かつて栄華を誇った先進生物研究所はまたしても大炎上する羽目となった。

 

 そんな中、残されたアデムは勇敢にも魔物の暴走を止めようと念導波を送り続けていた。

 だが、止まらない。まるで他者からの干渉を受けているかの様な──

 

 

 カチャリ。

 

 

「っ……!?」

 

 そこで彼は、背後から感じる気配に動きを止める。

 ゆっくりと振り向くと、そこには拳銃を構える一人の少女の姿。

 

「これを引き起こしたのは貴女ですか」

「ええ、そうよ」

「何故……何故その能力を持っている!? この能力は、選ばれし者のみが持つものの筈! そして選ばれし者とはこの私だけの筈だ!!」

 

 彼は喚き散らかす。だが、少女の銃口には一切のブレもない。

 

 

「鬼姫ちゃんは助け出したよ! あと、周りにはもう誰もいない!」

「あ、あの、貴女たちは一体……?」

 

 と、そこで先ほどの鬼姫──エルヤを抱えた少女が駆けてくる。

 困惑するエルヤ。それを抱える少女に対し、銃を向けたまま彼女は言った。

 

「ありがとう、イルクス」

「イルクス……その名前、聞いたことがある。外界で飛び回っているとかいう神竜の名だ……!」

「え、神竜!?」

 

 アデムが憎々しそうに言い、エルヤは驚き怯える。

 鬼人族の国、ヘイスカネンにも神竜の伝説は残っている……尤もそれは、インフィドラグーンの"三龍"が一柱、アジ・ダハーカがグラメウス大陸を蹂躙した、という負の伝説であるが。

 

「だが、貴様は何者だ!」

「……」

 

 彼がそう言うと、彼女の姿が変わっていく。有翼人であったのが、普通の人間へ。

 やがてその姿は黒髪で小柄な人間のものになった。

 

 そして、その顔に彼はどこか既視感を覚えた。

 

「この顔に、見覚えはない?」

「なんだと……私はお前など、会ったこともない……ない、はずだ……?」

「なら、リリー。この名前は?」

「り、りー……」

 

 そこで彼は頭を押さえる。

 封じられていた記憶が蘇ろうとしている。その情報の濁流が、彼にとっては余りにも苦痛で仕方がなかった。

 

「……あなたの境遇には同情するわ」

「ぐ、が……」

「けれど……」

 

 彼は、この男は、少女の兄弟を惨殺し、少女自身も殺しかけた。そうしてたった一人で少女を育てることとなってしまった母親は、イルネティアに流れ着くまでに数多くの苦難に見舞われることとなった。

 一方で男は、遠き極東の地に流れ着き、その国で将軍として暮らしていた。貴重な魔獣使いとして重宝され、敵国の占領した都市ではそれはそれは凄惨な破壊が行われたのだという。

 それは、例え幼き頃の調整の結果であったとしても許される事ではない。

 

 

 少女は引き金に触れる指に力を込めながら、口を開く。

 

「私の名前はライカ。ライカ・ルーリンティア」

「ら、いか……」

「イルネティア王国竜騎士団団長にして、リリー・ルーリンティアと……アデムの血を引く娘よ」

 

 

──────

───

 

 

【調査報告書】

 

・先日発生した先進生物研究所における魔物暴走事件についての経過報告。

 

・原因としては、旧"ナンバーズ"検体No.11318B『アデム』による制御失敗であると考えられる。

 

・被害としては研究所全壊、内部に収蔵されていた魔物については全て軍によって掃討済み。

 

・人的被害については、研究員には軽傷者が5名で死者はなし。当時見学中であった民間人に2名の死者、3名の軽傷者。2名については女子高生であり、世間からの激しい非難が予想される。

 

・アデムについては、研究所跡より死体の一部が発見された。事件現場で魔物に襲われたものと思われる。また、民間人の死者については死体が発見されておらず、こちらも魔物に全て食い尽くされたものだと考えられる。

 

・所長ヴァールをはじめ研究員は責任追及のため懲戒免職処分。うちヴァールについては業務上過失致死傷を問われ収監中。

 

・この事件を受け、先進生物研究所は近く閉鎖される見込みである。

 

・事件の被害者には深い追悼の意を示す……

 

 

 

 追記

 

・民間人の死者2名について調査がなされた結果、『リカ』と『ルクス』という名の女子高生が在籍しているという記録は発見できず。受付した者が名前を聞き間違えたと思われる。現在身元を調査中……

*1
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