【本編完結】つよつよ神竜イルクスさん   作:デュアン

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中央暦1694年
第一次世界大戦終戦50周年祈念式典


〈中央暦1694年1月20日 イルネティア王国〉

 

「うわー、でけー……!」

 

 照りつける太陽、気が遠くなるような青空、少しだけ冷たい空っ風。

 極西の小さな島に、今日は大勢の人々が詰めかけている。人間、エルフ、竜人、獣人……ありとあらゆる種族が集まり、今日という日を祝っているのだ。

 

 さて、そんな中。ここ港湾都市ドイバにて一人の少年が目を輝かせながら停泊しているその船を見つめていた。

 その船は全長200メートル程度。スマートな船体に二基の三連装主砲を装備し、多くの対空兵装を設置している。

 

「これ、なんて船なんだろう……」

 

 と、少年がぼそりと口にした時だった。

 

 

「──ミスリル級魔導戦艦、一番艦『コールブランド』。三度の大戦を生き延びた武勲艦だよ」

 

 

 彼の隣からそんな少女の声が聞こえてくる。

 

「へえー、そうなんだ。すごい船なんだね!」

「うん。とっても凄い船なんだ。()()の戦友だよ」

「せんゆう? お姉さん、いったい……?」

 

 と、そこで少年は気付く。

 横で雑学を披露してくれた少女の頭には角が、背中には翼と尻尾が生えている事に。

 少年がその姿を記憶の中の何かに合致させようとした瞬間、遠くからスーツ姿の男が駆けてくる。

 

「──閣下! こんな場所におられたのですか! もうお時間ですよ、速やかにお戻りください!!」

「ごめんね、今行くよ……じゃあまたね、少年」

 

 彼の言葉に少女は身をひるがえし歩き出す。

 その直前に少年に向けられた微笑みを、彼は生涯忘れないだろう。

 

 

 

 

「モーリアウルさん~、お久しぶりです~」

 

 ドイバ港に設置された屋外特設会場。そこの来賓席に座る老いた竜人に老女が話しかける。

 

「おお、アルデナ殿。何年ぶりだ?」

「三年ぶりくらいですかね~? それにしても~よく生きてますね~」

「あのお方の晴れ舞台を見るまでは死ねんよ」

「それ~十年前の就任式でも言ってましたよ~」

「左様か。であれば我は永遠に死ねぬな。ガッハッハ!」

 

 竜人──モーリアウルは高らかに笑う。

 

 二人はそれぞれ中央法王国とエモール王国の重鎮である。

 中央法王国、中央魔法庁長官アルデナ・ウィレ・ラ・バーン。エモール王国、名誉外交顧問兼インフィドラグーン再興担当貴族モーリアウル。

 三度の大戦を潜り抜けた二人は各国からの信任も厚く、今日来賓としてこの式典──『第一次世界大戦終戦50年祈念式典』に呼ばれていた。

 

「それにしても……まだ信じられぬな。あの少女がこうも成長するとは……」

「それも十年前に言ってましたよ~」

 

 涙ぐむ彼にアルデナは薄白い眼を向ける。

 まるで親の様な態度だが、彼はただのストーカーであったことを彼女は知っている。だがそれを咎める者はもういない。かつて彼を窘める役割であった竜王ワグドラーンは既に逝去しており、新王はモーリアウルの事を優秀な外交官としか思っていない。

 

……まあ、かれこれ50年以上つき纏ってきたのであれば逆に親とも言えなくもないのかもしれない。1人殺したら犯罪者だが、100人殺せば英雄というアレである。

 

 と、そこでアルデナは舞台に誰かが上がってきたのに気づく。

 

「……あ、出てきましたよ~」

「……おお、何と凛々しい御姿か……!」

 

 

──────

───

 

 

 タン、タン、と階段を上がる。

 大勢の人々が見守っている。老若男女、ありとあらゆる種族がこの会場やテレビカメラの奥で今か今かと待ち望んでいる。

 ボクはそれに応えられるだろうか。ふふ、もう十年もやっているのにまだ慣れないな。

 

 舞台の上に立つと、最前列の来賓席にアルデナとモーリアウルが座っているのに気づく。彼女はこちらに軽く手を振る。少しだけ、緊張がほぐれた。

 

 すう、と息を吸い、吐く。

 

 

 

『──ある場所の方は、こんにちは』

 

『──またある場所の方は、こんばんわ』

 

 

「──そしてここにいる皆さん、おはようございます。私は国際連合第二代最高議長、イルクス・ルーリンティアです」

 

「本日は中央暦1694年1月20日。第一次世界大戦終戦より丁度50年という記念すべき瞬間に、ここイルネティアで国際連合最高議長として皆さんに語り掛けることが出来る幸福に、まずは感謝を述べさせていただきます」

 

「さて、皆さんもご存じの通り、第一次世界大戦はこの世界が経験する初の世界大戦──総力戦でした。それまでの戦争はあくまでも国が他国を技術差で圧し潰すだけのものであり、ただの一方的な虐殺に過ぎませんでした。しかし、この大戦においてはほぼ同じ技術力を持つ国同士が争い、対等に戦い続けたのです」

 

「そして何よりも、この大戦では異界より現れた脅威に対し、その他の世界が結集して戦う──それまで大枠すらも無かった"国際的な連合"を作る切っ掛けとなりました。今思えば、それはやがて訪れる()()()()()に対する準備運動であったのかもしれません」

 

「……多くの命が失われました。私も神竜騎士として従軍し、数多くの戦場を駆け回りました。当時の私はまだ幼く、目の前で起きている出来事の意味も完全には理解できていなかったのです」

 

「後悔はいつも先立ってはくれません……自身の最も大切なモノが喪われて、初めて私も戦争の意味を知りましたから──」

 

 

 

 

 イルクスの演説を貴賓席にて聞いていたミリシアル8世の隣に、ドサ、と一人の少女が座る。

 その見た目とは全く異なる異質な雰囲気を醸し出す少女に、彼は何ら動揺することなく話しかける。

 

「珍しいですね。貴女がこのような場にお越しになるとは……()()()()()()()()

 

 リヴァイアサン──伝説の海龍の名で呼ばれた少女は、世界一の大国の皇帝相手とは到底思えないような態度で話す。

 

「愛い後輩の晴れ舞台、来ぬわけにはいかぬじゃろうて」

「貴女は昔からそうでしたね。面倒見がとてもいい」

「やめんか。ワシからしてみれば他種族を纏め上げて国を作ったお主の方が遥かに面倒見が良いわ……のう、フェルよ」

 

 そういうと、彼女は目の前で演説する少女に視線を戻す。

 

「万年の時を経て、竜が再び世界の頂点に返り咲いた……まあ、思っていた形とは少し違ったがの」

「世界の頂点など、もう何の意味もありませんよ」

「……そうじゃな」

 

 

 

 

「……ある少女の話をさせてください」

 

「その少女の生まれは、決して良い物とは言えませんでした。実の親からは殺されかけ、何年も彷徨った先で安住の地を見つけました」

 

「しかしある日、その地が脅威に晒された時──彼女は、軍が何もできずに敗れた相手に立ち向かいました」

 

「その後も、その先も。例え自分の手足が無くなろうとも……」

 

 

 

 

「ライカさん……」

 

 貴賓席にて、イルネティア国王であるエイテスは、世界の歴史に名を刻み込んでいる自国の英雄に思いを馳せる。

 ライカ・ルーリンティア。インフィドラグーン滅亡以来の神竜騎士であり、イルネティア王国を滅亡の淵から救い上げた大英雄だ。彼女がいなければ、今頃世界はラヴァーナル帝国によって滅ぼされていただろう。

 

 ライカは結局、生涯夫を持つことはなかった。本来であれば王家に嫁がせるようなものだろうが、先代国王であるイルティス13世が固く禁じた。

 

「……」

 

 当時王子であった彼は、自分よりも年下の少女が最前線で戦っている事に衝撃を受けたものである。

 ライカの評判はかねがね聞いていたが、実際に戦闘でこれほどの戦果を挙げるとは思ってもいなかった。

 

 そんな彼女に対し、思うところが無かったかと言われれば嘘になる。

 幾人かの重臣は、彼に対しライカを籠絡するよう持ちかけた事もあった。

 彼自身、イルネティア王家にとってそうした方がいいと思っていたし、ライカ自身は凛として華憐な少女であったのでできるのであれば近づいていた事だろう。

 

 けれど、彼女とイルクスの関係を見てその可能性は彼の中から消え失せた。

 この二人の関係を壊す事が、果たしてイルネティア王家……ひいては世界の為になるのか。とてもそうは思えなかった。

 

 そして実際、今目の前で繰り広げられている光景を見て彼は自身の判断が正しかった事を確信した。

 

「見ていますか、父上……彼女は今でも、こうして世界を支えてくれていますよ……」

 

 

 

 

「これまで、世界は様々な苦難に立ち向かってきました。異界からの脅威に対抗した第一次世界大戦。古代の邪龍の暴走に対峙したクルセイリーズ事件。魔法帝国の残党との闘いである第二次世界大戦。ヴェルンハルト事変、グラメウス動乱……そして、古の魔法帝国との最終戦争──第三次世界大戦」

 

「これらを乗り越え、今の世があるのはひとえに全人類が一丸となった事の輝かしき成果です。この成果を、一過性の()()としてはなりません」

 

「インターネットの普及による国際ネットワーク網の発達、反重力魔導エンジンの改良による船舶輸送の高速化によって国と国の距離は加速度的に縮まっています。国境という概念が消えるのも時間の問題でしょう」

 

「世界は一つになれる──この式典にて、その事実をもってして改めて胸に刻み込んでください」

 

 

「世界の行く先がどうか、安らかであらんことを──────」

 

 

──────

───

 

 

「ふうー、緊張した……」

 

 式典を終えたボクは、花束を抱えて王都キルクルスの郊外にある小高い丘に来ていた。

 そこは王都を一望できる、イルネティア随一の景勝地。

 

「ボク、ちゃんとできたかな?」

 

 十年前にミリシアル8世から国際連合最高議長を受け継ぎ様々な式典に出てきたが、今日ほどの大舞台は初めてだ。

 それも、第一次世界大戦絡み……ボクらの、始まりの戦い。

 

「ちゃんと見てくれたかな。見てくれたよね」

 

 ひゅう、と心地よい風が吹く。彼女が答えてくれたような気がした。

 

 リリリリリ、と携帯が鳴る。

 今日開かれる晩餐会についての連絡だ。アルデナやモーリアウルも出てくるらしいし、食事するのも久しぶりだ。

 

 ボクは目の前にある石碑の前にそっと花束を置く。

 

 

 

「じゃあ、またね──────ライカ」

 

 

 

 振った手の薬指に、一凛の指輪がきらめいた。




という訳で、ここで本編を完結とさせていただきます。


一応完結とはしますが、原作でアニュンリール編に入った場合はアニュ皇編も書くかもしれません。
また、番外編などはちょくちょく投稿するつもりではいます。
(圧倒的に影の薄い日本の反応とか……)

筆者の次の日本国召喚二次ですが、竜魔戦争に手を出してみようかなと思って鋭意執筆中です。


とまあ、色々とありましたが皆様、ここまでお付き合いいただき誠にありがとうございました!
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