───カシャ、カシャ、カシャ。そんな魔写のシャッター音に似た音が何度も鳴る。が、その音はあまりにも小さく、辺りの物音によって掻き消されるが為に周囲の人間には気付かれない。
神聖ミリシアル帝国、ルーンズヴァレッタ魔導学院にて開発されたこの最新モデルは、撮影の際に出る魔写機特有の音を可能な限り小さくし、画質、色合い共に従来の物よりも遥かに高まっている。また、撮った魔写はその場で現像される為、すぐに出来栄えを確認する事が可能だ。
因みに値段は、ルーンポリスの一等地に小さな家が建てられる程度である。つまり、とても高い。
さて、そんな高級品を惜しげも無く使っているこの男は一体誰だろうか。
そう、エモール王国の外交担当貴族、モーリアウルだ。彼はあの後、飛行場にてこう言った。
『私めの事は道端の小石、いや埃程度に思っていただいて結構ですので、お2人は何も気にせずに自然体でお過ごしください』
ライカもイルクスも、ついでにフィアームも引いた。
あのプライドの塊である竜人族をここまでするとは、一体彼に何があったのだろうか。彼女達は考えたが、一向に思いつかなかった。
当たり前だ。一体誰が、列強の外交トップが百合に目覚めているなどに思い至るのだろうか。
……因みにメテオスはそれについて薄々察していたが、理解は出来なかった。
そうして今に至る訳だ。
今、彼は街を案内している2人を撮っていた。一見するとストーカーの様な行為だが、勘違いしないで欲しいのはこの行為は本人達の許可を得ているという事だ。つまり、合法である。
そんな訳で、彼はひたすらにエモール王国の品位を落とし続けるのだった。
───────
〈イルネティア王国 王都キルクルス ランパール城 〉
ゲルニカより降りた使節団は、会談の前に少しだけ街の案内をされた。だが、特筆すべき事は何も無かった───エモールの品位が落とされただけ───のでここでは割愛する。
文明圏外国にしては発展している、神聖ミリシアル帝国の使節達はそう感じた。
それもその筈、ここイルネティア王国の魔法技術はかなりの発展を見せており、部分的にはかのパーパルディア皇国ですらも超えているのだ。
その一例が魔導戦列艦であり、最大速力は20ノット、旗艦であればリミッターを外せば30ノットが可能だという、ミリシアルの魔導船にも匹敵する速度を出す事が出来るのだ。
そんな、ガラパゴス的な発展を遂げた魔法技術によって造られた街並みにフィアーム達は感心し、竜人は激写していた。
そして観光が終わり、使節達は城へと入ったのだった。
「───と、いう訳なんです」
「なるほど……」
王城のある部屋にて、十数人の者達が机越しに並ぶ。
そんな中、モーリアウルより求められた為にライカはイルクスと出会った経緯を説明していた。
森にて、ぴいぴいと鳴く幼竜を見つけ、最終的に自分の家で育てる事になり、イルクスと名付けた事。
どんどんと成長していき、やがて額に現れた紋章で神竜ではないかと勘づいた事。
そして、ある日家に帰ってきたら───裸の竜人の少女が立っていた事。それがイルクスだという事を信じるには、少し時間を要した事。
それらを聞き終わり、少し思考を巡らせると、やがてモーリアウルは口を開く。
「となると、イルクス様は『ヴェティル=ドレーキ』という種である可能性が高いでしょうな」
「ゔぇ……?」
「『ヴェティル=ドレーキ』。神話の時代、主に空戦で活躍していた種です。恐らくは、イルネティア島を守護していた方が現出したのでしょう」
「ははー……」
「僕ってそんな名前だったんだね」
彼の口より、何やら複雑な名前が飛び出す。それが自分の種族名であると知ったイルクスの反応は薄かった。
彼女にとってはイルクスこそが自分の名であり、今更種族名など知った所で何も変わらないのだ。
「インフィドラグーンには数多くの神竜様が所属しておられ、それぞれに得意分野がありました。運搬を得意とする種は、かのラヴァーナル帝国の海上要塞ですらも持ち上げられたと伝えられています」
「……」
海上要塞の名を聞いたメテオスの眉が少し動く。
「い、イルクスのでも凄いのに、それ以上が居たんですか」
「ええ」
それを聞いたライカが口をぽかんと開けて呆然とする。
普通の飛竜は駆逐艦どころか小型のヨットすらも持ち上げられないのだ。海上要塞など、想像も出来ない。
と、その時。メテオスが尋ねる。
「モーリアウル殿。貴方は先程、『ヴェティル=ドレーキ』は空戦で活躍していたと言われたが」
「何だ急に……そうだが」
「という事は、そこのイルクス
「……その通りだ。空戦において、古の神竜様は天の浮舟を誘導魔光弾にて撃ち落としたとの言い伝えが残っておる」
「───ッ!!!」
その言葉に、彼は目をカッと見開く。
彼は魔帝対策省の、それも古代兵器戦術運用対策部、運用課に所属している。
運用課と名付けられてはいるものの、古代兵器がこれまで運用された事は1度も無く、普段は専ら分析に努めている。
古代兵器、即ちラヴァーナル帝国の兵器は、神聖ミリシアル帝国の力の源だ。
実際、現在ミリシアルで使用されている兵器の殆どが発掘、分析されコピーされた物であり、ここの働きはかなり重要だ。
そんな彼らは今、かつてラヴァーナル帝国が使用していたと言われている『誘導魔光弾』と呼ばれる兵器の分析を行っている。
音よりも速く飛び、目標を追う必中の矢。その解析は困難を極め、未だに完了の目処は立っていない。
しかし今、彼の目の前に実際にそれを使えるかもしれない者が居る。
場合によっては、これにより誘導魔光弾の実用化が可能になるかもしれない───そんな状況に、彼は技術者としてやや興奮していた。
「ちょっと待って!! ゆうどうまこうだん、っていうのなんて僕知らないよ!?」
「そ、そうですよ。そんなのが使えるんだったら前の戦いで使ってますし」
「見た所、貴女様はまだ成長過程のご様子。あと少しすれば自然と使える様になる筈です」
どうやら、まだ使える訳ではないらしい。少し落胆したが、まだやるべき事はある。
彼は鞄から注射器を取り出し、言った。
「イルクス殿、少し採血をしても宜しいか?」
そう、採血である。これは元よりするつもりであった。
インフィドラグーンは確かに魔帝と拮抗していた。それは技術力もさることながら、何よりも所属していた神竜達の能力が高かったからだ。
転移してから数万年経った今でも、魔帝の作り出した兵器は残っている。だが生物に過ぎない神竜はその痕跡すら殆ど見つけられないのだ。
そんな中、今回神竜が見つかった。
しかし連れ出すのは恐らく不可能だと判断し、せめて血液や体の一部は持ち帰って来いと指示されていた。
「貴様! 神竜様に何という」
「別に良いけど」
「深く注意を払って行うのだぞ!!」
目の前で繰り広げられる熱い掌返しを無視し、彼は注射針を消毒し、差し出されたイルクスの腕から血を採取する。
その後、神竜形態の血も採り、更に鱗を2枚程取ってメテオスの用事は終了した。ついでに羨ましそうに見ていたモーリアウルにも彼女は鱗を渡した。モーリアウルは泣いた。
それが終わり、場所をドイバへと移す事になった。目的は勿論、先日拿捕した超巨大戦艦、グレードアトラスターである。
「い、意外と快適なんですね……」
「神竜様の背に乗る事が出来るとはっ、このモーリアウル、感激ですッ!!」
「魔力による対風、対力フィールドか。だが風竜の物よりも出来が良いな」
キルクルスからドイバはそこそこ離れている。
その為、イルクスの背に乗せていく事になり、乗った面々はそれぞれがそれぞれの反応をするのだった。
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