辺境のTROLL小隊 作:凹一
TROLL小隊の日常
ここは廃棄都市。汚染レベルレッドゾーンの危険地帯。人間であれば5分で
そんな死者が闊歩する街の一角で、私、
同じく輪を囲んでいるのは、
ここまでの戦績は、私が2連続ビリである。このゲームをするのは今日が初めてだったが、ここにきてようやくコツが掴めてきた。そろそろ勝負を仕掛けてみよう。
「えっと、これと、これと、これで……はい、革命!」
「はい、革命返し」
「なっ!」
私の作戦は現大富豪のC-MSにあっさり潰されてしまった。切り札を失った私の手札には、もう弱いカードしか残っていない。そんな私を尻目に、C-MSが勝利を宣言する。
「8切って、私の勝ちー」
「やっぱジョーカー持ってると強いな。私も上がり」
C-MSに続いて、AA-12も上がってしまう。その瞬間、私の3回目のビリが確定した。
「……なかなか難しいゲームね……」
「ラムは顔に出過ぎ。はい、チップちょうだい」
「くっ……! どうぞ……」
断腸の思いで、チップの飴玉をC-MSに渡す。貴重な天然素材の砂糖でできた飴である。先程、お菓子売り場で見つけたものだ。C-MSは受け取った飴を、早速上機嫌で舐め始めた。
「お、そろそろ20分経つ」
ゲームが一段落したタイミングで、AA-12が時刻を確認して言った。その言葉に私は表情を引き締める。
私達はなにも、この地へトランプをしに来たわけではない。人間であれば防護服なしでは生存できないような汚染地域でも、私達
私達は徘徊するE.L.I.Dに見つからないよう最新の注意をはらい、ショッピングモールの一角にあるおもちゃ屋さんにたどり着いた。そこで私達は無事に対象物を発見し、リュックに詰め込めるだけ詰め込んだ。そこまでは良かった。
しかし、帰り際に欲を出して食料品店にまで寄ったのが間違いだった。お菓子売り場にいた肥満体型のE.L.I.Dが、仲間を呼び寄せる特性を持っていたのだ。奴がひと鳴するやいなや、四方八方からE.L.I.Dが押し寄せてきた。
あまりの数の敵にすぐに弾切れに陥った私達は、バックヤードに立てこもるしか無かった。今も、バリケードで固めた扉をE.L.I.Dが叩いている。
そんな状況を打開するため、我らが小隊長は『20分ちょうだい!』と言い残し、副隊長のリー・エンフィールドを伴って扉の向こうへ消えていった。それからもうすぐ20分が経過するが、いまだに通信は途絶えたままだ。
しかし、私を含めたこの場にいる誰ひとりとして、彼女が戻ってこないとはみじんも思っていない。私達が敬愛する隊長は、ノリは軽いが仲間を見捨てることは決して無いのだ。
そこでふと、遠くから唸るような音が近づいてきているのに気づく。音が近づくにつれて、部屋全体が小刻みに振動し始めた。私達は腰を浮かせて異変に備える。
次の瞬間、バリケードが壁ごと外側から破壊された。瓦礫を押しのけて現れたのは、巨大なブルドーザーだった。
その運転席から、黒い戦闘服に身を包んだ人物が降りてきた。顔にガスマスクを付けたその人物は、周囲にガス弾を撃ちながら、こちらに近づいてくる。ブルドーザーが開けた穴から中へ入ってこようとしていたE.L.I.Dが、ガスを吸って悶え苦しんでいた。
ガスマスクの人物がAA-12に向けて、厳かな声で語りかける。
「AA-12、状況を報告しろ」
「……ガスマスクの不審者を確認」
「あはは、いいでしょこれ! 雰囲気でてない?」
ガスマスクを脱いだTROLL小隊隊長、
C-MSが嬉しそうにMDRに近寄り、鎮座するブルドーザーを見上げながら言う。
「おかえり、MDR! これ、どこから持ってきたの?」
「他の探索者が置いてったっぽいのがあったから、ちょっと借りてきた。さあ野郎ども、とっとと脱出するぞ!」
MDRの言葉に頷き、私達はブルドーザーの上に乗り込む。再び運転席に収まったMDRがレバーを操作すると、ブルドーザーが唸りを上げて旋回する。その様子を見て、AA-12がMDRに尋ねる。
「ていうか、こんな重機ちゃんと動かせるの?」
「まかして! ここ来るまでに、あちこちぶつけながら覚えたんだから!」
その言葉に私は一抹の不安を覚えたが、自信満々な様子のMDRはブルドーザーを前進させ始める。決して速くはないが、重機特有のパワフルさで障害物やE.L.I.Dを踏み潰しながら進んでいく。
MDRが開けてきたと思われる壁の穴を逆走していくと、ショッピングモールを抜けてメインストリートに出た。そこにはショッピングモールにいたのとは比にならないほどのE.L.I.Dが集まっていた。E.L.I.D達は仲間の体を踏み台にして、ブルドーザーの上に登ってこようとし始める。
「このっ! 登ってくんな!」
AA-12がブルドーザーの縁に手をかけたE.L.I.Dを、シールドで殴りつけて地面へ叩き落としている。
それに気を取られていると、私の服が後ろから引っ張られた。振り返るとタラップを登ってきたE.L.I.Dが私の服の裾を掴んでいた。私は手に持った機関銃で殴りつけるが、E.L.I.Dはなかなか手を離さない。その口がぐわっと開き、私に噛みつこうとする。
その瞬間、E.L.I.Dの頭が弾け飛んだ。他にも上に登ってこようとしていたE.L.I.Dの頭に立て続けに穴が開く。我が隊が誇る腕利きスナイパーが援護射撃を開始したようだ。
「ありがとう、リー・エンフィールド!」
『まだまだ来ますよ。油断しないでください』
リー・エンフィールドは通りに面した屋上に陣取っていた。彼女は私の無線に応えつつも一発たりとて狙いを外さず、E.L.I.Dを始末していく。彼女の援護を受けて、ブルドーザーは通りを進んでいく。
しばらくすると、私達の目前に地下駐車場の入口が見えてきた。入り口にはシャッターが降ろされており、高さもブルドーザーが通るには低すぎる。
「皆、頭ひっこめて!」
MDRは構わずブルドーザーを突っ込ませた。ブルドーザーはシャッターを突き破り、その巨体を無理やり入り口にねじ込む。天井の高さが足りず、ブルドーザーのルーフが削りとられる。MDRの忠告がなければ、私も頭がなくなっているところだ。いびつな機械音をたてて、ブルドーザーが入り口を塞いだまま停止した。
「は〜着いた着いた。降りるぞ皆〜」
その言葉に従い、私達はグシャグシャになったブルドーザーから降りる。
ここは私達の車が隠してある地下駐車場だ。あらかじめ中にいたE.L.I.Dは掃討してあるため、この中は安全だ。
一息ついた私達に、MDRがそわそわしながら問いかけてくる。
「で、お目当て品は落とさず持ってきた?」
「……まあ、持ってきたけど」
私達は腑に落ちない顔で、それぞれ背負っていたリュックを開ける。その中に詰まっていたのは大量のレゴブロックだった。それを見て、MDRの瞳がいっそう輝く。
「うひょー! こいつはすっげえ!」
「こんなのがお金になるの?」
私が不信感を隠さずに尋ねると、MDRは指を振りながら答える。
「情弱乙!」
「じょうじゃく……?」
「わたしの情報網を舐めるなよ? これを集めてるコレクターがいるんだよ! ブラックマーケットに持っていけば、同じ重さのダイヤと交換できるんだって!」
「本当に? 偽情報とかではなく?」
「ホントだって! これだけあればダミーを4、5体追加で買ってもいいし、拠点の設備を最新式にしたりも出来るよ!」
MDRは興奮しているが、私にはとうてい信じられない。しかし、C-MSとAA-12はMDRのテンションにつられて、あれこれと使い道を考え始めたようだ。
「ねぇねぇ! アタシ、合成素材じゃないケーキ食べたい!」
「いいとも、いいとも!」
「なら、私は高級キャンディってのを食べてみたい」
「は〜! 慎ましいな12は! そんなの一年分でも買ってあげ──」
突如、MDRの言葉を遮って異音が響き渡った。
私達がゆっくり振り返ると、入り口を塞いでいたブルドーザーが軋んでいる。その車体を
私達は顔を見合わせた後、全速力で走り始めた。直後、入り口に出来た隙間からE.L.I.Dがなだれ込んでくる。
E.L.I.Dの吠え声に追い立てられながら走り続けていると、前方に軍用ジープが見えてきた。私達の車だ。
「AA-12! 運転お願い!」
「任せろ!」
私達は急いで車に乗り込む。全員が乗車したことを確認して、AA-12は車を急発進させた。E.L.I.Dに取り付かれるギリギリのタイミングであった。
MDRは窓から残りのガス弾を撃ち、E.L.I.Dの歩みを遅らせる。その間に私とC-MSは車に積んであった予備の弾倉を自身の銃に急いで装填する。
前方に出口が見えてきた。こちらもシャッターが降りていて、その向こう側にも音に反応してE.L.I.Dが集まっている。しかし、AA-12はアクセルを緩めず、出口に向かって突っ込んでいく。
出口まで50mを切ったところで、MDRが手元のスイッチを押した。同時に出口に仕掛けてあったC4が起爆し、集まっていたE.L.I.Dごとシャッターを吹き飛ばす。爆煙を突っ切って車が地上に飛び出した。
駐車場からは脱出できたが、まだ油断はできない。通りにも続々とE.L.I.Dが集まってきており、うかうかしているとまた囲まれてしまう。
私達が次にやるべきことは、リー・エンフィールドの回収だ。
「リー・エンフィールド! 今から指定するポイントまで屋上伝いに来て! 60秒以内!」
『了解!』
狙撃ポイントで待機していたリー・エンフィールドにMDRが指示を飛ばす。それに合わせてAA-12も、MDRが指示したポイントまでE.L.I.Dの集団を避けて車を走らせる。
車は40秒で合流ポイントに到着し、通りの角の建物の下で停止する。私とC-MSは時間を稼ぐため、迫りくるE.L.I.Dの群れに射撃を開始する。
無線からきっちり60秒でリー・エンフィールドが建物の屋上に現れた。MDRが車の銃座に上がり、手を広げてリー・エンフィールドに呼びかける。
「かも〜ん! リー・エンフィールド!」
その声を聞いたリー・エンフィールドが屋上から飛び降りた。それを下で待ち構えていたMDRが抱き止める。
「ふぎゅ!」
「ナイスキャッチです、MDR」
「ま、まあね。AA-12! ゴーゴー!」
「了解! 振り落とされるなよ!」
MDRの指示を受けたAA-12が、車を発進させる。
「LWMMG! バトンタッチ!」
「了解!」
リーエンフィルドを抱えたMDRと交代で、今度は私が銃座に上がる。"LWMMG"を銃座に固定し、行く手を阻もうとするE.L.I.Dに向けて斉射を浴びせる。私が開けた包囲の穴をめがけて、AA-12が車を突っ込ませ、強引に突破していく。
そうして街の出口まであと一歩というところまでたどり着いた。
その時突然、車の前方に巨大な柱が降ってきた。それが巨大E.L.I.Dの足だと気づいたとき、私達は言葉を失った。巨大E.L.I.Dが咆哮を上げると、MDRが我に返ったようにケータイで写真を撮り始める。
「……す、すっっげえ!! これはトレンド入り間違いなし!!」
「そんなこと言ってる場合!?」
場違いに興奮するMDRに、私は思わずツッコむ。もうこのやり取りも何度目かわからない。
MDRが持ってくる仕事に、想定外の危険はつきものだ。というか、平穏無事に任務を終えられたことなど一度もなかった。そう思えば、今こうして巨大E.L.I.Dから逃げ回っている状況も、私達TROLL小隊にとっては日常と言えるかもしれない。
最近、受け入れがたい状況を目にすると現実逃避する癖がついてしまった私は、徹甲弾を弾きながら迫る化け物を見ながら、何故かそんなことを考えていたのであった。