加古鷹おんらいん!   作:プレリュード

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通常海域攻略編3

 これはまずいです。ええ、ちょっとまずい状況です。まだ戦闘している最中なのに本隊(ボス)との遭遇だなんて。

 

 いえ、しかしいつまでも狼狽えてはいられません。そう、こういう時こそ切り替えです。それによく考えればラッキーじゃないですか。この広い海で索敵機を飛ばしてボスを探し回らなくてもよくなったんです。

 

 つまり海域攻略が早く終わります。デブリーフィングにもしっかり時間が取れますし、いいことづくめです。

 

 死に戻り(デスルーラ)しなければ、ですけど。

 

「加古! そっちはどれくらいかかりそう?」

 

「もうちょい! 地味にこのフラ戦が粘りやがる……っ」

 

「ボスの方角と距離を教えて!」

 

「最後に確認したのはNWの距離ヒトゴーマルマル! たぶんこっちの位置はバレてる!」

 

 加古が上半身を反らして砲撃を躱しながら叫びます。あまり余裕はなさそうなのでこちらの援護をしてもらうのは厳しいでしょう。

 

 しかしボス艦隊はすでにこちらを補足しています。艦載機も上げられた後でしょう。

 

「蒼龍さん、飛龍さん。直掩隊を。同時に先の艦載機の整備を進めてください」

 

「了解。ただ空母同士だけの殴り合いじゃない以上、私ら近づかれたらちょっときつよ?」

 

 飛龍さんの言うことも最もです。相手が空母だけならば接近してくることなどありえません。しかしこの海域のボス艦隊には戦艦などの水上戦力も含まれていたはず。水上戦力による接近戦を仕掛けてくる可能性は高い、というよりほぼ確実に空母に護衛だけ残してやってくるでしょう。

 

「私が、近づけさせません」

 

「大丈夫?」

 

「…………たぶん」

 

 接近戦、苦手なんですよね。私って基本的に運動音痴なので。いやいやフルダイブのVRゲームなんだから運痴とか関係ないって思うでしょう? ええ、確かに一般的にはそう言われてます。運動神経が微妙でも、VRワールドなら現実(リアル)の筋力とか柔軟性とはあんまり関係ありませんし。

 

 でも私に限っては関係あるんですよね、それが。

 

「ちょこまか動き回らないで……っ」

 

 遠くの敵なら、落ち着いて動きの先読みをしてからの砲撃で当てられます。でも近づかれてしまうと、もう私の眼は敵の姿を追い続けられません。

 

 簡単に言うと私は反射神経が絶望的にないんです。悪くいえばドジです。とっても鈍いんです。目の前で速さにものを言わせるような戦闘をされると、追い切れません。いつもは加古が近接を一手に引き受けてくれているので、私が立ち回れていますが、今はその頼れる加古がいません。

 

「あうっ……」

 

 飛龍さんと蒼龍さんに近寄らせるわけにはいきません。なので私が引き受けるしかないのですが、攻撃されたことはわかっても反応ができないため少しずつ削られていきます。躱そう、という意思はあるのでなんとか身体に回避行動を取らせようとはしています。でも、間に合わないんです。ごそっと根元から私の主砲が一門、吹き飛びました。

 

 ラッキー、なんて空元気で言いましたけど、本当についてません。こんなに連続で遭遇するなんて、普段はないんですけど。今日は運営が荒ぶっている日なんでしょうか。ちょっと恨みがましく思いつつ爆煙に噎せながら飛び出すと、目前に軽巡ツ級。やばっ、と思った時にはもう遅いです。

 

Ура(えいやー)

 

 真横から気の抜けた声。思わず振り向いて、そして駆逐ハ級が飛んでくる姿が目に入って、慌てて後ろへ飛び退ります。目の前の軽巡にそれはゴッ! と鈍い音を発して衝突しました。

 

「知っているかい? 恒星と呼ばれる星は自分で輝くんだけど、その最後は自身の質量の大部分を爆発して、輝きながら宇宙にまき散らすそうだよ」

 

 ヴェルちゃんが無表情のままに狙いを定めて、投げ飛ばしたハ級へ砲撃。燃料か弾薬かに引火したのか、ツ級を巻き込んで見事なまでに爆発四散しました。

 

「うん、立派なЗвезда(おほしさま)じゃないか。綺麗な最後だよ」

 

 満足げにヴェルちゃんが頷きます。助かったはずなのに、なんだかしこりが残っているのは何ででしょうか。とりあえずハ級さんには心の中で合掌しておきます。

 

「っていうか加古! ヴェルちゃん、加古の方は!」

 

「その加古さんがこっちに行けって私を寄越したのさ。ここはあたしが食い止めるからお前は先に古鷹たちのアシストへ行け、って」

 

「死亡フラグしか立ってない!?」

 

「だいじょーぶ、だいじょーぶ。飛龍が加古さんの方に一部の艦載機飛ばしたから。こっちは私と残ってる飛龍だけで十分に制圧できるし。あんちきしょうでクソッタレなツカスをぶち殺……落としてくれたからね」

 

 ……なんだか蒼龍さんの言葉の後半にとてつもない怨恨が込められているんですけれども。そこだけ明らかに「蒼龍」のロールプレイから思いっきり外れていたんですけど。なんか「ぶち殺す」的なワードが飛び出してたのは私の気のせいじゃないですよね?

 いえ、別に私はロールプレイを強要する派閥の人間ではないからいいんですけどね。空母艦娘がツ級を憎むという話は幾度となく小耳に挟んでいますし。空母艦娘の集会ではツ級を模した人形を磔にするとかいう嘘か本当かわからない、というより嘘であってほしい噂がまことしやかに語られたこともありましたから。どこの危ない宗教団体ですか、まったく。

 

「ヴェルちゃん、飛龍さんと蒼龍さんの護衛を任せてもいい? 加古の様子を見てきたくて……」

 

「いいよ。好きにするといいさ。どのみちもうボス艦隊は終わりそうだし、愉しそうなこともあんまりなさそうだからね」

 

「そんなに遠くにはいかないから、何かあったらすぐに呼んでね」

 

 それに、そこまで遠くに行く必要もありませんし。加古が戦っている姿さえ望遠や観測機で捉えられてしまえばいいんです。

 なにせ私のステータスは長距離攻撃向きに振ってありますから。確かに近接戦闘はまったく、本当にまっっっっったく私は向いてません。

 だからFPSゲーとかする時って、私はスナイパーなんですよね。それも芋スナ(そのばたいき)

 

「よーく狙って……撃てぇ!」

 

 さあ、そろそろ勝鬨をあげましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それではデブリーフィングを始めたいと思うんですけど……」

 

「今回の反省ってさ、『運が悪かった』じゃね?」

 

 クランルームに戻って、デブリーフィンクをするのはいつもの流れです。反省会というのはなんにせよ必要ですから。

 しかし、加古の言った通りです。連続で体勢を立て直す前に戦闘させられ続けた最大の理由は、運がなかったからです。いえ、索敵しとけと言われればそれまでなんですけども、戦闘中にそこまで周囲へ気を配るって大変なんですよ?

 

「まあ、勝てたんだし結果オーライってことでいいじゃん」

 

「いつも気楽そうでうらやましいよ、蒼龍は……」

 

 飛龍さんの言葉に棘がすごいあるのは気のせいじゃないですよね? いえ、確かにいつも振り回されているのは飛龍さんなんですけども。

 

 今回の成績! と発表に洒落こんだところでもうおわかりの通り、誰ひとりとして欠けることのない勝利です。1人で敵艦隊を引きつけていた加古も相当なダメージを負っていましたけど無事でしたし、敵艦隊を誘引してくれたヒトミさんも何でもなかったように帰ってきました。

 

 結果オーライ、という蒼龍さんの言も正しいような気はします。ただ一つだけ。私に反省が。

 

「今回、私がもっとうまく二航戦のお二人に指示が出せていれば、よかった場面があったと思うんです」

 

「そう? ボス艦隊の時は出せてたと思うけどなぁ」

 

「ありがとうございます、蒼龍さん。でも問題はその前なんです。制空権だけ取ってもらってそれでおしまいにしないで、爆撃で接近してくる頭数を減らしたり、しないにしても索敵をするなりでもうちょっと何かあったと思うんです」

 

「それは仕方ないんじゃない? 古鷹さんは空母艦娘をプレイしたことないんでしょ? どう回すか知らないのは仕方ないって。むしろ知らないで私らをあそこまでちゃんと動かせたんだからいいと思うよ」

 

 飛龍さんがフォローを入れてくれるのでちょっと救われた気がしました。でも、まだ未熟であることは否定できません。今までが水上打撃にばかり寄っていて、なおかつ旗艦なんて大役を担ったことがあまりないので指揮とか言われてもあまりわからないんですよね。でもクランを背負うマスターとしていつまでもできないまま、というわけにもいきません。

 

「もう少し航空戦力の上手な扱い方を勉強します。飛龍さん、蒼龍さん。間違った指示を私が出していたら遠慮なくガツンと言っちゃってください」

 

「あいさー……あれ、この場合だとアイマーム、になるのかな? 」

 

「蒼龍、そこは気にしなくていいんじゃないかな。うん、でも了解。何かあったら言うようにするよ……っとと」

 

「どうかしましたか?」

 

 突然、飛龍さんが空中を見つめて止まってしまいました。ラグかな、と疑ってみますがそんなことはないようで、飛龍さんは実に滑らかに動きます。とりあえず黙って様子を見ていると、次第に飛龍さんの表情が曇っていきます。

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

 なんと声をかけたものかとヘルプを求めるつもりで加古を見やるけれど、加古は夢の中にランデブー中です。しょっちゅう寝てるのはこういう時にアテにならないから困ります。かといってヴェルちゃんはことをややこしくするので、頼ると余計に面倒ごとになるのでいけません。ヒトミさんはそもそも傍観してます。

 

「あー、えっとね。や、古鷹さんたちにはあまり関係ないっていうと冷たい言い方になるけど、どうしようもないっていうかね?」

 

「はあ……あ、話したくない内容ならいいですよ?」

 

「そこまでじゃないのよ、そこまでじゃ。まあ、あの時期が来ちゃったらこうなることくらいわかってたんだけどね」

 

「あの時期、ですか?」

 

 最近だと何かありましたっけ? でもイベントはまだ先ですし、エクストラオペレーションもまだ心配するほど進行していないわけでもありません。月末も3週間ほど先の話です。

 

「なにかありましたっけ?」

 

「今週末に二航戦称号戦(タイトルマッチ)がね、あるのよ」

 

 ……二航戦称号戦(タイトルマッチ)

 




という訳であっけなくはありましたが、通常海域攻略編はこれにておしまいです。普通の出撃風景をやりたかったのです。たぶんこんな感じのゲームシステムで遊べるんじゃないでしょうか。アーケード版みたいな感覚ですね。

さあ、そんなわけで次回からは二航戦称号戦編です。タイトルからもわかる通り、二航戦の2人にスポットライトを当てていきたいと思います。お楽しみに。

12月18日 合唱→合掌に誤字訂正しました。指摘してくださった方、ありがとうございます。
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