加古鷹おんらいん!   作:プレリュード

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二航戦称号戦編2

「ってことらしいんですけど……」

 

 とても言いにくそうに古鷹さんが切り出して、話をそう締めた。気持ちはわかる。確かにこれは話しにくかったと思う。よく私ら二航戦に話してくれたなと感謝すると同時に、きっと『灰燼』の伝言して欲しいという頼みを断れなかったのだろうなぁ。なんだかそのお人好しさは古鷹さんっぽい。

 

「待ってる、かぁ……」

 

「はい、そう仰ってました……ごめんなさい、余計なお世話を焼いてしまって」

 

「古鷹さんは悪くないって。ううん、誰も悪くないんだよ」

 

 申し訳なさそうに俯く古鷹さん。でも本当に古鷹さんは悪くない。むしろ私と蒼龍の勝手な都合で巻き込んでしまっているのだから、謝るのはこっちの方だ。

 

 だからそろそろ黙りこくってないで蒼龍も何か言って。私だけで場を繋いでいると、古鷹さんがますます気にしちゃうでしょうが。

 

「それにしても『灰燼』が、かぁ。わざわざクランマスターの古鷹さんに接触までするとは思わなかった。ごめんなさい、巻き込んじゃって」

 

「いえ、飛龍さんが悪いわけじゃないですし、もちろん蒼龍さんのせいでもないです」

 

 それでも巻き込んでしまったことは否定できない。『比翼』の事情をこのクランに持ち込んでしまった。私と蒼龍で解決しなくちゃいけないことだったのに。

 

「ごめんなさい、切り出しにくかったんです。逃げるようになってしまってすみません」

 

「本当に気にしないで。古鷹さんは私らに伝言しただけなんだから」

 

 最後まで申し訳なさそうな顔をして、古鷹さんはログアウト。あんな顔をさせてしまっているのは私と蒼龍なのだ。こっちにもこっちなりの理屈がある、と言いたいところだけれども、それが単なるわがままということは重々承知だ。

 

「あのさ、蒼龍。言われるのが嫌っていうのはわかってはいるけど、黙ったままはやめてよね。私だけでのフォローは無理」

 

「やー、別に嫌ってわけじゃないよ。参加を強制させるような言い方じゃなかったし。板挟みにされちゃった古鷹さんの気持ちは理解してるから、またクランを辞めようとかは言い出さないって」

 

「それ言ってたら私はちょっと怒ってたかもね。あの時は先に『イーリス・アイリス』っていう移籍先を見つけられていたからスムーズだったけど、そう何度もクランの移籍を繰り返すわけにもいかないでしょ」

 

 蒼龍は基本的に誰かに強制されることが嫌いだ。それは私も同じだけれど、蒼龍はその傾向がさらに強い。古鷹さんたちには伏せているけれど、前のクランを辞めた理由もタイトルマッチに参加するよう強く何度も言われて嫌気がさしたから。

 

 もちろんクランに縛られない野良で活動をしていくという方法もある。でも、野良ではイベントの時に大変だ。なにせ出撃したいと思っても、人を集めるところから始めなくてはいけない。そのためにクランへは参加していたい。でもあまり強制されるのは嫌なのだ。特に自分たちにその気がないものをやれと言われるのは。

 

「あのさ、飛龍。さすがにちょっとこっちの事情に巻き込んだのは悪かったなって私も思うんだよ 」

 

「うん」

 

「だからさ、諦めることにした。出るよ、タイトルマッチ。でさ、1回リセットしよう。『比翼』の膨れ上がった過大評価(でんせつ)を」

 

 蒼龍の瞳を私は覗き込んだ。そこには諦観がある。そしてそれだけだ。

 

 ああ、唆らない。本当につまらないことになりそうだ。私が待っていたものは、そこになかったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二航戦称号戦というものに参加できるのは二航戦、つまり蒼龍と飛龍のペアだけです。古鷹である私やその他のクランメンバーはもちろん戦いに参加できません。しかし戦わなくとも別の形で参加する方法はあります。

 

 というわけで、加古と私は観客席にいます。応援ですね、はい。

 

「こんなに賑わってたんだね、二航戦称号戦って……」

 

「それは当然でしょう。四大会ぶりにあの『比翼』が参加するんですから。空母艦娘は『灰燼』と『比翼』の戦いに注目していますよ。ああ、隣を失礼しますね」

 

 滑らかな動きで艶やかな銀髪を揺らめかせながら一人の艦娘が腰を下ろしました。隣に座ることくらいなんにも問題ないので、私も笑って席を詰めました。

 

 ええ、笑顔でしたよ。声をかけてきた人が誰か気づくまで。わかった瞬間に凍りつきましたけどね。

 

「『純白』の翔鶴さん……」

 

「ええ、お初です。『双撃』の古鷹さん?」

 

 最近、名前付きのプレイヤーと会うことが多すぎませんか。なんだか事ある毎に遭遇している気がするんですけど。これも『双撃』の名前が広まったがゆえでしょうか。しかし『比翼』やら『灰燼』やら『純白』やらとただ二つ名を名乗っているわけではない、本当に通称として名前が知られているプレイヤーからの接触が多いような気がします。

 

「加古、『純白』って……」

 

「五航戦の翔鶴型姉妹ペアだな。改二や改二甲が実装している中で、未だに未改装を貫いているヤバいペアだ」

 

 さすがこういう時には頼れる加古です。かなり細かく加古はこのゲームについて情報収集しているようで、私が知らないプレイヤーからスキルやクランまで幅広い範囲を網羅しています。ゲームで困った時の加古ペディアさんです。しかし今回ばかりは私も加古ペディアに頼らなくても知っていますけど。

 

「今日はもう片割れの瑞鶴がいないみたいだけどな」

 

「瑞鶴は今日は予定があるそうです。そうでなかったら瑞鶴とルームでゆっくりと姉妹水入らずにしています」

 

 未改装っていうのがすごいですよね。改二甲にすれば、噴進機とかいうすごい艦載機が翔鶴型は使えるようになるのに、その環境下で敢えての未改装。環境に逆らうってかなり、いえおっそろしく大変だと思うのに、それでも貫くのはなぜなんでしょうか。それを言うと、重巡洋艦の中でも決して高性能というわけではない『古鷹』にこだわっている私も同じ穴の狢なのかもしれませんけれど。でも未改装は無理です。改二実装で大喜びして、速攻で改装しましたし。

 

 まあ、それはそれとして。隣に誰が座っていても試合が変わるわけでもありません。大会運営さんが配っていたプログラムによれば次が『比翼』、つまり飛龍さんと蒼龍さんの試合です。

 

 空母同士の演習という都合上、かなり演習場は広く取らなくてはいけません。そのため、観客席といっても複数の大型モニターによって戦況を見る、という形式になっているようです。私も含めた観衆が、じっとモニターに視線を注いでいると、そのうち一つのモニターに『比翼』が姿を見せました。一斉に湧き上がるこちらの声は届くはずがないのですけれど、蒼龍さんはモニター越しに手を振っています。対する相手の二航戦も別のモニターに現れました。これだとどっちがどっちかわからなくなりそうですけど、『比翼』のお二人は改二になっているにも関わらず、鉢巻をつけないのですぐにわかります。

 どっちにしろ、大会運営が襷の色でわかるようにしてあるんですけどね。

 

「加古、始まったよ。応援! 応援しなきゃ!」

 

「んあ? ああ、いらないよ。あれくらい余裕だろうし」

 

「初めからお得意の『合わせ』まで使うあたり、『比翼』も容赦する気はなさそうですし、ね」

 

「合わせ、ですか?」

 

「……本当にあなたは『比翼』を擁するクランのマスターなんですよね?」

 

 そんなことも知らないのか、みたいな目で見られてしまいました……。だ、だって仕方ないじゃないですか! 私は空母じゃないんですもん! だいたい二航戦のお二人に艦載機の動かし方は一任してますし、お願いしたことはきっちりこなしてくれるので知らなくってもなんとかなってるんです。それに私、水上戦闘機は積めませんし。

 

「はあ……いいですか。空母艦娘は艦載機をあげます。その際に艦隊に2名以上の空母がいた場合、それぞれで陣形を組んで交戦させるのが普通です。私たちならば翔鶴航空隊、瑞鶴航空隊といように2つの航空隊が空に上がることになります。ここまでは大丈夫ですよね?」

 

「さ、さすがに大丈夫です、はい……」

 

「個々に航空隊を持つ最大の理由は、一つの航空隊に集約してしまうと、互いの艦載機が衝突しやすくなるからです。お互いに動きの邪魔をしあってしまうかもしれません。少数の機体数ならば可能ですが、機体数が増えれば増えるほど衝突などのリスクは高くなります。それだけ空母艦娘は一度に多くの艦載機へ緻密なコントロールを求められることになるのですから」

 

「じゃあ『合わせ』っていうのは何なんですか?」

 

「『合わせ』というのは文字通り個々の航空隊を合わせて一つの航空隊として陣形を取らせることです」

 

 ふむふむ、と翔鶴さんのお話を聞いていたのですがふと違和感。

 

「あれ、それだとぶつかっちゃいやすくなるんですよね?」

 

「それをぶつけずに操るのが『比翼』です。現状で『比翼』以上の機体数で『合わせ』ができる空母艦娘はいません。次点のペアが操れる数とも大きく差をつけているため、この優位性が崩れることはほぼないでしょうね」

 

 その強みがどれほどかはモニターを見ればわかりますよ、と翔鶴さんが一つのモニターを指さしました。そこには相手の航空隊をバタバタと墜していく大きな一つの群れ。一つを墜し尽くしてしまうと、素早くもう一つへと向かっていきます。蒼龍さんと飛龍さんが上げた混成の航空隊。その数はいつも見る飛龍さんと蒼龍さんの航空隊の合計です。相手からすれば単純に対する数は2倍でしょう。

 

「すごい……」

 

「航空戦を決めるのは数と機体の性能と練度です。ここにおいて『比翼』の相手側の二航戦が使っている機体は決して性能が低いものではありません。しかし、航空隊の数とそれを操る技量が違う。迂闊に飛び込んで相方の航空隊の行動を阻害したら、という心理が働いて動けていない間に、もう片方の航空隊を『比翼』の航空隊は喰い荒らし終わっているでしょう」

 

 翔鶴がそう説明してくださっている間にも『比翼』の航空隊は相手の二航戦の元へと到着して、攻撃を加えていきます。直掩機を上げさせる余裕すら与えず、爆撃と雷撃の連続により両名が共に轟沈判定。あっという間に軍配が上がってしまいました。

 

「今のところ『比翼』を除いて『合わせ』を奇襲などではない、常用可能な実戦レベルにまで持ち上げられたペアはいません。ゆえに『合わせ』は『比翼』の代名詞なのです」

 

 なんで『比翼』と呼ばれているのかわかった気がします。二人で一つという比翼の連理を体現しているからなのでしょう。

 

 大会運営の腕章をつけた艦娘が、トーナメント表にある『比翼』のお二人を示すキャラクターIDを上へと押し進めました。

 





 二航戦にスポットライトを当てると宣言したので、彼女たちはこんな戦闘スタイルなんですよ、というのを公開してみました。『比翼』の二航戦らしい戦い方なんじゃないかな、と個人的にはけっこう気に入っていたりします。

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