加古鷹おんらいん!   作:プレリュード

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二航戦称号戦編3

《決勝、『比翼』の勝利です》

 

 運営の放送と同時にトーナメント表でアイコンが上へと進んだ。それを見届けると、よくやく集中を解いて、詰めていた呼吸を私は吐き出す。うん、まあまずまず。今のところは蒼龍の舐めプ(あぶなげな場面)もあったとはいえ、なんだかんだと安定して駒を進めてこられた。久しぶりにこういう大会に参加したけれど、まだ私の腕も通用するみたいだ。

 

「決勝はやっぱり『比翼』が取ってきたかあ」

 

「ということはファイナルは『比翼』と『灰燼』でしょう? 見応えあるんじゃない?」

 

「前回は『灰燼』が圧倒されてたし、今回も『比翼』がさくっと勝っておしまいじゃない?」

 

「でも『比翼』はあれ以来、出場なしだしなあ。『灰燼』も勝ちに来るでしょ」

 

 ちょっと耳をそばだてるだけでこんな噂話がひょいひょいと飛び込んでくる。私が観客側だとしても、きっと似たような反応をしたのだろう。傍から見れば、四大会ぶりに雌雄を決する場なのだ。しかもそこがファイナルとなれば盛り上がりには事欠かない。

 

 まあ、タイトルマッチの仕様上はこうなるのだけれど。トーナメントを勝ち抜くと、前大会で二航戦の名前を獲得したペアに挑めるという形式だから、これでトーナメントで優勝した私たちが『灰燼』に挑む権利を入手したことになる。

 

 権利、というのだからもちろん放棄することもできる。だけど、それをやったら顰蹙ものだろう。流石に出ないという選択肢はない。それなりに『比翼』の名前が売れてしまっている現状で、決勝ぶっちなんて悪名を流すのは避けたい。

 

 まあ、そんなわけで結局は参加するのだけれど。

 

 隣でお気楽そうにしている蒼龍は何を考えているのだろう。ここまで『合わせ』を使ってまでトーナメントを勝ち進んで、ファイナルでいい戦いを演じて負ける心づもりを腹に抱え込んでいるようにはまったく見えない。

 

「あ、いました。飛龍さん、蒼龍さん!」

 

 聞き覚えのある声。とてて、と古鷹さんが手を振りながら近づいてきていた。そういえば私たちが今いる場所は関係者と出場者以外は立ち入り禁止の場所ではなかったっけ、と思い当たる。

 

「古鷹さん、見に来てたんだ」

 

「加古と一緒に応援に来ちゃいました。ひとまず優勝、おめでとうございます!」

 

 どうしよう、古鷹さんが眩しすぎる。まさかファイナルで適当なところで蒼龍は負けるつもりだなんてまったく考えたりしていないのだろう。この人、いつか騙されたりしないだろうか。

 

「うぃーっす。ま、おめでとさんっと」

 

 ああ、でも古鷹さんには加古さんがいた。加古さんがついているならたぶん大丈夫だ。基本的に進んで何かをするタイプじゃないけど、古鷹さんの周りには常に気を配っているから。

 

「ありがとうね。ヒヤッとさせられたところもあったけど、なんとかここまで来れたよ」

 

「おふたりともすごかったです! なんとか、なんて言いますけど、ほとんど無傷でしたし」

 

「あはは。まあラッキーかなあ」

 

 そうね、蒼龍。ここまで蒼龍の気持ちが続いてくれたことがラッキーだったよ。やる気のないことは始めっから見ててわかってた。合わせが完成するまでにいつもより時間がかかっていたし、動きも精細を欠いてたものね。

 

「ま、やるなら気張らずがんはりなよー。あたしらは適当に応援しとくから」

 

 やっぱりこれ加古さんにはバレてない? 私らが適当に負けるつもりだって。いやいや、ただの深読みだ。そう信じたい。

 

「ほら、古鷹。急がないと間に合わなくなる」

 

「あっ、そうだね。えっとおふたりにお願いがあるんですけど、演習場に入ったらすぐ右を見てほしいんです」

 

「右?」

 

「はい! 忘れないでくださいね。右です、右!」

 

 とてててー、と走り去っていく古鷹さんの後ろ姿を見送りながら私は首を傾げていた。いったいぜんたい右とはなんのこっちゃだ。蒼龍に心当たりがないかと見やってみても、首を横に振るだけ。

 

 まあ、たまに古鷹さんがちょっと意味のわからない行動をするのはあることだ。しっかりしているところはしっかりしているのに、時たま抜けているところが散見されているし。右を見て、ということは入場口からすぐ右のところで古鷹さんたちが応援している、といった以上の意味はないんだろう。

 

「すみません。大会運営ですが、そろそろ時間ですので準備の方をお願いします」

 

「あ、わかりました。行くよ、蒼龍」

 

「はいはーい」

 

 ここは堂々と演習場へ、と言いたいところだけれど、砲雷撃戦どころか航空戦まで想定している演習場はおそろしく広大に設定されている。そのため、徒歩で行けなくはないけれど、行く人はよほどの物好きだけだ。私もそんな手間をかけるつもりは毛頭ないので、さっさと転移してもらうことにする。

 

 ちょっとした浮遊感と共に周囲が光に包まれて、そしてその光が晴れるとあっという間に演習場だ。ロールプレイに徹する人ならここもちゃんと歩いて移動するんだろうけど、生憎と私らはそこまではやらない。それに大会運営を困らせることが今大会の目的じゃない。

 

「そういえばさ、飛龍。あの右を見てってなんたったんだろうね」

 

「見ればいいじゃん。右なんて首を捻るだけだし」

 

「それもそっか」

 

 私も気になっていたところだ。演習場の海へと滑るように踏み出して、すぐに右を向く。

 

「やば……」

 

「すっご……」

 

 口にしてしまってから「これは飛龍っぽくないな」と思ってしまった。一瞬、ロールプレイを忘れてしまうくらいだったのだ。

 

 すぐ右にあった《翔けろ比翼!》と大きく流麗な行書体で書かれた応援旗は、それくらいに圧巻だった。ただ文字があるだけではない。飾り紐から金の箔押しまで装飾が施され、旗の左側には連れ立って飛翔する2羽の片翼の鳥が、描き抜かれていた。

 

 たぶん、作ったのはヒトミちゃんだ。あそこまで立派なものはMOD作成でしか作れない。そしてMOD技術を持っていて、古鷹さんがすぐにお願いできる人となれば彼女以外はありえない。

 

 元々はタイトルマッチに参加しないと伝えていた。参加すると告げたのは開催される数日前。つまりこの旗はたった2、3日ていどの時間で作り上げられたことになる。

 

 古鷹さんはかなり無茶を言ってヒトミちゃんにお願いしたのだろう。そして絶対に私たちがファイナルまで進むと信じて、ずっと旗を出さなかった。そして最後の最後になってついにお披露目と激励のために掲げたのだろう。

 

「飛龍。私さ、ここで『灰燼』に負けるつもりなんだ。それなりに善戦したけど、やっぱり最強は『灰燼』だったんだって思わせるために。『比翼』はそこまでのものじゃないって思わせたかったんだ」

 

「うん、知ってる。蒼龍がいろいろ煩わしく感じてたのは気づいてたよ」

 

「煩わしいってのもあったけどね、クランに迷惑かけるのも嫌だったんだ。ほら、このクランって居心地いいじゃん。だから変に名前を売りすぎて、迷惑かけたくなかったんだ」

 

 それも知ってた。蒼龍は確かに一見すると能天気で、何も考えていないように見える。いや、その通りで何も考えてないし、タイトルマッチに対してめんどくさいから嫌がっている側面が大きいこともわかってた。

 

 そこにクランの迷惑になりたくないという感情が紛れ込んでいることもなんとなくだけど、私は察してた。

 

 演習の申し込みが増えるだけならいい。でも、変な嫌がらせがあったら。そういう懸念を抱いてしまう気持ちは理解できた。

 

「ごめん、飛龍。私、ちょっとらしくなかったね。飛龍は勝ちたかったでしょ」

 

「うん。でも、私も蒼龍に何も言わなかったから。意思表示のひとつもせずに、ただ黙ってたんじゃ伝わらないよ。だから私もごめん」

 

 旗をじって見つめている蒼龍の表情は伺えない。でも私はどんな顔をしているのかわかるような気がした。

 

「うっかりしてたよ。私たちは『比翼』だ。私が飛龍を引っ張りあげて、飛龍が私を蹴り上げて。そんなことを繰り返してここまで来たんだよね。なのにすっかりその前提を、『比翼』だってことを忘れてた」

 

「そうだね。蒼龍がらしくなかったらその尻を引っぱたいても動かすのが私だった」

 

「飛龍が及び腰になったところへ喝を入れるのが私だった」

 

 蒼龍がメニュー画面を呼び出して何かを操作し始める。何をするのかわかっている私はその動作をただ見守るのみ。きっとあのアイテムをストレージから取り出そうとしているのだろう。

 

「それにさ、ここまでしてもらっておいて全力を尽くさずにおめおめと帰ってくるってカッコ悪くない?」

 

「はは、それは同感かなぁ」

 

「それはまずいよね。カッコ悪いのはめんどくさいことよりよくない。だからさ、飛龍。勝とうか」

 

 蒼龍は振り返ると、私に向かってストレージから取り出した鉢巻を放ってよこした。端が燃えているような意匠のそれは飛龍と蒼龍の改二衣装でしている鉢巻だ。

 蒼龍は手元に残っているもう1本を額から後頭部に回してきつく締めた。前髪が上げられて、蒼龍の瞳がよりはっきりと見えるようになる。

 

 この間まではそこに諦観があった。怠惰があった。蒼龍にやる気と言えるものは微塵の欠片も存在していなかった。

 

 ああ、ずっとその瞳を待ってたんだ、私は。

 

 同じように鉢巻を締めながら内心で呟く。きっと私の口角は上がって、笑っているのだろう。

 

 もうその瞳には迷いはなかった。つまらないなんてとんでもない。意気消沈なんて言葉は鼻で笑うだろう。そう、あれは。

 

「行こっか、飛龍!」

 

「そうだね。やろう!」

 

 あれは焔の点いた眼だ。

 





クリスマスにもかかわらず、クリスマスに一ミリも関係ない話です。本当なら古鷹と加古のクリスマスナイトとか書いてもよかったのですが、普通に時間が足りなくて間に合いそうになかったので断念しました。
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