加古鷹おんらいん!   作:プレリュード

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二航戦称号戦編4

《それではファイナルマッチ開始!》

 

 放送により開始が告げられるやいなや、私と蒼龍はすぐに矢筒から矢を取り出して弓に番えた。淀みのない動作でひゅっとそれを射る。まずは索敵。いち早く『灰燼』の居場所を割り出して先制攻撃を仕掛ける。

 

「いた! 蒼龍、SSEの2500!」

 

「りょーかいっ! 第一次攻撃隊、発艦始め!」

 

 艦載機を上げると蒼龍の艦載機へと合流させる。蒼龍も心得たもので、私の艦載機たちと速度を合わせて並走。『灰燼』も艦載機を上げて、こちらを迎撃する体勢を整えて待ち構えていた。

 

「飛龍、合わせはFBの3番でいくよ」

 

「了解。合わせはFBの3番ね」

 

 蒼龍チョイスは艦上戦闘機(ファイター)艦上爆撃機(ボマー)編成。基本的に爆撃機を多用する蒼龍らしいな、と思いつつも私は陣形を完成させるために艦載機を蒼龍の航空隊へと近づけていく。

 

《させないよ!》

 

 わざわざオープン回線に乗せてまで叫ぶことか! と咄嗟に言い返しかけたけれど、私にそんな余裕はもらえなかった。

 

 なにせ合わせの陣形を作ろうとしたところへ吶喊され、妨害されたのだ。急いで艦載機たちに回避行動を取らせなくてはならない。そっちの操作にかかりきりにさせられてしまった。

 

「飛龍、もう1回いくよ!」

 

「わかってる!」

 

 でも2回目もダメだった。狙い済ましたように『灰燼』は陣形を組むために艦載機を運ぶ場所へ的確に攻撃を加えて妨害してくる。手法はさまざまだ。戦闘機が機銃をばらまきながら突っ込んでくる場合もあれば、爆撃機の爆弾を空中で投擲し、それを爆破させた範囲攻撃による妨害であったり。

 

 艦載機の数を少し減らされてからようやく気づいた。『灰燼』はこちらに合わせを使わせないつもりなのだ。

 

《確かに合わせは強力よ。でも使わせなければ意味はない。こっちがどれだけ『比翼』の戦闘シーンの映像を方々からかき集めて研究したと思ってるの!》

 

 げえ、と思わず私の口から嫌な予感が音を伴って溢れた。そこまでご執心だったとは知らなかった。この分だと今回の大会で使った合わせのパターン以外まで網羅されていると考えていいかもしれない。

 

 最悪だ。私たち『比翼』が合わせを多用する理由はひとつ。実はランキング上位の空母艦娘たちと比べてしまうと個人の艦載機の運用がうまくないのだ。

 

 もちろん、通常海域の攻略などには事欠かない程度は持ち合わせている。しかし、タイマンを張るプレイヤー同士の演習においてとなると、とことん不得手になる。

 

 例えば蒼龍はドッグファイトで殴り合うことが得意だけど、一度でも崩されると立て直せない。一方で私は細かな小手先技は得意でも、正面からの殴り合いが苦手。でも合わせによって陣形を組んでおけばお互いにフォローができる。蒼龍が崩されかけても、私が小手先技で立て直せる。逆に正面からドッグファイトを仕掛けてくる相手に対しては蒼龍が対処し、私がそのフォローに回る形を取れる。

 

 世間様は合わせを『比翼』の代名詞というが事実は違う。合わせなくして『比翼』は戦えないのだ。それを誤魔化すための手段として合わせを使用しているだけ。私らに『比翼』という二つ名を世間が付けたと聞いた時にはなんて正確な皮肉だろうと思ったものだ。なにせ、片翼の鳥は1羽だけで翔ぶことはできないのだから。

 

 必死になって艦載機を操り、『灰燼』の航空隊を迎撃しようと試みるが、私も蒼龍も思いっきり押されていた。すでに崩されかけている段階では、蒼龍はこの後も押され続けるだけだろう。援護に行きたいところだけれど、私も苦手な正面きってのドッグファイトを仕掛けられて必死にやり過ごしているところなのだ。

 

 『灰燼』め、最初っからこうするつもりで手を打ってやがったな、と恨んでも遅い。こちらの戦闘シーンの映像をありとあらゆる場所から集めたのなら、すでに合わせが使えなければまともに戦えないことも露見しているだろう。

 

 そろそろ艦載機の燃料も危ない頃合いだ。一旦は引いてくれるだろうが、次も凌ぎ切れる自信は私になかった。なによりそれなりの数の艦載機を削ったチャンスを『灰燼』がみすみす見逃すとは思えない。

 

「蒼龍、第二次攻撃隊も上げないと……」

 

「うん、わかってる。わかってるんだけどさ……」

 

 その続きは決して口にされなかった。でもなんとなくわかってしまう。このまま第二次攻撃隊を上げたところで同じことの繰り返しだ。ただ負けるとわかって艦載機を送り出す。そんな不毛なことはない。

 

「飛龍、第一次攻撃隊を全部帰投させよう。それから第二次攻撃隊を上げる」

 

「それじゃ遅すぎる。第一次攻撃隊は先頭だけ操作して残りを追従モードに切り替えたらすぐに第二次攻撃隊を上げないと」

 

「わかってるでしょ、飛龍。それじゃ、負ける」

 

 う、と言葉に詰まった。同じことをしたって同じように『灰燼』に迎撃される。今まで通りのセオリーは『灰燼』の弛まぬ努力によって打ち破られたのだから。

 

「飛龍、アレやろう」

 

「……正気? 未だにプレイヤーとの演習では1回も使ったことないけど」

 

「まあねー。でもさ、考えてみてよ。観衆は山ほどで、相手は最強の二航戦『灰燼』で。そんでもって、私たちには全力で応援してくれてる古鷹さんたちがいて。これ以上にお披露目にぴったりなシチュエーションってなくない?」

 

 にやっと蒼龍は笑って私を見つめる。眼の焔は試合前よりもさらに激しく燃え上がっていた。うん、これなら面白いことになりそうだ。これでかの『灰燼』を下したら、きっとさぞ痛快だろう。それはなかなかに悪くない展開だ。

 

 それにずっと押されっぱなしも癪だし、ね。

 

「よし、乗った」

 

 急いで第一次攻撃隊を収容。今頃『灰燼』は第二次攻撃隊を発艦させてこちらへ向かっているのだろうけれど、完全に収容するまで艦載機は上げない。

 

「「第二次攻撃隊、発艦始め!」」

 

 そして収容が完了すると同時に艦載機を一斉に上げる。時間はあまりない。『灰燼』に先手を取られる前にこちらも準備を完了させなくてはいけないのだ。

 

「飛龍、You have control.

 

「おっけ、I have control.蒼龍、You have control.

 

「ん。I have control.いくよ、飛龍」

 

 寸分の狂いもなく、全く同じタイミングで口を開く。

 

「「We have control !!」」

 

 今までは比翼の鳥だった。鳥の面しか見せなかった。

 

 さあさあ、皆さまお立会い。ここから先は、未だに誰も見ぬものをご覧にいれましょう。遠からん者は音に聞け、近くば寄って目にも見よ。

 

 一丁、ここらで初披露と参りましょう。世にも珍しき、比翼の龍を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 見ているだけ、というのはもどかしいものです。今すぐ飛んでいって援護に行きたいくらいです。

 

「だめだ、厳しいな。完全に合わせを潰しに来てる。『灰燼』は本気で『比翼』の対策を練ってきたな」

 

「なんとかできないかな……?」

 

「あたしに言われても困るよ。飛龍と蒼龍がどうにかするしかない。できるのは祈ることくらいだ」

 

 加古の言うことはもっともです。私たちにできることは、飛龍さんと蒼龍さんが勝てるように祈りつつ応援することくらい。

 

「ここからの巻き返しはかなり難しいですよ。『比翼』は第一次攻撃で少なからず艦載機を削られました。全艦載機を上げているわけでないとはいえ、ここで減った数が後々になって響いてくるはずです」

 

「そんな……」

 

「なにより、合わせを封じられた結果が散々でしたね。おそらく合わせを抜きにした実力は『灰燼』の圧勝でしょう。艦載機の数の差は開いていくばかり。活路を見出すのならば肉弾戦でしょうけど、『比翼』が肉弾戦をできると聞いたことはありません。できたとしても、『灰燼』が接近を許してくれるとは思いませんが」

 

 同じ空母である翔鶴さんが言っていると、言葉の重みが違います。でもわかっていました。かなり厳しい状況なんだってことくらい。だってトーナメントの時と比べて、飛龍さんと蒼龍さんの艦載機が自由に動けていないんです。

 

「これは勝負ありましたかね。ここからの巻き返しはもう無理でしょうし」

 

 翔鶴さんの言葉は会場全体を代表しているようでした。これは『灰燼』が取ったな、という雰囲気に満ち始めています。

 

「加古……」

 

「あたしたちには何もできない。ただあのふたりが勝つことを信じて応援するだけさ」

 

 そうです。加古の言う通りでした。『比翼』はまだ終わってません。まだ飛龍さんも蒼龍さんも、諦めていないんです。なら私が応援を放棄するわけにはいきません。

 

《We have control !!》

 

 ぎゅっと手を握りしめていた私の耳に突如、叫び声が飛び込んできました。誰のか、なんて考えるまでもありません。それは間違いなく、私たちのクランで空を支えてくれている『比翼』の二航戦です。

 

「まさか……そんな馬鹿な!」

 

 翔鶴さんが隣で呻き声を発しましたが、そんなこと私にはどうだっていいことでした。

 

「やっちゃってください! 飛龍さん! 蒼龍さん!」

 

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