加古鷹おんらいん!   作:プレリュード

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二航戦称号戦編5

 陣形を組む必要なんてなかった。ただあるがままに突撃させるだけでよかった。

 

「交戦開始」

 

 いつもはおしゃべりな蒼龍が、本当にたったそれだけ口にする。私も黙って首肯するのみで、わざわざ何か口を開いて返さない。

 

 『灰燼』の艦載機が迫ってくる。向こうは通常の航空隊編成だ。こちらが合わせを使っていないように見られるからだろう。

 

 残念、合わせはすでに完成している。

 

 私と蒼龍の艦載機のごちゃまぜ編成がそれなのだから。

 

 切った張ったが得意の蒼龍が先行。そう、ざっと私と蒼龍の艦載機のすべてを操って。

 

 崩れかけた瞬間に蒼龍から私に一部の艦載機の操作権を交代し、私が今度は得意の小手先技で撹乱する。乱したところで私の艦載機を蒼龍が操って再び突撃させる。

 

 言葉は交わさない。交わす必要なんてない。ただ戦況を把握して、相棒と艦載機の操作権をバトンタッチし続けるだけ。

 

 『灰燼』はさぞ困惑しただろう。なんていったって、私にできない動きを私の艦載機がして、蒼龍にできない動きを蒼龍の艦載機がするのだから。

 

 艦載機の操作権完全共有。私と蒼龍がやったことはそれだけ。

 

 艦載機の操作権をほかの艦娘に委譲するシステムは、2人以上で出撃している際に片方の飛行甲板がやられてしまい、発着艦不能になってしまった時、もう片方の艦娘に着艦させて艦載機に補給を受けさせるためにまま用いられる。一時的に操作権を譲渡し、着艦させてもらい、再び発艦する時に操作権を返してもらう、という図式だ。

 

 私と蒼龍はそれを補給でなく戦闘でやっているというだけ。

 

 わざわざ合わせという形で陣形を組まなければならない理由は、私の艦載機を蒼龍が崩された時、即座にフォローできる場所へ組み込んでおくため。しかし、操作権を共有しているのなら仮に私の艦載機が近くになくとも、蒼龍の艦載機を私が操って切り返しができる。

 

 蒼龍の3番機を私が使って、私の8番機を蒼龍が使って。かと思ったらすでにその操作権は私に戻っていて。

 

 ある意味でこれは合わせを突き詰め続けた最終の形かもしれない。合わせの真骨頂は互いのフォロー。その目的を合理的な形で昇華させたのがこれなのだから。

 

 次の一手なぞ打たせない。打たせる余裕なんて与えない。

 

「悉く先手を打つ!」

 

 叫んだ蒼龍が『灰燼』の艦載機を正面から迎撃する。急いで崩しにかかっても、その時はすでに私が操っているため、小手先技でひらりと避けられる。ならばと再び正面戦闘に切り替えようとしたところで、蒼龍が別の角度から捩じ込んだ艦載機で撃墜。空いた穴を突こうとしても、私が塞いでさっと撃墜してしまう。

 

 形勢は傾いた。一度は『灰燼』に傾いた天秤を力づくでこちらに傾けさせた。

 

「崩れた。飛龍、たたみかけるよ!」

 

「了解! 一気に片をつける!」

 

 先に攻撃隊で私が雷撃を格子状に放つ。当たらなくていい。あくまで目的は足止め。

 

 本命は蒼龍操る爆撃機の集中爆撃だ。

 

「友永隊!」

 

「江草隊、やっちゃって!」

 

 爆炎が立ち上がって『灰燼』を包む。まだ警戒は解かない。確実に仕留めるまでは、気を緩めることなんて出来ない。

 

「まだまだ!」

 

「ううん、これで終わり。私が爆撃機を使えない、なんて言った覚えはないよ」

 

 『灰燼』が反攻の兆しを見せようとする。けれどそんなことさせやしない。蒼龍の爆撃機が終わったら、次は私だ。確かに腕は蒼龍に劣るけれど、反跳爆撃くらいはこなせる。蒼龍から残していた江草隊を借りて水切りのように爆撃を水面に跳ねさせる。上に目を取られていただろうから、中段攻めに対して咄嗟に適応するのは難しいだろう。

 

「そんでもって、私が攻撃機を使えないって言った記憶もないんだよねー、これが」

 

 今度は蒼龍が私の友永隊で雷撃。今度は足止めなんかじゃない、当てるための雷撃だ。ダメ押しにダメ押しの連続。反撃の余裕など与えない。事前に収容しておいた第一次攻撃隊を再び発艦させて猛攻を続ける。

 

「どうよ!」

 

 見たか。これが私たち『比翼』だ。そんな宣言を試合終了を報せるブザーと共に勝ち誇って私は言った。

 

 私が、私たちが『二航戦』だ。

 

「飛龍。ほら」

 

「ん」

 

 ぱぁん、と手を掲げて蒼龍とハイタッチ。心地よいじんじんとした痛みが手のひらに残った。

 

「負けたよ。あなたたちが二航戦だね」

 

 萌葱色の着物を燻らせた『灰燼』の蒼龍がいつの間にか近くに来ていた。その隣には同じように至るところに焦げ目がある赤橙の着物を纏った飛龍が。

 

「前に負けた時はね、偶然だと思いたかったんだ。合わせのインパクトに押されただけで、ちゃんとやり合えば勝てるって思いたかった。あの時は私たちが最強だって慢心してたから負けたんだって。だから今回は勝つつもりだった。でも、負けた。私たち、油断はしてなかったんだよ。むしろ最大限の警戒すらしてた。その上で負けたんだ。おめでとう。あなたたちが『二航戦』だ。『比翼の二航戦』だ」

 

「そうだねー。私たちが勝った。だから二航戦の称号は私たちのものだ」

 

 蒼龍が、ああ『比翼』の方、つまり私のペアの蒼龍が『灰燼』の蒼龍に向かって歩み寄る。

 

「だからまた奪いに来ればいいよ。次からは私たちもちゃんと出場するから」

 

 『灰燼』の蒼龍が驚いたように目を剥いて、そしてすぐに嬉しそうに破顔する。

 

「そうだね。また奪いに来るよ。なんたって……」

 

「「「「それが最強ってものだ」」」」

 

 『比翼』も『灰燼』も声を揃えておなじこと。でしょ、と私たち『比翼』が付け加えると『灰燼』がからからと笑う。

 

「次は勝つ」

 

「まさか。次も黒星をつけてやる」

 

 差し出された『灰燼』の飛龍の拳を私も強く握り返す。隣では同じように蒼龍も固く握手をしていた。

 

 こうして二航戦称号戦は幕を下ろした。私たちにとってこれは始まりだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 わあああっと試合終了のブザーと共に、水を打ったように静かだった会場が沸き上がります。

 

「加古! 勝った! 勝ったよ!」

 

「だな。やー、あそこからよくやったもんだよ、本当に。うん、とりあえず古鷹、離して。首、絞まってるから」

 

「あ、ごめん……」

 

 テンションに任せて思いっきり加古に抱きついてしまっていました。首を絞めてしまっていたので、きっと苦しかったでしょう。

 

「勝った? あれは勝ったなんて生易しいものではありませんよ。あれは『比翼』が圧倒したと言うんです」

 

 客観的に見て浮かれているであろう、私の隣では翔鶴さんがひどく真剣な面持ちで呟いています。確かに後半から『灰燼』は一切手出しをできなくなってしまっていましたから、圧倒という表現は妥当な気がします。

 

「わかってませんね。いえ、空母でないあなたにわからないのは仕方ないことです。でもおそらくこの試合を見ていた空母艦娘はほとんど全員が気づきましたよ」

 

「何に、ですか?」

 

「『比翼』がやったのは艦載機操作権の完全共有です。あの機体数でそれをやり、なおかつ完璧に機能させることの難しさは艦載機を駆るものなら理解できないはずがありません。ただの譲渡とは話が違いますからね」

 

 いまいちピンときません。私も観測機の操作権を加古に渡したり、逆に加古から操作権をもらったりします。機体数が増えたら大変でしょうけど、そこまでのことなんでしょうか。

 

「あまりわかっていなさそうなので補足しますけど、例えば蒼龍さんと飛龍さんが同じ艦載機に別の指示を出してしまうと、指示同士がコンフリクトして動かなくなってしまうんです。逆もまた然りで、どちらも指示を出さなければただ飛ぶだけの的です。しかし艦載機の一機それぞれに個別の指示を出さなければあんな芸当は無理です。つまり『比翼』はお互いにコンフリクトも空白も作ることなく、全艦載機に指示を出し続けたんですよ。完璧な意思疎通ができても、難しいでしょうね」

 

「な、なるほど……?」

 

 はい、あんまりわかってません。なんだかすごいんだなあ、くらいしか。たぶん空母艦娘の方々は実感としてわかりやすいんでしょうね。私は重巡洋艦なのでわかりにくいですけど。

 

「そうですね、これくらいなら彼女も許してくれるでしょう。古鷹さん」

 

「は、はい!」

 

「私の所属するクラン、『秘密の花園』は後日、あなたたち『イーリス・アイリス』に演習を申し込ませていただきます。どうかその時はよろしくお願いしますね」

 

 ぽかーん、としている間に悠々と翔鶴さんは立ち去ってしまいました。なんだかえらいことになってしまった気がします。でもそういうことはあとから考えましょう。

 

 今は一刻も早く飛龍さんと蒼龍さんの元に行きたいですからね。

 

「加古、行こう!」

 

「あいさー」

 

 加古と一緒に大急ぎで結果発表の場に赴きます。人混みの中を必死にかき分けて進むと、人で埋もれそうになっている飛龍さんと蒼龍さんがいました。

 

「あー、まあ優勝だもんなぁ。そりゃああなるか」

 

「えっと、本当はお祝いを言うつもりだったんだけど、後日にした方がいいかな……?」

 

「んー、かもしれないな。ひとまず出直すか」

 

「そんなこと言ってないで助けてってば!」

 

 悲鳴にも似た蒼龍さんのヘルプコール。しかし助けてって言われましても何をすればいいのでしょうか。

 

「と、とりあえず私らの手を引いてクランルームまで連れてってくれない……?」

 

 息も切れ切れな飛龍さんが懇願してくるのでは仕方ありません。加古に蒼龍さんをお願いすると、クランルームを解放しておふたりを連れていきます。なんだかいろいろと後ろから聞こえてきますけど、いいんでしょうか。聖徳太子ではないので、何を言っているか判別はできませんけど。

 

 というかそもそも私はクランメンバーに対しては常にルームを解放状態にしているので、飛龍さんも蒼龍さんも入れるはずなんですけど、なんでお願いまでしたんでしょうか。

 

 そんな疑問はクランルームに入って大衆の視界から遮られた瞬間に解決しました。

 

 いきなりおふたりがばったりと倒れ込むという形で。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

「あー、だいじょーぶだいじょーぶ。ただちょっと疲れた……」

 

 いえ、絶対にちょっとじゃないですよね? いきなり糸が切れたようにばったりいきましたけど。

 

「無茶やったな、2人とも」

 

「あー、加古さんにゃバレてる? そうなんだよね。『We have control』はやるとめちゃくちゃ疲れるんだ」

 

 床に突っ伏したままの蒼龍さんがモゴモゴと言います。たぶんそのうぃーはぶなんたらというのが翔鶴さんの言っていた艦載機の操作権完全共有というやつなのでしょう。とりあえずずっと床に転がったままはかわいそうなので、ヒトミさん謹製のクッションを引っ張ってきてそれぞれに渡します。

 

「古鷹さんありがと。実はあれって脳をめちゃくちゃに酷使するからきっついんだよね」

 

「なんたってVRヘッドセットが異常検知で私らを強制ログアウトさせる限界ギリギリの手前までやるんだからね。あー、疲れた……」

 

 普段からしゃんとしている飛龍さんですらこの有様ですから本当に無茶をしたのでしょう。

 

「でもさ、飛龍。勝ったよ。私たちが勝ったよ」

 

「そうだね。私らの勝ちだ」

 

 満足げに寝返りを打って仰向けになりながら飛龍さんと蒼龍さんが顔を見合わせて笑います。ああ、そうでした。言わなければならないことが私にもありました。

 

「おふたりとも、おめでとうございます!」

 

「おめっとさん」

 

 私と加古がそう言うと、『比翼の二航戦』はぐっと拳を天に突き上げて応じました。同じクランメンバーだからでしょう。この勝利は私にとってもすごく誇らしいものでした。

 

 

 ここまでは平和、だったんですけどね。後日『比翼の二航戦』とやらせろと猛り猛った空母艦娘たちから大量の演習申し込みが『イーリス・アイリス』に送り付けられて私は悲鳴をあげることになり、ファイナルで見せたあの完全共有をやれとせがまれる『比翼の二航戦』もその度に悲鳴をあげることになりました。

 




 というわけで二航戦称号戦編、これにて完結です。今年中に完結できてよかったよかったと胸を撫でおろしている作者です。次回は大元にもなっている帝都造営先生の翔鶴ねえ☆オンライン!とコラボしたお話をやっていこうと考えていますので、乞うご期待!

 評価、感想、ご要望などはお気軽にどうぞ。作者が飛んで喜びます。


 次回は来年以降ですね。みなさま、よいお年をば。
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