艦これのブラウザ版に演習があったように、VR艦これにも演習があります。1対1の演習から、こういったクラン対抗演習、果ては連合艦隊を組んで行う合計24人も参加するという大規模な演習までできます。
しかも、便利なことに海域の設定から天候の設定までできます。つまりちょっとしたシミュレーションルームのような利用もできる、ということですね。もちろん、演習で公平性を維持するためにすべてランダムにすることもできますし、演習海域というランダム要素を排除した設定にすることもできます。
今回は演習海域設定にしよう、と事前に決めているのでそうした設定はいりません。簡素な岩礁があったり、島がちょこっとあったり。それくらいのものです。
約束の時間になりました。演習場に到着すれば、『秘密の花園』もちょうど到着したようです。
「『イーリス・アイリス』の古鷹です。今日はよろしくお願いします」
「『秘密の花園』の榛名です。申し出をうけてもらい、ありがとうございます」
クランマスターの榛名さんと握手を交わしながら、そっと相手のメンバーをうかがいます。
榛名さん、そして『純白』の五航戦。それに北上さんと時津風さん。なるほど、加古が予想したとおり、駆逐艦はいました。秋月型でなかったのはラッキーです。
というか、これだと5人。あとひとりは……。
「ども、青葉です!」
なるほど、最後は重巡洋艦でしたか。しかし青葉さんとは。フネ的には私の妹にあたるところですね。加古もいるので、ここで衣笠が揃えば古鷹型勢揃いなのですけど。
「あ、今回の演習なんですけど、配信しても大丈夫ですかぁ?」
「は、配信ですか?」
配信する方、ままいるんですよね。ゲーム実況の動画をあげている方と同じようなものです。どうやらこの青葉さん、配信者のようです。ブラウザ版では記者のような言動が目立つキャラクターでしたが、その延長みたいな感じでキャラ付けをしているのでしょうか。
「私は構わないんですけど……」
他のみなさんがどう考えるか。それ次第です。
おそらく『秘密の花園』サイドではすでに許可が取れているのでしょう。しかし、私たちのクランがOKかどうかはわかりません。だからこうして事前に許可を取りに来たのでしょう。
「私らはOK。っていうか許可出してないけど、まとめ動画とかOurTubeにあがってるし」
飛龍さんの言葉に、うんうんと蒼龍さんがうなずきます。
そういえばあがってましたね。二航戦称号戦のまとめ動画や、比翼の二航戦合わせシーン集、みたいな動画が。
「私はいいよ。むしろちょっと面白そうですらあるじゃないか」
「構わない」
ヴェルちゃんとヒトミさんも問題なさそうです。
加古は興味がなさそうなので、OKということですね。なにか異論があったら、絶対になにか言いますから。
「大丈夫みたいですねー。それじゃあ、演習前に古鷹さんから一言お願いしますぅ!」
「わ、私ですか?」
どうしましょう。コメントなんて、なにを言えばいいのやら。
「え、えっと。『イーリス・アイリス』の古鷹です! がんびゃります!」
…………。
思いっきり噛みました。恥ずかしくて、顔から火が出そうです。しかも誰ひとりとしてコメントしてくれないのが余計にキツいです。
「あ、青葉さん。リテイクって……」
「生配信ですよ、これ」
ですよねー……。知ってました。生配信ですものね。取り返しはつかなさそうです。いったい何人かは知りませんが、配信を見ている方に私の情けない姿を思いっきり放送してしまいました。
「大丈夫ですよ。コメントはきっと噛み鷹さんかわいい、とかですから」
「そ、そういう問題じゃなくてですね!」
「おーい、視聴者どもー。古鷹はあたしのだかんなー」
「もう、加古ぉ!」
生配信のところになにを言ってくれるんでしょう。青葉さんも「これは『双撃』の熱愛報道ですねぇ!」なんて盛り上がっちゃってますし!
配信ということはアーカイブが残るはずです。ということは、仮にこの配信を見てなかった人も見れちゃうじゃないですか。
「まあ、まあ。あんまりここで話していても視聴者を待たせちゃいますよ。そろそろはじめましょう」
榛名さんの取り成しを受けて、ひとまず私は落ち着くことにします。そうです、これから演習でした。あんまり慌てふためいてもいられません。なにせ私は『イーリス・アイリス』のクランマスターで、今回の演習の旗艦を務めるのですから。
「それでは古鷹さん。よろしくお願いしますね」
「はい! こちらこそよろしくお願いします!」
榛名さんから送られてくる演習の申請。きちんとその申請が通常艦隊のものになっているかを確かめてからホロウィンドウの「OK」ボタンをタップ。
すると新しいホロウィンドウが立ちあがります。まもなく演習を開始します、というメッセージとおよそ1分ほどのカウントダウン。
カウントがゼロになった瞬間に演習海域の転移が開始されます。さあ、クラン対抗戦のはじまりです。
精一杯、がんばっていきましょう!
演習海域の移動が完了した瞬間、私はまず真っ先に瑞鶴を探します。もちろん、艦隊を組んでいるので瑞鶴だけとんでもなく遠方に転移させられるということはありません。
ありませんが、それはそれとして。私と瑞鶴は空を守る必要があります。ならば近くにいた方が意思疎通もしやすいというもの。そう、決して妹がそばにいてほしいという姉心などではありません。ないったらないのです。
「瑞鶴?」
「ちゃんといるよ、翔鶴ねえ。演習、がんばろうね!」
「ええ、もちろん」
ああ、今日も瑞鶴はなんとかわいいのでしょう。がんばろうね、なんて言いながら握りしめた手を胸の前で構えている姿なんてもう。この姿を撮影して額縁に入れたものを部屋に飾っておきたいくらいです。最高のインテリアになること間違いなしですよ。
「えへん、えへん」
ああ、もう。せっかく瑞鶴の素晴らしさを堪能していたところだというのに。榛名さんの咳払いで中断されてしまいました。まったく、なにをしてくれるのでしょう。
「あのですね。もう演習は開始しているんですよ。姉妹のイチャイチャをやっていないで、さっさと準備してください」
「ええ、わかっていますよ」
瑞鶴と戯れこそしましたが、今が演習だと理解していないわけではありません。しかし、エネルギーの補充というのも大事だと思うのです。そうズイカクニウムの補給です。これがないと私は戦えないので。
「事前のブリーフィング通りにいきましょう。時津風さん、対潜警戒を」
「おっけー」
「特に翔鶴さんと瑞鶴さんの周囲を厳重にお願いします。理由は……」
「相手に空の優位性を取らせないためでしょー? わかってる、わかってるー」
時津風さんが「よろしくねー」と軽い調子で私と瑞鶴の前に。事前にブリーフィングをしているので、今さら私たちの周囲で対潜警戒をする理由は言われずともわかっていたのでしょう。
私か瑞鶴。そのどちらかが落ちれば、『比翼』の二航戦に対して競り勝つことは不可能です。空の優位が取られてしまえば、あとは一方的に攻撃を受けるのみ。だからこそ、空母は落とされてはなりません。
しかしここで問題があるのです。そう、あちらには潜水艦がいるのです。それも、未発見状態ならば一撃で確実に沈めるという腕前を誇るヒトミサーティーン。
いつ放たれるのか。それがまったくわからない以上、駆逐艦である時津風さんは対潜警戒をしてもらうしかありません。
「よろしくお願いしますね、時津風さん」
「おっけ、おっけー。任せちゃってー」
時津風さんがすちゃりとソナーの反響音を聞くためにヘッドセットを装着。ソナーの音に耳を傾けはじめます。
「さて、これでひとまずは安心でしょう。時津風さんが見てくれていますし」
「榛名さん、あなたも気をつけてくださいよ」
「大丈夫ですよ。少なくともまだ。なにせ敵艦隊も見えていないんですから」
「そうやって慢心してると知りませんよ」
「そんな、ねえ。榛名が潜水艦の魚雷に当たるわけないじゃないですか」
まあ、気が緩む気持ちはわかります。なにせ狙われているのは自分ではないのですから。しかし先ほど自分で「演習はもう始まっている」なんてことを言った手前、人の振り見て我が振り直せとなってほしいものです。
「ごめ! これもしかしてもう来てるかも! 回避運動!」
時津風さんがそう言った直後。
ドゴォオオオン! といきなり爆発音がします。砲撃音がないので、砲弾によるものではないのは明らか。航空機も飛んでいないので、魚雷であるとしか考えられません。ヒトミサーティーンの仕事に違いありません。
ただし、それが直撃したのは私でも瑞鶴でもありません。
魚雷が直撃したのは榛名さんの艤装でした。
見事なまでのクリティカルヒットだったのでしょう。浮力力場を発生させられなくなった榛名さんの艤装は、榛名さんもろとも海の下へと沈んでいきます。
「あの……榛名、さん?」
さっきの自分の言葉、忘れてませんよね? 潜水艦の魚雷なんかに当たらない、とか豪語してませんでしたっけ?
「あー……。えーっと、ですね……」
艦隊全員からのじっとりとした視線に、鋼メンタルを誇る榛名さんでさえさすがに気まずかったのでしょう。
悪あがきに応急修理を試みているようですが、あれだけのクリティカルヒットに効果があるはずもなく、うんともすんとも言わない艤装は鉄の塊以上の働きはできそうにありません。
ついに諦めたのでしょう。榛名さんはげふん、とひとつ咳払いをして。
「てへぺろ!」
「「「「「てへぺろ、じゃねえええええええ!!!」」」」」
かわいいと思っているんですか! こつんと頭に手を当てて? それでぺろりと舌を出して? それで許されると思ったら大間違いです! さんざん自分は大丈夫的な発言をバンバン飛ばしておきながら、一撃で轟沈判定とか!
「どうするんですか翔鶴氏! あの色ボケ戦艦、一発目で落ちましたよ!」
「私に言わないでください! こんなの想像できるわけないじゃないですか!」
「ご、ごめんね? 私のソナーに引っかかったの、ほんとにギリギリだったから」
「時津風さんは悪くありませんよ。直前でしたけど、警告はありましたし」
むしろこれは慢心しまくったあの淫乱戦艦にすべての責任があります。敵はヒトミサーティーンなんて二つ名を持つトップクラスの潜水艦。直前だったとはいえ、攻撃を感知した時津風さんはむしろよく警告をできたものです。
あれほどの潜水艦相手なら、攻撃さえ察知することができないことさえ想定されていました。
「時津風さん、潜水艦は?」
「もうソナーで捉えてるよ!」
「そのまま自由にさせないでください」
「わかったー」
潜水艦はゲームシステム上、未発見状態での雷撃にダメージボーナスが付くスキルが存在しています。そうでもしないと潜水艦という艦種はゲームシステム的に活躍しにくいため、運営からの一種の救済措置なのですね。そしてこのスキルを取っていない潜水艦は皆無といってもいいくらいです。
確実にヒトミさんもこのスキルを保有しているはず。となれば、時津風さんに見失わせてはまた誰かが落とされてしまいます。
「青葉さん、旗艦を引き継いでもらえますか」
「青葉ですか!?」
「『比翼』と戦いながら指揮までする余裕はありませんので」
そう言えば、青葉さんも納得してうなずいてくれました。青葉さんが指揮をできるかはわかりませんが、この中ではこのゲームについて造詣が深い方です。任せてもなんとかしてみせるでしょう。
「瑞鶴。相手はあの『比翼』だけど、やれるわね?」
「うん。全力でいくよ」
瑞鶴の声に余裕がありません。それは私も同じです。なにせ相手は称号戦で『二航戦』の名前を取っているほどの実力者なのですから。
しかし、ナメられたものです。真っ先に潜水艦で狙ったのが戦艦とは。
潜水艦で私たち空母のどちらかを狙ってくると予想したのは、『比翼』の二航戦が私たちとの制空戦を有利に進め、航空隊で攻撃してくるだろうと考えたから。
ですが実際に狙われたのは戦艦の榛名さん。私も瑞鶴もターゲットではありませんでした。
「私たちごとき正面から戦っても勝てる、と。そういうことでしょう?」
はるか遠く。まだ見えない『比翼』の二航戦を睨みつけながら、私はつぶやきます。
「その侮りは高くつきますよ、『比翼』の二航戦」
少なくとも。
あなたたちは虎の尾ならぬ、鶴の尾を踏んだのです。
ただで済むとは思わないことです。