クランの設立を宣言して、加入希望の募集をかけたのがつい先日。最初はどんな人が来るのかな、とわくわくして待ち続けました。
「…………来ないね、加古」
「来ないなぁ」
今のところ接触なしです……。私か加古に連絡できるように募集チラシに私と加古の艦娘IDを記載しておいたんですけど、メッセージは来てません。もちろん、私たちに直の接触をしてきてくれた方も。
「なんで誰も来ないんだろうね……」
「さあ? ま、いずれは来るんじゃない?」
「適当なことばっかり言って……」
でもあながち間違いじゃないのかもしれません。果報は寝て待て、という言葉があるくらいです。ちょっと
「加古、部屋に行く?」
「えっ? まだお昼なのに今からやるの?」
「もう! そういう意味じゃないって!」
別に誘っているわけじゃありません! 私はそんなにふしだらじゃないです! お昼からそんなことをしようなんて、とんでもないです!
「え、じゃあどういう意味だった?」
「普通に待つためだよ! ずっとここで立ち続けていたら疲れちゃうから……」
「ああ、そういう。でも古鷹の部屋もあたしの部屋もそんなに家具の取り揃えよくないじゃん」
「そうなんだよね……」
そう、実はこのゲーム、アイテムストレージがマイルームとして機能するんです。マイルームにある収納から取り出すという形でアイテムを取り出すことも可能です。
そしてマイルームという名を冠するとおり、家具を配置して自分だけの部屋を作ることもできるんです。運営が提供する既存の家具をゲーム内通貨によって買うのもよし、ちょっとこなれた人になってくると、自分でMod作成を利用して家具をデザインする人もいます。
中にはMod作成スキルを利用して、ちょっとしたゲーム内通貨の商売をする人もいます。
まあ、それはさておき。私も加古もあまりマイルームの編集に熱心だったわけではないので、
「そういえばクランルームも解放されるんだからクランルームも家具とか置かなきゃ」
「んー、でもそれはおいおいでいいでしょ。
「そうだよね。うーん、早く誰か来ないかなあ」
クランルームを整えたいのは山々だけれど、クランだけ整えてメンバーがいないのであればそれは中身のない宝箱。だから早く誰か来ないでしょうか。話をするだけでもいいんですけど……。
「というかあれじゃない? クランネームがいろいろとあれだから来ないんじゃない?」
「ええっ!? 加古も賛成してくれたよね?」
「いや、別に好きにしたらって言っただけだけど」
うっ、確かに。そこら辺は加古が適当に流す癖があることを、クラン結成に舞い上がって忘れていたことは否定できません。
「で、でも悪くはないよね? 普通だよね?」
「やー、でもねえ。『イーリス・アイリス』ってなかなかファンシーだと思うよ?」
「やっぱり変かなあ……」
単純にアイリスという花の花言葉が『信じる心』だったから気に入ってつけてみただけなんです。イーリスっていうのも語感がよくて『虹』って意味も悪くないと思ったからつけたんです。
そう、だからあれは普通です。普通なんですっ。いいじゃないですか、『イーリス・アイリス』。私は好きですよ。ええ、とっても。
変じゃ、ないですよね? ね?
「ああ、もう。大丈夫だって。古鷹は不安になるとすぐ顔に出るんだから」
「そ、そうかな……」
「あたしはいいと思うよ。古鷹はクランマスターなんだからもっとドンと構えておけばいいんだって」
加古が励ましてくれるくらい私の顔には不安が漂っていたのでしょうか。恨むべきはこのゲームキャラクターの表情モデルが細かく作られていることと、感情エンジンが恐ろしく緻密に組まれていることでしょう。
ちょっとした感情の動きで簡単にキャラクターの表情は動いてしまうんです。慣れてくるとうまくコントロールできるようになって、ころころと表情が変わることはなくなるんですけどね。
実は簡単な指針として表情が不必要にコロコロ変わっているかどうかでVRゲーム慣れしているかどうかわかったりするんです。必要以上にコロコロと表情が変わっていたらまだ経験が浅い証拠で、逆にまったく動かない人やしたい表情を浮かべられる人はVR慣れしている証拠です。
私もそれなりにはVR慣れしているはずなんですけど、どうも咄嗟になると表情がころっと動いてしまうみたいです。
「あれ、メッセージが来た」
たぶんこういう時とか。きっとすごく私の顔は綻んでいるんだと思います。
だってクランについてお話がしたい、なんて待ちに待ったメッセージが来たんですから!
「え、まじ? ちょっとあたしにも見せてくんない?」
興味津々の様子で加古がずずいっと私に近づいてきた。どんなメッセージが送られてきたのか気になっているのは明白なので、メニュー画面を共通可視モードにすると加古にも見られるようにしました。
「えっと……クランのご解放、おめでとうございます? なんかやけに丁寧だな」
「きっと礼儀正しい人なんだよ。お話をとりあえず聞きたいっていうことだけど、どんな方なんだろう?」
「古鷹、2人で来るって書いてあるけど」
「えっ? あっ、ほんとだ。2人かぁ。珍しく……もないね」
現に私と加古みたいにペアで行動するプレイヤーもまま存在します。ブラウザゲーム時代に流行ったカップリングなどはやっぱり多いですね。加古と古鷹もよくカップリングでありましたし。
まあ、私が古鷹を選んだのは別の理由もありますけど。
いけません。また話が明後日の方向に。えっと、とにかく会いに来たいということでいいんでしょうか。
「とりあえず返信するね。場所は……食堂でいいよね?」
「いいんじゃない? どうせ向こうさんはこっちのことわかってるんだし。その後でマイルームなりなんなりと静かに話せるところに移動ってことで」
「わかった。じゃあ、そう返信しとくね」
メッセージ機能にある返信を選択して、送り主の艦娘IDをメッセージの送信先に指定。きちんとした文章だったので、どう返そうかなと考えていた時、加古が急に私のメッセージ画面をのぞき込んで真剣に見つめ始めました。
「ど、どうしたの、加古?」
「古鷹、この艦娘IDよく見た?」
「えっ? ううん、あんまりしっかり見てないけど……」
「あたし、この送り主わかったわ。というか一緒に来るっていうもう1人もわかった」
わざとなんでしょう。メッセージには送り主の艦娘IDのみで名前、つまり何の艦娘なのか書かれていませんでした。会った時のお楽しみ、ということなのかなと思って変にも思いませんでしたけれど。
「この人たちえらい大物だぞ」
「大物?」
「このメッセージを送ってきたのは『比翼の二航戦』だ」
「うそ……そ、そんな方たちがなんで……?」
二航戦は人気が高くて、結構なプレイヤー数がいます。でもその中で『比翼の二航戦』の二つ名を冠するペアはたったひとつ。
曰く、並み居る艦載機を尽く叩き落とす苛烈な航空戦。
曰く、ありえないとしか思えない軌道を描いて飛ぶ攻撃機。
そしてそれらが高度なレベルの連携により襲いかかる。
ひとよんで『比翼の二航戦』。
空母でない私ですら聞いたことのある名前です。確か空母オンリーのグランプリで上位層の常連だったはず。
「ど、どどどどうしよう!? そんな人たちが来るなんて……え、ええっとお茶菓子はうちにあったっけ? あんまりいいの置いてない気がするから私、今からちょっと行って買ってくるね。お湯を沸かしておいてくれる、れ……」
「古鷹、落ち着け」
「あうっ」
加古に優しくデコピンをされて、ちょっと冷静になれました。深呼吸をしてさらに落ち着かせます。
「これはあくまでクランについて話が聞きたいってだけだから。話だけして加入するか決めるってやつ。そんな身構えなくても大丈夫だって」
「そうかな……」
「あたしもいるから大丈夫だって。入るなら歓迎すればいいし、そうじゃないならご縁がなかった。それくらいざっくりと古鷹も考えたら?」
なんとなく、加古の言っていることにも一理ある気がします。気にしすぎても問題なのかもしれませんね。
「よし! どうなるかわからないけど、どんと来いっ!」
「そーそー。その調子。んじゃ、行こっか。食堂だっけ? 目の前ってかそこじゃん」
「
「……たしかにあたしはものぐさだけどさぁ、そこまでじゃないからね?」
ちょっと傷ついた様子で加古がじっとりと私を見つめます。ごめんごめんとからかったことを謝れば、ふくれたままでも許してくれました。
この手のゲームでよくあるシステム、施設移動。わざわざ徒歩で移動すると、時間がかかるせいでめんどうがるプレイヤーが多いので、主要施設にはワープすることができるようになっています。私はあの有名な竜の物語シリーズが好きだったのでルーラ、と思わず言ってしまいます。クリスタルの戦士とかが出てくるシリーズが好きなプレイヤーは飛空艇とかそんな感じでしょうか。
「じゃあ、行こっか。もしかしたらもう待っているかもしれないし……」
「食堂に行っても誰も待ってませんよ?」
「そうだねー、飛龍。だって私たちダイレクトに来ちゃったし」
「ひゃうっ!」
いきなり横から話しかけられて私は飛び上がるかと思うくらい驚きました。いえ、事実としてちょっと浮いてたかもしれません。変な声も出てしまいました……
「いや、驚かしたのは悪かったけどさすがに隠れられると……」
私はとっさのことで加古の影に飛び込んで隠れてしまったので声をかけてきた方たちも気まずそうです。これは悪いことをしてしまいました。
「えっと、ごめんなさい」
「いやいや、変なことした私らが悪いから。こちらこそごめんなさい」
山吹色の和服姿の飛龍さんが腰を折って謝っていただいたので、いえいえと私も頭を下げます。
「改めましてっと。二航戦の飛龍です」
「そして二航戦のもう片割れ、蒼龍ですっ」
なんとも元気があって気持ちのいい挨拶です。『比翼の二航戦』なんて二つ名を持つ方だから厳しい方なのかな、と思っていましたがそんなことはないみたいですね。
「早速なんだけどお話を……」
「あ、私たちを『イーリス・アイリス』に入れてくださーいっ」
お話を、と切り出そうとした飛龍さんを遮って蒼龍さんが加入希望宣言。
「「「ええええええええええっ!?」」」
私、加古、飛龍さん。3人ぶんの驚愕の声が重なって反響した結果、ものすごく注目されてしまいました……。
というか、どうして飛龍さんまで驚いてるんですか。
第二話です。クラン結成編はこのまま毎日投稿で走り切ろうかな、と思います。すでに原稿は完成してますし。
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