私と蒼龍と古鷹さんと加古さん。合計4人の索敵機が周囲を索敵しながら進む。演習のシステム上、相手がどこに転移されたのかはわからない。こればっかりは自分で見つけるしかない。
ただし、今回は敵艦隊を見つけるためじゃなくて敵が予想外の行動を取ってくることがないようにするため。すでに私たちは敵艦隊を捉えていた。
「こちらヒトミ。無事に目標は沈黙」
「了解です! 以降は爆雷に警戒しつつ、そのまま潜航を続けてください」
「承知した」
まずは第一段階成功。さすがはヒトミちゃん。戦艦の装甲を一撃で抜くのは難しいはずなのに、見事に落としてくれた。しかも魚雷一発で。うん、さすがだと思う。
戦艦の榛名さんが落ちたおかげで、古鷹さんたちは砲撃戦における射程距離の不利は解消できた。
そしてヒトミちゃんのおかげで敵艦隊の位置はすでに判明済み。
なら、あとは私たちがあの五航戦のふたりを抑えて倒せば趨勢は決する。空から無防備なところにひたすら攻撃を浴びせられるのだから。
「蒼龍、やるよ」
「んー……わかった」
蒼龍のやる気メーター的にはおそらく6割から7割くらい。まあ、ぼちぼちというところのはず。ちょっと不安はあるけれど、どうにかなる、と思う。いざとなったらこっちで蒼龍の尻を蹴りあげてやればいいだけだし。
「それではいきましょう!」
古鷹さんの一声で私たちは陣形を取る。私と蒼龍を後衛に据えて、中距離で対空戦闘と援護に古鷹さんが。そして最前線で近接戦闘をする加古さんとヴェルちゃん。
「今回の戦闘、私が加古とヴェルちゃんの援護に回らないといけません。だから、あんまり対空戦闘にいけないんですけど……」
「大丈夫、五航戦はどうにかする。任せて」
いくよ蒼龍。そうやって引っ張って後ろへさがる。
「うーん。飛龍、FBの2番。とりあえずこれで様子見しよう」
「わかった」
とりあえず合わせを使うくらいのやる気はあり、と。それならちゃんと戦えるか。
なにせ相手は二つ名持ち。『純白』の五航戦だ。最低でも合わせくらいは使わないと、確実に負ける。
息を合わせて航空隊を発艦。あがっていく航空機を示し合わせたとおりに編成して、ひとつの航空隊へと組み合わせていく。
「敵航空隊見ゆ。攻撃開始」
蒼龍の号令に合わせて航空隊を前進。相手も早急に航空隊をあげていたらしい。まあ、こっちが先に潜水艦で仕掛けている以上、位置がバレてることはわかるはず。とりあえず警戒であげておくというのは判断として間違っていない。
ただし、あがってきた航空隊はひとつだけ。
わざと? でも数は明らかにひとりの空母から発艦させたものじゃない。まさかこっちに対抗するため、強引に合わせモドキを打ってきた? だったらずいぶんと甘く見られたもの。
そんな即席の真似事で本家をどうにかできると思われたのなら、心外だ。
「こっちもそれなりに練習して合わせを完成させているんだってば!」
そうこうしているうちに交戦開始。
前面に押し出した蒼龍の機体が一気に責め立てる。エンジンがうなりをあげ、機銃の弾丸が交錯するなか、有利な場を取ろうとする敵機に対して私が操る艦載機で牽制をかける。
なるほど、悪い腕じゃない。二つ名を持っているだけはある。そこらのプレイヤーなら、蒼龍の突撃でだいたい落ちるし、それをうまく避けられたとしても私の搦め手でだいたい落ちる。でも、『純白』の航空隊はあまり積極的に攻撃してこない代わりに最小限の犠牲で押さえている。
なにより。
「衝突しないなぁ」
『純白』が合わせを使えるなんて話は聞いたことがない。というか、そもそも私らに迫るレベルの数を合わせで使える話自体を聞いたことはない。なのに、衝突などのミスが一切起こらずに戦えている。
「なーる。そーゆーことね。航空隊を合体させて、翔鶴がすべて操ってるのか」
「ああ。じゃあ、瑞鶴の方が補給専任か」
「まあ、それだけじゃないっぽいよ。翔鶴がキャパオーバーしないように、航空隊からはぐれた艦載機は瑞鶴が操って戻してるみたい」
「私らの合わせ一歩手前ってとこかな」
でも、動かし方に不慣れが見える。たぶん、私らと戦うに当たって『純白』なりに突貫工事の工夫をこらしてきたのだろう。
合わせの有利な点は航空隊の機体数を増やせること。だから『純白』も翔鶴がひとりで合体させた航空隊を操ることで機体の数を増やしてきたのだろう。
「うーん、ダルいなぁ。テキトーに相手しておいて、古鷹さんたちがあっち倒しちゃうまで待つ?」
「あのさぁ、蒼龍。もうちょっとくらいやる気を出そうよ」
「でも実際そうじゃない。ナメてたわけじゃないけど意外にやるよ、あのふたり。こっちの雑な合わせをなんとかやり過ごすくらいには。だったら、接戦にしといて援護を待った方がいいんじゃない?」
一見、すごーく真っ当な判断に見える。ただ、蒼龍とは長い付き合いだ。私はよぉくわかっている。
これ、めんどくさがっているだけだ。
ただ、めんどくさいと言うとさすがに状況的によろしくないからそれっぽい理論武装をして自分を正当化しているだけ。
「古鷹さんたちの方もたぶん大丈夫だしさ。数の有利は取れてるし」
それに関しては概ね同意するけれども。かなり古鷹さんが綿密に戦略を練っていたのは知ってるし、いつも戦闘時に指揮を執ってるのは古鷹さんだ。本人は旗艦を務めるのは苦手だってよく言っているけれど、生来の気遣いな性格のおかげか広く見ている。
まあ、いってもこれはただの演習だ。わざわざ蒼龍のやる気を必死になってかき立てるほどじゃないか。
「逃げるな『比翼』! 二航戦の名はその程度ですか! 私たちを舐めないでもらいたいものです! これなら『珠玉』の方がよほど上ですね!」
わざわざ通信にまで乗せて私たちに届くようにするほどとは。あちらの翔鶴さん、えらくご立腹だ。まあ、戦略的に行動しているという言い訳の元に手を抜いているわけだからそう思われても仕方ない。
「煽ってくるなぁ。ねえ、蒼龍。……蒼龍?」
「飛龍、You have control」
…………。
まじですか、蒼龍さん。え、あれやるんですか。全力出してくれるのはありがたいんだけど、手筈ではもし五航戦を落とせたならその後に残存艦隊を航空機で叩く予定になってるんですけども。
そして、それ使ったら確実にそのあとしばらく私らはほとんど行動不能になるんですが。
「ひーりゅーうー?」
ああ、それでも。あの焔が点いた目を見ると、ついついやる気にさせられてしまう。後先考えずに全力を尽くす快感に、私も浸りたくなってしまう。
「しょうがないなぁ。はいはい。I have controlっと。じゃあ、行くよ」
「「We have control!!」」
使用した瞬間、脳にガンガンと響くような感覚が走り始める。
あーあー、やっちゃった。そんなことを考えている一方で、全力を出し切る昂揚感に身を浸して楽しんでいるのだから私も同罪だ。
「二航戦蒼龍から艦隊へ。今からあの生意気な五航戦とサシでやりあうので手出し無用でよっろしくぅ!」
さあ、全力でやり合おうか『純白』の!
まったくやってられない。いつも指揮を執っている節操無しで脳内ピンク一色の我らがクランマスターは、さんざかエラそうな口を叩いておきながら即落ち二コマ。
翔鶴氏は……私に指揮を押し付けてきたのは許しがたいところですが、状況的には致し方なしです。がんばって『比翼』をおさえてくれていることですし、それは評価しましょう。
「ったく……私、指揮とかあんまりやったことないんですってば!」
そもそも戦闘だってそこまで得意としてるわけじゃない。いつもは榛名氏の長距離砲撃で攻撃しつつ、近づいてくる敵の牽制くらいしかしないのですが。
「うっわぁ!」
加古氏のパンチを辛うじて避ける。主機は全開でとにかく距離を取った。けれど、加古氏は私との距離を即座に詰めてくる。
おそらく、加古氏のステータスは
つまり、私の勝ち目が薄いということです。
「北上氏!」
「あいあいさー」
甲標的からの雷撃。加古氏の進路をそれで塞ぎ、なんとか私は距離を取ります。わずかにできた一瞬の時間。時津風氏の状況を確認します。
うん、なんというか予想通り。ヒトミ氏の警戒に意識を割かれてしまうため、Верный氏との戦いでかなり劣勢に立たされているようです。
「うん、意外とセクシーなのを穿いてるじゃないか。ヒモか」
「なぁにみてんのさ、もー!」
……劣勢なんでしょうかね、あれ。弄んでいるの間違いな気がするんですが。しかし、どのみち時津風氏が全力を出せていないため、まともに戦えていないというのは否めないでしょう。
「青葉っち、回避!」
「うわ、あっぶなっ!」
大急ぎで回避運動。するとゼロコンマ数秒後に私がいた場所に砲弾が降り注ぎます。北上氏の忠告がなければ直撃をもらっていたでしょう。
「この砲撃、古鷹氏ですか……!」
精度がかなり高いですね。集中して意識を向けていなければ、避けることは難しそうです。
なのに。
「おっ……らぁ!」
加古氏の回し蹴り。間一髪で回避しても、直後に加古氏の主砲が放たれます。仕方なしと私は副砲を切り離して盾にすることで難を逃れました。
「やるねえ」
「お褒めに預かり恐縮です!」
口笛でも吹いていそうな加古氏の賞賛を受けながら、大急ぎで距離を取ります。牽制のためにまき散らした砲撃も、すいすいと加古氏には避けられてしまいました。
「ほんっと、やらしいことしてくれますね……!」
加古氏が最前線で大暴れ。そちらに意識を割かれてしまうと古鷹氏の砲撃を避けられない。かといって、古鷹氏に意識を持って行くと、加古氏の攻撃に対処ができなくなる。
こういうのは時津風氏が普段は相手をするところなのですが、あいにくと潜水艦のヒトミ氏を常に警戒しないといけないのでまともに行動ができません。
いえ、それは時津風氏だけではないでしょう。私たちも、いつ海面下から魚雷が飛んでくるか。そんなプレッシャーを常に感じたままの戦闘を強いられています。
「優しい顔してエグい戦法取ってきてくれますねぇ、まったく!」
まずは古鷹氏を落とす。現状、司令塔でありサポーターでもある古鷹氏があちらの要です。
「主砲、照準……」
加古氏からの蹴りを後退して回避しつつ、主砲を回頭。仰角を調整して照準を古鷹さんに合わせます。すでに演習開始から何度か砲撃はしているので、どのくらいの角度でどれくらい飛ぶかは大まかに把握できています。
ターゲットはもちろん古鷹氏。加古氏への牽制として魚雷を放つと、確実に当てるため私はあえて海上で停止。砲塔の仰角を固定して照準をつけると私は艤装へ砲撃の命令を送ります。
私の主砲が火を噴きます。火薬の爆発に速度を与えられた砲弾が砲口より顔を出して。
それ以上は飛んでいくことなく、私の目の前で爆発します。
爆風に煽られて私は大きく後退。砲撃した砲塔はひどくひしゃげて、もう使い物になりそうにもありません。
暴発した? いえ、このゲームのシステムに砲弾の初期不良による暴発なんてものはありません。ならばなにがあったのでしょう。理解が及ばないまま、私は周囲を見渡して。
古鷹氏の主砲が硝煙を吐き出しているのを見つけます。
「ウッソでしょう!?」
まさか古鷹氏、砲弾が砲口から飛び出してくる瞬間を狙撃したんですか!
ええ確かに砲弾が完全に飛び出してしまうと放物線の軌道を読んで撃つのは不可能です。速度は常に変化し続けますから、それを瞬時に計算して攻撃に反映するのはスパコンでも持ってこない限り無理でしょう。
それに比較して、砲口から飛び出す瞬間ならまだタイミングも読めなくはないですし、砲弾の場所も固定化できます。
しかし、だからといってそこを正確に撃ち抜くことなどできるものでしょうか。
砲撃の精度がかなり高い? 前言撤回です。あれはかなり、なんて生易しいものじゃありません。ミリ単位の距離にコンマ数秒単位で的確に撃ち抜ける精度の砲撃なんて、もはや必中です。
まずいですね。この勝負、時間をかけるほどこちらにとって不利になっていきます。翔鶴さんのことを疑うつもりはありませんが、なにせ相手はあの『比翼』です。二航戦の称号を実力で勝ち取ってくる強者に、どこまで翔鶴氏が食い下がれることか。
本人でさえ、『比翼』に勝てるとは言いませんでした。あの根拠のない自信に満ち満ちている翔鶴氏が「抑える」という言葉を選んだ意味くらい、私にもわかります。
賭けに出るしかありませんね。どうせこのままなら敗北するのみです。
「時津風氏!」
「なにさー?」
「全力で暴れてください!」
「でも潜水艦はどうすんの?」
「青葉が偵察機で見張りますので!」
潜望鏡を偵察機で追いかけ続ければ、どうにかなるでしょう。私の負担は増えますが、現状を打破するためにはどうしようもありません。
現状、私たちは完全に古鷹氏の術中にはまっています。時津風氏なら、この状況を打破するカギになります。北上氏はテクニカルな雷撃で戦闘しますが、逆にいえば格闘戦は得手とはいえません。この中で加古氏と正面から戦えそうなのは、時津風氏しかいないのですから。
「北上氏、時津風氏! 全力攻勢です! 早急に突破して翔鶴氏たちの援護に入りますよ!」
カタパルトから水上偵察機が飛んでいきます。これが吉と出るか凶と出るか。あとはもう出たとこ勝負!