とりあえず場所を移しましょうか、という私の提案によって私と加古、飛龍さんと蒼龍さんは私のマイルームに来ています。
「で、加入の件なんだけれど……」
「ちょーっと待とっか、蒼龍。ウェイト。おすわり」
「え、なにか私やったっけ?」
「うん、やった。やらかした。それも盛大に」
飛龍さんが頭を抱えている一方で、蒼龍さんが「え、なに?」みたいな顔できょとんと首をかしげます。
どうやら飛龍さんと蒼龍さんの間で何かしら意見を統一させた上で来ていたと思っていましたが、そうではないようです。
「あのね、蒼龍。たしか私らは遠目から様子を見つつ、とりあえず話を聞いてみようっていうことにしていたはずなんだけど」
「え、でもよさげだしよくない?」
「いっつも蒼龍はそうやって突っ走るんだから……」
頭痛でもするのか、飛龍さんが頭を押さえています。
うーん、よくわかりませんけどクランへの加入は前向きに検討していただいていたんでしょうか。それにしても様子を見ていたという一言が気になります。加古と話している時にだんだんとボリュームが上がっていたんですけど、もしかしてそんなにうるさかったのでしょうか。
「すみません、様子を見ていたって私たちそんなに目立ちましたか……?」
「目立つかって……『双撃の加古鷹』を知らない方が無理だと思うけど」
「えっ、あれ? か、加古? あの名前ってそんなに広がっているの?」
飛龍さんが変なものを見るような眼で私と加古を見つめます。ええ、確かに巷でそんなふうに呼ばれたことがあるのは知っていますけれど、まさかそこまで広まっているとは思いませんでした。
なんだかちょっと気恥ずかしいです。仰々しいといいますか、なんと言いますか。悪ふざけでどこかの誰かが呼び始めたくらいにしか思っていなかったですし、人の噂も七十五日くらいにしか思っていませんでした。
「古鷹は噂に関して無頓着だからねえ。そこそこあたしと古鷹は知られてるよ?」
「そ、そんな……う、嘘だよね?」
「いんや。マジ」
「元からそこそこ広まってたけど、今回の件でさらに広まってるのよ」
「今回の件、ですか?」
飛龍さんが言っているところの「今回の件」というのは一体なんでしょうか。元から野良で活動していた私たちに大きなことなんて……。
ありましたね。そういえば。
「もしかして、クラン解放任務だったり……」
「ごめん、それ以外になにがあると思う?」
「ですよね……」
思い当たることといったらそれくらいだな、と思っていながら飛龍さんに訊ねたらやっぱりでした。でも私も2人で勝てるとは思っていなかったんですよ?
「さすがにクラン解放任務を重巡洋艦2隻だけで攻略した、なんて噂にならない方が無理あるってば。超至近距離から重い一撃で攻める加古に、遠距離から脅威の命中率で攻める古鷹。異なる方法でありながら両者共に攻め。ついた名前が『双撃の加古鷹』ってね」
た、たしかにそうですけども……。私は遠距離から。加古は至近距離から。加古の手が回らない敵は私が撃ち抜いて、加古が私に攻撃が向かないように引きつけて打ち倒してくれます。
これが私たちの戦闘方法。確かに言われてみれば私たちは攻めに偏ってるかもしれません。
でもそんな二つ名がつけられていることは聞いていても、それが広まっているなんて夢にも思いませんでした。
「ま、そういうわけでおふたりの名前はわりと知れ渡っているのよ。今回の件でそれが加速したってとこ」
「すっごいよねー。まさか私も重巡洋艦ふたりでクラン解放任務を片付けちゃうところが出てくるとは思わなかったもん」
「さっきから聞いてたけどさ、それ『比翼の二航戦』が言う? そっちも相当、っていうか名前は『比翼の二航戦』の方が売れてるじゃん」
ぼんやりと話の成り行きを私に任せて聞き流していた加古がふと口を挟みました。そうなの? という意味を込めて私は加古の方を見ます。聞いたことはあってもどれくらいすごいのかはわからないんです。
「古鷹は本当に……えーっと、しっかりしてるくせにどっか抜けてる古鷹が知ってるくらい有名ってこと」
「ちょっと加古!? それってどういう意味?!」
「ええ!? 事実じゃん! 自分のことすら知らなかったんだからさぁ!」
「確かに事実だけど! でも人前で言わなくったっていいじゃない!」
加古のさすがに聞き過ごせない一言に対して噛み付いた私に加古が返したのは否定できない事実。た、たしかにそうですよ? 私はたまに「抜けてるね」って言われることもありますけど! それでも初対面の人がいる前で言うことじゃないと思うんですっ!
「ふふ、あはははっ」
「ほら! 加古のせいで蒼龍さんに笑われた!」
「ごめん、ごめん。別にバカにしてるわけじゃないの。ただふたりの息がぴったりっていうかさ。それになんていうの、雰囲気? みたいなのがいいなって」
「そう、ですか?」
蒼龍さんが手刀を切って謝まります。いえ、別に笑われたことは怒ってませんよ? 私たちをバカにした笑いじゃないのはわかりますし。
それにしてもいい雰囲気ですか。ちょっと本人たちにはわからないものです。和気藹々、とでも言うんでしょうか。でもさっき加古に向かって噛み付いて見せたのも本気で怒っているわけではないから、仲が悪いというわけではありませんし、雰囲気がいいという表現も当たらずとも遠からずといったところでしょうか。
「そうだって。そうじゃなければ私たちも加入しようなんて言わないし」
「だからさ、蒼龍。勝手に話を進めるのやめて? 相手方と話して決めるって事前に打ち合わせしたよね?」
「え? でもいいじゃん。私はこのクランなら入ってもいいかなって思ったよ?」
「そうじゃなくてね、蒼龍。なーんでいっつも私に相談せず突っ走っちゃうのかな?」
飛龍さん、ちょっと怒り気味です。でも本気じゃないことはすぐわかります。だって飛龍さんは頭を抱えてはいますけれど、演技っぽさが混ざっています。あれは私が加古に対して諌めるくらいの時にするやり方とそっくりですから。
「そもそも私らだけで話は進められないのわかってる?」
「うん。だからお願いしたんだよ? 加入させてくださーいって」
「いや、そうなんだけどさ……。勝手に進められると私も困惑するじゃん」
飛龍さんが蒼龍さんをたしなめます。これがこのおふたりの日常なんでしょうか。なんといいますか、とても穏やかです。
「とっても仲がいいんですね」
「ふふん、やっぱりそう見えちゃう? 見えちゃう?」
蒼龍さんが得意げに背中を逸らせて誇ります。一方で飛龍さん、さっきまでの勢いはなくてちょっと照れくさそうです。
「ま、まあ蒼龍とは腐れ縁だしさ。こっちも慣れたもんっていうか」
「えー、飛龍ひどーい。腐れ縁なんてさぁ。ちゃんといつもみたいに『相棒』って言ってよぉ」
「あー、もう! この話はやめ! ええい、蒼龍はくっつくな!」
ニマニマと悪戯っぽい笑みでくっつく蒼龍さんを飛龍さんが引き離そうと躍起になっています。どこか微笑ましい風景にクスッと私は笑ってしまいました。
「と、とにかく。まだ古鷹さんたちの事情もきいてないのに私たちだけで話を進めちゃいけないでしょう」
「ああ、それならいいですよ。私はおふたりが加入したいとおっしゃるなら歓迎しますよ」
「ほら、飛龍!」
「ぐっ……」
勝ち誇った蒼龍さんに飛龍さんの言葉が詰まります。この2人はなんの勝負をしているんでしょうか。ちょっと疑問です。まあ、仲良きことはいいこと、です。
「古鷹さんがよくても加古さんがいいかはわからないし……」
「ああ、それなら……ほら」
私が笑いをこらえながらマイルームの片隅に置かれている煎餅布団を指差します。飛龍さんと蒼龍さんが私の指の動きにあわせて視線を動かします。
「「ふふっ」」
そして2人の口から笑い声が漏れ出ました。
私の指差した先には煎餅布団の上でぐっすりと眠っている加古が。
「うぅん……」
「加古も『いいよ』って言ってますから」
本当に正しく言うなら『古鷹の好きにしていいよ』ですけれど。でもこういう時に加古がいびきをかいて寝ている場合は私に任せていい、と加古が判断した時なので私が判断しても大丈夫です。
「どうする、飛龍ぅ?」
蒼龍さん、完全に飛龍さんをからかってますね……。語尾は上がってますし、口元には隠しようもないくらい緩んでいます。
「……私の負けかぁ」
飛龍さんがおどけたように芝居がかった動きで両手を挙げます。それから佇まいを正して正座をすると私に向き直りました。すると蒼龍さんまで同じように正座。
「二航戦飛龍!」
「同じく二航戦蒼龍!」
「「私たちをあなたのクランに加入させてください」」
ぺこん、と揃った動きで2人が頭を下げます。なんとも綺麗なお辞儀。見ているこっちも気持ちがいいくらいです。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
右手を2人の前に差し出します。実はその右手にはちょっとした仕掛けが。
二航戦の2人が視線をちょっとあげました。目が左から右へと動いているのはポップしたメッセージウィンドウを読んでいるからでしょう。
「よろしくっ」
「よろしくお願いしますねっ」
飛龍さんと蒼龍さんが私の手を握ります。同時に私の前にメッセージウィンドウがポップしました。
そこには飛龍さんと蒼龍さんの艦娘IDとクランへの加入が完了しました、という事務的な文章。
私が右手に仕込んだのはクラン加入の招待。そして飛龍さんと蒼龍さんは私の握手に応じる、という形で承認してくれました。もちろん、不意打ちを防ぐため事前に飛龍さんと蒼龍さんの前にはその旨が記載されたメッセージウィンドウがポップするので握手も2人はわかった上で応じてくれたのでしょう。
ちょっぴり行く先が怪しくなり始めていた私たちのクラン、『イーリス・アイリス』に新しいクランメンバーが加わりました。
『比翼の二航戦』の二つ名を持つコンビ、飛龍さんと蒼龍さんです! まだ艦隊編成をするための最低数である『6』には2人足りませんが、大きな一歩です。
次はどんな方が来てくれるんでしょうか。楽しみです。