加古鷹おんらいん!   作:プレリュード

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クラン結成編4

「ありがとうございました」

 

「こちらこそ! それに双撃や比翼と一緒に戦えて楽しかったっぽいっ!」

 

 夕立さんが愉快そうに笑うと犬歯がちらりと顔を出します。双撃というのが私、古鷹と加古のコンビを示しているのはわかっているんですけれど、まだ呼ばれなれなくてちょっぴり恥ずかしいです。

 

「えっと、報酬は……」

 

「それは時雨に渡してあげてほしいっぽい。夕立はそういうものを管理するの苦手なの」

 

「わかりました。えーっと、時雨さーん!」

 

 ちょっと周囲を見渡して探すと、時雨さんはなにやら二航戦のおふたりと談笑中。ああ、もう少しあとにすればよかったかなと思っても声を出してしまってはもう手遅れ。こちらに気づいた時雨さんは二航戦との会話を中断して、来てくれました。

 

「何か用事かな、古鷹さん」

 

「お手伝い、ありがとうございます。これ、報酬です」

 

 視覚化させたゲーム内通貨を時雨さんに差し出します。受け取った時雨さんは素早く金額を確認。

 

 もちろん、メニュー画面を開いてプレゼントタブを開いて対象指定すれば相手にお金を渡すことはできます。でもそれって味気がないじゃないですか。せっかくだからこうやって手渡しをした方がリアリティがあっていいですし、なんとなく気持ちも伝わるような気がします。

 

「うん、確認したよ。今後も港湾駆逐組合をよろしく」

 

「はい。また依頼させていただく時はよろしくお願いします!」

 

 頭を下げると、時雨さんが微笑みます。直後に私のメッセージウィンドウがポップして、夕立さんと時雨さんがパーティーから外れました、という旨を伝えてきます。

 

 飛龍さんと蒼龍さんがクランに加入してから1週間。残念ながら5人目の獲得に至ることができない私たちは未だに艦隊として必要な「6」という数字を満たせずにいます。

 

 だからといって出撃しないのも寂しいので、今のところは他のクランから人手を借りたり、野良でプレイしている方のお手伝いをさせてもらったりしています。ちょっと人手が足りないから手伝って、みたいな依頼を受けてはその報酬を使って人手を借りる。そんな感じで細々と活動中なんです。

 

 例えばさっきの時雨さんと夕立さんはクラン「港湾駆逐組合」からお借りした助っ人さんです。ここのクランは駆逐艦のみで構成されているという、非常に珍しいクランで、主に練度の高い駆逐艦を欲しているパーティーに貸し出すという実にギルド的な活動をしているところですね。

 

 まあ、クランと一口にいっても、いろいろとあるわけです。ガンガン攻略していくところもあれば、私たちみたいにのんびりと気ままに攻略していきたちところもあったり、かと思えば人員の貸し出しをしている所があったり、装備品売買をしているところもあります。

 

「古鷹ぁー。今日はまだなんかあった?」

 

「えーっと、私たちのやりたかった海域攻略は終わっちゃったし、依頼もだいたい完了だよ」

 

 胡座をかいていた加古が首だけ動かすと私に問いかけました。ちょっとした感嘆詞の間に記憶を攫ってから答えます。

 

 6人が揃っていない私たちのクランでは先ほど言ったように2名を補充して出撃します。でもそれだけではありません。

 

 いわゆる万事屋、とでも言うのでしょうか。端的に言えば、「この任務をクリアしたいから手伝って」というような依頼や「練度上げを手伝って」などの依頼も受け付けています。クランに人数が揃うまでの場繋ぎです、はい。それに報酬(おかね)がもらえればクランルームの家具が充実させられますし。

 

「今日はこれくらいでおしまいにしようか。ちょうど依頼も終わっちゃったし。飛龍さん、蒼龍さん。お疲れ様でした」

 

「いいのよ、これくらい。2人が前衛を張ってくれるおかげで私らも自由にやれるからそんなに大変じゃないし」

 

 ひらひらと飛龍さんが軽い調子で手を振ります。前衛を張る、なんて言ってもらいましたが厳密なことを言うなら前衛を張っているのは加古です。どちらかといえば私は中衛くらいでしょうか。

 

「私たちもおふたりが制空を抑えてくれているので空を心配しなくていいから大助かりですよ」

 

「ふふん。飛龍と私がいるかぎり、深海棲艦ごときに空はあげないよ。思う存分、暴れてくれたまえ!」

 

「はい、調子に乗らないの」

 

「いたい?! あー、飛龍ひっどーい」

 

 蒼龍さんの頭に飛龍さんのチョップが炸裂。頭を抑えながらぶーぶー、と蒼龍さんが文句をつけると飛龍さんはどうどうと諌めます。

 

「この後はどうするんだ、古鷹?」

 

「え? あ、うん。損傷もあるはずだから入渠(おふろ)にして上がりにするつもりだけど」

 

「じゃあ、さくっと入ったらうだうだするとしますかねえ」

 

 あ、加古はたぶん寝るつもりだ。

 

 まあ、やるべきことはやっているのでよしとしましょう。やっていなかったらさっきの飛龍さんみたく私もげんこつを軽く落とさなくちゃいけませんけど。

 

 もちろん本気じゃありませんよ? 本気で加古をパンチしたことはありません。……ビンタはありますけど。はい……。

 

「まーたなんか落ち込んでる?」

 

「……加古のせいだからね」

 

「ええっ!? あたし? 最近で何かやらかしたっけ……」

 

「ごめん、なんでもない。ちょっといじわるしちゃったの」

 

「心臓に悪いからやめてくれよ……」

 

 ごめんごめんと加古に謝れば拗ねるように膨れた加古の頬風船も萎みます。

 

「で、古鷹。どうした?」

 

「なんでわかっちゃうの……?」

 

「古鷹だから。ほら、なんかあるんだろ?」

 

 ええ、加古の言う通り。ちょっと今の私は悩んでいます。会話の流れが変わったことに気づいたのか飛龍さんと蒼龍さんも近くに寄ってきてくれました。

 

「飛龍さんと蒼龍さんがクランに入ってくれてもう1週間したのに新しい人が来てくれる様子がないからなんでだろうなって……」

 

 二航戦のおふたりが正座でクランへの加入希望をしてくれてから早くも1週間。クランの加入希望はおろか説明が聞きたいという内容のメッセージすら来ません。

 

 もしかしたら私の至らないところがあったのでしょうか。ずっと心配で胸にひっかかり続けます。

 

「新しい人ねぇ……」

 

「うん。ぜんぜん来なくって……」

 

「あー、ごめん。古鷹さん。たぶんそれ私らのせいだ」

 

 申し訳なさそうに飛龍さんが言います。普段は楽しそうに笑っている蒼龍さんもバツが悪そうに視線を斜め下45度に落とします。

 

「飛龍さんも蒼龍さんも悪いことなんてしてないですよ!」

 

「えーっとそうじゃなくてね? 私らが入ったことに問題があるっていうか……いやただのクランなら問題ないんだけど、古鷹さんと加古さん2人だけのクランに入ったから問題になったっていうか……」

 

「……ああ、そういうことか。なるほど」

 

「わかったの、加古?」

 

 合点がいった、という様子で加古がうなづきます。蒼龍さんもわかっているようですし、私1人だけ置いてきぼりにされてるみたいです。

 

「いやさね、古鷹。想像してみ? クランメンバー募集中! って言われてもさ、既にいるメンバー全員が二つ名持ちのコンビプレイヤー。気軽に入れる?」

 

「………………あっ」

 

「ここで入りますって言うことはなかなか胆力がいるってわけ」

 

 そうでした。片や私たちは『双撃の加古鷹』なんて呼ばれ、片や飛龍さんと蒼龍さんは二航戦の中でも頭一つ抜きん出ている『比翼の二航戦』です。ここに名乗りを上げるのはちょっと大変かもしれません。

 

「で、でも! 飛龍さんも蒼龍さんも悪くなんてないです!」

 

「んー、まあそれに関しちゃあたしも同意。気に病むことはないって」

 

 それにきっと入りたいと言ってくれる方はいるはずです。試しにアプローチを変えてみましょうか。初心者歓迎! 1から古参が手取り足取り教えます! みたいな感じで。

 

「重く受け止めずにのんびりと長い目で見ればいいって。来る時は来るし、来ない時は来ないもんだからさ、こういうのって」

 

 のんびりと加古がいつものように言えばうんうんと私も首を縦に振って賛同の意を示します。

 

 こういう時は加古のまったりとした考え方を真似るに限ります。待てば海路の日和あり、なんて言葉もあるくらいですからきっといいお天気にいつかはなってくれるでしょう。

 

「ま、さくっと入渠してクランルームでうだうだするとしますか!」

 

「あ、加古さん昼寝する気でしょ! 私もするー」

 

「ほほう、蒼龍の君も昼寝か。近う寄れ、近う寄れ」

 

「ははぁー」

 

「加古はまったくもう……あれ?」

 

 飛龍さんと一緒にショートコントみたいな加古と蒼龍さんのやり取りを呆れながら見ていたら、ピコンと電子音が響きました。どうやら私宛にメッセージが届いたようですね。

 

「…………えっと」

 

「どした、古鷹ー」

 

「ごめん、なんか呼び出し? されたみたい。依頼っぽい?」

 

「古鷹、夕立の口癖が移った?」

 

「そうじゃなくて!」

 

 本当に不思議な、としか言いようのないメッセージなんです。いえ、きちんと連絡先も書かれたメッセージなんですけど内容が、と言いますか。

 

「依頼があるから会いたい。クランメンバー以外に他言無用にしてほしいんだ。報酬は弾むから連絡を待ってる……だって」

 

「んだそりゃ? 古鷹、慎重になった方がいいかもな」

 

 さっきまでのんびりとしていた加古の雰囲気が一変しました。加古の警戒モードですね。

 

 そして悲しいことにこういう加古のカンは当たるんです。

 

 ささっと入渠して損傷を修復すると言われた通りの場所に向かいました。加古も二航戦のおふたりも一緒です。二航戦のおふたりには帰っても大丈夫って伝えたんですけど、「何かあった時に空母がいた方がいいでしょ?」と言ってくれた飛龍さんの好意に甘えることにします。

 

で、伝えられた集合場所に来たんですけど。

 

「えっと……こんな騒がしい場所でいいのかな……」

 

 呼び出された場所は食堂でした。このゲームにおいて酒場的な側面のある場所なんですが、他言無用なんて言っておきながらこんな騒がしい場所でいいんでしょうか。

 

「イーリス・アイリスの古鷹さんですね? ああ、振り返らないで」

 

 背後から話しかけられ、咄嗟に振り返りかけたところを制止されて留まります。

 

「急に話しかけてすみません。メッセージ、読んでいただけてますか?」

 

 周囲に気づかれないくらい小さく首を縦に振ります。同時に加古と飛龍さん、蒼龍さんたちに目配せして何もしないようにお願いします。

 

「ありがとうございます。こんな無礼を働いたことをお許しくださいね。そしてまた移動をお願いするので謝らなくてはいけないんですけど、次はここに行ってください」

 

 するりと私の手にメモらしきものが滑り込ませられました。今はまだ見ないで、と耳打ちされたのですぐには開きません。

 

「重ね重ねすみません。そこに依頼主がいます。どうかよろしくお願いします」

 

 こつこつ、と喧騒の中に遠ざかっていく足音が混ざると消えました。ここまで来ておいて楽観視できるほど私もおっとりさんじゃありません。

 

「飛龍さん、蒼龍さん。ちょっとこれは面倒事みたいです。だから……」

 

「そうだねー。面倒事みたいだからちゃちゃっと片しちゃおうよ。早く私もお昼寝したいし。ね、飛龍?」

 

「同感かな。古鷹さん、どこに呼び出された?」

 

 迷惑をかけないように、と思っていた私の考えはとっくに読まれていたようで先手を取った二航戦によって話を促されます。じんわりと胸に広がるものを感じながらとりあえずここを離れましょう、と提案。

 

 そして賑やかな食堂から出てから握っていたメモを開きました。

 

「次はどこに行けって?」

 

 加古が私に問いかけます。面倒、というより警戒の色が濃く出た様子で私の返答を待っています。これから行く先なので飛龍さんも蒼龍さんも耳をそばだてました。

 

「次の目的地はね……」

 

 周りに誰もいないことを確認してから、声を潜めてそっとメモに書かれていた場所を囁きます。

 

 その場所は。

 

 アルフォンシーノ。

 





 港湾駆逐組合の設定は帝都造営先生の翔鶴ねえ☆オンライン!からいただいてきました。詳しくは本家の駆逐艦戦記をどうぞ。

 と、わかりやすいダイレクトマーケティングをかましましたが、本作もよろしくお願いしますね。
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