加古鷹おんらいん!   作:プレリュード

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クラン結成編5

 その後、予定は大丈夫だからと言い切った飛龍さんと蒼龍さんも一緒に私たちは北方海域へ。指定されたアルフォンシーノへ出撃しました。

 

「しかしアルフォンシーノって言ってもなあ。広いのにどうするつもりだよ」

 

「海域の中にある小島に来てってことみたい」

 

 波をかき分けながら噂の小島がある座標を目指します。飛龍さんの提案で周囲に偵察機を飛ばしてもらっていますが、今のところは深海棲艦の影もないようで、順調そのものです。

 

「なあ、古鷹」

 

「なに、加古?」

 

「PKだったらあたしが殿をするからな」

 

 有無を言わせぬ加古の口調に私は黙ってうなづきます。こういう時の加古はどれだけ言っても譲ることはしません。そういう性格です。

 

プレイヤーキル(PK)。それはこのVR艦これにおいても存在します。プレイヤーがプレイヤーを狙うPKであったり、深海棲艦を利用したエネミーPKであったり。

 

 このゲームにおいてPKに意味はありません。轟沈した艦娘の保持していたアイテムがドロップすることはありませんし、せいぜいが沈んだ艦娘が軽めのデスペナルティを受けるくらい。なので運営も特段、PKに関する規制はかけていません。

 

 だからほかのゲームと比べたらPKは少ないです。でもだからといってゼロになるというわけではありません。

 

 加古が危惧しているのはこれが手の込んだPKである可能性でしょう。ええ、認めましょう。私たちのクランである『イーリス・アイリス』はかなり目立つ部類です。それを下したという手柄ほしさにそういった行為に至るプレイヤーがいないとは言いきれません。

 

「飛龍さん」

 

「例の小島ね。偵察機によると艦娘が1人だけいる。深海棲艦の影は……ないわけじゃないけどもう死んでる」

 

 そういった飛龍さんの頬は引きつっています。偵察機越しに何を見たのか気になるところですが、報告しないということはする必要のないことなのでしょう。

 

「さって、どうする、旗艦さん?」

 

 蒼龍さんがふざけた口調で、けれど臨戦態勢を思わせる語気で指示を私に仰ぎました。そう、このクランのクランマスターは私。だからメンバーの命を預かるのも私の役目です。

 

「行きましょう。飛龍さん、偵察機による警戒を続けてください。蒼龍さんはいつでも発艦できるように準備を。加古、できる限りは撃たないで。でもどうしようもなかったら加古の判断で撃っていいから」

 

 各々が準備を完了したら、島へ。慎重に周囲警戒をしながら進むと島影にある岩礁地帯に小柄な少女が。

 

「やあ。無理を言ってすまない。イーリス・アイリスの古鷹さんだね?」

 

「……はい。あなたは?」

 

「私はВерный。わざわざここまで来てくれてありがとう」

 

 ぴょん、とВерныйさんが腰掛けていたものから立ち上がります。そう、虫の息で抵抗すらできない駆逐イ級から。

 

 

「よっと。もう邪魔だからいいや」

 

 ドォン! とВерныйさんの主砲が火を噴くとさっきまで椅子にされていたイ級がトドメを刺されて沈みました。わざわざ椅子にするためだけに生かさず殺さずの境界線で武装をことごとく破壊するこの仕打ち。なかなかド畜生です。

 

「これでここらの深海棲艦はある程度、掃除しておいたよ。うん、とにかくここまで来てくれたということは伝令役はうまくやってくれたみたいだね。あれがちゃんと働いたようならよかった」

 

「Верныйさん。依頼というお話でしたね。説明していただけますか?」

 

「そうだね。いろいろと経緯が長くなるけど理解してもらいたい。とりあえずもう1人を呼ぶよ」

 

「ここまで越させておいて待たせるって?」

 

 加古が剣呑な響きを込めてВерныйさんに言えば首を横に振りました。

 

「まさか。()()()()

 

 Верныйさんの真後ろの海面が盛り上がると新たな人影が現れました。紺色の髪の少女は海水を飛ばすと、私たちと同じように海面に立ちました。

 

「伊号潜水艦13だ」

 

 そう名乗ってサングラスを外す彼女の風体は一般的な潜水艦のそれを逸脱しています。

 

 何故かスーツのようにデザインを改造されたスクール水着にスコープが取り付けられ、ロングバレルにされた魚雷発射管。どこからともなく取り出した葉巻を口に咥えるとオイルライターでそれに火をつけます。海水に浸かっていて使える者なんでしょうか。いや、ゲームでそれをつっこむのは無粋ですか。

 

「うわ、また……」

 

 加古がこそっとつぶやきます。「また」に続けようとした言葉は私もわかるもの。

 

 また大物が来やがった。その一言です。

 

「私は仲介役……というのも厳密には違うかな。でも依頼主はこのヒトミだ」

 

 平然と言い放つВерныйさんですが、さすがの私もちょっとすぐに口は開けませんでした。

 

 スーツ型スクール水着に葉巻。スコープ付きロングバレル魚雷発射管なんて奇抜でイカれ……失礼、目立つ特徴を持った潜水艦13はこのゲームにおいて1人だけ。

 

 同じく彼女も二つ名持ちです。そのスコープに収めた敵は必ず沈む。そう名高い彼女の二つ名は。

 

「ヒトミサーティーン……ッ!?」

 

 スパッと煙を吐き出すとサーティーンさん、いえヒトミさんがサングラスを外します。容姿はゲーム自体にプリセットされている伊号潜水艦13のはずなのにこの眼光はなんなのでしょう。思わず怯んでしまうと言いますか。

 というかよくよく考えると「ヒトミサーティーン」ってすごい通り名ですよね。13に13重ねてるわけですし。それにそもそもスーツ型のスクール水着ってなんでしょう。なんだかつっこみどころが多すぎますね。

 

「依頼を、したい」

 

「は、はいっ!」

 

 声も私が知ってる伊号潜水艦13と同じです。同じはずなんです。

 

 なのに! なんで! こんなに渋いボイスをかませられるんですか!

 

 飛龍さんも蒼龍さんもポカーンってしてるじゃないですか! 加古に至っては問題ないとでも判断したのかもうすでに興味なしですし!

 

「え、ええっとそれで依頼というのは……」

 

「ターゲットを絞り込む。その支援だ」

 

「た、ターゲット? えっとそれは何の……」

 

「私が説明するよ。いいかい?」

 

 割り込んだВерныйさんが確認をとるとヒトミさんが無言で首肯するとサングラスをかけ直しました。

 

「古鷹さんたちはヒトミブランドを知っているかい?」

 

「ええ。もちろん」

 

 ヒトミブランドといえばModを使ったファニチャーデザインの中でも名だたるブランドです。他を寄せつけないクオリティの家具を提供することで有名なブランドですがあまり数が出回らないため、かなり高価な家具です。

 

 最大の特徴は製作者が表に決して出てこないことです。このゲームのシステムで匿名交換というシステムがあるため、製作者が姿を見せることはないらしいです。わかっているのは伊号潜水艦13であるということだけ。

 

 あれ? 伊号潜水艦13? 目の前のヒトミサーティーンも伊号潜水艦13じゃ……

 

「もしかして……ヒトミブランドの正体って……」

 

「私だ。この服も葉巻もサングラスもロングバレル魚雷発射管もすべてMODで自作している」

 

 ………………。

 

 いえ、わかっていましたとも。その独創的な出で立ちはおそらくModであろうことくらい。

 

 ええ、まさか自作だとは思いませんでしたけど!

 

「すまないけど話を戻すよ。で、最近になってヒトミブランドのニセモノが出回り始めたことを知っているかい?」

 

「いえ、そこまでは……」

 

「ニセモノだけでもゲーム内通貨とはいえ被害総額はそれなりの額になるけど、問題はそれだけじゃない。ニセモノのヒトミブランドを買ったプレイヤーとそのチームがことごとくPKにあってるんだ」

 

「PK、ですか?」

 

「ざっと調べただけで30件は起こってるかな」

 

 数件くらいなら単なる偶然。けれどВерныйさんから調べた範囲でわかっている人数は、偶然で片づけるには苦しい数字です。

 

「からくりは掴めた。要はニセモノの家具は発信機としての機能が隠されているみたいだ。私たちのアイテムストレージはマイルームとして機能する。だけどストレージだってことは逆に言えは常にアイテムを持ち歩いていることになる。当然、マイルームに設置している家具だってね。だから今どこにいるのか手に取るようにわかるはずだよ。で、場所さえわかるなら……」

 

「人数を引き連れてPKするだけ……あんまり気分はよくないね」

 

 顔をしかめて飛龍さんが言います。ええ、実際タチが悪いですね。このゲームにおいてPKは意味がありません。それでもやる理由があるとすれば、ただ面白いからくらいだけ。

 

「というか発信機機能付き家具を売りつけてPKって……アウトですよね?」

 

「そう。だけどこうやって海域に出ている間はプレイヤーIDが表示されない仕様なのは知ってるよね? だからPKされたプレイヤーもIDがわからないから通報できないんだ。タチが悪いことに売りつける際はヒトミブランドがやっているように匿名のトレード機能を使っているから、トレードの際にIDがわかったりもしない」

 

「それは……厄介ですね」

 

 IDがわかれば通報して垢BANに持ち込むこともできます。でもわからないのではBANするアカウントを指定できません。

 なによりこのゲーム、運営が基本的に不介入のスタンスを取っています。せいぜいがイベントを行ったりアプデをするくらいなものです。さすがにたくさんいるプレイヤーのすべてを見張ることが難しい、ということなのでしょうか。

 ともかく、待ち続けて運営対応を待つのは難しそうです。

 

「だから協力してほしいんだ。作戦は私がニセモノ家具を購入する。その後に1-1に単艦出撃するんだ。そしたらきっとヤツらは私をキルしに来る。そこを叩いてほしい」

 

「それはあたしらにPK集団をキルしろってこと?」

 

「キルは私とヒトミがやるよ。追い詰めてくれればいい。轟沈したらリスポーン地点に戻るだろう? リスポーン地点は鎮守府の中だからIDが見える。そしたらリスポーン地点で待機している私の手の者がIDを控えて通報するよ」

 

 ようは今回の依頼はゲーム荒らしを摘発するための手伝いをしてほしい、ということみたいです。

 

「……古鷹。あたしはどっちでもいい。古鷹がいいならやるし、嫌ってならやめる」

 

「私らも同じかな。クランマスターの好きにしていいよ。どっちの選択をしても責めない。どっちの選択をしても全力を尽くすよ」

 

 飛龍さんが蒼龍さんと目を合わせて小さくうなづいてから私に囁きます。加古も同じスタンスなので判断は私に委ねられました。

 

「話を持ちかけておいてなんだけど、断ってくれてもいいよ。キルに手を貸すなんて好んでやりたいわけないだろうし、ね。他言無用だけはお願いしたいけれど」

 

 Верныйさんも退路は用意してくれました。引き返しても誰かが責めることはなく、今まで通りにのんびりクランで遊ぶだけ。

 

「やるよ」

 

 でも私は協力することにしました。もちろん、PKなんてやりたいわけじゃありません。

 

 でも私はこのゲームが好きなんです。のんびり加古と一緒にごろごろすることも好きです。二航戦のおふたりたちと海域攻略をすることも好きです。

 

 だから荒らされたらやっぱりいい気分はしません。私、怒ってます。

 

 ええ、そうですとも。私の楽しめる場所で詐欺を働き、発信機を売りつけた上にPKなんてことまでして荒らしたんです。

 

 そのツケはきっちりと払ってもらいましょうか。そう、身をもってきっちりと。

 

「やべっ、焚き付けすぎたかも……」

 

 加古の焦ったようなつぶやきはまったく古鷹の耳に届かなかった。

 





 今更ですが二つ名持ち多すぎないでしょうか。もうちょっとほとんど登場している艦娘が二つ名持ちなんですが。
 それっぽいゲーム要素こそ入れていますが、実際にこのゲームをこの設定で実現しようと思うと運営ちゃんが死にそうですね。もしあったらぜひやってみたいですが。




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