「どうですか、飛龍さん?」
「ヴェルちゃんの超上空に偵察機を張り付けてる。今のところは接触なし」
「わかりました。監視体制を継続してください」
「了解。あのさ、古鷹さん。あんまり気負いすぎないでよ。巻き込んだとか思わないでね。私らは私らの意志でここにいるんだから、さ」
正直、腹が立ってるんだよねと飛龍さんが言います。確かに今回は身内に手を出されたわけじゃありません。だから私が動くのは見当違いなのかもしれません。でもルールを守って楽しくやっていた遊び場を乱されたら、誰だって頭にきます。
「古鷹、やるなら……」
「わかってる。加古、いつも通りにお願い。飛龍さんと蒼龍さんは空をお任せします」
「久々のガチ装備だからねー。大船に乗った気でいてくれちゃっていいのよん?」
蒼龍さん曰く、相手によって装備は変えているそうです。基本的には相手と同じくらいの性能の艦載機を使うようにして、あとはイーブンの戦闘を楽しむのだとか。
その蒼龍さんが「ガチ」と表現する装備。相当に本気であることは言うまでもありません。
「古鷹さん、来たみたい。ヴェルちゃんの前方と後方に合計5」
「手筈通りにいきます。各自、警戒態勢」
まだ撃ちませんとも。どのみち射程範囲外です。それにもしかしたら、もしかしたらただの通りすがりさんかもしれませんから。
ただいつでも動ける体勢だけは維持しておきます。私は怒っていますけど、PKに乗り気なわけではありませんから。
……やっぱり、そこまでしたくありません。もちろん荒らされたことはとても怒ってます。でもだからといってそこまでしてもいい気がしないんです。
「加古、あのね……」
「ん? …………え、まじ?」
「できる?」
「相手の力量次第としか……まあ無理とは言わないよ。古鷹は?」
「やれると思わなきゃこんな提案しないよ」
苦笑ぎみに返せば加古がそれもそうかと笑います。無理を言っている自覚はあります。でも加古にならお願いできます。
「古鷹さん、仲睦まじいのはいいけどヴェルちゃんとPK艦隊の衝突が始まった!」
「両舷全速。目標とエンゲージ後、飛龍さんと蒼龍さんは制空権確保のみお願いします。加古、いつも通りにね」
「はいはいっと。じゃ、やってやりますかねえ!」
艤装の缶が私の意思に従って唸りをあげて回り始めました。
急いで。もっと速く。もっと!
鎮守府のリスポーン地点で待機しているВерныйさんの仲間に連絡できるのはВерныйさんだけ。当たり前のことではありますが、Верныйさんに沈まれるわけにはいきません。
大丈夫だよ、到着くらいまでは持つさと言っていたВерныйさんですけど、それでも厳しいことに変わりはないでしょう。
「へえ、あのちっこいのやるじゃん」
目視できる程度には近づくと、加古が賞賛の意をこめて言います。
Верныйさんは無事でした。というか無傷でした。襲撃してきた艦娘たちの中の1人を選んでその背中に張り付き続けることによって砲撃されない状況を作ったみたいです。
「ほら、撃てばいいじゃないか」
「卑怯だぞ、テメエ!」
「なにがだい? 私は遊んでるだけなんだけどね。それにしても張り付きにくいな。ぺったんこじゃないか」
「胸を取手扱いすんじゃねえ! あんま変わんねえだろうが!」
遊んでますね、確かに。おちょくってるとも言いますけど。というか煽ってるの方が正しい気がしてきました。
いえ、でも時間の問題ですね。Верныйさんが身軽に動き回っているので今のところはなんとかなっているようですけど、拘束されたら打つ手はなくなります。それにPK集団がフレンドリーファイア覚悟で撃ってこないとは限りません。
「加古!」
「任せろって!」
砲撃体勢を私が作って、加古が突撃。ようやくこちらの接近に気づいたようですがちょっと遅かったですね。Верныйさんが大きく飛び退ったと同時に私の主砲が火を噴きます。
そして砲弾は狙い通りに艤装の武装を吹き飛ばしました。
同時にどこからともなく現れた雷跡が1人に向かい、一撃で轟沈させます。
どこかにいると思ってはいましたが、ヒトミサーティーンの仕業でしょう。一発で仕留める腕前はさすがです。
「そらよっ!」
ほぼゼロ距離にまで到達した加古が同じように艤装の武装や機関部を狙って破壊していきます。飛びかかってくる相手に対しては勢いを生かして海面に叩きつけると魚雷で対応。加古に砲撃しようとする相手は私の砲撃で先に砲塔を破壊して攻撃手段を封殺します。
私が事前に加古と相談して決めたのはPKではなくて武装破壊。攻撃手段を奪った上で無力化してしまうことです。
かなりダメージ判定による損害が細かく設定されているこのゲーム。どうしても敵の攻撃が避けられない場合に存在する常套手段が、装備を盾にして致命的なダメージを受けないようにすることです。
でも、これは裏を返せば主砲だけを破壊したりすることは十分に可能ということ。
「古鷹。4時、2体。時間対応頼む!」
「わかった! 『
4時の方角に二体。一瞬でいいから時間を稼いでくれ。
加古の手短なオーダーに、私はすばやく対応します。
スキルを使って徹甲弾から三式弾に弾種を即時に変更。加古を狙っている2人に向けて撃つことで一瞬の目くらましにします。
「一瞬ありゃあ、十二分!」
加古が今やりあっている相手に足払いをかけて倒れたところに副砲で追い打ちをかけると、私が目くらましを撃った2人に取りかかりました。すばやく懐に潜り込むと撃てば味方に当たる、と思わせるような位置に陣取ります。
あとは私と加古で1人ずつ引き受けて武装破壊を仕掛けました。これで攻撃能力のある武装は全滅です。機銃くらいは残っていますが、さすがにそのくらいの攻撃なら重巡洋艦の装甲は抜けません。
「なんでこのタイミング悪い時に……」
「ここまで鈍いといっそ同情するよ。うん、それにしてもやっぱり強いな。まさか武器破壊だけで制圧しきるなんて。さすが『双撃』の加古鷹だね」
「そ、そんなことないですよ……」
だってВерныйさんがぎりぎりまで引き付けておいてくれたおかげで不意を突くことができたんですから。あとは混乱している間に時間勝負で仕掛ければこっちのものです。ヒトミサーティーンも1人を速攻で落としてくれましたし。
それに加古が体を張って前に出てくれていなければできません。
私たちはスタイルの都合から、背中合わせで戦うことはありません。近接戦の加古に、中距離砲撃の私。そもそも戦う射程がふたりともまったく違うんですから。
背中合わせでなくとも、常に一緒。その信頼があるから、私たちは『双撃』足りうるのかもしれません。
「飛龍ぅー。たぶんこうやって2-5も突破したんだよ」
「私もそう思う。というか出番なかったね……」
おっしゃる通りなので何も言い返せません……。
で、でも出番がないことはいいことじゃないですか!
「『双撃』……おい、冗談だろ! なんでそんな大物がいるんだよ! 聞いてねえぞ!」
「ちなみに『比翼』の二航戦もそこにいるよ。嵌めたつもりが嵌められたんだよ。ねえ、今はどんな気持ちだい? ねえってば」
話、進めてもいいんでしょうか。まったく表情を変えずに煽りまくってますけど。
「まあ、いいさ。で、あともう1人はいつになったら出てくるつもりだい? 爆雷がお好みなら好きなだけ奢ってあげるよ」
脅すようにВерныйさんが爆雷をひとつ、海に落とします。なんとなく潜水艦がいる気はしていたのでさほど驚きはしません。だって艦隊の定数が『6』なのに5人しかいないんですよ? なのに飛龍さんの偵察機にも私の電探にも引っかかる様子はありませんでした。
なら海の下にいるしかないじゃないですか。私はソナーが積めないのでわかりませんけど、いるんだろうなと目星くらいはつけてました。
ざぶんと海面が割れて潜水艦が現れます。Верныйさん、かなり当たるか当たらないかの場所に爆雷を落として脅したんでしょう。一緒にヒトミサーティーンも浮上してきました。
というか、サーティーンがヘッドロックした状態であがってきました。海中でなにがあったんでしょう。
ともかく、浮上してきたところでサーティーンは解放しました。
「なるほど、伊号潜水艦13か。ヒトミブランドを騙るなら形から、かい?」
「大胆なことをする」
憮然とした伊号潜水艦13が浮上すると同時にВерныйさんの手によって魚雷発射管が破壊されます。ヒトミサーティーンと並べると普通の伊号潜水艦13に安心感を覚えてしまいます。
「さて、吊るし上げようか。神様へのお祈りは済ませたかい? 命乞いという名の言い訳するなら今のうちだけど」
「はっ、ゲームなんかでマジになってダサいと思わないの? 二つ名とか貰っちゃって図に乗ってキモいよ」
………………。
へえ、そういう言い方するんですか。へえ。ふーん。なるほど。そうですか、そうですか。
「やべっ」
「どうしたの、加古さん?」
「飛龍、あれやばい。古鷹がキレた」
えぇ、そうですか。たかがゲームですか。ええ、ええ。あなたにとってはそうなんでしょうね。
「あなたにとってはただのゲームかもしれません。でもそれは荒らしていい道理になりませんよね?」
「悪いの? 騙される方も悪いって……」
「なりませんよねって聞いたんです。開き直れなんて言ってません」
再び徹甲弾に切り替えて砲撃。ふてぶてしい態度を貫く伊号潜水艦13の耳を掠めて海面に着弾させます。
「なりませんよね?」
「…………はい」
始めからそう言えばいいんです。聞いてないのに聞きたくもないことを聞かされる身にもなってください。
「あなたのIDを出してください」
「えっ?」
「プレイヤーIDです。はい3、2、1……」
「こ、これです」
まだ硝煙の立ち上る主砲を突きつけながらカウントダウンをすれば大人しくIDを教えてくれました。念には念をとプレイヤー検索機能を使ったところ、キャラクターネームが合致しましたし、表示の出撃中だったのでちゃんと正しいIDを教えてくれたのでしょう。
「はい、じゃあ次はこの件に関係している人たち全員のIDですね」
「え?」
「え、じゃないですよ? フレンドになってメッセージを飛ばしているんでしょう? そうじゃなきゃここまで密な連携は取れませんよね? はい、出してください。全員分です」
「おい、お前は俺らを……」
「今ちょっと面白いところだから先に帰ってていいよ。
Хороший байк」
容赦なくВерныйさんが伊号潜水艦13を除いたPK集団を轟沈させました。武装も何もあったものじゃありませんでしたが、見事な手際です。
「さあ、あなたに口出しする人たちはいなくなりましたよ? 出しましょうか」
弱いものいじめのようで気は引けますけれど、仕方がありません。それにこれは立派な規約違反です。
このゲームの運営は基本的に不干渉のスタイルを貫いています。明確な規約違反に対しては厳格に対応しますけど、Modなどに関してはある程度を黙認する姿勢を見せています。
けれど発信機は明確な規約違反。しかも一発で垢BANされるぐらいの。通報すれば運営も対応せざるを得ません。
「たかがゲームなんでしょう? 出せないんですか?」
「は、はい…………」
間違いがないかどうかさっきと同じくようにきっちりと確認。共有モードにしたウィンドウをВерныйさんに見せてチェックしてもらいます。大丈夫、との一言をきちんと頂いてからそれらのIDを一括でコピーして運営へ通報。
「なんで……」
「じゃあ逆に聞きますけど、なんで発信機Modまで作ってPKなんてやったんですか? ゲームはルールを守って、です。ただのPKだけなら私は黙認しましたけど、規約違反はアウトです」
もう会うことはないでしょう。それだけ言って背を向けました。
そしてなぜか私から一歩くらい引いた位置にいるみなさんが目に入ります。
「あ、あの……なんでみなさんちょっと遠いんですか?」
「いやだって、ねぇ……古鷹さん怖かったし?」
「うん。すごい剣幕だったねー。いや、真面目に」
飛龍さんがなぜか疑問形で発言し、蒼龍さんに至ってはいつもの間延びしたような言い方の後にひどく真面目くさった口調に変わっています。
もしかして。
「加古。も、もしかして私ってやりすぎ、た?」
「昔にあたしが寝坊して古鷹との約束を2時間以上すっぽかした時くらいには怒ってたね」
あ、あの時くらいですか……。思いっきりフルスイングで加古にビンタを張ってもみじを作ってしまった私の人生における過去最大の汚点くらい、ですか……。
やりすぎた、みたいです……。
ぼちぼちと続いてきましたクラン結成編でしたが、クラン結成というよりツール使用者討伐編という感じですね。
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