通常海域攻略編1
ぐるっと見渡してクランルームに全員が集合していることを確かめます。よし、ちゃんといますね。
「えーっと、じゃあブリーフィングを始めます」
「いえーいっ!」
私がそう宣言すれば、蒼龍さんの合いの手と拍手に迎え入れられます。
「本日の攻略対象は5-4海域です。さほど難しい海域ではありませんが、油断は大敵です。気を引き締めていきましょう」
私の言葉に各々がそれぞれお気に入りの場所で別々の反応を返します。
加古は煎餅布団から腕を出してひらひらと振って。
壁によりかかっている飛龍さんは首を縦に。
足を投げ出している蒼龍さんはテンションも高めにいえーい! と拳を突き上げて。
蒼龍さんに肩車をされている、というよりさせているヴェルちゃんは「
壁際でスコープ付き魚雷発射管の手入れをしているヒトミさんは一瞬だけ目線をあげることで。
なんだかすっごく先行きが不安になりますが、それでもここにいるのは誰も彼もが、いえ誰も『彼女』もというべきでしょうか。とにかく全員の実力は折り紙つきです。きっとうまくいくと私は信じてます。
双撃の加古鷹。比翼の二航戦。Верный。ヒトミサーティーン。これだけのメンツがいれば油断とイレギュラーがなければ勝てるはずです。
「基本的にはいつも通りいきましょう。加古とヴェルちゃんが切り込み役の前衛、飛龍さんと蒼龍さんが後衛で制空と攻撃隊を。私がその中間で二航戦の護衛と前衛組の援護。ヒトミさんは初動で敵艦を1隻、仕留めてもらって敵艦隊の撹乱をお願いします。状況によって別の指示をだすこともあるかもしれませんが、その時は臨機応変にいきましょう」
「りょーかいっ! 久しぶりの出撃だし腕が鳴るね、飛龍っ」
「情けないとこは見せられないから私らも気張らないといけないって意見には賛成するけどさ、肩にヴェルちゃん乗っけながら言っても説得力が薄いからね?」
飛龍さんがツッコミを入れてくれたおかげで私がしなくてもよくなりました。ええ、どこで言おうかと。まずなんで肩車なのか、とかいろいろ聞こうと思ってました。
「まあまあ。飛龍、52の熟練でいくね。あとは一二型甲あたりかなー」
「わかった。じゃあそれにあわせて艦載機はこっちも組んでおく」
私は空母のプレイヤーではないのでいまいちよくわかりませんが、あれだけでちゃんと伝わるのでしょうか。なんとなく情報量が少ない気がしますが、それで通じてしまえるものなのでしょうか。
「そういえば飛龍さんと蒼龍さんは他にも所属クランがありましたよね? いつもうちに来てくれるのはとっても嬉しいんですけど、そっちは大丈夫なんですか?」
「ん? あー、大丈夫大丈夫。もう辞めたから」
「ええっ!?」
ヴェルちゃんをうりうりとつついて遊びながらさらっと蒼龍さんが衝撃発言を投下します。
っていうか辞めちゃったんですか! 私の記憶が正しければかなり名前が通ったクランに所属してましたよね!?
そもそも『比翼の二航戦』なんて引く手数多の大物コンビ。大手クランに所属しているのは当然です。なのにわざわざ辞めてうちに来るほどじゃないと思うんです。
「あの、別に兼クランはしてもらっていいんですよ?」
「そうじゃないのよ。蒼龍はいっつも足りてないからわかりずらいと思うけど、前のクランの方針が私らと合わなかったの」
「そーそー。いやあ、なんかガッツリ攻略! とにかく攻略GOGOGO! みたいなのって疲れるじゃない。こーいうのーんびりとしたのが性に合ってるのよねー」
そういうものなんでしょうか。けれど確かに方針が合わないところにいるのは大変なことです。実際に私と加古がクランに入ろうとしなかった理由の一端でもありますし。
「そんなわけだから気にすることないよ。私らが所属してるクランはここしかないから」
「わかりました。ならこれからもよろしくお願いしますね」
わざわざ辞めなくても、とは思いました。でもおふたりがそっちの方がいいと思って選択したのなら私がとやかく言うことではありません。
兎にも角にも二航戦は準備万端みたいです。蒼龍さんの肩を頑なに占拠し続けているヴェルちゃんも問題なさそうですし。
そもそも駆逐艦は準備といっても装備の決定くらいなもので、そして駆逐艦は装備がほとんどテンプレート化しているのでタップ1回で終わる人は終わるくらいなんですから。
どちらかと言えば空母であったり巡洋艦だったりの方が装備編成は難しかったりします。空母であるなら艦戦を多めに積んでいくのか、はたまた攻撃機を多めにするのか。巡洋艦なら砲撃特化にするもよし、雷撃重視もあり。さりとて索敵もおざなりにできません。
あとはなにかするべきことってありましたっけ? ああ、他の
でもヒトミさんはなんだか瞑想でもしてるんでしょうかって思うくらいに目を閉じて微動だにしないので話しかけるに話せない雰囲気ですし、ヴェルちゃんは相変わらず蒼龍さんの肩を占領し続けています。
加古に至ってはまだ煎餅布団に……
あれ? いない?
ああ、いました。ただ横に少し移動していわゆる「人をダメにするクッション」に寝床を変えただけみたいです。
一時期はクランルームに家具を充実させるために依頼を受けてお金を稼ぐ、というスタイルがこのイーリス・アイリスの主な活動でした。しかし家具の問題は思いの外にあっさりと解決したのです。
具体的にはヒトミさんの加入によって。
ヒトミさんが加入してから主にどんな活動をしているのか聞かれたので正直に資金集めのことを言ったところ、「金で買わなくとも作ればいい」とどうやって発声しているのかわからない渋いボイスでヒトミさんが告げると、Modで家具をポンポンと作ってくれました。
よって現在、イーリス・アイリスのクランルームには流通数も少なく、トレード市場に出せば結構な額がつくであろうヒトミブランドの家具で溢れています。ヒトミさんは戦いもしますけど、こういった制作もわりと手がけられてます。
最初は悪いので断ろうと思ったんです。無償で作ってもらえるのはとても嬉しいことです。けれど、それではヒトミさんはタダ働きじゃないですか。そういうのってよくないと思うんです。
だから私はそう主張したんですけど、またもやヒトミさんの「なら今回の件の報酬はこれで手を打たないか」という提案に折れるしかありませんでした。
明らかに家具ひとつだけで報酬としては十分どころか過剰なんですけど、気づけばクランルームに増えていく家具を止める術はありませんでした。
何が問題ってセンスが抜群なんですよね。これじゃあストップなんてかけられないじゃないですか。
結果的にイーリス・アイリスのクランルーム編集権は全員に解放されているとはいえ、実質的にヒトミさんがほとんど行使することになっています。
そのため今日はごくありゆれた一般家庭風なクランルームですが、ふと気づけば畳に襖の純和風だったり、石造りにフローリングな洋風テイストだったり。かと思えばエスニックな佇まいになっていたりとクランルームがころころと表情を変えるようになりました。
もちろん今日はどんなクランルームかな、とわくわくできるので楽しいんですけどヒトミさんの負担になっていないか心配だったのでちゃんと私は言ったんですよ?
まあ、断られましたけど。趣味と実益を兼ねているそうです。よくわかりませんが、家具の出来栄えはとってもすごいのでお礼を言ってありがたく気持ちを受け取ることにしました。
どうやらヒトミブランドが外に出回らないのは、ヒトミさんが仲間内に渡す方を優先にして、外注は余裕がある時のおこづかい稼ぎくらいの位置づけにしているからみたいです。
おっと、忘れてました。加古を起こさないとですね。
「加古ー。加古ー。そろそろ出撃だから起きてー」
「んぁ……もう?」
「うん。装備合わせくらいしなくちゃ」
「あー、そうだっけ。うー、どうするかなぁ」
加古、考えようとしてるのはわかるんだけど「人をダメにするクッション」で大の字になって転がっていたら考えているふうには見えないからね?
「うーん。古鷹、やっぱりいつも通りでいくわ」
「わかった。じゃあ私もそれに合わせるね」
今のところ指示がいつも通りに、なので普段と同じ装備を選択することにあまり違和感はありません。
さて、それなら私も装備を今のうちにちゃちゃっと整えてしまいましょうか。私は基本的に前衛の援護と後衛の護衛です。私がポイントを振っているステータスの都合上、重きを置くべきは主砲の攻撃力ではなくて命中なので、電探などもしっかりと準備しておきましょう。
このゲーム、ただ戦闘をするのではなく、海域を回ってボス艦隊を探さなくてはいけないんです。見つからなければ延々と探し続けるハメになることを考えると、索敵って大事ですよね。
「加古、そろそろ行くよ?」
「んぅぁー」
「いや、そんな変な声を出しても……」
まだぼんやりとしているんでしょうか。そろそろシャキッとしてほしいものです。なにせ出撃するんですよ? 寝ぼけた頭で戦闘なんてまともにできるわけありませんから。
「かーこー! ほら起きてって。かーこー……ひゃっ!」
ぐりぐりと加古の頬を抓っていると、急に加古の抱き枕にされて「人をダメにするクッション」へ拘束されました。
あ、これダメなやつです。
クッションのせいで全身から力がものすごい勢いで抜けていきますし、加古はあったかいですし、瞼が重くなってきちゃいます。
「か、加古。放してってば。ねえ、加…………こ………」
人をダメにするクッションには勝てませんでした……。
お久しぶり、というほどでもないかもしれませんがお久しぶりです。通常海域攻略編ということで、こんなふうに攻略しているんじゃないかなー、と想像を働かせて書いてみました。
このまま次の話まで走り切りたいと思ってます。クラン結成編は加古鷹に視点を当てましたし、通常海域攻略編はクラン「イーリス・アイリス」に視点を当てるつもりで書きましたが、この次はいったいどこに視点が当たるのか。どうぞお楽しみに。