これがゲームでなければ、えっちらおっちらと移動して出撃したい海域まで航海させられるのでしょう。ですが幸いなことにこれはゲーム。出撃の手続きで海域を指定さえしてしまえば、あっという間にテレポートです。
ああ、でもその前にいくつかやるべき事はありますけどね。例えば私を旗艦にして
パーティーで登録しておかないと、同じ艦隊で出撃できなくなっちゃいます。パーティーってインスタンスなものなのでログアウトしたら解散扱いになってしまいますから、いちいち組み直さないといけないんですよね。
だからクランがあるんでしょう。兼任OKなのもそこのシステムを考えると納得のいくものです。
それにしてもサーバーが5-4海域の天気をいい条件にしてくれて助かりました。柔らかく降り注ぐ陽光にそよそよと吹く風。加古じゃないですけど、お昼寝したくなっちゃいます。
たかが天気、と思うかもしれませんけれどこれって大事なことなんですよ。雨だとやっぱり視界が悪くなりますし、風が強いと波が高くなってバランスを崩しやすくなります。だからサーバーがランダムに振り分けている天気という要素も出撃する時には気をつけなければいけません。小雨くらいなら気にせずに出撃してもいいんですけど、これが嵐で海が時化っていたりしようものなら大変。踏ん張っていてもひっくり返ってしまうので砲撃どころじゃありません。魚雷も波で信管が誤作動を起こして勝手に暴発しますし、踏んだり蹴ったりです。
ちなみに過去には何をどう間違えたのか雹が降ったり、大吹雪になって海上が凍るという事態も起きたそうですが、その現象が起きて以降に発生していないということはたぶんバグが運営のミスだったのでしょう。ちなみに伝聞ですが、大吹雪で海上が凍った時はプレイヤーも深海棲艦も凍り付いたせいで動けなくなってしまって地獄絵図だったそうです。
今でも大嵐などの気候は残っていますが、さすがにそういった異常気象は運営が対応してなくしたそうです。
まあ、そういった理由で天気は大事なんです。もし大荒れだったら出撃先を変更しようかとも思っていましたが、晴朗で波も高くないこの天気は絶好の出撃日和です。
「古鷹型重巡洋艦、古鷹。出撃します!」
えいやっと飛び出せば加古が続いてさらに二航戦が、そしてヴェルちゃんが駆け出します。すでにヒトミさんはいなくなっているところをみると、もう潜行しているのでしょう。
「飛龍さん、偵察機をお願いします。方角は一時、三時、五時で」
「ん。航続距離のある爆撃機を出すよ。もし敵艦隊を発見したら?」
「お任せします。一撃でも加えるべきだと思ったらやっちゃってください」
「りょーかい」
「ねー古鷹さん、私は?」
飛龍さんが矢を番えていると蒼龍さんがひょっこりとその影から顔を出します。ちょうどいいタイミングです。蒼龍さんにもやって欲しいお仕事がありましたから。
「蒼龍さんも偵察をお願いします。方角は七時と九時と十一時で」
「はいはーいっと。正面には偵察しなくていいの?」
「正面だけなら私と加古の観測機ローテで十分に見れますから」
加古とふたりだけで活動していた頃は正面の索敵だけではなくて、全方位の索敵をやらなくてはいけませんでした。このせいで何度か泣きを見るハメになったこともあったりしたんですけど、二航戦のおふたりと出撃するようになってからは索敵がすごく安定するようになりました。砲撃戦や雷撃戦はいいものですけれど、やっぱり空の重要性は無視できません。空母の爆撃を受けながら砲撃戦をするしかない状況に追い込まれたこともありましたが、あれは大変なものです。尻尾を巻いて逃げましたから。
ああ、空母がいることのなんとありがたいことでしょう! 全方位の索敵を少ない観測機で必死に回さなくてもいいなんて!
どうやら私と加古のことを怒涛の攻撃を織り成す『双撃の加古鷹』なんて呼んでいる人もいるそうですが、それはそもそも戦闘に持ち込むことができればの話。アウトレンジから空母に艦載機で攻められたり、先に位置バレして対策を打たれた状態からの戦闘は厳しいものがありますから。
兎にも角にも、アウトレンジを相手にすると、加古と私は途端に弱くなってしまうんです。攻撃の機会も与えられなくなってしまうのはやっぱり苦しいです。
でも二航戦のおふたりがいるのなら話は別です。
「古鷹さん、飛龍隊三番機から報告。一時の方角から敵艦隊が接近中。空母ヲ級のフラグシップ!」
「戦闘の回避は可能ですか?」
「ごめん、古鷹さん。無理だと思う。十一時に飛ばしてた蒼龍隊六番機が装甲空母姫を見つけた。まだあちらさんは気づいてないみたいだけどねえ……」
ええ、つまり進行方向の両側を挟むように敵艦隊がいる、ということですね。
さて。これは参りました。このまま進めばどちらかとぶつかることになるでしょう。しかし、どちらかで済まないのが問題です。
このゲーム、妙に作りこまれているので戦闘音を聞きつけた敵艦隊がやってくるという展開はザラにあることなんです。距離がさほど離れていないのであれば、ほとんど確実といっても間違いないでしょう。
できるものならば先頭は回避しておきたいところです。でも飛龍さんの報告からするにヲ級の艦隊との接触を避けることは難しそうです。
さて、参りました。挟撃されるような事態はなんとしても避けたいところですが、ヲ級の機動艦隊と戦うハメにはなりそうです。そして戦闘が始まってしまえば、ほとんど確実に装甲空母姫を引き寄せる結果を招いてしまいます。
「ヒトミさん、聞こえますか?」
『問題ない』
「装甲空母姫の艦隊にちょっと仕掛けてきてもらえますか?」
『構わない。だが装甲空母姫を落とすことは難しいぞ。僚艦も多い』
「わかっています。だから適当な僚艦でいいので、1隻だけ沈めてきてくれませんか?」
『心得た』
水面下のことなのでわかりませんが、ヒトミさんは転舵して装甲空母姫の艦隊へと向かっていったのでしょう。
「大丈夫か、古鷹?」
「潜水艦が狙っていると知ったなら、きっと警戒する。装甲空母姫には潜水艦への攻撃手段がないから僚艦で対潜攻撃をできる艦に周囲を警戒させながら撤退する、と思う」
少なくとも私ならそうする、とは付け加えないでおきます。あくまで推測にすぎませんから。けれどさっき言ったとおり、このゲームの作りこみはかなり細かいんです。深海棲艦それぞれに知能レベルが設定されているんじゃないか、と思うくらいに。
賭けです。賭けですとも。でもそんな根拠のない賭けに乗ってもいいと思えるくらいに私はこのゲームを信じているし、このゲームに心酔しているんです。
「飛龍さん、蒼龍さん。ヲ級の機動艦隊を叩きます! 加古! ヴェルちゃん! 仕掛けるから速攻でお願いします!」
「「「了解」」」
「
目標が定まってしまえば後は簡単です。ヒトミさんがうまくやってくれることを信じて、ただ目の前の
「「二航戦! 攻撃隊発艦始め!」」
「加古! ヴェルちゃん!」
「あたしらはいつでもいけるよー」
私もいけるので準備は万端です。時間はかけられないので、とにかく素早く倒してすぐにその場から離脱をするしかないでしょう。一応ヒトミさんに装甲空母姫の艦隊を遠ざけるようにお願いしてはありますが、うまくいかなかったという最悪の事態も想定しておくべきでしょう。
「古鷹さん、やっちゃっていいよね? っていうかやるよ!」
「ごー、です!」
攻撃許可のサインを出せば、蒼龍さんがにっと笑ってガッツポーズ。
「よっしゃあ! 江草隊いけえええっ!」
「いや、蒼龍! 今日は江草積んでないでしょうが!」
「気分よ、気分!」
そういえば蒼龍さん、最初に一二型でいくって言ってましたね。江草隊はこの出撃で積んできていないんでしたっけ。
いえ、でも比翼の二航戦は伊達じゃありません。
直後に響いた爆音と屹立した火柱がその実力を如実に示しています。
「いえいっ! ヲ級フラグシップ撃破っ」
「いっつもいっつもムチャクチャに付き合わされるこっちの身にもなってほしいけどね!」
「えー、『合わせ』までは使わなかったじゃん」
「そういうこっちゃないの。それに使わないのは蒼龍が楽するためのもんでしょうが」
「でも助かりました!これで空の不安がなくなります!」
さすが、としか言いようがありません。これで艦載機も本気編成でないというのだから頼もしい限りです。
さあ、ここから先は私たちの領分です!
「古鷹、暴れるぞ」
「うん!」
通りがけに加古が告げていった言葉にうなづき返すと、砲門を敵艦隊がいる方向に向けます。まだ見えません。そう、まだ。けれど確かにヲ級が撃破された火柱は上がったのです。
まだそこに敵はいます。そしてその情報は空を抑えてくれた今、私の飛ばしている観測機が事細かに送ってくれています。
「撃てぇーっ!」
順調に加古とヴェルちゃんは間を詰めていますが、妨害は避けられないでしょう。そのために私がいます。
近接に傾倒しているふたりが近づくまでの時間を作る。それが私の役目。
その役目を果たすため。私のステータスは命中精度を司るDEXと攻撃力に直結するSTRに振っています。確実に当てて、確実に傷跡を残す。当たってくれなきゃ、困ります。
敵重巡洋艦の砲塔が爆ぜました。電探で捉えて、狙い撃った私の砲撃は加古とヴェルちゃんをターゲットにした深海棲艦の気を逸らします。
私に一瞬でもタゲを向けることができれば、あとは加古の仕事です。
「せい、やあああっ!」
加古が手ごろな場所にいたリ級に取り付いて、砲撃後の再装填という隙を生かして叩きのめします。ヴェルちゃんは軽巡に雷撃をあてつつ、同時に襲い掛かる駆逐艦へ向けて爆雷を蹴り飛ばして牽制。
そういう使い方するものでしたっけ、爆雷って……?
とにかく。ふたりが取り付けた今、手が回らないところを援護するのが私の役割です。
「古鷹! ちょっとまずい!」
「ど、どうして!?」
敵機動艦隊がもう崩れかかっていることはわかっています。まだ大物がちょっと残っているので厄介ではありますが、どうにか片をつけられるでしょう。ちゃんと観測機でちゃんと見てますから戦況把握に余念はありません!
だからまずいことなんて起きていないはずなんですけど、加古が嘘を言うとも思えません。
「ヒトミさんが装甲空母姫を引かせることに失敗した……?」
「違う!
……余念、ありましたね。