おきのどくですが、皆様の文明は消えてしまいました   作:rikka

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『……………………っ……』

 

 

 薄暗くだだっ広い部屋の中を、突然点灯した温かいオレンジ色の光が照らす。

 その中にたくさん設置されている、繭(まゆ)の様なカプセルの中から、一人の男がゆっくりと起き上がる。

 それほど強くない光すらおっくう(億劫)だと男は忌々しそうに眉をしかめがら、ゆっくりと瞼を開ける。

 

「……ここは?」

 

 男は忌々しそうに瞼をこじ開けながら、辺りを見回す。

 自分が寝ていたカプセルポッドのような物以外に何もない、だがやけに広い部屋。

 男は立ち上がると、どこが出口なのか最初から知っていたように迷いなく足を進める。

 

 そして出口のドアを開けると――

 

「「95年と8日13時間22分17秒ぶりのお目覚め、おめでとうございます。クルト様」」

 

 二人の女が待っていた。

 片や癖のついた髪を束ねていて機械的な無表情。片やショートでニコニコ笑っている。

 二人が揃って綺麗に一礼したあと、またも二人揃ってこう言うのだ。

 

 

「「ようやく、世界を復興させる日が来ました」」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 爆発的な減少を続ける人類という種の保存、そして知の保存のために一つの計画があった。

 比較的被害の少ない世界中の無人島,あるいは人工島に非金属物質による特殊設備を駆使した小規模な隔離都市を建設、貴重な頭脳,技能を持つ者を集める計画だ。

 

 そして同時進行していた予備の計画。

 それが、俺が参加した『冷凍睡眠による、一定数の現在の価値観を持つ者を後世に残す計画』だった……ハズだ。

 

「計画に、アンドロイドがいた覚えはないんだが……」

 

 そうだ、覚えがない。

 いやこの女性型アンドロイド――ガイノイドの片方、ショートの方にはなんとなく見覚えがあるんだが。

 

「ご安心ください。復興計画のために金属製品は全て排除されておりますのでぇ」

「はい、我々のボディはセラミックやゴム、導電性高分子によって構成されております」

「……まぁいい。他の人員は? いたはずだよな」

 

 誰だったか。

 そうだ、とにかく周りには結構な数の人員がいたはずだ。

 各分野の学者、技術者が……そうだ、少なくともスイスのあの場所に四桁は集められていたはずだ。

 

「こちら――イングランド第七ベースには、冷凍保存計画に参加された各研究者や技術者、計127名が送られておりました」

「もっとも、様々な要因によりクルト様以外の方はお亡くなりになっているようですぅ……」

「? イングランド? ここは、スイスの研究所じゃなかったのか?」

 

 そうだ、自分が寝た所はたしかスイスだったはずなんだが……駄目だ、どうにも記憶がはっきりしない。

 

「失礼ですがクルト様。記憶に不可解な点が?」

「あ、あぁ……」

 

 ハッキリと覚えているのはスイスに来る前。ドイツの田舎にいた頃の記憶だ。 

 あのカビのおかげで俺が生活していた街は住めなくなり、離れた森の中でキャンプみたいな生活をしながらNPOに参加して、腐食された金属物質の処理や、あの錆の様なカビの毒に倒れた人の搬送などを行っていた所に、政府の人間に声を掛けられて――

 

「スイスの研究所に行った時くらいからの記憶があやふやだ」

「私の記録の中に、スイスにて計画の説明があったとあるのですけどぉ?」

「……なにかの訓練や説明を受けたのは覚えているんだが……駄目だ、思い出せない」

「そうですかぁ」

「では、とりあえず移動しながら説明を。解凍処理の直後という事もありますし、身体を動かした方がよろしいでしょう」

 

 ガイノイド――どこか軍服のような衣類を身に付けている彼女は、ついてくるように言うと先導してどこかの建物の廊下を先導する。

 

「では、まずは説明させていただきますぅ。繰り返しますが、ここはスイスではありませぇん」

 

 

「はい、ここはグレートブリテン及び北アイルランド連合王国。ブリテン島とアイルランド島の間、アイリッシュ海の中でも最も大きな島――マン島でございます」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 建物の外に出ると、そこには何もなかった。

 いや、正確にはいくつか建物がある。

 まるで、小さなドーム状の工場のような設備だ。

 小麦や蕎麦らしきものが生えてるプラントがあったり、同時に何かが収められていのだろう馬鹿でかいコンテナの山があったりする。

 

 そう、何もないのはその先だ。

 この建物の周囲には、うっすらと緑が生い茂っている以外に何もない。

 

「かつて、クルト様達がスイスで人類保管計画に参加された後になります。当時の国際社会はメタルイーターへの対策として、金属の代用品になりうるセラミックやカーボネート、導電性高分子に注目しておりました。ここもそうです」

 

 上を見上げると青い空――を、遮るように塵や埃の幕が張っている。

 正確には、透明で分厚い何かが間にある。

 

「クルト様が保存された後にも続いていた研究によって、建材として耐えられる非金属資材の開発に一定の成果が出ました。それによって建造されたのが、このマン島のような復興拠点です」

「なぜ、このような場所に?」

「ここはちょうど、旧人工物が徹底的に取り除かれた無人島でしたのでぇ」

「……マン島ってイギリスの観光名所じゃなかったか?」

 

 そこまで詳しいわけではないが、確かマン島はバイクレースで有名な場所だったハズ。

 島としても大きいため、人口もそこそこ。つまり人工物もかなりあっただろうに。

 

「メタルイーターの特性の一部を知った住民が、当時まだ動いていた船舶でブリテン島やアイルランド島へ避難したのです。その結果、無人となったこの島は連合王国軍によって滅菌作戦が展開されております」

「滅菌?」

「徹底的に焼きつくしたとレポートに残っております。もっとも、その結果メタルイーターのさらなる特性が判明したため予定を変更。金属を徹底的に排除し、セメントで封印したと聞いております」

 

 建物の外は、一応道だけは整備されていた。

 アスファルトではなく、なぜかゴムチップで補正されている道路が伸びている。

 もっともその先に何かがある訳ではなく、ただの足に優しい道だけだ。

 

「予定変更……なにが分かったんだ?」

「はい、毒性の胞子を放つ条件です」

 

 周囲には毒など一切気にする必要のない、普通の雑草が生い茂っている。

 

「滅菌作戦の際、肝心のメタルイーターは非常に熱に強い事が確認されました。そして時間が経過し、熱されたメタルイーターがある程度冷えた時に、強毒性の胞子の散布活動が確認されております」

 

 随分と背の高くなった雑草の集団は、所々でゴムを突き破って茶色い道を緑に染めている。

 それでもある程度整備されているのは、このガイノイドがある程度手入れをしていたのだろう。

 

「その結果、常温下でも毒性胞子の散布が行われる事から、メタルイーター自身の『一定以上の温度低下』が条件だと考えられるようになりました」

 

 自分の知る知識では、あれは夜になると毒を吐くという認識だった。

 だが、なるほど。

 

「……確か、初めてメタルイーターが発見されたのはジェット旅客機だった」

「えぇ、そうですねぇ」

「通常の気温下で航空機の合金に寄生したメタルイーターが、上空で一気に冷やされて毒を振りまいた。いや、だが腐食は?」

「活動が活発になるという点では同じです。やはりその時に腐食速度も急速に上がったと、当時の対策委員会は推測しておりました」

 

 そうこうしている内に、ドームの端へと辿りつく。

 この狭い世界――恐らく、あの忌々しいカビモドキを寄せ付けないための防壁となっているのだろうそれは、出入り口の所が三層になっている。

 

「その後、タイミングの悪い大地震や異常気象による大きな寒暖差などが原因となり多くの研究は失敗。対策委員会は、人類種の保全計画の実行を決定。まだ完成していなかった試験都市などに、クルト様のように保存されていた人員が運ばれて来たのです」

「運ぶって……どうやって?」

 

 話を聞く限り、自分たちをこの島に輸送したのは結構後になってからのようだ。

 自分がドイツの森の中で暮らしていた時では、船はもう駄目だという話は聞いていた。

 

「委員会が計画していたセラミック船を使ったそうですがぁ。ただ、急造のうえに試験航海もしていなかったので、無事に辿りつけたのは一部と記録が残っておりますぅ」

「それだったら、スイスの地下で保存しておけばよかっただろうに」

「トラブルによる全滅の可能性を避けたかったということです」

 

(嘘くせぇ……)

 

 それでも絶対、メインとなる研究者や技術者なんてスイスのあの場所から動いていないだろう。

 自分なんざ、万が一の予備か。

 

「俺以外の面子は? 死んだって言ってたけど」

「……機材のトラブルのようです。私達が保存ポッドにて起動したのは、二年一三七日と五時間三分前になります。その間、最低限施設を動かすための設備復旧にリソースを割いておりました」

 

 起動して二年半。

 ……ガイノイド二体で、見た所最低限の発電設備と浄水装置、それに農場プラントは稼働可能にしたと考えれば大したものだ。

 もっとも、パッと見た様子じゃあ二,三人が栄養や味を考えずに腹だけ満たせると言った所だろう。

 

「皆の遺体は?」

「リスト登録されていた各個の宗教に従い、処理しております」

「処理……いや、まぁいい」

 

 とにかく、今ここにいるのは記憶のハッキリしない男と、世話用のガイノイド一体だけというわけだ。

 

「状況は確認していただけましたかぁ?」

 

 いや、うん。

 

「でしたら、早速行動致しましょう。我々には使命があります」

 

 状況はわかったけどさぁ。

 

「当初の計画に予定されていた人員は、少なくともこのマン島では全滅しています。残っているのはクルト様と私達だけです」

 

 うん、俺ってそもそも、特別な技能持ちというよりはほぼ雑用枠だった訳で……。

 精々が、ちょっとしたロボットとかドローンの整備技師。ゼロから作製とかほとんどやったことねぇぞ!?

 

 

「この一人と二体で! まずは周辺の環境を整える事がとりあえずの任務となりますぅ」

 

 

 

「クルト様、ご指示を」

 

 

 無茶言うなよ……。

 

 

 

 

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