おきのどくですが、皆様の文明は消えてしまいました 作:rikka
つくづく思う。
最大の敵はメタルイーターなどというカビ……でもあるのだが、冬はやはり食糧確保と保存の困難さこそ大敵であると。
「ランディさんどう? やっぱり、解析は難しい?」
農作物も期待できないのであれば。不味いキツネの肉に頼るしかなくなる。
一応それなりの食糧は確保できたもののキャンプの住人には多少の不安が残っているものの、今にアタシにはそれどころではなかった。
「うん。完全に僕にも分からない領域だ。ここの部品とか、金属同様に通電性があるみたいだけど素材が全く分からない。プラスチックのようだけど……」
「基本的な部品はセラミック?」
「あぁ。それも僕の知らない技術で作られている。かなり頑丈だし軽量。いや、なによりもかなり熱に強い」
あの時、空から落ちてきた機械。
あの忌々しいピンクの輝きが一切なく、しかもついさっきまで稼働してただろうソレを、アタシは誰にも見られない様にバックパックの底の方に隠して、たまたま発見したシカを仕留めた後は諸々の処理を終わらせて急いで帰って来たのだ。
「この……なんだろう、硬くて小さな丸いガラスを張った部分は。それに蜘蛛みたいな足も付いている。地面を歩行? いや、物を支えたり、どこかに取りついたりする物か? バッテリー部らしき部分は完全に未知の物……いや、所々で使われているプラスチックの様な物と同じなのか?」
元々自分に近い考えを持っていたランディだ。
こうして最近稼働していた『文明の臭い』を、皆に隠したまま話に乗ってくれる。
「古い物……なのよね?」
「おそらく。だが、メタルイーターへの対策がされているのは間違いないだろう。拭った跡があるが、細かい所に埃が残っている。これだけの埃が積もる程の期間を経て、あのカビに食われず稼働しているということは……いやはや、まさかこんなものを見れるとは」
より強靭なセラミックを作るためには今の物よりも高温に耐える事が出来て、かつ複雑な工程を可能とする素材や技術がないと難しいとランディさんは言っていた。
今、まさに目の前にそのヒントがあるのだ。
「これ、どこから飛んで来たんだろ?」
「飛ぶ所を見てはいないのかい?」
「うん……。上のほうで、なんか細かい羽音がするなぁって思ったら、多分木に引っかかってドサドサーって」
「なるほど、バランスを崩したのか。この羽根の部分に木の葉が付いているし……だが傷らしい傷がまったく付いていない。恐ろしい強度だな」
「手入れ頼んでるナイフよりも?」
「あぁ。今の所アレが僕が出せる最高硬度だけど、これはそれ以上に硬いし軽い。繰り返すが、本当に大したものだ」
もし。
もし、だ。
これと同じものをたくさん作れればこれまで以上に頑丈な物がたくさん作れる。
熱に強いのならば、炉だってこれまで以上の高温を出せるかもしれない。
建物すら作れるかもしれない。
いや、セラミック以外の部分を解析して自作できるようになれば――取り戻せる。
かつての――文明を。
「これを作るだけの力が残っているのならそのうち接触してくるか、そうでなくても落としたこの機械を回収しようとするはず」
こんなご時世だ、貴重なモノに違いない。
ならば、探しに来ないハズがない。
「絶対に見つけ出してやる」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「電波の中継地点を南の海に流したものの、固定には失敗か」
とりあえず、このマン島でも見落としがあるかもしれないと言う事で、しばらくは不味い携帯食糧やうろ覚えの知識での味のないパンや水で空腹をしのぎながら、俺は二体と共に空撮ドローンを使って周辺地域の探索。
更に島の四方に、開いたコンテナの中から見つけた電波の中継装置を設置してドローンの行動範囲をを拡大、アイルランド島やブリテン島の様子を詳しく知ろうと動いていた。
無論、多目的作業用のロボットアームやドローンを十分動かすための発電や送電設備の設置もキチンとやっている。
このために本格的な周囲の探索まで二か月という時間がかかったのだ。
「セラ、原因は?」
起きたばかりの頃は表情のあるなしで簡単に区別していたが、さすがにそれは不味い。
それぞれには一応識別コードがあるようだが、呼ぶには長いし複雑だし……ぶっちゃけ、面倒臭かった。
表情の乏しい方をセラ、豊かな方をニナと呼ぶ事にした。
「はい。どうやらアンテナを固定した木材、正確にはそれにセットしたフロートが不十分だったと思われます」
「やっぱり適当な端材で作った程度じゃ駄目か」
しっかり水に浮く物がなかったので、この百年で膨れ上がっていた森から木材を確保。
セラミック製の刃物を集めて加工した小舟のような物に、梱包に使われていた発砲スチロールの中で状態の良かった部分を浮きとしてくくりつけて見たのだが……。
「まぁまぁ、とりあえず今は中の整備に努めましょうよぉ。今のままじゃあ、クルト様が口にできるのって、実質味のないパンとパスタ、ちょっとしたお野菜くらいしかありませんしぃ」
事実だ。
今自分が口にしているのは水と見よう見まねで作ったパン。
……パンといえるのだろうか。
小麦を水で練って焼いただけの……なんというか、硬くて不味いモノだ。
「そうだな、たんぱく源の確保は必須か」
実際のところ、たんぱく質は必要不可欠だ。
これまでは保存されていた豆の缶詰を口にして凌いでいるが、あと半月もすればそれも尽きるだろう。
それまでに、定期的に肉を手にする手段を構築せねばなるまい。
魚か、あるいは動物か。
……豆はもういい。あのパンもどき同様、できるだけ口にしたくない。
「クルト様、いかがされますか?」
「ん~~~。外に野生動物は?」
「はい。確認している所、恐らくかつての牧場から逃げだしたと見られる羊や牛、豚を発見」
「それぞれ、森の中で野生化していますねぇ。同じく野生化したワンちゃん達が天敵になっているおかげで、増えたり減ったりを繰り返しているみたいですけどぉ」
「なるほど」
野生化している奴を捕まえるのは、実質一人じゃ無理だろう。
いや、プラス二体でも難しい。
「……よし、水場。川や海の周辺地形をチェック。送電線とかロボットアーム仕掛けられそうなら試してみよう」
文明の基本は何においても食。
とりあえず、完全な自給自足を可能にする所から始めよう。
(本格的な冬も近い。念のために燃やせる物をできるだけ用意して、今のうちから出来るだけ節電して電気を貯めておかないと)
せめて自分の記憶がもう少しハッキリしておけば、運び込まれている設備なども覚えていたのかもしれないが、現状では手探りでやっていくしかない。
(手が足りない)
それにしても手が足りない。
今現在自分の傍にいるのは、言われた事をこなすだけのガイノイド二体だけ。
それなりに雑談もこなせるニナのおかげで、まだそれほどストレスを感じる事はないがガイノイドはガイノイド。
あくまで世話用ということで知識も技術面の物はない。
人だ。人が欲しい。人と話したい。
できる事ならば同じ目標を持っていて、最低限でもいいから現状に適した技術や知識を持っている……そんな人間が。
(あの炎の光)
最後にチェックした南部方面――正確には、ウェールズ北西部。かつてのスノードニア国立公園のあたり。
(あれは間違いなく人が起こした火だ)
おそらく昔はそれなりに手入れがされていたのだろう場所が、かなりの量の木々に覆われている事は夜間の映像でもわかった。
そんな草木が無造作に生い茂っている中、大火事にならずに程良い程度の火が起こっているなんて、なんからの理由で着火した直後か、あるいは管理された炎であるかのどちらかしかないハズだ。
(ならば、おそらくその周辺には集落があるはず……)
少なくともカメラの範囲に、それらしい物は映ってなかった。
まぁ、そもそも最大飛行距離の確認どまりだったのでそこまで気にしていなかったという事もあるし、見落としがなかったかといわれたら非常に怪しい。
灯りという目印があったために、そこらを確認しようと反射的に操作した結果のロストである。
(今の所は他にやらなきゃいけない事の方が多いけど、準備さえ整えば……)
もう一度、あの場所を調べてみよう。
今度こそ、しっかりとした用意をして。
見つけてどうするかは分からない。だけど、出来ることならば――
「話、したいなぁ」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「なんだありゃぁ?」
フォレストパークを拠点とするキャンプの活動範囲は意外と広い。
狩猟や伐採はもちろん、特にこの時期は塩を貯め込むために海の方にも足を運んだりする。
ここにいる男達も、そういう目的で海へと向かっている所だった。
森の端、木々がなくなり日の光が地面を照らす、少し歩けばもう海だという所で違和感を感じた男達は、その場所に足を運ぶ。
「石を置いて大きな文字にしてんのか? よくもまぁ」
「大方、あの小屋にいるカビ狂いだろうぜ。ったく、顔も身体もいいのにもったいねぇ」
「おい、はやく離れようぜ。カビでも付いてたら大変だ」
「違ぇねぇな」
男達は何人かはゲラゲラ笑い、何人かは怯えた顔を見せてその場を離れていく。
後に残されたのは、だだっ広い野原と大量の石で書かれた一文。
“I wanna talk to you”
一人の女が、『どこかの誰か』へと当てたメッセージだった。