おきのどくですが、皆様の文明は消えてしまいました   作:rikka

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 途中寄り道のような作業をしてしまったが、それでも今年の狩猟成果は十分だ。

 豚に鹿、それに羊も多く狩れた。例年に比べて群れが無かったのは運が良かった。

 いつもは大体鹿が羊を率いて、場合によっては集団で襲いかかってくることがある。

 

 そう、死人はおろか大きな怪我人も出なかったことは喜ぶべきなのだろう。

 だが――

 

「なんで……なんっっっにもリアクションがないのよ!!」

 

 あの空を飛ぶ機械を手に入れてから一月。冬真っただ中。

 姿を隠す事が多くなったが、それでも活動している鹿や羊を仕留めたり、狐や野犬の群れを追い払ったりしながら、毎日木を切り倒して薪に加工する日々。

 

 そんな生活の中で毎日欠かさずに行っているのが、あのメッセージを書いた場所の確認だ。

 ひょっとしたら文字が追加されているんじゃないか。

 なにか置かれているんじゃないか。

 なにか手紙を残してくれているんじゃないか。

 

 そう思って毎日毎日確認しているのに。

 いるのに――っ!!

 

「うがああああああああああっ!!!!」

「ケイ姉ケイ姉、野生化してる」

 

 例の機械を見せたくてここまで引っ張ってきたチェルシーが、アタシが作った椅子に腰を掛けて足をぶらぶらさせている。

 その前に設置したテーブルの上には、あの機械が置かれている。

 

「でも……ふぅん。ホントにあのカビが生えてる様子はないねぇ」

「ランディさんに一度分解してチェックしてもらったから大丈夫よ。基本は全部セラミックス。昔よくあった金属の粒子も混ぜるタイプでもない、本当に未知の技術の産物!」

 

 初めてコレを目にした時は顔を引きつらせていたチェルシーだが、ようやく慣れてきたのか珍しそうにソレを観察している。

 触る時はやはり恐る恐るだが。

 

「まったくもぅ、いきなりケイ姉が『森の外でやりたい事があるから白い石を集めておいて!』なんて言い出した時はいつもの奇行かと思ったけど」

「奇行ってなによ奇行って。これまでアタシのやる事にはちゃんと理由があったでしょ!?」

「いやぁ、理由があった所で奇行は奇行だよケイ姉。ま、今回のは分かるけどさ」

「だしょう!?」

「ケイ姉ケイ姉、噛んでる噛んでる」

 

 黙らっしゃい。これが落ち付いていられるか!

 

「というわけでチェルシー! これからアタシがいない時はチェックよろしくね!」

「えぇ~~~~~~~……」

 

 何をあからさまに嫌そうな顔をしているのか!

 

「私にも仕事あるんだけど」

「ちょっとした時でいいの! アタシはまたしばらく外にしばらく出なきゃいけないから」

「狩り? この時期に外にいるのはヤバいんじゃない? 野犬とか凶暴になってるよ?」

「だからよ」

 

 かなり使いこんだ木の弓――弦を外して丁寧に使っているんだがもう大分消耗している。

 今度ランディさんに、対価を用意してセラミックでガッチリした弓を作ってもらおう。

 短時間じゃ無理だけど、時間をかければ大きい物も作れると言っていたし。

 

「一応アタシも気を付けるけど、今年は絶対に余所に貸しを作る訳にはいかないの。むしろ貸しを押しつける勢いで色々動かないと」

「この時期狩猟の仕事に専念するのはいつも通りだけど、なんか今年はヤケに気合いが入ってるね」

「ちょっとでも自由な時間を得るためには発言力がいるの!!」

 

 アタシが石でどこかの誰かへのメッセージ残しただけでギャアギャアうるさい連中だ。

 少しでも貢献してそれなりに自分の価値を示さないと、またやかましい事を言われそうだ。

 色々と試したい事や、探索したい所が増えたというのに足を引っ張られてはたまらない。

 

「私も仕事あるんだけど……魚釣りとか薪集めとか」

「なにも四六時中見ておけって言ってんじゃないわよ。ただ、爺ちゃんの小屋に帰る時とかに寄ってほしいって事よ。アンタも馬持ってるから楽勝でしょ?」

「そりゃまぁそうだけどさ」

 

 チェルシーは飛ぶ機械を見飽きたのか、周辺に積んである物に目をやる。

 特に価値がないだろう雑誌やパズルブックが積んであるそこらや、量産品だったのだろうプラスチックのスプーンやフォーク、カップが置いてあるテーブル。

 特に価値は無いけどプラスチックで作られた飛行機や戦車、全身を覆う鎧か何かのような模型などが飾ってある壁の棚などなど。

 キョロキョロと辺りを珍しそうに妹――チェルシーは見回している。

 それはそうだろう。この子はこの小屋に来た事がほとんどない。

 

「正直さ」

「うん?」

「本気度は分かってるつもりだけどさ。これ以上、ケイ姉の道楽に付き合うのを見られると不具合ありそうなんだよね」

「不具合?」

「分かってるでしょ、ケイ姉。ありふれた差別って奴よ」

「……まさか、チェルシーにまで嫌がらせ行ってる?」

「ううん、ちょっと変な目で見られるだけ」

 

 自分が嫌がらせを受けることはあった。

 この小屋を作ってた頃、朝来てみたら壊されていたりした事は多々あった。

 犯人は見つけて、後日キャンプの中央で裸にひんむいた上で焚火の上で逆さ吊りにしてやったが……。

 あぁ、ついでにアレが小さかったからタマナシ野郎共って落書きしたか。

 

(ちくしょう、アイツらあれから大人しくしてたけど、もういっちょかましてやるか?)

 

「ケイ姉、物騒なこと考えてるでしょ?」

「なによ、普通の報復よ」

「……焼いた木の枝男のお尻に突き立てるのが普通?」

「ちゃんと怪我しないような形に削ったわよ。こう、刺さらない様に先端を丸くしながらそれでいて――」

「黙れ」

 

 むぅ、いかにアタシが優しくアイツらを罰した教えてやろうと思ったのに。

 

「とにかくお願い! こんなチャンス二度とないの!」

「……まぁ、これが凄い大事(おおごと)だっていうのは分かるからいいけどさ」

 

 ランディさんに頼んで作ってもらったセラミックスのばねを使ったベッドに腰を掛ける。

 いつ壊れてもおかしくないと言っていたが、もう数年は世話になっているアタシの宝物の一つ。

 ……チェルシーも、別にこっちに腰を掛けてもいいのに。

 

「ねぇケイ姉」

「なに?」

「もし、もしだよ? この機械を使ってる人とどうにかして手紙のやり取りが出来たとしてもさ」

「うん」

「一度も会った事もない人を信じられる? 信じていいの?」

「何言ってんのよチェルシー」

 

 

「信じるために話そうとしてるんじゃない。違う?」

「……ケイ姉には敵わないなぁ」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「思っていたよりも魚が釣れねぇ」

「作業用のアームの利用は、やはり無茶だったのでしょうか?」

「上手く行くと思ったんだが……」

 

 とりあえず、手ごろなたんぱく質の供給源として魚を捕獲するための装置をアレコレ考えていたのだが、思ったほどの成果が出ていない。

 一匹も釣れなかったというわけではないのだが、それでもかなり少ない。

 

 二日に一匹釣れればいい方だろうか。

 

「原始的なトラップの方が上手くいくのかな。もういっその事適当な木で槍……正確には銛か? あれ作って湖とか川を調べた方が良い気がしてきた」

「ですが、それだとクルト様の行動時間をかなり消費してしまいますよぉ?」

「……だよな」

 

 今やっているのは、作業用のロボットアームに糸と針――無論セラミックスだ――をしかけ、適当な虫を餌として川辺等の魚が生息している水場にセット。

 食い付く程の振動を感じたら素早く引き上げて釣り糸ごと近くの籠の中に落とす。――という仕掛けを作ったのだが、上手くいかない。

 

(こういうのってそもそも専門じゃないしな)

 

 もし、自分達が過ごす施設や備蓄食糧が一切なく森の中で過ごせと言われたら、三日で死ぬ自信がある。

 

「まぁいい。浄水装置が動いている以上、少なくともすぐに死ぬような事態にはならないハズ。……うん、魚が取れない訳じゃないし」

 

 ちなみに何度か、適当な弓を自作して狩りをしてみようと思ったのだが、矢を当てるどうこうの前に容易く逃げられてしまう。

 事前にしていた獲物は解体できるかどうかという心配どころか、まず狩りの基本を知る必要が出てきた。

 

「……腹減ったな。飯にしよう。セラ、ニナ、なにか適当に持ってきてくれ」

「かしこまりました」

「かしこまりましたぁ♪ クルト様の好物があれば持ってきますねぇ」

 

 相変わらず対照的な二体が、それでも全く同じ御辞儀をして貯蔵倉庫へと歩いて行く姿を見送ってから、その場で大の字になって寝転がる。

 

「何一つとして上手くいかねぇ……」

 

 労働の代用品こそ手に入れたが、その使い道が今の所農場プラントの仕事だけ。

 例の釣りの奴なんてどう見ても失敗だ。

 最初は網を引かせるようにしようと思ったのだが、まず網がない。

 どうにか適当な植物を使ってそれっぽい物を毎日、セラやニナと共に紐を編んでいるのだが……網になるまでにどこまで時間がかかることか。

 

「駄目だ。考えが堂々巡りになっている」

 

 少なくなっていく食糧の備蓄。変わり映えしないガイノイドとの会話ごっこ。

 ……ストレスが溜まっているのは分かっている。

 だけど、気分転換になる物がない。

 セラならともかく、ニナは割と普通に話せる。一瞬気が紛れる事もあるのは確か。

 だが、ガイノイド――作り物という先入観が、なんというか気分を冷めさせてしまう。

 

「……誰かー……こっちに来ないかねぇ」

 

 ガイノイド二体の意見では、今の所外の人間を招き入れるのには無理だし、出来ても反対という事だ。

 特にニナは強くそう断言している。

 下手にここの設備や物資を知られると、争いの種になるだろうと。

 まぁ、正直同感だ。

 ……同感なのだが……。

 

(こう、直接会わなくても連絡取れる相手……なんて、都合が良すぎるか。)

 

 ここ以外の今の時代の生活をこの目で見たわけではないが、きっあの時よりも酷くなっているだろう。

 もしよくなっていたのならば、先日のドローンによる調査の際に人の生活の痕跡を見つけるのは容易かったハズだ。

 

「……もう一回、もうちょっと環境を整えてからドローン飛ばしてみるか」

 

 

 

 

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