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もしも、さしすと同年代だったらと言う名のリメイク的な話
(ここが命の使い時か。)
この3日間で最大のチャンスがあるとしたら、ここだろうと考えてはいた。
特級術師である二人と一級の自分がいると知った上での時間制限付きの懸賞金。
あの時間制限はこちらの精神を揺さぶる目的と五条悟に術式による脳への負荷を与える為である事は二日前から分かっていた。
(どうやったら五条悟に勝てるかは入学当初からずっと考えていたからこそ分かる。)
唯一のチャンスでありここが失敗したら確実に相手は雲隠れする。
そう確信があった。
だからこそあえて味方には伝えずに、我慢した。
(これはその罰かな。)
姿を見た瞬間、己では勝てないと察した。
術式を無効化する手段と一瞬で近付く奇襲的な術式の組み合わせという予想は覆り、非常識な身体能力での暗殺という手段。
三人の中で最も格闘に秀でていたからこそ、五条悟を越えようと考えていたからこそ、目の前の暗殺者が五条悟の死だと認識した。
(最強と劣等、猿でも分かるシンプルな話だ。)
故に轟悟は前に出た。
腹を刺された五条悟を庇うように乱入者を蹴り飛ばす。
「!?」
(俺が蹴られただと?)
蹴り飛ばされた事に最も動揺していたのは乱入者であった。
事前情報でも三人の中で最も弱い雑魚と思っていた学生、術式は己の肉体の劣化に過ぎない所詮一級程度の存在。
轟悟の術式は『強化』というシンプルな術式であり、『縛り』を利用する事で真価を発揮するタイプの術式であり轟悟もその例に漏れず。
1日一回、三分間限定の全身を超強化する大ボス用の
『拡張術式 武留虎万』
部位と時間を限定し一瞬の強化しインパクトで敵を倒す
『拡張術式 瞬勁』
どちらを使用しても乱入者にとって対応可能な温い術式であり脅威とは捉えてなかった。
轟悟が何も捨てない前提なら。
「何やってんだよお前!?」
六眼だからこそ五条悟には友人が手遅れな事が分かった。
術師にとって『縛り』とは己にルールを課す事で術式や呪力の出力を底上げする技術である。
その中でも最上級の縛りが『自死』、即ち死を確定させる事による底上げは他の縛りとは一線を超える恩恵をもたらす。
轟から溢れる通常では考えられない呪力がその絶大な効果を示していた。
「これが最適解だろ、前座を努めてやるんだから感謝しろ。
死に目に会いたかったらさっさと仕事済ましてこい。」
後ろは振り返らず、眼の前と怪物へと突撃していく。
(自死による縛り、俺より早いか。)
乱入者、伏黒甚爾は避けきれず蹴り飛ばされながら天の逆鉾で轟の足を貫いた。
(スピードは向こうが上、パワーはこっちか。
多分トータルは基本的に互角。
仕入れた情報から考えてコイツは3分後に死ぬ。)
轟の片足は貫かれた一瞬だけ術式は解除されたが、既に傷の内側から肉が盛り上がり形で癒やされ塞がれていた。
(おまけに術式を一時的に無効にしても刺した部位だけ解かれた
だけで意味がねぇし細胞そのものも強化されて再生もすると。
三分間限定、俺と並ぶ肉体で不死。
狙いは時間稼ぎと俺を少しでも削る事か。)
「青春って奴か、泣けるねぇ。」
「なら死ねよ。」
猛攻は止まらない。
本人が評価したようにスピードは轟悟が上。
しかも再生前提のノーガード戦法により攻撃の手を緩まず打撃による猛攻は確実にダメージを与えていた。
(チッ、五条家の坊っちゃん対策しかしてねぇのが仇になったか。)
「何だよ、自分と同じレベルと戦うのは初めてか?」
「舐めんな小僧。」
一瞬で逆転された。
打撃の為に伸びた腕を掴み、その勢いを利用、振り回すように地面に叩きつけながら、関節を捻るようにして破壊した。
フィジカルだけなら並び立つが年季が違う。
何十年と超人的フィジカルも共にあった伏黒甚爾にはその肉体を活かせる技がある。
スピードが止まった。
起き上がるよりも早く、空を蹴って轟の上から押さえつけた伏黒甚爾は容赦なく天の逆鉾を突き刺し続けた。
「アッあ嗚呼アッあ嗚呼!」
体中を掻き回され、常人なら絶命する筈の痛みでも縛りによる強制的な術式の発動で無理矢理修復される事で死ぬことはない。
そしてその痛みの中で生きている左腕は渾身の力で
禪院甚爾が手を止めた頃には轟悟は原型を留めてなかった。
骨も肉も砕かれてかき混ぜられた肉溜まり。
「これでも死なねーのかよ、気持ち悪。」
原型を留めず肉溜まりとなろうとも縛りのせいか人の形に戻ろうとしていた轟悟に対して頭と心臓に当たるであろう部位を予備の得物で縫い付けていく。
(本当は天の逆鉾を頭に突き立てるのが一番だが、そしたら五条のガキを殺せねぇし勿体無い。
ここまで再生を妨害すれば時間切れで死ぬだろ。
チッ、大分離されたな。)
轟悟から視線を外して、高専の方へと目を向ける。
正門から離されたが未だに高専の敷地内、星漿体の暗殺に間に合うかどうかで言えばギリギリだった。
引くか否か。
(引くか。)
一瞬、『五条悟を超える』という誘惑が過ったが、伏黒甚爾に誇りや矜持なんてものは存在しない。
それに己を脅かすのは五条悟だけではないという事をついさっき経験した。
仮に五条悟を殺せたとして星漿体が同化してしまえば依頼達成とならない。
どう考えても時間が足りない。
呪術師殺しの名前に傷が付くが大した問題ではない。
この一件で舐めた対応されたらソイツを後悔させれば良い。
(しかも、あの小僧ご丁寧に急所じゃなくて四肢に来やがった。)
校門から引き離した時点で轟悟の目的は達していたのだ。
故にこっから先は憂さ晴らしである。
「このまま逃げれると思ってるのか?」
立ち去ろうとしたその時、最強が後ろにいた。
刺された服は破けているが家入の元に向かい傷跡は無く、友を失った同様もない。
あるのは冷徹な怒りのみ。
滲み出る呪力が空気を震わせる。
慢心の無い、最強がそこにいた。
その姿に伏黒甚爾は忘れていた笑みを浮かべ得物を構えた。
「イヤ、気が変わった。」
過程は変わらない。
慢心を無くそうと年季という実力差は変わらない。
高速立体機動と蠅頭のチャフによって暴君有利に進んでいく。
だが、ここに例外が一人いる。
(…チッ、ヤキが回ったな。)
天の逆鉾を突き立てようとした瞬間、まるでイタズラが成功した糞餓鬼の如く五条悟は嗤っていた。
その笑みに暴君が気付いた時には手遅れだった。
黒い閃光が走り、己の胸を後ろから右腕が貫いてた。
振り返ると、轟悟が立っていた。
頭と心臓に武器を突き立てられながら、全身が再生しながら崩壊を繰り返しボロボロの体で嗤っていた。
「…五条悟は囮かよ。」
捨てたはずの熱に浮かれた。
「バカは目立つからな。」
突き刺さった右腕が崩れて二人は同時に倒れ込んだ。
伏黒甚爾は前方に、轟悟は後方に。
「轟!!」
五条悟が駆け寄り、轟悟を抱きかかえようとするが、触れた部分から崩れ落ちていく。
「…俺の死に目に会えたって事は、仕事は果たした訳だ。」
「いや、天元の下には連れて行かなかった。」
「…だと思った。
ガキ一人犠牲にしなきゃいけない世界なんざクソ喰らえだからな。
…理子ちゃんに、傑を見張ってろと伝えとけ。
あの馬鹿は必ず折れるからな。」
天内理子にとって轟悟は三人の中で一番良い兄貴分だった。
夏油傑と轟悟は同じ一般の出自でありながら呪術師としてのスタンスで良く対立していた。
「静かにしろ!
直ぐに硝子が来る!」
「硝子か…。
…愛してるって伝えとけ。」
「自分で伝えろ馬鹿!!」
家入硝子への告白は1年生の頃、初めて会った時から毎日繰り返された恒例行事だった。
「…七海と灰原の…面倒しっかり見ろよ。
灰原は…根明だ…からすぐ…死ぬぞ。」
後輩である灰原と七海は地力を鍛えるために良く一緒に鍛錬を行った二人からすれば一番マシな先輩である。
「…死の間際って本当に…眠くなるんだな。」
六眼は轟悟から呪力が抜けていくのをはっきりと捉えていた。
残酷なまでに命が終わっていく。
「寝るな、しっかりしろ!!
死んだら殺すぞ!」
五条悟と轟悟は互いに名字で呼び合うが親友であった。
「五条、後は頼んだ。」
そして最期に呪いを残して轟悟は逝った。
この世界線のメリット。
六眼、天元、天漿体の運命の結びが破壊されない。
夏油闇落ちしない、理子ちゃんが嫁。
天の逆鉾が無事。
灰原生存。
羂索が動かない。
この世界線のデメリット
禪院恵の誕生。
五条悟、反転術式に目覚めず。
家入硝子に消えない傷跡。
主人公はこの後、家入によって反転術式で綺麗な体にされて体だけ生きてる植物状態で家入によって保存されてます。
もしくは縫い目をつけて再登場します。
後は拝みババアが暴君呼び出したら縛りが復活してワンちゃん。
拡張術式 武留虎万
轟悟が考案した拡張術式
三分間全身を強化して超パワーで敵を圧倒する。
使用すると半日術式が使えなくなる。
拡張術式 瞬勁
高専にあった強化術式の使い方の一つ。
殴打等の動きの一瞬だけ術式を使用する縛りで出力を上げる通常仕様での攻撃。