バフデバフ   作:ボリビア

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今回のは自信無いと予防線を張っておきます。
けど多分必要な話なので後々加筆修正するかもしれません。


畏れ恐れ

「はい、到着。」

 

 警察署を裏口から出たと思ったら、何時の間にか山の中にいた。

 

「…無限って万能過ぎません?」

 

「まあね、後、無限じゃなくて、僕だから万能なんだけどね、僕だから。」

 

 この人と会話するので大事なのはスルーするところはガッツリスルーすべきであると言うことだ。

 山の中、厳密には山と山の間と言うべきか。

 目的の山はここに着いた時点で気配がプンプンしている目の前の山だろう、全体に残穢が残ってる。

 残穢の感じから己の領域を示すという意図を感じる。

 こういう縄張り意識は動物霊の特徴だとか。

 後、普通に圧がすごい。

 

「この山そのものから呪力感じるってレベルなんですけど。」

 

「多分、ある種の縛りだろうね。

 この山から動けない代わりに呪力を得ている。

 さ、帳を降ろすから後頑張って。」

 

 何時も通りの軽さに逆に安心感を覚えて、術式を発動しながら山に一歩入った瞬間。

 

「っ!?」

 

 縄張りを荒らす者を許さんとばかりに、周囲の雪や地面が一斉に狼に変化し全身に噛みついてくる。

 

「先生、今の俺どうなってます?」

 

「うーん、暖かそう。」

 

(術式は何となく分かった。

 雪や土を媒介に狼の式神を作り出す術式と言った所か。)

 

 顔に食らいつく狼を剥がすと、既に百を越えるであろう狼が此方を殺さんと睨み付けている。

 どうやら此方が一般人で無いのは向こうも気付いてるらしい。

 チラリと後ろを見ると、何時も通りの余裕そうな態度で木により掛かってる五条先生の周りには狼はいない。どうやら術式の範囲はこの山限定らしい。

 一応本物かもと試しに、体に食らいつく狼のうち一体の皮を剥がそうとするとやはり耐久力が失くなったのか霧散していく。

 

「毛皮の採れない狼なんて価値ゼロじゃん。」

 

 ネタは割れた、さっさと本体を見に行こうと思い勢い良く駆け出して山頂を目指す。

 残穢の濃さからいって呪霊本体は山頂に居るのは分かっている。

 食らいついていた狼達は速さに耐えきれず振り落とされて、周囲の狼が行かせるものかと殺到するがそもそも追い付けない。

 正面の狼を打ち砕き、駆け上がり山頂へと進むと赤黒い物体が現れた。

 

(みーつけた!)

 

 山頂にいたのは赤黒い、皮のない家一件位の巨大な人狼だった。

 全身から血を垂らし、呻いてる姿に最初は巨人かと思ったが、被害者達の皮らしきモノを無理矢理張り付けた人皮の頭で狼だと分かった。

 

「ニ、ニンゲン、カワ、ハ、ハグ、イタイ、イタイ、イタイ。」

 

 言葉を話すが支離滅裂、人狼なのはカムイが獣の衣を纏って人の世に潜むとかの伝承からか、単純に狼を絶滅させた人間への畏れからか。

 呪力の量、姿、術式、わずかな知性、どれをとっても二級とは到底思えない。

 

(けど、この程度なら問題ない。) 

 

 山頂まで駆け上がった勢いのまま、人狼に突っ込み取り敢えず目の前にあった右腕を引きちぎる。

 次に左腕、次に腸、次に足と人狼の悲鳴をBGMに解体を進めていく。

 取り巻きの狼達が殺到し、背中や手足に噛み付いてくるが俺の皮膚を突き破る事も圧迫する事も出来ず、多少作業時間を遅らせるだけでしかない。

 核となる頭以外を解体して一つずつ検分していく。

 

「なるほど、ここまで呪力がしっかりしてると一応筋肉や骨もしっかりあるんだ。

 厳密には骨や筋肉として機能する呪力があるというべきか。

 都会のは負の感情メインだから中身が無いっていうかグロテスクなだけなんだよね。

 こういうのも二級との違いなのかな?」

 

 頭以外全てをバラバラにして分かったのは、強い呪霊程、内部がしっかり存在するということ。

 内臓はそこまでしっかりと出来てないが、筋肉や骨等の骨格部分は生物とあまり変わらない構造をしている。

 

「ヒト、カ、ワ、ハグ!」

 

 まだ吠えるかと、そう思って顔を上げると、自分に噛み付いてきた狼や山全体から呪力がいつの間にか消えている事に気付いた。

 いや、消えてるのではなく集まっている。

 人狼の頭に集まっているのだ。

 

(なるほど、術式を放棄して呪力による強化にシフトした訳か。

 一級レベルの呪霊による肉弾戦、面白い。)

 

 人狼の頭からモコリと血肉が流れだしゴポリ、ゴポリと形を成し、山全体に張り巡らせた呪力を携えて元の姿以上の大きさへと戻っていく。

 

「カワ、ハグ。」

 

「うーん、三階建てって感じかな?

 後、皮、皮煩いな。

 毛皮もないお前にくれてやるモノなんて無いよ。」

 

 軽口を吐いた次の瞬間、地面に叩き付けられた。

 跳躍した人狼は俺を真上から叩き潰し、雪を吹き飛ばし、地の底へと落とさんとばかりに追撃の拳を叩き込み続ける。

 

「腰が入ってないよ、腰が。」

 

 全身に殴打の痛みが走るが、ダメージとしては軽い。

 殴ってくる拳を掴んで無理矢理放り投げて脱出する。

 

(だけど、防御は此方が上だけど速さは向こうが上か、少しギア上げてみようか。)

 

 呪力を更に一段階込めて自身のパラメーターを更に引き上げる。

 体感的にさっきの倍の強化、呪力消費的に持って六時間だが十分だろう。

 地を蹴り、空を飛び放り投げた人狼の背中に乗り、両腕を掴み思いっきり背中を蹴る。

 両腕が肩から引きちぎられる形で地面に落下した人狼は即座に立ち上がり回復ではなく迎撃を選択し、落ちてくる俺に対して噛み砕かんと跳躍するが、今の俺には完全に見えている。

 千切った両腕を嫌がらせとして五条先生の居るであろう場所に投げ捨て、跳んできた人狼の上顎と下顎を右手と左手で掴み思いっきり引きちぎり、剥がした下顎をクッションにして着地した。

 

「あ、そうだアレを試そう。

 ほらさっさと起きてこい。

 ほら、お前の嫌いな人間ここに居るぞ?

 それとも縛りを破る覚悟で逃げるか?」

 

 この山に居るという縛りを破れば、こいつは術式も呪力も失い、只の野犬と変わらぬ呪霊に堕ちる。

 それはそれで簡単に仕事が終わって良いがまあ無理だろう。

 

「カワ、ヒト、コ、コロス!」

 

 知能があっても知性がない叫びと共に再生を終わらせた人狼は再び挑んでくる。

 

(さてと、試すか。)

 

『加点法 一迎特化』

 

 軽く人狼にタッチしてゆっくり距離を取ると、人狼は眼で捉え、俺を叩き殺そうと腕を振り上げて力を込める。

 

「はい、アウトー。」

 

 そして力を込めた次の瞬間、グチャリと内部が砕ける。

 腕だけではない、全身のありとあらゆる部位が砕けてその場に崩れ落ちる。

 

「成功、成功。

 自分の考えが実戦で役に立つって気持ちいいね。

 畜生、良く聞け。

 俺の術式、加点法は対象の持つ性質を強化する事ができる。

 俺はお前にさっき触れた瞬間、全身の力のみを強化した。

 意味がわかるかワンちゃん?」

 

 力だけを強化された筋肉は力んだ瞬間、己の力に耐えきれず自壊したのだ。

 人狼が腕を振り上げて全身を力ませた瞬間、全身の筋肉は耐えきれず千切れ崩れ落ちる事になった。

 

「おっと再生しても無駄だ。

 お前はさっきから再生を繰り返して呪力を消費してるが俺はまだ全力を出していない。

 あと六時間は戦えるが試したい事も出来たし、明日は入学式があると思うから、そろそろ終わろう。」

 

 崩れ落ち、再生しようとしてる人狼の頭に足を乗せて踏み潰す。

 核となる頭を潰された人狼の体は再生をやめて只の呪力へと戻って消えていく。

 山頂から登ってきた麓に戻ると、五条先生が待っていたので報告する。

 

「多分、終わりました。

 土地神とかそういう系統ってめんどくさい処理って有りますか?」

 

「メジャー級なら神社とか縛りとか必要だけど今回のは特に大丈夫かな。

 後さ、途中僕めがけて血塗れの腕が飛んできたんだけどわざと?」

 

「さあ?

 それよりも、さっさと戻りましょうよ。

 明日って入学式とかあるんでしょ?」

 

「そんなもんウチにはないよ。

 でも歓迎会開くから、楽しみにしてね!」

 

 あ、そうなんだ。

 入学式ないならもうちょっと遊んでも良かったかな?

 

 

 

 

  

 

 




新しい技。

加点法 一迎特化
 パラメーターの一つだけ強化して相手のバランスを崩したり自壊させたりする。
 今回は筋肉と出力のみを強化して自壊させたが、皮膚を硬化して間接固めたりとか色々と出来る予定。

オリジナル呪霊

人狼

 カムイ伝説やら絶滅した狼やら狼絶滅させた人間の残酷さやらへの畏れや恐れが合わさって生まれた皮の無い人狼。
 術式は土や石、雪等の地にある物を狼に変える。
 縄張りから動かないという縛りで呪力を得ているが、生まれたばかりで弱かった。
 もうちょっと知性があればもう少し強かった。

主人公の容姿

黒髪黒目のTHE日本人。
笑うというより嗤う笑顔が特徴。
身長175cm
体重65kgの標準体型。

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