三日後、俺は伊地知さんの運転で東京駅へと向かっていた。
(絶対、胃カメラと直腸検査いらなかった…!)
まだ、違和感のある尻と共に二日間の健康診断を思い出す。
結論から言うとやっぱり高専まともなのいねーや。
一日目はMRIやら使った脳の検査中心に行われてここまでは普通だった。
二日目は朝食抜きで下剤を飲まされて、腸内カメラと胃カメラから始まり、血液採取、全身の細胞を治すからと言いながら家入先生は容赦なく採取していった。
(流石に睾丸は勘弁してくれと土下座したが、あの目はマジでやるつもりだった。)
京都は大丈夫なんだろうか?
「伊地知さん、京都の高専ってどんな感じなんですか?」
「そうですね、私も管轄がこちらという事もあり半年に一度程しか向こうの方にお会いした事はありませんが、此方と変わりはないですよ。」
「え、向こうにも五条先生みたいなのは居るんですか?」
「さ、流石に居ませんよ。」
五条先生みたいな人間性天与呪縛が二人もいたら地獄である。
良かった、京都校はまともそうだ。
愚痴やら雑談やらをして暇を潰していると、車が停まった。
「ここからは、人気が多くなるので徒歩でお願いします。
試験、頑張ってください。」
「やっぱり、伊地知さんが一番まともですね。
お土産一番高いものにしときます。」
東京駅で駅弁を幾つか買い込み、京都に向かう。
駅弁は基本的に割高だと思うが、春休みの呪霊狩りのお陰で大分懐が暖かい。
二時間ほどの合間を三つの駅弁を食べながら過ごし京都へとたどり着いた。
(確か、迎えが来るって話だったが。)
ホームに降りて辺りを見渡してもそれらしい人はいない。
ならば、改札を出た辺りかと案内板を見ながら向かうと改札の外にスーツの女性と高専の服を来たばかでかい男が立っているのに気付いた。
彼らだろうと思い、改札を抜けて向かう。
「お前、轟悟だな?
好きな女の好みはなんだ?」
出会い頭、確認しようと思ったらいきなり女の好みを聞かれた。
どうやら、京都もマトモじゃないらしい。
「女の好みには、ソイツの個性が出る。
つまらない奴は女の好みもつまらない。
俺はつまらない奴が大嫌いだ!」
黙っていると、頭のオカシイ男は質問の意味を説明してくる。
周りの一般人も何だこいつはと視線を寄越し、男と一緒にいたスーツの女の子は頭を抱えている。
(まず誰だこいつ?
…あ、真希先輩が言ってたな、頭のイカれたゴリラがいるって。)
「…あんた、もしかして東堂葵か?」
「ああ、そうだ。
さあ、女の好みを言え!
男でも良いぞ。」
改めて男の容姿を確認する。
パイナップル頭、額から左目にかけての傷痕、体格はゴリラに相応しい筋肉を纏っている。
身長もかなり高いし、肉弾戦主体の呪術師だろう。
(これで、葵とか詐欺だよな本当。
…人の目が辛いし答えてさっさと移動するか。)
「尻も胸もあるけど無駄な肉が無い女。」
「…身長は!!」
「低いより高い方がいいな。
答えたからさっさと移動させて…!?」
俺の回答に対して東堂葵の回答は涙だった。
大男が静かに涙を流す。
字面だけでも最悪だが、女の好みを聞いて流す涙はこの世にあってはいけないと思う。
東堂は涙が溢れないようにするためか天を見上げている。
「…素晴らしい。
俺と同じ位を目指す人間はやはり女の好みも素晴らしい。」
「どうでも良いから、今すぐその体勢を止めろ。
昭和の名曲を汚すな。」
上を向いて歩いたら殺すぞ。
「マイフレンドよ、お前と共に任務に付く日を楽しみにしている。」
東堂は俺の横を通り、改札へと歩いていった。
「え、お前迎えじゃないの?」
「ん?
違うぞ、高田ちゃんの写真集発売記念握手会に向かうための新幹線がたまたまマイフレンドの来る時間と被っただけだ。
ふ、俺と共に任務に就きたい気持ちは分かるが焦るな。お土産に写真集をやろう。」
くたばれ。
今度こそ、バカは改札を通り駅の中へと消えた。
短くてすまない。
お詫びに、これを読んだ君たちには「上を向いて歩こう」を聞くと東堂葵を思い出す呪いを授けよう。