京都に着いたその日の夜。
そろそろ、夕食かなと思い始めた頃に加茂先輩が現れた。
どうやら夕食時に歓迎会を開いてくれるらしい。
「一応、今向かってる広間が食堂なんだけど基本的に呪術師は少数精鋭で任務もあるから使われる事は滅多にない。
だから今回みたいに集まるのは珍しい。
さ、入って」
食堂か。
確かに東京の寮でもそういうのはなかった。
まあ、依頼で各地飛び回る事も多いだろうし食堂の稼働率は低そう。
促されて中に入ると、既に京都校の生徒達は座って並んでいる。
広間の中心に並べた長机に4人が正座している。
お誕生日席と上座が2つ空いているが片方は加茂先輩で片方は恐らく東堂だろう。
(歓迎会の主役とはいえお誕生日席は嫌だなあ。)
何かこう、京都フィルターと呪術師の人間性の悪さから嫌味にかんじてしまう。
(あ、三輪先輩見れば嫌がらせかどうか分かるか。)
術式で強化された眼で三輪先輩を確認する。
脈拍、緊張等は無い。
どうやら此方の思い過ごしらしい。
「どちらに座れば?」
「主役だから当然一番上座だよ。」
一応確認したが、普通に歓迎会ぽい。
広間を進み指定された席に座る。
「真依、東堂は何処に?」
「何で私に聞くのよ。
知らないわよ。」
真希先輩が化粧したらこんな感じかなと思う女性に加茂先輩が東堂の居場所を聞いているが知らないらしい。
奴なら東京だぞ。
「あのー、東堂先輩なら何時もの握手会です。
一応、轟君を迎えにいく時間と東堂先輩の出発する時間が被ったので顔合わせは済んでいます。」
恐る恐るといった感じで三輪先輩がフォローを入れる。
ビビっているというよりこれが素なんだろうな。
「まあ良い。
さて歓迎会を始めようか。
先ずは自己紹介からさせてもらうよ。
改めて私は三年の加茂憲紀、準一級だ。」
「じゃ、次は私ね。
三年、西宮桃、二級。」
興味無さそうな感じに自己紹介してくれた西宮先輩は魔女風の黒いローブで小柄なのもあって魔女っ子感あって可愛らしいのだが、耳にがっつり開いたピアスで逆にやべー奴感が凄いが、ピアスや刺青は威嚇の意味合いが強い事をふと思い出した。
所謂警戒色、蜂の模様見たいに目立つ事で自分を守る為のピアスなのかもしれない。
「二年、メカ丸。
準一級ダ。
この機体は傀儡操術で操っていル。
…驚かないのだナ。」
(…京都の色物枠か。)
「東京にも喋るパンダがいるんで。」
「本当にパンダなのカ…。」
恐らく木製の人形傀儡。
喋り方は少し独特だが流暢で高性能なロボットである事が伺える。
それよりも驚いたのはこの傀儡に込められた呪力量だ。
この中の誰よりも呪力が全身を走っている。
これを維持するなら相当な呪力が必要だがどういう仕組みなのだろうか。
「私は二年の禪院真依、禪院先輩だと真希と被るから真依って呼んでね。」
加茂への悪態から打って変わって、ニッコリと笑みを浮かべる姿は様になっている。
雰囲気や顔立ちから真希先輩に似ていると思ってたが年齢も同じだし恐らく双子の姉妹だろう。
(名字で呼んでほしくない所とかそっくりだな。)
姉妹で京都と東京に離れた学校に通うのは何かしら理由が在るのだろうが、まあ恐らくお家の事情というヤツだろう。
「私で最後ですね。
二年、三輪霞、三級で「そして、俺が三年の東堂葵だ。」
三輪先輩の自己紹介を塗りつぶして東堂が自己紹介を挟んできた。
いつの間にか、空いていた席に座っている。
「マイフレンド、遅れてすまない。
写真集と一緒に渡すブロマイドをどれにするか悩んでしまってな。」
「いや別にお前の推しに興味無いから。」
「興味が無いなら興味を持てば良い。
心配するな布教活動も未来の夫として当然の務めだ。」
気持ちわりーなこいつ。
東堂から手渡された写真集とブロマイドを一応受け取りながら他の京都生に眼を移すと全員が顔をしかめていた。
表情の無いメカ丸先輩ですら面倒くさいというオーラを出している気がする。
やっぱり東堂は嫌われているらしい。
「東堂、後にしろ。」
「さ、写真集を見てみろ。」
忠告をガン無視された加茂先輩は溜め息を吐いて、さっさと見てしまえと俺に目で訴えてくる。
東堂と会うのは二回目だがこいつが面倒くさいのは駅での一件で良くわかっているし、取り敢えず写真集開く。
パラパラとめくると、件の高田ちゃんと呼ばれるアイドルの水着やらお洒落な服やらの色んなポーズが目に入ってくる。
「どうだ?」
「背も高くて胸も尻もあって良いけど、もうちょっとスポーティというか引き締まった感じがいいな。」
写真集にはムッチリとした肉感を感じつつだらしなさを感じない絶妙な男性の心くすぐる高田ちゃんが沢山いたが
個人的には、うっすら筋肉を感じる位に無駄な肉が無い方が良い。
「なら、去年の夏に出た写真集とライブの映像ならお前もハマるだろう俺の部屋に行くぞ!」
「行くかバカ。」
俺と東堂の会話に対する反応は男女で思いっきり別れた。
最初は全員、三輪先輩以外が東堂に気に入られている事に驚き、俺が高田ちゃんの写真集を評価し始めると女性陣が軽蔑の眼差しを向けてきた。
特に西宮先輩はゴミを見る目で此方を見ている。
真依先輩はさっきまでのスマイルを辞めて食事を始めているし、三輪先輩は苦笑いが止まらない。
メカ丸先輩はさっきから目に光が無い、というか電源落としてないかあれ。
「…はぁ、もういい。
食事をして終わろう。」
遂に加茂先輩も匙を投げて食事を開始する。
こうして俺の歓迎会は俺の自己紹介なく終わった。
俺も隣で高田ちゃんの魅力を語る東堂の話を聞き流しながら食事を終えた。
京都編は展開に詰まったら東堂を投げ入れます。