バフデバフ   作:ボリビア

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本編
スカウト


 生まれた時から、いや違う。物心着いた頃から俺は凄い力を使えた。

 筋肉とは違うそれを手に込めれば簡単に石を砕けたし、足に込めればオリンピックなんて屁でもない。

 目に込めれば千里を見据えて、耳に込めれば聖徳太子を越える。

 皮膚なら金剛、傷口なら修復される。

 それになんと、物にも込められる!

 服は鎧に、ナイフは名刀になる!

 圧倒的力、圧倒的万能感!

 …だが悲しいかな、出る杭は打たれるように突出しすぎたこの力は人様に見せればめんどくさい事になる。

 聡明な俺はそれを幼いながらにぼんやりと分かっており、人前では見せなかった。

 だが奮いたい!

 この力を思いっきり使いたい!

 その願いに応えるように相応しいサンドバッグが身近にいた事は幼少から今に続く幸いだろう。

 人の目には見えないグロテスクな化け物。

 普通の人には見えないそれは、力を込めた状態なら触れるし殴れる。

 しかもそいつらは明らかに人に害を与えていたので大義名分としては十分だった。

 化け物を倒すヒーローという分かりやすい構図。

 何故かそいつらは学校や駅等の人が集まりやすい場所に現れるため、夜中にしか戦えないのが問題だが。

 そうやって俺は欲求を満たす為に戦い続けて中学三年生の卒業式、はじめて敗北した。

 卒業式も終えたその日の夜。

 高校は県外なので地元での最後の大仕事として、百葉箱に潜む化け物を退治しようとしたのだ。

 それに気がついたのは中三の春、何時も通り町内パトロールの一環で学校を見回った時に百葉箱から強い気配を感じたのだ。

 最初は気の所為かと思ったが日を追う毎に気配は強くなっている。

 それに比例して百葉箱の近くにある運動場の一角は日陰で涼しいのにも関わらず、体育の時間も夏休みの運動部も近寄らなくなっている。

 そして秋にはついに百葉箱の近くで告白しようとした男とされた女が倒れる事件まで起きた。

 その時点で俺はあれがラスボスだと確信した。

 どんどん気配が強まるし、恐らく卒業式位の時期には封印が解けて出てくるだろうと判断した。

 だから俺は卒業式の後、深夜に学校に侵入して百葉箱を開けたのだ。

 中にあったのは黒い石だった。

 黒ずんでボロボロの紙切れに包まれた小さな石。

 

(気配は確かにこいつからする。

 黒ずんだ布も文字みたいなのが読めるし、曰く付きって感じがするがそれだけだ。)

 

 月にかざして観察したが只の石ころ。

 

「マジかよ、本当に只の石ころかよ。

 こう封印が解けてモンスターが現れるとかじゃないのかよぉ」

 

「いや、只の石ころじゃないからそれ。」

 

 突然話しかけられた。

 つい全身に力を込めて振り返ると一人の男が立っていた。

 先ず思ったのが背が高いこと。

 次に思ったのが黒いという事。

 

「…あんた誰?」

 

「えー、と東京都立呪術高等専門学校の一年担当五条悟!

 それの封印が解けそうだから回収しに来た。」

 

(う、胡散臭せー!

 俺の力があるから呪術は多分あるんだろうけど、こいつそのものが纏う雰囲気が胡散臭すぎて信用出来ねえー!)

 

「取り敢えずそれ頂戴ね。」

 

「あっ。」

 

 気がついたら五条悟は俺の隣で俺の持っていた石ころを摘まんでいた。

 

(今の俺が見えなかった!?

 五感も強化してるんだぞ!?)

 

 胡散臭いがどうやら本物らしい。

 

「あれ?

 封印大分前から解けてるじゃん。

 でも君のお陰で被害がなかった訳か。

 君だろ?

 この町の呪い祓ってるの。」

 

 あのグロテスクなモンスターは呪いなのか。

 

「よく人が居るところに沸いてくるグロテスクなモンスターの事なら多分そう。」

 

「へえー、いいね。

 呪いの性質を朧気ながら掴んでる。

 君さウチ来ない?というか来て。」

 

 ウチというのは多分、自己紹介の時に名乗った高校の事だろう。

 自分の力の正体を知る為にも入る価値はあるのかもしれない。

 知れないが、大事な事が一つある。

 

「そこ入ったら、今より強くなれて力を思う存分振るえる?」

 

「勿論!

 バンバン使ってもらうよ!

 強くなる点について、君は才能ありそうだし僕に並ぶかもね?」

 

 並ぶかもという事は俺はこの男より弱いらしい。

 なら試させて貰おう。

 不意打ちで全身に力を込めた上で拳に更に力を込めて、隣の長身に思いっきり殴り付ける。

 

「ッ!?」

 

 全力で殴ったのに、傷一つ、いや届いていないのか!

 

「なるほど、君が今やったそれは単純に呪力を込めた攻撃だと思っていたけど、強化そのものが術式な訳か。

 いいね!

 ああ、僕に届いてないのは単純に相性の問題だから気にしないで。」

 

 術式やら呪力やら語るがどうでもいい。

 分かった事は俺は五条悟より弱いという事。

 そして、力を思う存分振るえる環境があるという事。

 

「手続きとか親の説得をそっちに丸投げして良いなら入る。」

 

「いいよー!

 (伊地知に丸投げしーよっと。)

 あっ、そういえば名前何て言うの?」

 

「轟悟」

 

…本当に大丈夫か?

 

「わ、僕と同じ名前じゃん!

 運命感じちゃうねぇ!

 じゃ、詳しいことはまた後日お家にお邪魔して話すから今日の所は解散で。

 バイバーイ!」

 

………本当に大丈夫か?

 俺はスタスタと帰っていく自称教師の背中を見ながらそう思った。

 いや、あれで教師は無理だって。

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