停学が明けて暫くが経ち、準一級になったがやることは春休みと殆ど変わらない。
呪霊がいる可能性のある場所を調査して祓う、被害者を救出したり遺品を回収して報告書に纏める。
これの繰り返しでたまに呪詛師案件を回される。
俺が一年であるという点から殆ど一級の補助がメインであるが。
「今回の任務は頭に入っていますか轟君。」
「学生相手にタチの悪い粗悪品の呪具をおまじないとして売り付ける奴の摘発です七海さん。」
「よろしい。」
「にしても、子供を食い物にする奴ってどの業界もいるんですねぇ。」
「知ったような事を言っていますが君も私から見れば子供で学生です。」
校門の前で学生達を眺めつつ七海さんと雑談をしながら放課後で帰宅してくる学生を待つ。
七海さんは出会った一級術師で一番まともな人間だ。
呪術師だから少しずれているけど、ちゃんと大人としての努めを果たそうとしている。
俺の方が強い事を認めた上で。
どっかの銭ゲバと偉い違いである。
「いやまあそうなんですけど。」
件の呪詛師は中学生相手に己の術式を込めた呪具を『夢の割符』と称して安く売り付けているのだが、手口が最悪なのだ。
夢の割符とやらの売り文句は『嫌いな相手を考えながら眠りに着くと夢で呪いたい相手を好きに出来る。』である。
要するに夢の中で嫌いな奴を殴れるよって訳だ。
それだけなら一件問題ないが、その夢は相手も見る事になる。
嫌いな相手をボコボコにした上でボコボコにされる悪夢も見せられるという正に呪いの道具。
呪詛師はそれを学校全体にばら蒔いた。
中学生というのは純粋な人間関係からグループカーストやら集団としての価値を見いだして固執し始める時期であり、三人よれば派閥が出来るように人間関係は複雑怪奇、仲良しグループが実は互いに嫌いあっていたり、マウントを取り合っていたりでお互いに本音を隠しながら生きている。
彼ら全員に行き渡る様に呪詛師は売り付けた。
悪夢の見せ方と誰が自分に悪夢を見せているのか分かるように。
結果、学生が学生を呪い合う地獄が生まれた。
さらに負の感情が加速すればするほど、呪いは強くなり悪夢はより残虐になる。
地獄が出来た頃に再び呪詛師は中学生の前に現れて今度は悪夢から守る呪具を高額な料金で売りにやってきた。
それはノーガードの殴り合いの中で盾が得られる様なもの。
一方的に攻撃出来る権利を得るために中学生は金を集めに走る。
だが呪詛師の提示する金額は中学生の感性では巨額と言って過言ではない。
親の財布から金を取るならまだ可愛い。
それでも足りない場合、バイトも出来ない中学生の出来る手段は犯罪しかない。
地獄が街全体に広がり始めて騒がしくなる一歩手前で呪詛師は金を巻き上げて消えていった。
確認されただけでも既に三校が呪詛師の犠牲になっている。
「で、実態が判明し、呪具を回収した後も精神に傷を負った中学生の半分以上は社会復帰出来ずと。」
「ええ、なので今回は必ず捕まえます。
最悪事態が収集するなら命の保証は要りません。」
切っ掛けは『窓』と呼ばれる一般人の協力者からの通報である。
子供が呪具を持っていたという通報から過去の事件が明るみになり、現在進行形で呪詛師がターゲットにしてる学校に呪術師が派遣される事になったのだ。
「今はまだ出回り始めたばかりなので、割符を安く販売している段階です。
生徒達から何処で購入したのか聞き出して活動拠点を突き止めます。」
チャイムがなり、暫くすると下校する中学生が続々と校門から出ていく。
今回、派遣された呪術師は俺と七海さんの二人だけだが補助員は複数人動員して人海戦術で事に当たる。
「では私と補助員は街中で、轟君は校内をお願いします。
何か分かれば直ぐに連絡を、それと深追いはしないこと。」
「了解です。」
社会人である七海さんや補助員の皆は街中で呪具を持っている人間に尋問をし、俺は用意された制服で校内を探し始めた。
呪詛師の犯行に関しては貝木泥舟の手口を参考にしています。
我ながら酷い事件だと思う。
子供を精神的に追い詰めて金を巻き上げてトンズラですからね。
しかも貝木と違って誰が誰を呪ったか分かる状態というね。
次の投稿は暫く時間かかるかもしれません。