「宿難の器を保護したって聞きましたよ。」
「器じゃなくて虎杖悠仁だよ。」
電話から数日後、任務から帰ってくると五条先生が宿難の器を保護していた。
話の概要は伏黒から聞いたが、どうにもきな臭い。
なので、五条先生に確認しに来た。
「五条先生は偶然だと思いますか?」
「いや、仕組まれてるでしょ。
悠仁の存在が偶然だとしても、直ぐ側にあそこまで封印の弛んだ宿難の指があるのは変だしね。」
というか、封印されているとはいえ特級呪物は仕舞い込んで置くべきだと思うのだが。
いやでもそうすると学校中に呪霊が沸くかもしれない。
移動中に新田さんから聞いた話だけど、呪物の設置を拒否した学校で不審死が相次いだとかあるし。
「多分、黒幕は先生が保護する事を前提で仕組んだと思いますよ。」
虎杖悠仁は本来なら即秘匿死刑になる筈だったのを五条先生が『全ての指を回収するまで。』という実質的に無期限の引き延ばしをした。
黒幕は恐らく五条先生が動くと仮定しているはず。
だが、あくまで引き伸ばしただけであるし、上は虎杖悠仁の暗殺を考えている可能性もある為、虎杖悠仁の命は完全に保証されている訳ではない。
(ということは、五条先生の動きを織り込んだ上で虎杖悠仁は失敗してもいいスペアプランの可能性がある。)
「まあ、情報が少なすぎて何を仕組んでいるか分からないから敢えて乗るしかないでしょ。」
確かにその通りだ。
敵が何を企んでるのか分からない以上、怪しいからと虎杖悠仁を殺すのは少し忍びない。
向こうからしたら死刑執行されても痛くも痒くもない可能性もある。
「まあ、そうですけど。
でも一つ言える事は、向こうは五条先生の性格を把握してるって事ですよ。
心当たりあります?」
「一人いたけど、死んじゃった。」
「あっハイ……」
恐らく、夏油傑の事だろう。
去年、京都と東京で大規模な呪霊テロ『百鬼夜行』を行い、当時一年の乙骨先輩に敗北し五条先生によって処刑されたと聞いている。
「ま、そういうのは僕が考えとくからさ、轟はもっと青春した方が良いよ。
彼女作るとか。」
「真希先輩には乙骨先輩がいるし、他の女性は京都校だから俺出禁でダメで在学中の期待ゼロなんですけど。
つーか、青春させたいなら自分の任務を丸投げするの止めてくださいよ。
先生への嫌がらせ目的なのか、僻地ばかりだし。」
五条先生は自分の任務を生徒に丸投げする悪癖がある。
任務のレベルは問題ないのだが、場所が僻地だったり果ては海外だったり、重要文化財だったりと明らかに五条先生への嫌がらせ目的としか思えない内容なのだ。
「京都は自業自得だから僕に言われてもねー。
あ、そうそう六月に一年が一人入るけど女子だよ。」
任務の事は無視ですか、そうですか。
「悠仁の事は僕に任せて轟はせっかく増えた新しい仲間なんだから仲良くやってよ。
まあ、悠仁の事で僕の心配をしてくれるのは嬉しいし、進展あったらまた意見聞かせてよ。」
「先生というより、自分の周りの心配なんですけどね。」
五条先生は最強だけど絶対ではない。
今回の虎杖悠仁の件は五条先生の性格を理解した上での策と俺は考えている。
つまり、黒幕は最強の呪術師五条悟ではなく五条悟個人に対する策を用意していると考えるべきだろう。
「それでも、周りの事を考えて僕に質問してきたんでしょ。
ま、最悪僕に何かあったとしてもその時は轟がいるしね。
最近本気出せてないでしょ?」
「…信頼には応えますよ。」
本気を出せていないというより、本気を出せる相手がそれこそ五条先生しかいないのだが。
「よし、話し合いも終わったし、一年生が増えた記念にパーティーしよう!
地方から出てきたから、東京パワーを見せつけてあげよう!」
好きだなパーティー、というか東京パワーって輸送費で跳ね上がってるだけで地方の方が名物に関しては安くて旨い気がするのだが。
「先生がそういうスタンスなら俺は虎杖悠仁を歓迎しますよ。
取り敢えず会ってきます。
寮に居るんですよね?」
「うん、三人とも並べてあるよ!」
わざわざ空きが沢山ある寮でその配置は善意か悪意か。
というわけで、任務帰りということもあり寮へ真っ直ぐ帰ると扉の前に誰かいた。
桃色の髪の毛で横は刈り上げている、確かツーブロック?分からないけど刈り上げた部分は黒いから染めているのだろうか。
お洒落は知らんから良く分からないが、着ている高専の学ランも相まって不良にしか見えない。
「人の部屋の前でどうした虎杖悠仁。」
「お、あんたが轟か。
同じ階の隣に越してきたから挨拶をって何で俺の名前知ってるの?」
「五条先生に会ったからな。
取り敢えず中入ろうぜ。」
第一印象は年寄りとかに優しそうなヤンキー、中に両面宿難がいるらしいから少し警戒してたが損したな。
「おー、やっぱり部屋の作りは一緒か。
って筋トレグッズスゲーな。」
「寮なんだから当たり前だろ。
コーラで良いか。」
返事を聞かずに缶コーラを投げ渡す。
家の冷蔵庫にはコーラと炭酸水しかない。
炭酸水は俺専用でコーラは真希先輩が何時来ても良いように缶で常備している。
コーラは缶が一番旨い。
「ありがとう。
お、缶コーラじゃん。
一番旨いよな。」
話が分かるな。
「改めまして。
今日から同じ階に住む一年生の虎杖悠仁!
よろしく!」
「ご丁寧に。
一年の轟悟だ。
名前が五条先生と被るから名字で呼んでくれ。」
差し出された手に応えて握手をしながら、虎杖を観察してみる。
(物理的には普通の人間って感じだし、呪力も普通。
宿難の器って感じには見えないが。
…いや、五条先生を信用する事にしたし、放置でいいか。)
「これから大変だと思うが、頑張れよ。」
軽く会話した感じ、虎杖は善人タイプな感じがする。
呪術師には珍しいタイプだし、飄々とした態度から自分の死を承知している此方が死にたくなる様な根っこからの善人タイプの可能性がある。
20本指集めて死ぬ事にポジティブなのは良いことなのか分からないが、近くにいて害にはならないだろう。
「あ、グラビア。」
考え事していると、暇だったのか部屋をキョロキョロ見渡して東堂の置き土産を見つけられた。
「やるよそれ、引っ越し祝いだ。」
「え、いいよ別に。
アイドル興味無いし。」
「…アイドルって知ってるなら受けとれ、返品不可だ。
鍋敷きにでもしとけ。」
取り敢えず、写真集を押し付けよう。
主人公は今の段階で色々疑ってます。