バフデバフ   作:ボリビア

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7月の死

 7月の始め、虎杖が死んだ。

 繁忙期も終わる頃に入った札幌からの応援要請を受けて夜中に帰ってきたら、そんな話を補助員から聞いた。

 取り敢えず、気になる事があるので虎杖の死体を見に行く。

 昨日死んだらしいから、多分家入先生の所だろうし、五条先生も昨日まで出張だから会えるかもしれない。

 にしても、陰謀の臭いがプンプンする。

 

(未確認特級呪霊に一年三人を派遣…。

 普通に考えたら五条先生への嫌がらせ兼器の殺害が目的だと考える。

 けど、そこまで露骨な事するか?)

 

 特級呪霊の可能性のある案件で生死不明の一般人5名の救出に一年生を派遣するという判断がおかしいのは俺でも分かる。

 いくら五条先生が出張で虎杖抹殺のチャンスだとしても、誰かがおかしいと止める筈だ。

 しかし、現実に虎杖、釘崎、伏黒は派遣された。

 つまりそれだけ上層部は腐っているという事だ。

 それでも、疑問が一つ残る。

 今回の一件は完全に五条悟を怒らせている。

 あの人が本気で動けば、上層部とやらは皆殺しだろう。

 宿儺の器が危険とは言え、死のリスクを抱えてまで実行する気骨がある人間がいるのか?

 それとも、五条先生を嘗めているのか。

 

(疑問はまだある。

 時期で考えても発生した特級呪霊には宿儺の指が関わっている筈。)

 

 少年院という場所自体はイメージから呪霊が生まれやすいが、特級呪霊となるとそうはいかない。

 特級クラスの呪霊は大勢の人間の共通の畏れが必要で、例えば流行り病や嵐、地震等だ。 

 少年院自体も軽く調べたが、曰くや怪談も確認されてないから特級クラスが生まれる可能性はゼロだ。

 だけど、呪霊が宿儺の指を取り込んでいたら話は別である。

 特級呪物、宿儺の指は呪力の塊、取り込めばどんな呪霊でも特級クラスの力を持つだろう。

 少年院にそんなものが転がってるとは思えない。

 

(でも、仕込みにしては虎杖が派遣されるかは運だし雑すぎる。

 偶然ならそれはそれで、切っ掛けは虎杖だよな。)

 

 虎杖は既に指を二本取り込んでるとこの前話した時に言ってたし、指が集まった事で刺激を受けた可能性もある。

 あ、上層部と例の呪詛師が組んでいる最悪の可能性もあるのか。

 じゃあ虎杖が死ぬ事は想定外?

 というか、虎杖が死んだ事自体少し気になる。

 虎杖が死んだという事は中にいる宿儺が自分の死を肯定したという事になる。

 まあ、呪いの王と呼ばれた存在だし、案外二度目の生に興味無い可能性もあるし、体の支配権は虎杖にあるから、宿儺にとってはある意味支配下にあるようなもの。

 王と呼ばれる様な存在が他人に縛られる事を良しとするとは思えない。

 

(…だからこそ敢えて死んだのか?)

 

 宿儺レベルの術者なら反転術式も習得している可能性が高いし呪力で仮死状態を作ることも難しくない。

 蘇生を条件にした虎杖との縛りを設けて自由を得る可能性がある。

 となると、絶対解剖するウーマンの家入先生が危ないかもしれない。

 早足で解剖室へと向かう。

 

「えー…。」

 

 扉を開けると、伊地知さんと家入先生と五条先生、それと解剖台の上で起き上がる全裸の虎杖がいた。

 

「お前、宿儺?」

 

「ちげーよ!

 後、轟服くれ!」

 

 まあ、虎杖が宿儺有利の縛りを受け入れる筈ないか。

 多分、時間制限と誰も殺さないとかで受け入れたのだろう。

 結構穴だらけの縛りだと思うが、善人で呪術師としての経験も浅い虎杖なら応じるだろう。

 これで宿儺はある程度の自由を確保してしまった訳だ。

 まあ、起きてしまった事は仕方ない。

 

「お前の小さいのな。」

 

「解剖台が寒くて縮んでるだけだから!

 普通にあるから!」

 

 でしょうね。

 でも今小さいのは事実だ。

 

「取り敢えず、これ着ろよ。

 全裸の変態から全裸学ランにレベルアップだ。」

 

 学ランを脱いで渡す。

 流石に中のシャツはやれないしな。

 

「伊地知、服とか用意してあげて。

 轟と硝子はちょっと来て。

 悠仁は待機で。」

 

 五条先生に呼ばれて外に出ると、嬉しそうにしながら虎杖復活の事は口止めされた。

 宿儺と虎杖の縛りについて考えてない訳ないのに、まだ生かすというのは先生らしい。

 

「悠仁はこっそり匿って暫く鍛えるんだけど、轟にも手伝ってほしい。

 呪力の基礎は教えるから、少し揉んであげて。」

 

「良いですよ。

 虎杖頑丈みたいですし。」

 

 伏黒曰く、砲丸を野球ボール見たいに投げれるらしいし。

 最近、頑丈な敵がいなくてつまらないから良いサンドバッグになるかもしれないし。

 

「今回の一件、どこまで偶然だと思う?」

 

「宿儺の器に散らばっている指が反応した可能性もありますし、呪詛師と上層部が組んでる可能性もありますし疑えばキリがないですね。」

 

 まあ、十中八九組んでるだろうが。

 

「そっか。

 一応、悠仁の周りの人間にも何かあるかもしれないから、過保護にならない程度で警戒しといて。」

 

 今回の一件を含めて生徒を強くする為の試練として見ているのか。  

 

「了解でーす。」

 

 

 




原作でも色々疑問に感じた一年派遣について
 ・黒幕の狙いは指を取り込ませると同時に強敵と相対させて宿難に有利な縛りをつけさせる。
 ・黒幕にとって虎杖死亡という結果はイレギュラーであった。

と考察。

 流石に上層部も嫌がらせだけで、あの判断を下すのは全員クビレベルの問題だと思うし。

最初は主人公も派遣されて、宿難VS主人公にしようと思ったけど。
・宿難が伏黒に何をさせたいのか分からない。
という点から主人公では宿難のお気に入りにならない可能性が高い為、蚊帳の外になりました。

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