バフデバフ   作:ボリビア

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今回は反応見て消すかも。


ジャージ

 釘崎との喧嘩から数日後、俺は再び東京・原宿にやってきていた。

 相変わらず人が多い。

 

「帰りたい…。」

 

「さ、行くわよ。

 着いてきなさい、荷物持ち。」

 

「荷物持ちって何だよ。

 ジャージ買ったら帰るぞ。」

 

「はぁ!?

 原宿来といて、ジャージ一つで終わりとか原宿バカにしてんの!?

 つーか、何で制服なんだよ、原宿だぞ、お洒落しろよ。」

 

 うるせぇ、ゲロ女。

 喧嘩の和解の証しとして釘崎のジャージを買うという事になり、渋々やって来た訳だ。

 最初は適当にアマゾンで選んで貰おうとしたら、ぶち切れられて無理矢理原宿に引っ張り出された。

 ただでさえ貴重な休日をなんでこいつと過ごさねばならないのだろう。

 帰りたい。

 

「別に良いだろ制服でも。

 学生だし、服考える必要ねぇし。」

 

「伏黒と良い、何でモテない男ってこうなのかしら。

 はー、やだやだ。」

 

「…もう、金渡して帰って良いか。」

 

「ダメよ。

 誰が私の荷物持つのよ。」

 

 どうやら釘崎の中では俺を荷物持ちにすることは確定らしい。

 まあ、これも煽りすぎたからだと受け入れよう。

 

「……分かったもういい、さっさと行こう。」

 

「分かれば良いのよ♪」

 

 降参の意を示して両手を上げると、ルンルンとスキップする田舎娘の後ろを歩く。

 キラキラしている目で原宿を見ているが、そんなに良い所だろうか?

 俺には分からない。

 竹下通りを進む釘崎が、一件の店で止まる。

 女性向けの服屋だが、どう見てもジャージは無さそうだ。

 

「ジャージ以外金出さないからな。」

 

「分かってるわよ。」

 

 外から店を眺めていたと思うとスタスタと歩き始めた。

 どうやらお目当ての店じゃないらしい。

 基本、外から眺めて気になったら中に入るを繰り返す。

 所謂、ウインドウショッピング的な事を繰り返す釘崎に着いて行きながら周りを見渡すとやはり、雑貨屋やら服屋が多い。

 流石ファッションの街。

 そこで、ふと思った。

 雑貨屋や服屋が多いからファッションの街なのだろうか、それともお洒落の街だから雑貨屋や服屋が多いのだろうか。

 多分、きっかけは一件の服屋とかでそっからブームが生まれて原宿=ファッションの街になったと勝手に思うが。

 

(…そう考えると呪霊と似ているな。)

 

 呪霊が発生する条件もある意味、原宿と一緒である。

 大なり小なりの何かしらのイベントに対して、人々が反応して噂が出回り共通のイメージが生まれる。

 そうして生まれた曰く付きの場所に、一般人から漏れでた微かな呪力が集まり呪霊となる。

 陽のイメージが持たれれば、観光地として人が集まり、陰のイメージが持たれれば、呪力が集まる。

 呪力も人から漏れた感情のエネルギーみたいなものだと考えるとどちらも同じ存在に思えてくる。

 原宿の人々を呪霊と重ねる。

 ここが陰のイメージを持っている場合、相当強い呪霊が生まれるだろう。

 

(そう考えるに恐山とか富士の樹海はヤバい呪霊が一杯いるのだろうか。)

 

 富士の樹海、恐山、東尋坊。

 誰でも思い付く曰く付きの場所。

 集まる呪力が多いだろうし、特級が生まれていても可笑しくはない。

 

(となると、生まれてくる特級は時代のファッションリーダーか。)

 

 ハイセンスでお洒落な服装をした気持ちの悪い呪霊を想像して、思わず笑ってしまった。

 

「何、急に笑ってんのよ気持ち悪い。」

 

「何、特級呪霊はファッションリーダーなんだと思ってな。」

 

「は?」

 

「それより、そろそろジャージ買いに行くか飯にしてくれ。

 既に紙袋四つも持たされてるし。」

 

 俺が至極どうでも良いことを考えながら歩いている間に荷物は四つに増えた。

 一つ一つは軽いし大した事ないが嵩張るし、まだ日は高いからショッピングを続けるだろう。

 釘崎は平気だろうが、慣れない場所で精神的に疲れたので一度休憩したい。

 それに、時間も正午だし。

 

「そうね、じゃあ原宿ランチと洒落込みましょう!」

 

「ラーメンじゃだめ?」

 

 丁度近くにあったラーメン店を指差す。

 

「臭いが移るからダメ。」

 

「ファブれよ。」

 

 此方の意見を無視して、何かしらの雑誌を片手に歩いていく釘崎が向かった先はパンケーキ屋だった。

 しかも席に着くなり勝手に俺の分も頼んでるし。

 

「2つとも、食べたかったからラッキーね。

 シェアしましょう。」

 

 …それは、シェアという名の残飯処理では?

 というか、昼飯がパンケーキって。

 パンケーキだぞ、パンケーキ。

 

(後で、ラーメン食お。)

 

 …そう思っていた時期もありました。

 店員が持ってきたのは生クリームの山だった。

 かなり大きめのパンケーキの上に沢山のフルーツと生クリームがトッピングされて、更に上からシロップをかける。

 似たような代物が釘崎の前にも並ぶ。

 ラーメンと同じくらいのカロリーがあるだろう。

 

「なにこれ。」

 

「何ってパンケーキよ、パンケーキ。

 見てわかんないの?」

 

 釘崎は平然としているから、これが原宿の常識らしい。

 

「じゃ、半分残して食べなさい。」

 

 そう言って釘崎は自分のパンケーキを切り分けて口に運ぶ。

 

「ん~美味しい!!」

 

 美味しそうに笑った姿で、釘崎が女子である事を思い出した。

 田舎の蛮族の娘かと思っていた。

 取り敢えず、腹は減っているので此方も食べるか。

 一つしか無い、立派なカットフルーツは食べたら文句言うだろうから先に端に寄せておく。

 釘崎に倣って、ナイフとフォークで切り分けてパンケーキを切ってフルーツを乗せて一口食べる。

 

(…意外に食べれる。)

 

 甘さの暴力を警戒したが、生クリームは以外に軽くパンケーキもそんなに甘くない。

 唯一、シロップが激甘だがフルーツの味を引き立てている。

 見映えを重視しただけの品物だと思っていたが以外に料理としてレベルが高い。

 総合的に見て美味い部類に入り、二口、三口と食べ進める。

 

「(…飽きたわ。)」

 

 小声で何言ったコイツ?

 釘崎の皿を見ると、1/3程度までしか食べ終えてない。

 ちゃっかりフルーツだけ食べ終えてる辺りが釘崎らしいというか、コイツフルーツだけ先食べたな。

 

「ねえ、交換しましょう。」

 

「待て、クリームとパンケーキだけのそれを押し付けるつもりか。」

 

「良いじゃない、シロップは別の味よ。」

 

 此方が半分まで食べ終えた皿と自分の皿を取り替える。 

 目の前にはパンケーキと生クリームとシロップしかない。

 折角、フルーツとバランス良く食べていたというのに、フルーツがなければ生クリームとパンケーキだけで飽きるに決まっているだろう。

 釘崎は反省を生かしてか、フルーツとバランス良く食べ始めている。

 ここで文句を言うのも面倒くさい。

 さっさと食べ終えてしまおう。

 

(甘い、味に変化なく、甘い。)

 

 先程までの計算されたパンケーキは消え失せている。

 ただひたすらに口に運ぶ作業を終えて、店員にコーヒーを注文する。

 ああ、苦味が旨い。

 パンケーキを片付けて、店を出る際に支払いで少し揉めた。

 

「付き合わせたし、私が払うわ。」

 

「いや、自分の分は出す。」

 

 パンケーキに付き合わせたのは流石に罪の意識があるらしい釘崎と、貸しを作りたくない俺。

 というのも、このパンケーキ、フルーツをふんだんに使ってるから結構高い。

 俺基準だとチャーシューメン3杯分。

 これを奢って貰うのは少し抵抗があるし、田舎から出てきた釘崎には辛かろう。

 

「なら、後でラーメン奢ってよ。」

 

「?」

 

「…足りなかったのよ。」

 

 少し、恥ずかしそうに足りないと告げる。

 なるほど、釘崎は其処らの女性と違い呪術師だ。

 運動量も人一倍あるし、最近は交流会に向けての訓練もある。

 足りないのは道理だろう。

 俺も食べれなくはないし、口がしょっぱいものを求めている。

 

「分かった、それで行こう。

 先に買い物を済まして、ロッカーに荷物預けるか。」

 

 パンケーキの店を出て、買い物が再開された。

 今度は古着屋を回るらしい。

 結局、釘崎はジャージは最後に買い、ロッカーに荷物を預けたのは15時になってしまった。

 俺は別に三時のラーメンも平気だが、釘崎はどうだろうか。

 

「ラーメンで良いのか?」

 

「甘いの飽きたし。

 夜減らせば問題ないわ。」

 

 さいですか。

 適当に店探して二人ともチャーシュー麺食べた。

 味はそこそこだった。

 

「で、あんた私の何が気に入らないの。」

 

 時間が経ち、高専に戻る帰り道で突然釘崎から切り出された。

 

「あー、答えなきゃダメか?」

 

 というか、そういうの気にならないタイプだと思っていたが。

 

「別に、誰からも好かれたいとか思ってないけど、仲間同士でギスギスするのも馬鹿らしいし。

 今回の事は私も悪かったし、気を使ってやろうって言ってるの。

 因みに、私はアンタが気に入らない目で見てくるのが気に入らないわ。」

 

 どうやら、本人としてもアレはやり過ぎたと思っているらしい。

 客観的に見たら、仲間が一人死んでいて精神的に動揺している状態で、気に入らない奴から舐めプされた上に煽られたとは言え、感情のままに術式を行使したのは恥だと思っているという事だ。

 そういう事を素直に認めて、努力する所は尊敬出来ると思う。

 さて、どう答えようか。

 釘崎野薔薇の歩み寄りを無下にはしたくない。

 自分の中で気に入らない理由は最近気付いたのだが、問題はこれを口に出すべきかどうかだ。

 

「怒らない?」

 

「場合によるけど、私は寛大だから聞いてあげる。」

 

「じゃあ、はっきり言うけど。

 釘崎ってプライドの割に弱くない?」

 

「…あ?」

 

 意味を理解して、ぶちギレているが固まっている。

 此方の言い分を最後まで聞こうと努力しているのだ。

 

「俺は釘崎の人生とか知らないし興味ないけど。

 釘崎のプライドとか精神のあり方は気に入っているんだよね。

 釘崎野薔薇として見れば何も問題ないと思う。

 寧ろ、格好いい女だと思う。  

 けど、呪術師の釘崎野薔薇として俺は勝手に見てるから、プライドが高いのに実力が追い付いて無くて慢心してピンチになることがイライラする。」

 

 六本木の廃ビルの一件でもそうだが、釘崎は結構油断する。

 経験が足りないのが理由だろうけど、よく慢心する。

 確かに釘崎はクセのある術式を使いこなしているし、強いとは思うが。

 

「最近はというか、虎杖死んでからの釘崎は強くなろうとしてて好きだけどね。

 後は、単純に騒がしいのが好きじゃない。

 東京に夢見すぎ。」

 

 理由を語り終えても、釘崎は顔を伏せて黙ったままだ。

 うーん、やっぱり言い過ぎたか?

 

「…よーするに、弱い癖にプライドだけは高いって言いたいんだろ?」

 

「まあ、それでいいや。」

 

 顔を上げた釘崎が此方を瞳孔が開いた目で見つめてくる。

 

「直ぐに強くなるから、首洗って待ってろよ。」

 

「がんばって。」

 

 こうして、釘崎と俺は仲直りした。

 

「東京に夢見すぎっていいじゃない憧れなんだから。」

 

「パンケーキ飽きてた癖に。」

 

「あれは、食べ方間違えただけよ。

 次は上手くやるわ。」

 

「原宿苦手だから、次は伏黒誘え。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




要するに、プライドの割には慢心や油断するとかふざけてんの?
と勝手に切れてました。
一応、養護すると出会ってきた人間が軒並み冷静な人間多かったのでね。

言い掛かりに近い。
なまじ主人公が強い分酷い。


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