バフデバフ   作:ボリビア

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いつも、誤字報告助かってます。
前作でも思ってたけど、感想欄で指摘されると少し恥ずかしいので誤字報告からお願いします。
最初から誤字するなって話だけど。


奴が来た

 領域展開の課外授業の次の日。

 虎杖との訓練は五条先生の基礎訓練が終わった後だから、直ちに影響は無い。

 一応家入先生にも話したが。

 

「即日治せというなら、粉砕骨折はやめてね。

 欠片取るの面倒だから。」

 

 という条件で了承してくれた。

 要するに綺麗に折れば良いのだ。

 まあ、そもそも指導する立場なら怪我を負わせるなという話だが、俺は教師じゃないし、そんなの面倒だし。

 五条先生も分かってて頼んだ筈。

 取り敢えず今日は任務は無いので、合同訓練頑張りますか。

 やることは至って簡単。

 真希先輩が武術担当。

 パンダ先輩と棘先輩が受け身担当、要するにぶん投げて受け身とらせる。

 勿論、反撃したり逃げたりしてもOK。

 で、俺が理不尽担当。

 

「遅い。」

 

 伏黒を式神ごと殴り飛ばし。

 

「温い。」

 

 釘崎の攻撃を躱して、投げ飛ばす。

 訓練を積んだ上で、それをギリギリ上回る強さでボコボコにする。

 簡易死闘だ。

 

「だーっ!もうクソが!

 平地でやりあえるか!!」

 

「金槌に拘らずに、近接向きの武器持てば?」

 

 寝転ぶ釘崎に手を貸して引っ張り上げながら、疑問点をぶつける。

 金槌は本来武器じゃないしな。

 釘崎の戦闘スタイルは障害物ありの中距離だからグラウンドで真正面から戦うのは少し辛いだろう。

 

「荷物になるから、持ち物増やしたくないのよ。」

 

 確かに、釘崎は藁人形に大量の釘と結構装備が多い。

 それにわざわざ近接で武器を切り替えられるほど実戦で余裕があるか分からないしな。

 まあ、武器の取り扱いは真希先輩担当だし後で自分で行くだろう。 

 

「なら、真希先輩と特訓だな。

 呪力の方は良い感じだし。

 どう、リング?」

 

「アンタが寄越したモノにしては見た目悪くないわね。」

 

「いや、デザインは聞いてねーよ。」

 

 まあ、軽口吐ける位だし問題ないだろう。  

 実際呪力の無駄が無くなってるし、込められる呪力量も上がって威力も伸びてきている。

 このまま交流会まで磨けば十分活躍出来るだろう。

 もし、交流会でボコボコにされたら派手に笑ってやろう。

 伏黒は手札が増えた。

 影に武器を収納したり、敵の足元に影を展開する落とし穴等、柔軟に影そのものを使い始めたからだ。

 元々、伏黒は術式的に手数で相手を翻弄するタイプだが、そこに、影から武器が飛んできたり、敵の足元を崩したりして相手のテンポを乱して、隙を作り応戦するようになり、場所を問わずに自分の戦いを展開出来る様になった。

 

「伏黒は厄介だけど、ゴリ押しで何とかなっちゃうね。

 やっぱり切り札が欲しいよ。」

 

 カードゲームで例えるなら、今の伏黒のデッキは汎用系カードと妨害系カードしかない。

 こっから更に伸びるには決め手となる一撃が必要だろう。

 

「切り札は今度調伏する予定だ。

 …次は勝つぞ。」

 

「そこを上から殴るのが俺の役目だから、あっと驚く式神を期待するよ。」

 

 多分だけど、普通なら伏黒も釘崎も一年生としてみれば十分に強いと思う。

 けど、虎杖の存在や共鳴する宿難の指と後ろで暗躍する呪詛師、徒党を組む特級呪霊の存在を考えれば、恐らく今の実力でも足りない。

 俺自身、二人が強くなるのは歓迎する。

 強い奴は多い方が絶対に楽しいからな。

 なので、俺は手を緩めずに成長する二人の更に上から常に叩き潰す。

 そうすれば、いつか心の底から楽しめる日が来るかも知れない。

 

「(ねぇ、急にニヤニヤしだしたんだけど。)」

 

「(たまにある。

 ほっとけば問題ない。)」

 

 何か二人がヒソヒソ話してるが、多分どうやって俺を倒すかの作戦会議だろう。

 連携だろうと単独だろうと、俺が楽しめるなら構わないし交流会の初日は団体戦だから経験が生きるだろう。

 

「おーい、休憩するぞ。

 次は林でやるからお前らで飲み物買ってこい、釣りはやる。」

 

 休憩と言いつつ、ナチュラルにパシってきた真希先輩の指示で三人ぞろぞろ歩いて、自販機の元へ向かう。

 高専の自販機は数が少なく中身も古い。

 流行りの飲み物は無く定番メニューが常に並んでいる。

 

「自販機、もっと種類増えないかしら。」

 

「業者が限られてるから仕方ないだろ。」

 

「メニュー増やせないなら、くじ引き機能欲しいよな。」

 

 あれたまに見かけるけど、当たらないよね。

 

(!…何か、寒気がする。)

 

 雑談しながら、自販機で買い物していると突然、寒気が走った。

 こう、会いたくない存在が現れそうな、ホラーゲームでどう考えてもこの後お化け出てくるよねって言う強制エンカウント一歩手前なそんな感じ。

 というか、もう来てる。

 

「「……!」」

 

 釘崎と伏黒も気配に気付いて、視線を向ける。

 観念して俺もそちらに視線を向けると……奴がいた。

 逆行でシルエットだけだが、一発で分かるパイナップルにバカみたいな巨体。

 それと、真依先輩がいる。

 

「ブラザー、そしてお前らが乙骨と三年の代理か。

 それとブラザー、何故メールも電話も無視するんだ!!」

 

「やっほー、轟君に伏黒君。」

 

 あー、そーいえば着拒してたわこいつ。

 後、何で真依先輩まで俺に友好的なんだろう?京都に嫌われている筈だと思うが。

 

「あー、携帯買い換えた時に無くした。

 そういうことで。」

 

 取り敢えず東堂の質問に適当に答えとく。

 

「何でこっちにいるんですか、禪院先輩。」

 

「嫌だなぁ、名字だと真希と被るから真依って呼んでね。

 轟君も。」

 

 やっぱり、真依先輩の態度がおかしい。

 イケメンの伏黒目当てだと思ったけど、目線は完全にこっち向いている。

 あ、ウインクした。

 

「轟君に会いたくて学長について来ちゃった。」

 

(ええぇー……。

 うっそぉ。)

 

 面倒くさい。

 どう考えても、面倒くさい臭いしかしない。

 取り敢えず逃げたい。

 

「二人とも、轟のお客さんみたいだし先行くわね。

 行くわよ伏黒。」

 

 釘崎も伏黒も面倒くさい雰囲気を察して、立ち去ろうとする。

 気持ちは分かるけど、薄情過ぎるぞ。

 

「待て、ブラザーの友人よ。

 ブラザーはともかく、俺はお前らが乙骨や三年の代わりに成りうるか知りに来た。

 特に……伏黒だったか。」

 

 東堂に呼び止められて、止まる二人。

 ざまあみろ薄情者共、取り敢えず東堂は二人に押し付けられる。

 このままブラザー認定くれてやれ東堂。

 そして、俺を解放しろ。

 

「……何すか。」

 

「どんな女が好みだ?」

 

 東堂が上着を脱いで上半身を晒しながら質問を問い掛ける。

 バカみたいな質問もアレだか何故脱いだ?

 ああ、つまらない答えならこの場でぶっ飛ばす気か。

 

「伏黒ー、つまらない答えなら半殺しに遭うぞ。

 さっさと性癖ぶちまけろ。」

 

 まじで、半殺しにする。

 東堂はそういう変態だ。

 

「…何で初対面の人間にそんなこと答えなきゃならないんですか。」

 

 伏黒がここでまさかの正論を投げ掛けて来た。

 東堂相手に正論が通用すると思っている事に俺は驚愕した。

 あんな質問する人間がまともな訳ない。

 

「そうよ、ムッツリにはハードル高いわよ。」

 

「いや、伏黒はムッツリってより性欲薄いだけだろ。

 枯れてんだよ。」

 

 アイツ、雑誌のグラビア一切興味示さないからな。

 枯れてるか、天与呪縛で玉無しか何かだろう。

 外野に徹して好き勝手言ってると、伏黒の顔に青筋が立ち始めた。

 

「……お前ら黙ってろ。」

 

「三年、東堂葵。

 自己紹介終わり、これでお友達だな。

 まあ、ブラザーの友人なら俺の友達の様なモノだが。

 早く答えろ、男でもいいぞ。」

 

「あ、ソッチだから興味無いのか。」

 

 それなら、グラビアに興味示さないのも納得が行く。

 けど、周囲の男性に興味示してないし、枯れ専?

 京都校の学長が危ない!?

 

「轟、お前本当に黙ってろ……!」

 

「ていうか、ブラザーって何?」

 

「あいつの妄想だから触れるなマジで。」

 

 釘崎の疑問に釘をする。

 その件は触れるな、そして話題にするな。

 折角、伏黒に押し付けられたのにこっちが巻き込まれる。

 

「良いか、伏黒。

 性癖にはソイツの全てが詰まっている。

 女の趣味がつまらない奴はソイツ自身もつまらない。

 俺はつまらない奴が大嫌いだ。

 交流会は血沸き肉踊る魂のぶつかり合い。

 ブラザーがいるから退屈はしないが、心踊る相手は多い方が良い。

 答えろ伏黒、どんな女が好みだ。」

 

 とても嫌だが、心踊る相手が多い方が良いという意見だけは分かる。

 縛りプレイもやりがいが必要だ。

 つまらない相手に付き合ってダラダラやるなら、弱くても面白い相手に付き合った方が断然面白い。

 さて、伏黒はどう答えるのか。

 釘崎はターゲットから自分が外れた事に気付いて、興味は東堂から真依先輩の夏服に移っている。

 ノースリーブ良いよね。

 

「…別に、その人に揺るがない人間性があればそれ以上は求めません。」

 

 伏黒の回答に対する反応は3つ。

 つまんねーと顔に出す俺。

 良い答えだと、感心する女性陣。

 そして、静かに涙を流す東堂。

 伏黒は東堂の涙に驚くが、構えないとヤバイぞ。

 

「……退屈だよ、伏黒。」

 

「……っ!」

 

 東堂の呪力に反応して防御は出来たが、それでも伏黒は東堂のエルボーで吹き飛ばされて行った。

 

「やり過ぎんなよ。」

 

「性癖がつまらんのが悪い。」

 

 伏黒の元へと向かう東堂に一言かけておく。  

 伏黒もたまには違う敵と戦うべきだろう。

 死にかけたら助ければ良いし、死んだら敵討ちとして東堂を殺せるし。

 それと、確かに性癖の答えはつまらなかったけど、アイツはまだ底が知れないからな。

 ワンチャン興味持つかもしれん。

 そして、ブラザーの称号を押し付けたい。

 

「ちょっと、何で止めないのよ!?」

 

「東堂に関わりたくない。

 それに、伏黒なら多分大丈夫だろう。」

 

 伏黒を助けようとした釘崎を止めたら、詰め寄られたので正直に答える。

 間に合わなかったら、ごめんね伏黒。

 東堂も流石に殺しはマズイと理解してるだろうし最悪、家入先生がいる。

 

 (……仮に伏黒が死んだら、実は生きてましたー、な虎杖に逆ドッキリになるな。)

 

 取り敢えず、東堂は解決した。

 ……問題は。

 

「あら、行かせてあげれば良いのに…轟君は優しいのね。」

 

 さらっと此方に近付き、腕を組んでくる真依先輩だ。

 胸が当たって良い匂いするけど、逆に狙いが分からなくて怖い。

 隣で女々しいのが嫌いな釘崎の機嫌も悪くなっている。

 

「急にどうしたんですか?

 腕組む様な仲じゃないでしょ。」

 

「私強い人が好きなの。

 ダメ?」

 

「じゃあ、東堂で良いでしょ。」

 

「嫌よ、日本語通じないから。

 それにあの人より強いんでしょ?」

 

 一応、言い分には筋が通る。

 けど強い人が好きな様な女が、呪術師を目指すだろうか、釘崎や真希先輩の事を考えると違う気がする。

 

「轟、テメーもしかしてソイツとイチャイチャしたいから伏黒差し出したのか……?」

 

 釘崎に握り潰すと言わんばかりに肩を掴まれる。

 

「んな訳ないじゃん。

 東堂に関わりたくないだけ。」

 

「ちょっと、痛そうじゃない。

 放しなさい。」

 

「あ?

 下手な猫被りやがって、寝不足か?毛穴開いてんぞ。」

 

 一瞬の静寂の後、釘崎が得物に手をかけると同時に、真依先輩も得物を構える為に腕を放したので、術式使って全力で飲み物回収して逃げた。

 何か、後ろで銃声聞こえたけど知らん、百合の間に挟まると死ぬらしいし関わらない。

 もうコーラ飲んで忘れよう。

 

(あーうめー、やっぱりコーラって最高だわ。

 唯一無二の味だし。

 さて、伏黒と東堂は……あんまり建物壊してないし停学は無理か。

 あ、パンダ先輩。) 

 

 一応、伏黒を回収するために、適当な建物の屋上から東堂と伏黒を眺めていたら、ボロボロの伏黒が何かしようとしていたがパンダ先輩と棘先輩の介入で打ち切りとなった。

 東堂が無傷の所を考えるに、様子見しようとしてそのままボコボコにされたな。

 確かに、伏黒は相手に合わせる戦いが出来るから様子見も分かるけど、格上相手はダメだろ。

 初手から全力で手札の組み合わせ変えて殴り続けるのが正解だと思う。

 

(さてと、戻りますか。)

 

 パンダ先輩と棘先輩が来てるなら、真希先輩も来てるだろうし、コーラを飲み干して自販機へと戻る。

 屋上から飛び降りて、自販機のある通路近くに着地すると穴だらけのジャージの釘崎が真依先輩に寝技かけていた。

 側には駆け付けたであろう、真希先輩もいる。

 

「……引き分けか?

 いや、ジャージ穴空いてるから負けみたいなもんか。

 あ、真希先輩飲み物です。」

 

「うるさいっ……!

 今からオトして制服剥いだら私の勝ちよ!」

 

 真希先輩に飲み物を渡しながら、聞いてみると蛮族的回答を得られた。

 どんだけ夏服気に入ったんだよ。

 

「お前、何してた?」

 

「東堂面倒なので、逃げてました。」

 

「……そっか。」

 

 流石に、俺がいてこの状況はどうなんだと聞いてきたが東堂の名前を出すと真希先輩も納得してくれた。

 

「おい、帰るぞ真依、ブラザー。」

 

「……!

 ……そんな、伏黒は?」

 

 東堂の登場で、伏黒が負けたと思ったのか釘崎が動揺して技を解いてしまう。

 というか、さらっと俺を巻き込むな。

 

「楽しんでるようだな真依」

 

「冗談、私はこれからなんですけど。」

 

 リロードしながら、立ち上がる真依先輩。

 完全に猫がどっか行ったな。

 真依先輩の武器は銃か、火力の底上げ手段としては悪くないな。

 

「は、猫破れてんぞ。」

 

 釘崎の口擊は止まらない。

 

「あら、良いのよ。

 轟君だって此方の方が好きでしょ?」

 

 ……まあ。

 というか、貴方のお姉さんいる前でよく言えますね。

 驚いて固まってますよ。 

 

「そこまでだ、オマエと違って俺には東京で大事な用がある。

 高田ちゃんの個握がな…!

 万が一電車を間違えて遅刻すれば俺は何するか分からんぞ、ついてこい真依。

 そして、ブラザー!

 生高田ちゃんだぞ!

 後、これは俺のアドレスだ。」

 

「用事あるから無理。」

 

 東堂と関わらないという用事があるので断った。

 アドレスは着拒しとこ。

 ただ、マジで何するか分からないから脅しが面倒くさい。

 真依先輩も立ち去ろうとする東堂に仕方なく着いていくと思ったら俺の前に立ち止まった。

 

「はいこれ、私のアドレス。

 連絡してね。」

 

 そういって真依先輩が頬にキスしてきた……。そして今度こそ東堂の後を追った。

 二人が立ち去った後、真希先輩が物凄く複雑な目で俺を見ている。

 妹が後輩に色目使って頬にキスしたのだ。

 姉として先輩として、どうすれば良いのか分からないのは仕方ない。

 珍しいから写真を撮った俺は悪くない。

 

 

 

 

 

 

 

 




禪院真衣の行動にはちゃんと理由があります。
なお、主人公の好感度は初対面から一切動いて無い模様

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