寮へ向かわず、学校の道場にて俺と五条先生は向かいあっている。
「じゃ、取り敢えず術式見てあげるから本気の一発ぶつけてみてよ。」
構えも取らずポケットに手を突っ込み、完全に余裕綽々と言った感じで佇む五条先生。
戦うと言っていたが完全に此方を舐め腐っている。
さっきから昂ってしょうがない呪力を全身へと流し強化する。
「殴る前に一つだけ聞きたいんですけど。
先生の態度ってあれですか。
挑発して呪力のコントロールを乱すのが狙いでやってるとかですか。」
「え、何の話?」
(素かよ!)
畳を全力で蹴りつけて間合いを一気に詰めて腰を入れた渾身のストレートを顔面へと見舞う。
五条先生に当たる僅かギリギリで何かに止められる。
(…いや、止まるというより遅くなっている?
違う、近付いてる筈なのに顔までが遠くなってる!)
「うん、悪くない一撃だ。
大振りで無駄が多いけど、並みの術師ならそもそも捉えられない速さだし、この威力なら一級の呪霊で二発は耐えられない。
ちなみに連発出来る?」
返答せずに更に呪力を全身に入れて、ラッシュを放つ。
顔を中心に肝臓、鳩尾、こめかみ、あらゆる部位を叩くが五条先生には届かない。
体感で五分間叩き込んだが全て無駄に終わり呪力も尽きてその場で倒れ込んでしまう。
(はあ、はあ、はあ。
どうなってんだこの人!?)
「そのまま寝てていいから話を続けるよ。
君の術式は『強化』だね。ゲームでいうバフってやつ。
呪力だけで行うそれとは効率も段違いで違う。
けど、君の呪力コントロールがショボくて半分位は呪力での強化になってる。
君の術式が掛け算なら呪力での強化は足し算みたいなイメージかな。」
やっぱりバフか。
呪力は物に込めても強度は上がらないみたいたが、俺が込めるとTシャツは頑丈になるし、包丁はまな板すら切れる様になる。
要するに俺の術式としての強化は対象のステータスを伸ばす感じだ。
パラメーターの一部、あるいは全体を強化することが出来るが、逆にパラメーターに無いステータスには効果が無いだろう。
「その呪力コントロールが良くなれば、五条先生殴り飛ばせます?」
「無理だね。
昔の僕ならイケルかもしれないけど、今の僕を殴り飛ばせる存在なんてこの世にいないんじゃない?」
今なら言ってる事がマジだと分かる。
あの紙一重の距離が遠くなる感覚。
原理は分からんが直感的に俺には攻略法がないと解った。
取り敢えず立ち上がり、五条先生に頭を下げる。
「今まで舐めてました。
すいませんでした。」
やってやろうとか考えた事自体烏滸がましい。
五条先生と俺では天と地とかではなく、ゲームマスターとプレイヤーみたいな別次元の差がある。
「別にいいよ♪
それより、君の術式を見て確信したよ。
君は僕に並ぶ位の術師になる。」
…マジで?
「マジで?」
「マジマジ!
基本だけ教えて後は学長に投げようとか考えてたけど気が変わった。
手取り足取りマンツーマンで教えるよ。」
そういうのは、美人な女教師が良かったなー。
「取り敢えず、今の轟君の課題は二つ。
一つは呪力コントロール。
全部術式に流せるようにしよう。
もう一つは術式への理解を深める。
君の術式は君の思っている以上に奥が深いからね。」
滅茶優しい。
それに教師っぽい。
この人性格に目を瞑れば凄く優秀な教師なんじゃ…?
「それじゃあ、第一歩として術式の名前を決めようか。」
「名前ですか?
バイキルトとかそんな感じの?」
「そう、名前を決める事で術式の輪郭がはっきりする。
それに、術式の名前や効果を他人に教える事は縛りになって術式の効果が増すからね。」
『縛り』は弱点を明かす事で術式そのものや呪力を高める方法らしい。
制約が強ければそれだけ効果もでかいが、『名前を明かす。』等の小さい制約でも効果があるとかで呪術師の大半は術式の内容まで明かす事が多いらしい。
名前か、そういえば付けた事無かったな。
にしても名前か、いざ考えると何にも思い浮かばない。
「急に名前思い付かないんですけど。」
「こーいうのは直感でいいんだよ。
ホラホラ、思い付かないなら僕がマジでテキトーにつけちゃうよ?」
短い付き合いだが、この人のテキトーはマジで碌でもない意味のテキトーになるのは分かった。
(術式の効果は強化、バフ、ステータスアップ、加点…)
「…じゃあ、加点法で。」
カタカナは何かダサいというか違う気がするし、色々応用が効くだろうからシンプルなのを求めて、ステータスに加点して強くなるという意味で『加点法』でどうだろうか。
「いいね!
それじゃあ、轟悟の術式名は『加点法』に決定!」
というわけで主人公の術式名は『加点法』になりました。
バフに当て字したかったけど、良いのが思い付かなかった。