バフデバフ   作:ボリビア

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最後は少しだけ三人称になってます。
後、ちょいちょい感想欄で名前が出ているハンターハンターを作者は読んだことありません。
せいぜいコラです。




待ちに待った瞬間だったのに…

 俺が呪霊の元に駆け付けると加茂先輩と棘先輩と伏黒が対応していたので、丁度中間に着地する。

 コイツは火山頭を助けに来た呪霊か。

 

「よお、伏黒。」

 

「轟!?

 五条先生は!?」

 

「勝手に出てきたから知らね。

 それよりコイツは俺一人で楽しむから、さっさと全員で帳から出てけ。」

 

「待て!

 一人で相手するだと!?

 いくらなんでも危険過ぎる!!」

 

 心配ご無用、うるさい。

 

「それと、多分この特級は陽動だって五条先生に伝えといて。」

 

 生徒を殺すなら火山頭が出てくるだろうし、虎杖を優先的に襲ってない所を見るに、狙いは虎杖誘拐とかではなく純粋に騒ぎを起こすのが目的と見た方が正しいだろう。

 となると、本命の目的は高専にある指の回収か?

 まあそっちは教師が勝手に動くだろうし、俺は目の前の呪霊を相手してれば良い。

 

「……やれんのか?」

 

「当たり前だ。」

 

 遊び尽くして殺してやる。

 

「分かった、これ渡しとく。

 ……死ぬなよ。」

 

 聞き分けの良い伏黒が陰から三節棍を取り出して投げつけてくる。

 

「游雲か、必要ないとは思うが貰っとく。」

 

 今の俺が使えばオーバーキル処の騒ぎじゃないが、まあ折角だし貰っておこう。

 游雲をベルトに差して特級呪霊と向き合う。

 後ろで加茂先輩が喚いているが、伏黒と棘先輩に引っ張られて撤退していく。

 

「待たせたな肥溜め。」

 

『……私を一人で倒そうとは随分な自信があるようですね。』

 

「ビビって動けなかった癖に強がんなよ肥溜め。」 

 

(気持ち悪いなコイツ。)

 

 特級呪霊が発する言葉は、意味不明な音の羅列にしか聞こえないのに、意味だけが頭の中に響いてくる。

 独自の言語というよりは、意味だけを発しているという感じか。

 

『肥溜めとは?』

 

「お前らって人間のクソみたいな感情の集まりだろ?

 なら肥溜めじゃねぇか。

 そう考えるとムカつくな、肥溜めの分際で会話しようとしやがって気持ち悪い。

 ま、肥溜めっていうのは人間の為に存在するからな。

 今回は俺の為だ、せいぜい役に立てよサンドバッグ。」

 

 呪霊の呪力が昂っている。

 どうやらクソの分際で怒っているらしい。

 というかどいつもこいつも人間を舐め腐ってるのか馬鹿にされた時の沸点低すぎる気がする。

 

『貴方は確実に殺しましょう…!』

 

 宣言と共に幾重にも重なる大樹の根が津波の如く押し寄せてくる。

 これだけの質量を呪力のみで構成するとは流石は特級と言った所か。

 

(呪力の総量なら確実に敵わないな。)

 

『黒閃斬・五月雨』

 

『!?』

 

 木刀による黒閃の斬撃で全て凪ぎ払う。

 質量は凄まじいが一つ一つの根が軽いので大した事がない。

 大樹の波の中から奇襲しようとしていた呪霊は波が打ち払われた事により丸裸になっている事に驚いている。

 

(舐めすぎだろ。)

 

 頭をつかんで、人のいなさそうな森の中に投げ飛ばす。

 見た感じ木属性だし森の中なら、もう少し強くなるだろうという俺の優しさだ。

 

「ほら、森の中ならもう少し強くなれるだろ?

 漸く出会えたんだから頑張ってくれよ。」

 

『舐めるな……!』

 

 一瞬で花畑と共に弾丸の様に大量の種子を放ってくる。

 適当に木刀で打ち払おうとするが、種子の後ろから一本の鋭い根が伸びてくるのが分かった。

 さっきの波の時とは違う、呪力を一本の根に集中して放つ、恐らくコイツの最硬、最速、最強の一撃。

 種子で弾幕を張って、視界を遮って来るとは少しは知能があると言うことか。

 

(種子の方は見た感じ、当たっても問題ないからこっちを防ぐか……?)

 

 種子を無視して根に対処しようとしたら、突然術式が解除された。

 胸に根が突き刺さり、体が持ち上がる。

 

「ゴフッ」

 

 体から血が競り上がってきて口から溢れる。

 

(あ?

 あー、なるほどこれか。)

 

 どうやら、呪霊の飛ばした種子は呪力を糧に育つらしく、体に付着した種が元気よく育っている。

 種子によって呪力の供給が止まり、術式が止まったのだ。

 

『傲慢が過ぎましたね、愚かな人の子よ……!?』 

 

『反転術式』

 

 幸い頭は無事だ。

 頭が無事なら反転術式を使える。

 生成した正の呪力が全身を駆け巡る。

 呪力で出来た種子を枯らせ、体を貫いた根を消し去り、傷を塞いで、立ち去ろうとする呪霊に声を掛ける。

 

「傲慢が過ぎたな、愚かな肥溜めよ。」

 

(あー、死ぬかと思ったー。

 あ、もう少し死んどけば、魂知覚出来たか?

 勿体無い事したな。)

 

 人間は死ぬ時に魂が出ていくらしいが、もう少し放置していれば感じることが出来たかもしれない。

 呪霊は俺が元気な姿に驚いて固まっている。

 どうやら、肉体の再生は自分達の専売特許だと勘違いしてるらしい。

 

「今のは面白かったぞ、これで仕舞いか?

 まだ奥の手があるだろ、その大層大事に封印している片腕を解放しろよ。」

 

 反撃をせずに次の一手を待つ。

 この呪霊は何故か片腕を布で覆って封印している。

 よほど、扱い辛いナニカがあるのか知らないがコイツの手札で俺に届くのは恐らく、領域展開と片腕のナニカしか残されていない。

 コイツの底は大体知れた。

 逃げるなら追いかけて殺せば良い。

 ここら一体は既に知覚範囲内だから絶対に逃がさない。

 

『……(怪物は五条悟だけでは無かったのか……!)』

 

「どうした、肥溜め。

 俺の役に立てなければ、只のクソだぞ?」

 

 徒党を組んで五条先生に挑もうとしている時点でコイツらの強さなんてたかが知れている。

 コイツに期待しているのはサンドバッグとしての役割のみ、要するに憂さ晴らしだ。

 

『人間風情が…!』

 

「人のクソから生まれたんだから人間様と崇めろよ。」

 

 片腕の封印を解いた呪霊は左肩の目玉を露出させる。

 周囲の植物が枯れていき、目玉に呪力が集まる。

 なるほど、自然を力に変えているのか。

 

(ふむ、この範囲だけであの呪力量。

 いいな。)

 

「いいぞ……!

 ここら一体の全てを吸い尽くして放ってこい…!」

 

 上段の構えで木刀を持って、チャージが終わるのを待つ。

 避けるのは簡単だが、これ程の威力を放てる存在は初めてだし俺の全力を当てる良い緩衝材になる。

 

『死になさい……!』

 

 森一帯を枯らし尽くして、呪霊の左肩の目玉から怨嗟と共に呪力による一撃が放たれた。

 この一撃だけで高専が丸ごと吹き飛ぶかと思われる一撃に対して歓喜と共に俺は全力の一撃を放つ。

 

『白閃・極』

 

 呪霊の一撃と俺の一撃がぶつかった瞬間、視界が白く染まり衝撃を全身に浴びた。

 

「良い感じに更地だな。

 あ、和重が……」

 

 俺の後ろ以外が衝突による衝撃で吹き飛んで歪なクレーターが生まれたがそれどころじゃない。

 おれの愛木刀和重が持ち手以外消し飛んでいる。

 衝撃に耐えられなかったのだ。

 取り敢えず、元和重を投げ捨てて呪霊の元へと向かう。

 俺としてはあの砲撃の隙に呪霊らしく逃げるのかと思っていたが、そうではなく普通に衝撃で吹き飛んでいた。

 まだ俺に勝てる手段があるのか、只の考えなしかは見てみればわかるだろう。

 

「……なるほど、己の呪力すら込めたのか。」

 

 辿り着いた時、呪霊の下半身は存在して無かった。

 衝撃で吹き飛んだのだ。

 再生する気配もなく大の字に倒れる呪霊。

 放置してもう一度同じ一撃を射たせようと考えてたが、肩の目玉は反動の為か左腕毎吹き飛んでいる。

 どうやら、この呪霊は俺を殺すために文字通り全身全霊をさっきの砲撃に込めていたらしい。

 

(全身全霊でこの程度か……!)

 

 俺の中に渦巻く感情は失望と怒りだった。

 

「弱すぎる、弱すぎる、弱すぎる!!!

 折角イロイロ我慢して我慢したのにコレとかふざけてんのか!?

 期待していないのに期待以下とか恥ずかしくないのお前!?」

 

 余りにも弱くて涙が出てきた。

 徒党を組んで五条悟に挑む時点でサンドバッグとしての期待しかしてなかった。

 それなのに、この呪霊は一回全力を放った程度でこの様とは酷すぎる。

 俺が何をしたというのか。

 つい、怒りのままに呪霊を游雲で祓ってしまったが、俺は悪くない。

 弱いコイツが悪いのだ。

 

(一人だから弱いんだ。

 徒党を組んでるのだから全員同時に挑めば良かった……!

 あー勿体無い事したー!)

 

 祓ってから気付いたが、コイツは生かして帰すべきだった。

 ああ、もう支離滅裂だ帰って寝よう。

 

Side Out

 

 特級呪霊花御は目の前の存在を理解できなかった。

 現れた瞬間から感じる異質なプレッシャーも、己の根を凪ぎ払った黒い呪力も、見た目から想像できない剛力も全てが理解できなかった。

 花御が出会った存在でここまで傲慢な男は五条悟以外に存在しなかった。

 一度は心臓を貫いて殺した筈なのに、自分達と同じように再生し立ち上がってくる。

 特級呪霊たる己が理解できない怪物。

 

(五条悟とは違うベクトルの怪物……!

 例え五条悟を封印してもこの男がいる限り呪霊の未来はない!!)

 

 始めは撤退を考えた。

 しかし、この男は一度殺せた。

 心臓を貫いた時に、慢心せずに全身をズタズタにしてやればコイツは殺せた。

 それにこの男の全てが花御にとって受け入れられなかった。

 傲慢で呪霊を見下し、馬鹿にする言動も己をサンドバッグと称して手加減されている状況も。

 そして何より、この男の目に己が映ってないのだ。

 其処らの呪霊と同じ存在として扱われる事が許せなかった。

 特級呪霊として真の人間としての矜持が花御を突き動かす。

 こうして一度は殺せた事実と己の矜持、二つの理由が花御から撤退の選択肢を奪っていた。

 そして、供花を解放して全身全霊を込めた。

 愛すべき自然と己の呪力全てを供花の贄にして己が出せる最高の一撃を放った。

 

(ここでこの男を殺さなければ未来はない…!

 この男に己という存在を刻み付けて殺してやりたい…!)

 

 仲間と立てた作戦の為にも、呪霊としての矜持の為にも例えばこの後己が死のうとも、この男を殺さなければならない。

 供花の反動で左腕は吹き飛び、男の一撃との衝撃で下半身は消え去った。

 もはや己を維持する呪力すら怪しい程に少ない。

 

(だが、あの男は確実に殺せた。)

 

 天を見上げて己の全てをかけた一撃が確実に届いたと確信していた。

 達成感を感じながらゆっくりと眠りにつこう。

 だが、花御の一撃は届かなかった。

 足音が聞こえて、花御は絶望を生まれて始めて理解した。

 意識を向けるとあの男がいた。

 全くの無傷で失望した顔を向けている。

 その目には花御を映していない。

 怒り喚き、右腕に持った武器を己に振り下ろそうとしている。

 

(届かなかった……。

 ああ、真人、漏瑚、陀艮、申し訳ありません。)

 

 こうして、花御は何も成せずにこの世から消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 




最初は楽しませたお礼に領域展開して終わりにしようかと思ったけど、主人公ならキレ散らかすだろうなと思ったので止めました。

花御が領域展開を選択肢に入れてないのは原作でも供花の一撃から逃がさない為に放とうとしていたので、そこまで強くないと判断しました。

出てきた技

黒閃斬・五月雨
 黒閃による斬撃を何回か行い、目の前の全てを破壊する技。名前は適当に決めた。

白閃・極
 真面目に放った白閃
 これが最大火力とは言ってない。

花御の砲撃
 森を一つ枯らした上で自身の呪力を限界まで込めた砲撃
 町一つは余裕で吹き飛ぶんじゃないだろうか。 

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