バフデバフ   作:ボリビア

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評価落ちましたね…
感想欄が賛否両論なのは最もだと思うのですが、余り強い言葉での批判は止めてください。



自己嫌悪とかオリジン

 寮の自室でさっきの戦いを振り返ったが、やはり俺は防御に弱点がある。

 俺の強さの大半は術式に依存している為、あの種子の様に呪力そのものに干渉されると少し不味いというか普通に死ぬ。

 

(仮に頭を潰されてたら終わっていたな。)

 

 あの時は全力出せる相手が来たとテンション暴上がりで気にしてなかったが興醒めした今では、慢心で死にかけたという事実が屈辱の極み過ぎる。

 誰かに見られてたら恥ずかしさの余りに殺してしまうかもしれない位に恥ずかしい。

 

(いや、俺には課題があると分かったとポジティブに考えよう。)

 

 確かに最近は白閃やらで攻撃面の強化ばかりしていたし、防御面の強化を始めなくてはならない。

 となると『加点法』ではなく術式反転を見つめ直すべきだろう。

 加点法で防御する場合は単純に耐久寄りに肉体を強化するだけで、今回の様な呪力に干渉するタイプには弱い。

 しかし、術式反転で防御が出来れば正の呪力でもあるため今回の攻撃も防げた筈。

 

(術式反転『裸苦大』は単純にとらえればステータスの低下、硬いものを柔らかくしたり脆くする事も出来る。)

 

 攻撃技としては『裸苦大』で地面を柔らかくしたり液体にしたり、建物を脆くしたりの地形攻撃や相手に直接流し込んで骨を脆くしたり、自重で自壊させたりも出来るが主に地形破壊でしか使っていないし、現状だと正直使わなくても勝てるので最近使ってない。

 これを防御に転用するなら、無差別の弱体化を纏う形が一番良いだろう。

 試しに纏うように右手に術式反転を纏って、適当な紙を持ってみるが触れる直前でボロボロと崩れていった。

 

(強力だが皮膚の上に纏う形になるから全身に纏うなら全裸になる必要があるか、却下で。

 普通に放射する形や普通に流し込んだ方が良いな。)

 

 というか、そもそも横着せずに全部弾けば良い話な気がしてきた。

 うん、次からそうしよう。

 とりあえずの解決が出来た事にして寝てしまおうと布団に潜る直前、ガチャリとドアが開き五条先生が顔を出してきた。

 

「あ、いたいた。

 誰にも言わずに消えたから死んだのかと思ったよ。

 色々話し合いしたいから付いてきて。」

 

 そういえば、誰にも伝えずに寮に戻ってきた事に今気付いた。

 客観的に考えて、戦いの中心地と思われるクレーターに木刀の持ち手のみが残った状態だと完全に俺は死んでる扱いをされてもおかしくない。

 取り敢えず、五条先生に付いていく。

 

「そういえば皆って無事です?」

 

「うん、生徒は全員無事だよ。」

 

 生徒はって事はそれ以外に犠牲者が出たという事か。

 

「轟の言う通り陽動だったみたい。

 宝物庫に侵入されて指と幾つかの特級クラスの呪物取られちゃった。

 完全に此方の落ち度、多分この前回収した指に発信器でもつけられてたと思う。」

 

 この前というと、虎杖と七海さんの事件だろう。

 確か回収された指は七海さんが直接高専に提出したと報告書にはあった筈。

 五条先生なら見抜ける可能性はあったが、五条先生の元に渡ると虎杖に飲ませるだろうから七海さんの判断を責めることは出来ない。

 全て五条先生の普段の行いが悪い。

 まさか、呪詛師はそこまで読んだ上で回収させたのか?

 

「被害は泥棒だけですか?」

 

「いや、忌庫番の二人が殺された。

 僕が来てるって気付いたんだろうね、盗みだけで即退散したみたい。

 帳に集中していたらもっと大勢が死んでいただろうね、そう言う意味では轟がいて良かった。」

 

「褒めてもらって光栄ですけど、高専の結界ガバガバ過ぎません?」

 

 特級と複数の呪詛師が侵入してるという事実は結界の機能に疑問が残る。

 

「天元様の結界って隠す事に特化してるのと、轟が祓った特級のせいだと思うよ。

 あれ殆ど精霊みたいなもんだし。」

 

「精霊ってなんですか?」

 

「神聖だなーってイメージの塊みたいな感じ。

 超レアだから死ぬ前に一度見れたらラッキーだね。」

 

 さいですか。

 話ながら歩いていると、一室の前で五条先生が無遠慮に扉を音を立てて開ける。

 

「はーい、今回のMVPの轟君連れてきましたー!」

 

 中に入ると、両校の学長と歌姫先生と冥冥の交流会の運営に携わっていた人間と伊地知さんがいた。

 

「ちょっと五条!

 何で生徒を連れてきてるのよ!?」

 

「今回の一件で最初に動いてくれたし、敵の狙いも推測してくれたMVPだよ?

 必要でしょ、ていうか大体ここ来るまでに話しちゃった。」

 

 五条先生の意見に伊地知さん以外溜め息を吐くが、反対を唱える人間はいなかった。

 それだけ事態が深刻、或いは五条先生に対して諦めていると考えるべきだろう。

 

「取り敢えず、轟悟。

 独断専行とは言え、君の行動で数多くの呪術師の命が助かった。

 学長として感謝する。」

 

「あ、ハイ。」

 

 言えない、テンション上がりすぎて油断して死にかけてたって絶対に言えない。

 話の流れは今回の特級襲撃の裏で起こった盗みの話に移った。

 

「特級呪物『宿儺の指』6本、同じく特級呪物『呪胎九相図』の1番から3番が盗まれました。

 そして人的被害としては忌庫番二名が殺害されました。」

 

「すみません、呪胎九相図とは?」

 

「ざっくり説明すると存在保証の縛りで保管されていた呪霊と人間のハーフだよ。

 多分、人に埋め込んで受肉させるんだろうね。」

 

 存在保証の縛りとは高専が祓う事が出来ないクラスの特級を生命の停止と他者に危害を加えない等と引き換えに存在を保証する縛りだ。

 それが持ち出されたということは、敵は人手を欲していると見るべきか。

 

「人手が欲しいって事は暫く日本中に散らばった指集めに専念していると見るべきですかね。」

 

「もしくは、戦力増強と見るべきだろう。」

 

 戦力増強も人員補充、どちらも正しい考えだと思う。

 ただ、今回の一件は特級呪霊側の動きというより、協力している呪詛師の意図の様に感じる。 

 

「取り敢えず呪胎の方の資料の共有とか出来ますか。

 虎杖が指食った刺激で事件起こってるでしょうし、万が一鉢合わせした時に対応出来るように資料あるとありがたいです。」

 

 大小はわからないが、散らばった宿儺の指が活性化している可能性が高い。

 後で伊地知さん突っついて6月から始まった変死事件とか調べてもらおう。

 ていうか、さっきから京都の学長が静かなのは何でだろう。

 まだ虎杖殺すとか考えてんのかな?

 

「ああ、資料ないよ。」

 

「は?」

 

「その呪胎作った人って加茂家の人間でね。

 御三家から見てもヤバイ奴で死んだ後、資料殆ど処分されてるし呪胎は十中八九加茂家の術式継いでるから詳細までは教えてくれないだろうしね。」

 

「そもそも、今回の件は上層部で止めておくべきだろう。」

 

「そうさな、呪詛師どもに特級呪物流出の情報が流れるのは不味い。

 上層部でとどめて対応するほかあるまいて。」

 

 糞みたいな御家事情は置いといて、只でさえ人手不足の状況で特級呪物流出という一件が呪詛師に漏れでてしまうと人手不足に拍車がかかって奴等が動いた時に対応出来ない可能性があるという事か。

 

「あ、じゃあ指の回収は轟に任せようか。

 行けるでしょ?」

 

「おい悟!」

 

 流石にこの意見には夜蛾学長から待ったが掛かる。

 歌姫先生と京都の学長も無言だが非難するような目を向けている。

 

「彼だけなのが問題なら金さえ払えば私が彼の補助をしよう。」

 

「うわ。」

 

 この守銭奴ここで売り込みに来たよ。

 

「良いよ良いよ、全然払う。

 てか実際手が空いていてフットワークが軽いの轟しか居ないでしょ。

 僕が動いたら目立つわけだし。」

 

 沈黙が流れる。

 確かに五条先生の言う通り、こっそりと事を進めるには特級を祓った(死にかけた。)俺が最適だろう。

 私情を挟まずに言えば、冥冥は手札が多い優秀な術師だから補助としては文句はないし。

 ただ、それを了承するかは倫理の問題だ。

 倫理観が低い五条先生ならともかく他の人達は教師として悩んでいると思いたい。

 

「あー、俺は良いんですけど武器壊れたので新しいの下さい。」

 

「暫くは游雲使いなよ。

 真希には僕が言っておくから。」

 

 ということで、指回収係として俺と冥冥さんが実働でバックアップに伊地知さんが動く事になった。

 後は色々と細々した事を話すらしく、俺は帰って良いらしいという事で皆の所へ向かう。

 死んでる扱いで虎杖二号扱いは嫌なので、東京校のミーティングルームに顔を出すと何かお通夜みたいな空気になってた。

 

「あれ、誰か死んだ?」

 

「「轟!?」」

 

 伏黒と釘崎の驚いた声が重なる。

 伏黒の手には持ち手だけになった和重が握られていた。

 ははーん、コイツら死んだ扱いしてたな?

 いや、まあ死にかけたんだけどね。

 後、驚いているのはパンダ先輩と棘先輩だけで、虎杖と真希先輩は「やっぱり、生きてた。」という顔をしている。 

 

「お前今まで何処にいた!?」

 

「寮でふて寝してた。」

 

 そして、冷静になってあの時の自分が黒歴史過ぎて恥ずかしくなっていた。

 

「一声かけろよゴラァ!!」

 

 釘崎は案外涙脆いのか、涙目で詰め寄ってくるし伏黒は俺が無事だと知ってホッとしたのかしゃがみこんで脱力している。

 

「おい、游雲返せよ。」

 

「あ、少し借ります。

 メインウェポン壊れたんで。

 五条先生からはOK貰ってます。」

 

「はぁ?

 ……チッ、壊すなよ五億は下らないからなソレ。」

 

 マジか、あの守銭奴に渡さない様にしなければならない。

 

「皆言ったじゃん俺と東堂は遠くから見てたって。」

 

 ……見てた?

 

「おいどっから何処まで見てた?」

 

 場合によっては二人程殺す必要がある。

 虎杖に詰め寄って嘘を付いても分かる様に右手首を掴む。

 

「え、最後の方の爆発した辺り。」

 

 ということは、俺が心臓刺された所は見ていないと言う事だな。

 

「命拾いしたな虎杖。」

 

「え、何で。」

 

「俺は信じていたぞブラザー。」

 

 何故かいつの間にか隣に東堂がいた。

 何でいるんだよコイツ。

 

「京都に帰れ!」

 

「待て、ブラザー!

 話がある。」

 

 真剣な顔で呼び止めて来るが、コイツの言葉は大体イカれてるから話したくない。

 この顔で握手会とか言われたら殴ろう。

 

「紹介しよう、俺達の新たなブラザー虎杖だ。」

 

 ほらやっぱりイカれてる。

 何だよ新たなブラザーって。

 俺関係ないよ。

 

「虎杖お前、もしかして性癖話したの?」

 

「……うん、話しちゃった。」

 

 話しちゃったかー。

 だから意気投合して稽古しだしたのかー。

 というか俺まだブラザーなのか。

 

「じゃ、頑張れ二代目ブラザー。

 俺は卒業だから。」

 

「え、卒業出来るの!?」

 

「何を言っている?

 魂の兄弟は不滅だぞ?」

 

(釘崎か伏黒巻き込めないかな……)

 

 チラリと釘崎を見るが、理解できないモノを見る目で此方を見ている。

 伏黒の方は全力で目をそらしているし、二年の先輩方は既に消えていた。

 

「…まあいい、東堂ちょっと明日面貸してくれ」

 

 交流会は中止にならず、二日目は1日空けてから行われると五条先生からメールが来てたので次の日、東堂を修練所の一つに呼び出した。

 

「さて、ブラザー相談とは何だ。」

 

「いや、実を言うと昨日死にかけててさ。

 心臓貫かれてんだよね。」

 

 昨日の呪霊との戦いで何があったかを、一歩間違えれば死んでいた様な状況だったこと、今後そのような事が無いように対策を取りたいという旨を話した。

 

「先ずはブラザー、最近の活躍は俺も把握してないが、少し天狗に成っていたな。

 術式の相性によってどうとでもなるのがこの世界の常だ。

 術式の情報開示の縛りが何故意味を為すか分かるか。

 炎が水に弱いように絶対的に不利な術式というのは例外無く存在するからだ。」

 

 例えば俺なら呪力そのものに干渉する術式や釘崎のように魂に干渉する術式は不利だ。

 

「他人からはっきり天狗だと言われると効くな……。」

 

 東堂からの評価に改めて恥ずかしくなる。

 

「そして、どう克服するかは俺の場合はひたすら避ける。

 後は反転術式で治す事だ。

 呪力による現象で引き起こされた霊障は反転術式でしか対処できん。」

 

「あれ、お前使えたっけ。」

 

「フッ、俺も高田ちゃんの為に日々進歩する男だ。

 ブラザーとの死闘で死の淵をさ迷い、俺は高田ちゃんから呪力の本質を教わり開眼したのだ。」

 

 要するに死にかけて眠りに着いた中で、本能的に反転術式を習得したと言うことだな多分。

 だから3日で俺にメールしてくる事が出来たのか。

 

「ブラザー、対策を考える前に一つ疑問がある。」

 

「何だ。」

 

「ブラザーは何故、己の本質から離れた事をしてるんだ。」

 

「本質?」

 

「そうだ。

 俺がブラザーから感じた本質はもっとシンプルだった。

 なのに、何故今のブラザーは戦いに余計な事を求めているんだ。

 ブラザーが求めていた事はもっとシンプルな筈だ。」

 

「俺が求めていること……」 

 

 東堂の言葉で俺は夜蛾学長との入学試験の面談を思い出す。

 そうだ、口に出したのはあの時だが、俺は力を知った時から、あの化け物を知った時から求めていた。

 

「そうだ、暴れたいからだ。」

 

 俺は純粋に暴れたいから呪術師になったんだ。

 呪霊という殺しても誰にも怒られない存在をスッキリするまで殴るのが楽しいから呪術師になったんだ。

 

(そうか、そうだよな、俺は暴れたくて呪術師になったんだ。)

 

 最近、他人の世話焼いたり刺激が足りなくて忘れていたが、俺は暴れたいんだ。

 戦いを楽しむとかじゃなく、純粋に大暴れしてスッキリしたかったんだ。

 だから俺には『加点法』がある。

 どんな相手だろうと邪魔される事無く暴れたいからこの術式は俺の体に刻まれているんだ。

 本来の俺なら特級だろうとぶん殴っておしまいだったんだ。

 それで本来なら満足してたんだ。

 なのに五条悟という壁が現れて越えようと躍起になって、気づいたらスッキリする前に敵を倒してしまって不満が貯まっていたんだ。

 だから慢心して油断したんだ。

 頭の中がスッキリしていく、自分の中の歪みが治り本来のあり方に戻っていくと途端に昨日の俺が滑稽に見えてくる。

 

「今までの自分が笑えてくるな。

 何が仲間の面倒みて強くなったら楽しもうだ。

 強かろうと弱かろうと一方的に暴れるのが好きなんだから関係ないのに。

 なのに、五条悟という暴れるのに邪魔な存在が焼き付いて、強くなりたくて色々拗らせて勝手に油断して慢心して死にかけた。

 滑稽にも程がある!

 ああ、そうだ、俺は暴れたいんだ!!」

 

 初心を思い出すとはこういう事だろう。

 心地よい、呪術師になって俺は今始めて殻が剥けた気分だ。

 

(ああ、今なら領域展開すら出来る筈だ。)

 

 今は清々しいからやんないけど。

 というか、本当に東堂って性格以外教師向いてるよな。

 その後、お礼として戦おうと言われたのでボコボコにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




主人公が早々に花御と戦闘を始めたので、裏で動いていた真人は泥棒優先で動いた結果被害がへりました。

前話までの主人公
 DMCみたいなスタイリッシュコンボアクションで暴れたいのに、五条悟という存在を知って、強さを五条悟基準に設定した為、他の敵にSSSが取れなくてイライラしていた。

これからの主人公
 五条悟を一旦忘れて、敵に合わせて強さを設定することで本来のスタイリッシュコンボアクションを思い出した。

まあ、要するにどんな相手だろうと一方的にボコボコにするよ。
 死ぬまでの時間はその時のストレスで変わるよ。
 でも反撃は許さないよ。

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