バフデバフ   作:ボリビア

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今回はオリジナル強めです。
投稿は0時を目標にしてありますが、間に合わなければ6時に投稿してます。
 


病院に行こう。

 10月の始め、宿儺の指捜索は一旦ストップする事になった。

 最近の捜索が空振り続きな事と、秋から冬にかけての呪霊の活発化が主な理由だ。

 探せて後一本だと個人的には思っていたし、伊地知さんが死にそうだったので良かった。

 あの人、普段の仕事を他者に振らずに宿儺の指捜索を担当していたらしい。

 伊地知さんはメンタルが普通というか真面目だから仕事を抱え込むタイプだろうとは思っていたが、流石に仕事しすぎである。

 自らブラック労働に走るのは正義感か何かしらの罪悪感か、どちらにせよ一度休ませるべきだろう。

 補助員は裏方として国への提出書類や外部協力者である窓との連絡等、呪術師が活動する上で無くてはならない。

 多分、補助員を半分位殺せばそれだけで呪術業界が傾くと思う。

 明日から補助員の仕事もやれと言われたら即辞める自信がある。

 事務作業という人格破綻者が多い呪術師に一番向かない仕事を負担してくれているから、呪術師は正義の側に立てていると俺は思う。

 個人的に問題なのは、指探しがストップしただけで俺の仕事量はたいして変わらないことだと思う。

 指探しからいつもの変死事件の取り扱いに変わっただけ。

 斡旋された任務の資料を読むと神奈川で行方不明者の捜索をしていた二級術師が行方不明になったので、捜索と任務を引き継げというのが今回の任務らしい。

 早速神奈川に向かう車の中で資料を詳しく読み込む。

 

(地元で有名な廃墟に夏休みに肝試しに行った学生グループ四名と廃墟探索系の動画配信者一名が行方不明か。)

 

「動画配信者の方から何か手がかりとかあります?」

 

「はい、実際侵入時に生放送をしていたのですが途中から電波が入らなくなり配信を打ち切ったようです。

 既に動画は削除済みですが、動画自体は此方で確認お願いします。」

 

 今回の担当補助員から渡されたタブレットで動画を再生する。

 

『ど~も、ホラー探検隊の~マックスでーす!!

 はい今回はね、とある廃病院に来ています!』

 

 紹介と共に廃病院が映し出される。

 そのまま、病院の曰くを話しているが殆どが出任せだろう。

 実際、資料を読むと普通に経営破綻で閉院したと書いてあるし。

 ただ、医療事故やら麻薬を密売していたやら患者が飛び降り自殺をしたやらの噂が流れて、心霊スポットの仲間入りしたらしい。

 

『では早速、中に入って検証していきましょう!』

 

 動画内では主旨を話終えたのか、配信者が病院の中へと入っていく。

 内部は荒れ果てており、壁には不良が書いたスプレーアートの様なものが描かれている。

 そのまま1階を探索し、二階三階と曰くの検証等をしながら屋上までたどり着いた。

 最近はこういうホラースポットをハイテンションに探検するのが流行っているのだろうか。

 

『ここまで特に肩が重いとかありませんねー!

 それじゃあ、最後に地下のフロアを探索して動画を終わろうと思います!!』

 

 来た道を戻り、非常階段から地下へと入っていく配信者。

 異変が起き始めたのは正に地下のフロアに入った瞬間だった。

 画質が一気に悪くなり、音にノイズが走る。

 

『あれ?

 ちょっと地下だから調子悪いのかな?』

 

 配信者も自分の放送を確認しているのか、機材の調子を確認し始めた。

 ノイズを聴覚を強化して分析してみたが特に音声等は聞き取れなかった。

 

『ちょっと電波が悪いみたいなんで、地下に関しては後日動画にして配信します!

 それじゃあ今回の放送はここまでで!

 チャンネル登録、好評価よろしくお願いします!』

 

「その7月の配信以降、配信は無くネットのオカルト界隈で話題になりました。

 現在は動画削除済みですが完全ではありません。」

 

「それで、動画を見て肝試しに来た奴等も行方不明と。」

 

「はい、8月の終わり頃に肝試しに来た4名が行方不明届けが出されて警察からの依頼で今回の一件が発覚し、二級術師が派遣されて現在行方不明です。」

 

 こういうのは、雪だるま式に呪いが貯まっていく。

 今回の件が解決しても行方不明の事実は明るみに出る可能性があるし、この病院は呪霊が沸き続けるだろう。

 

「二級の行方不明から一月経っている事については。」

 

「二級術師が行方不明なので一級以上の術師を派遣するのですが、スケジュールの都合が合わないのと交流会での襲撃事件の事後処理の結果です。」

 

 なるほど、人手不足極まりだな。

 

(まあ、良い。

 断言出来ないが二級術師がやられている事と動画のノイズから結界が貼られている可能性が高いな。

 ということは最低でも準一級という事になるな。)

 

 ただ、一つ気になるのがインターネットの普及により地域レベルの都市伝説や廃墟の曰く等は全国で知られる事になり、呪いが集まりやすくなっているがこの廃病院が有名になったのはこの動画の後だ。

 ただの廃病院なら高くても二級がせいぜい。

 結界を貼れるクラスの呪霊が発生している事が奇妙なのだ。

 勿論結界が貼れているという仮定が間違っていてる可能性もある。

 単純に電波が悪いだけで、動画配信者が地下に入って二級に殺されただけ。

 けど、それだと二級術師が行方不明という事実がおかしくなる。

 

(可能性としては三つ。

 一つは動画が削除される前に多くの人間の目に止まり、呪霊が急激に成長した。

 もう一つは病院の地下にヤバイ呪物がありそれを呪霊が取り込んでいた可能性。

 そして二つの可能性が両立している可能性。)

 

 どちらか一つの可能性のみが正解なら、呪霊は高く見積もって一級、両方の可能性が正解なら特級の可能性がある。

 

「特級の可能性ありますけど、俺で良いんですか?」

 

「はい、交流会での特級撃破の功績を省みて轟準一級は問題ないと上層部は判断しています。」

 

 なら問題ないか。

 

「わかりました。

 最悪、病院が倒壊する可能性があるので、その時はよろしくお願いします。」

 

 俺の術式や戦闘スタイルを省みると可能性は高い。

 地下全体と融合してたりする場合は確実に地下を破壊するし連鎖的に倒壊を招く可能性がある。

 

「了解しました。」

 

 目的地に到着して補助員が帳を降ろした事を確認したので病院内部へと入る。

 やはり地上部に関しては殆ど残穢は無い。

 取り敢えず動画通りに非常階段へと向かう。

 

「…ビンゴだな。」

 

 地下室への扉の隙間から残穢が滲み出ている。

 呪詛師ならちゃんと隠すだろうし、今回の犯人は呪霊で確定だな。

 

(さて、どうやって中に入ろうか。)

 

 このまま中に入れば確実に呪霊の巣に入る事が出来る。

 けど、敵のホームで戦うのは面倒くさいが本体を確実に祓えるかもしれない。

 もしくは、一階に穴を開けてそこから入る。

 呪霊の立場からしたら予想外の方法であるため奇襲になるし、廃墟だから壊しても問題ない。

 しかし、完全に敵対者として侵入する事になるので逆に厄介になる可能性がある。

 

(……敵対モードの方が面倒だし、あえて餌のふりして油断させるか。)

 

 五感を強化して中に入る。

 

(血の臭い、それと死臭だな。)

 

 中に入ると嗅覚が血と死臭を嗅ぎとった。

 強化されてこれだから実際はもっと小さい臭いだ。

 臭いの方向と事前に目を通した地図からして恐らく霊安室から漂っている。

 実際、残穢も霊安室に最も集中しているため確実に何かはあるだろう。

 

(反射音からして通路には人形は確認出来ないし、先ずは霊安室だな。)

 

 霊安室へと向かうが、道中は問題なく進み霊安室の扉の前に着いた。

 やはりここが諸悪の根元のようで残穢と臭いが酷く、異界化しているのか中の様子を伺えない。

 

(確か、こういうのって扉で区切られた空間だから成立するんだよな。)

 

 区切られた空間内という縛りによって異界化は成立していると見るべきだろう。

 なので扉を黒閃で蹴り飛ばす事で区切りを破壊する。

 本来、異界の一部である為頑丈になっている筈だが、俺の黒閃の前には無意味だ。

 

「ダ、ダダダイ丈夫でてでですかぁアぁあア!?」

 

 扉が破壊されると同時に呪霊の悲鳴が聞こえる。

 残穢と同じ呪力を感じるのでコイツが今回のターゲットの筈だ。

 扉が破壊された事で異界が崩壊し、中身の一部がこぼれ落ちたのか、部屋は血の海になっておりその中央で呪霊が悶えている。

 医者や看護師の体で出来た百足としか表現出来ない呪霊の側には右手が落ちていた。

 僅かに呪力が宿っているから派遣された呪術師の右手だろう。

 呪霊の頭を白閃で踏み潰し消滅させると、呪霊のいた場所に干からびた右腕が落ちていた。

 拾ってみると、全体的に毛むくじゃらでまるで猿の手であった。

 

(というか、これ本物の猿の手か。)

 

 猿の手とは、持ち主の願いを三回叶えてくれるという呪物だが代償や叶え方が残酷な呪物で確か、小説か何かでも出てくるある意味有名な呪物である。

 霊安室にあることから誰かが蘇りを願ったのだろう。

 それがどのような結果をもたらしたか知らないが、病院は廃墟となり猿の手は呪霊に飲まれて力の増幅に使われたのだろう。

 呪霊に殆ど吸いとられて呪力はスッカラカンで壊してしまおうかと思ったが『一回分使えるのに呪力がない』という状態で変則的な縛りになっているのか壊せなかった為、封印の札を貼って回収する。

 

「終わりました。

 詳細は後で説明しますが、地下の霊安室が血の海なので調査を、それと派遣された二級術師の物と思われる右手と今回の発端と見られる呪物を回収しました。

 取り敢えず高専に戻ります。」

 

「これは…猿の手ですか。

 分かりました。

 右手は保冷バックがあるので受けとります。

 呪物は念のため轟準一級に預かってもらっても構いませんか。」

 

 おや、こういうのは全部補助員に預けるのが通例だと思うが。

 俺が疑問に思っていると、補助員が気まずい顔で口を開いた。

 

「……私では、誘惑に負けてしまうかもしれないので。」

 

「なるほど、では俺が直接提出します。」

 

「ありがとうございます。」

 

 後日談ではないけど、今回の一件を報告書を提出する確認の時に補助員から聞いた話では、あの病院は経営不振で閉院するまえに二回経営が回復したらしい。

 恐らく猿の手を使ったのだろうとの事だ。

 蘇りではなく、金か。

 いや、病院の経営という意味では蘇りを願った訳か。 

 三回目を使わなかったのは二回目で代償を払いきれなくなったか、或いは恐怖したのか知らないが人目につかない霊安室に隠したのだろう。

 それだと破棄せずに隠す辺り願いを捨てきれて無い気もするが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




本当は車椅子押したナースと戦ってもらおうとしたけど、無理だった。

本来は異界とかした病院を探索するホラーゲーム的な感じだったけど、主人公なら壊せるなと思い壊した。

オリジナル呪霊 百足の呪霊
 霊安室に異界という巣を作ったら部屋ごと破壊された。
 本来ならホラゲよろしく異界探索中に襲ってきて最後に倒せるタイプのボス。

猿の手 
 三回願いを叶えるけど残酷な叶え方や代償を支払わせる。
 1回分の呪力が宿っていた為百足に喰われた。
 

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