バフデバフ   作:ボリビア

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今回も三人称です。


救出と憂さ晴らし

 時は少し遡り、轟悟は山の中で途方に暮れていた。

 一般的に呪術師は全国各地に派遣されて任務に従事するが、現在、森の中で途方に暮れている轟悟に関しては例外として任務の殆どが関東周辺或いは関東より上の地域中心で関西方面に赴くことは無い。

 理由としては、簡単に説明すると京都呪術高専の生徒である東堂葵というアンタチャッブルとちょっと色々あって結果的に京都呪術高専の敷地をぶっ壊したからである。

 故に積極的に関わらせない様に関西方面の任務には轟悟を斡旋しないという暗黙の了解が本人の知らないところで敷かれた。

 そんな中、10月中旬頃に轟悟は関西方面への出張任務が斡旋されてそれを受理した。

 内容はとしては、とある山岳地帯にて呪霊の仕業と思わしき失踪事件の調査及び解決である。

 準一級としては特段珍しい案件ではない為、疑問に思わず轟悟は出発した。

 

(妙だな、何もいない。)

 

 指定されたポイントに単独で赴いたが、いくら知覚を強化しようと呪霊と思わしき残穢は確認出来ないばかりか人のいた痕跡すら感じない。

 全くの野山というのが轟悟の感想だった。

 それものその筈、ここは只の野山である。

 暫く探索しても何も収穫が得られなかった轟悟は一度帰還する前に、明らかな野山より自殺の名所になりやすいダムの方が呪霊がいるだろうという判断で資料で確認した小さなダムへと向かう事にした。

 

「あれ?帳が降りている……。」

 

 暇潰しに地面に着かないルールで木々を跳ね回りながらダムの近くまで進むと、ダム全体に帳が降りているのが分かった。

 

(報告無しの帳という事は今回の失踪事件の呪詛師の犯人はここにいるな。

 一旦報告してもう一度山登るの面倒だし突っ込むか。)

 

 轟悟の判断は早かった。

 術式で自身を強化して躊躇なく帳の中へと入っていく。

 そして帳の中でメカ丸と真人の戦いを、正確には止めを刺そうとする真人を見つけた。

 

(報告にあった継ぎ接ぎか、それとあの巨大ロボットはメカ丸先輩か?)

 

 手に触れたらヤバいというのは知っていた轟はメカ丸の頭部に侵入している真人の腰らしき部分を黒閃で蹴り飛ばす事で、メカ丸から剥がし中に居るであろう与幸吉に声をかけた。

 

「一体全体どういう事なのか説明してくれますよね。

 メカ丸先輩。」

 

「……遅かったな。」

 

「巻き込んどいてそれは酷くないですか。」

 

 轟の視点で考えれば、失踪事件を追っていたら今話題の特級呪霊と京都のマスコットが戦っていたのだ。

 遅いと言われる筋合いは無い。

 そして、今回の任務が失踪事件は自身を巻き込む為にでっち上げだと何となく勘づいた。

 事実、人気もない山の中で唯一可能性のあるダムへと向かうのは呪術師として、当たり前の行動である。

 与幸吉の保険は上手く機能したのだ。

 

「後で色々聞かせてもらいますけど、先ずは継ぎ接ぎ特級と呪詛師を片付けます。」

 

「継ぎ接ぎの呪霊は領域展開での中和なら魂にまでダメージを与えられる。

 俺は簡易領域を打ち込む事で対処したが、後一回しか使えない。」

 

「普通に反転術式で殴れば良くないですか?」

 

「それはお前にしか出来ん。」

 

 轟の知覚では蹴り飛ばした真人の呪力は無数のネズミサイズでダム全体を駆け回っている。

 

(確か、自分の魂は自由自在に形を変えれるんだっけ。

 分裂も出来るとか面倒だな。)

 

 真人の現在の状況を認識した轟は、メカ丸の頭部から人の知覚を越えた速さで近くの分裂体おおよそ三割を反転術式による正のエネルギーで殴り祓った。

 

(…!?

 分身が魂ごと消滅した!?)

 

 己の分裂体が完全に死滅した事に真人の分裂体の一つは驚愕を禁じ得ない。

 そして強い感情は呪力に乱れを起こす。

 

「そこか。」

 

 無数の分裂体の中で呪力が僅かに乱れた一体に狙いを付けて再び知覚外の速さで接近し、殴り祓おうと拳を打ち下ろす。

 

(手応えが無いな。

 …なるほど、揺らぎはワザとか。)

 

 誰にも捉えられない速さで攻撃を放ったのに呪霊を祓った時の手応えが感じられない事に驚き、もう一度ダム全体を知覚すると呪詛師の側に分裂体が移動している事が分かった。

 

(やはり、虎杖以外の天敵がいたのか…!)

 

 真人も轟悟の事を知っていた。

 術式の特性から異常な知覚範囲とスピードを持ち合わせている事も、黒閃を自在に放てる事もスパイからの情報で知っていた、故に自分を祓える技を持っている可能性を何となく感じていた。

 だからこそ分裂した時に特に一体だけ目立つように呪力を多めにした分身を一体だけ作り、自身は無数の分裂体と共に夏油傑の元に戻っていたのだ。

 既に真人の思考は逃走に切り替えていた。

 

(与幸吉の処分は既に不可能…!

 夏油の元に戻って逃げるしかない。)

 

 夏油傑は轟悟が現れた時点で真人を助けに入る準備をしていた。

 己の計画の為に真人が弱体化するのは困らないが完全に祓われては困るからだ。

 しかし、聞いていた話以上の早さに手が出せずに傍観していたが、何とか出し抜いた真人が手元に戻ってきている。

 

(……魂は消費したが、まだ食えないか。

 仕方ない。)

 

「今ここで倒される訳には行かないから、悪いが退かせて貰うよ。」

 

『百鬼夜行』

 

 己の計画の為には真人が弱体化するのは歓迎だが、祓われるのは困る。

 手持ちの呪霊、数十体に敢えてメカ丸への攻撃を命じて解き放ち、自身と真人は脱出用の呪霊を用いて脱出を開始していた。

 夏油傑が放った呪霊は殆どが二級程度だが一級や特級クラスも数体混ざっており、複数の術式がメカ丸を襲う。

 

(俺だけなら問題無いが、助けないとメカ丸先輩が死ぬな。)

 

 呪霊の大群を前にしてメカ丸は動いていない。

 コクピットが破壊された事で操作が出来ないのだ。

 

「俺の事は良いから早く夏油を!!」

 

 与幸吉が夏油を優先するように吠えるが、轟はメカ丸に迫る呪霊を祓った。

 

(あんたが死ぬと真依先輩が悲しむでしょ。)

 

 同級生見殺しにした後で真依先輩と楽しく会話出来るほど轟悟は人の道から外れていない。

 一回のデートとそこそこのメールと電話しかしてないが、禪院真依という女性が身内に甘いという事を轟悟は理解していた。

 ここで与幸吉を見捨てて夏油傑と真人を祓うのが正しい判断だと彼女もするだろうが、確実に禪院真依と轟悟の間には見えない亀裂が入る。

 呪術業界とか世界の平和に関心がない轟にとって天秤に掛けるまでもなくそちらを優先した。

 与幸吉を守った時点で夏油傑と真人は既にこの場にいない。

 残ったのは、特級を含む数十の呪霊。

 

(……憂さ晴らしにはちょうど良いか。)

 

 メカ丸の頭の上で、呪霊が行動するより早く両手で印を組む。

 轟悟はとっくのとうにぶちギレていた。

 自分が利用された事も、特級に騙された事も、逃げられた事も。

 その全てに自分なりに納得し、一部は自分の選択の結果だと分かってる上で、一方的な勝利とかけ離れた状況に勝手にぶちギレていた。

 目の前には特級も含む数十の呪霊、一般的な呪術師なら絶望する景色だが轟悟にとっては有象無象でしかない。

 今の苛立ちを解消するにはただ祓うだけでは物足りない。

 

「領域展開。」

 

『天涯不等』

 

 全ての呪霊が轟悟の領域に引きずり込まれる。

 そこは白亜の大地と白亜の空によって作られる純白の領域。

 

『!?』

 

 領域に引きずり込まれた時点で知能ある特級呪霊達は領域展開を発動して必中の無効化をしようとして混乱した。

 

「俺の領域、天涯不等のルールはただ一つ。

 俺が絶対的勝者である事。」

 

 領域展開に対する知識が無い呪霊は命令を果たすべく轟悟を殺そうと動こうとするが動けない。

 

「俺が認めない限り、お前らの全ては無意味な出力まで減衰される。」

 

 領域に引きずり込まれた時点でルールは適応され、呪力操作も含むあらゆる行動は零へと減衰される。

 

「そして、俺の行動は全て最大化される。」

 

 一番強い特級呪霊の前に移動した轟はデコピンを特級呪霊に放つと、デコピンを食らった特級呪霊は砕け散った。

 

「つまり、この領域において俺は負けないし一方的に勝つ事ができる。

 なに心配するな、憂さ晴らしも兼ねてるからな。

 一撃では殺さん。

 スッキリするまで付き合って貰うぞ。」

 

 次の瞬間、轟悟の憂さ晴らしが始まり呪霊にとっての地獄が始まった。

 先程のデコピンとは違い、一撃で呪霊が死ぬことは無い。

 憂さ晴らしという絶対的勝利条件を満たす為に強制的に強化されて延命させられる。

 ただ轟が満足するまで一方的に殴られる事こそがこの場にいる呪霊の最期の役目となる。

 そして、現実の時間にして一分、轟悟にとって10分間の憂さ晴らしは終了し領域が解除される。

 領域を解除した轟はメカ丸の上で自分の状態を把握していた。

 

(やっぱり、呪力消費よりも術式が使えない事が問題だな。)

 

 領域展開のデメリットとして膨大な呪力消費が有名だが、もう一つの欠点として術式が一時的に使用不可能になる事が挙げられる。

 術式に多大な負荷を及ぼす領域展開を使用すると、解除後に術式が焼き切れる。

 轟悟の圧倒的強さは術式に依存しており、術式が使えなければ、その戦闘力は並みの術師と変わらない。

 これは轟悟にとって致命的な弱点となる。

 

「で、一から説明してくれませんかね」

 

「ああ、勿論だ。」

 

 術式が回復する迄の間、メカ丸から事情を聞く轟に対して正直に話すメカ丸。

 自分の体を取り戻す為に協力した事も、スパイとして高専の学生達、特に虎杖について情報を渡していた事。

 そして、夏油傑と真人達が何を企んでいるかも全てを打ち明けた。

 ちなみにこの時初めて轟悟は呪詛師の名前と継ぎ接ぎの呪霊の名前を知った。

 

(敵の狙いはやはり五条悟封印か。

 ま、倒せないなら封印しましょうって昔からの定番だしな。)

 

「その話はもう一度五条先生にゲロって貰うとして、問題が一つあるんですが。

 帳が解除されてメールが入ってきたんだけど、先輩呪詛師判定食らってますね。」

 

 五条悟に連絡を取ろうと携帯を取り出した轟は、歌姫からの『メカ丸スパイ』という短文で送られたメールが入っている事に気付いた。

 

「歌姫が嗅ぎ回っていたのは知っていたから当然だろう。」

 

「取り敢えず俺から連絡するんで大人しくしてて下さいね。」

 

 轟は与幸吉に釘を刺して、五条悟へと連絡をとるが、釘を指さなくても与幸吉に何かする気は無かった。

 あの二人を祓う事こそ出来なかったが、五条悟への伝言と保護は期待できる。

 この場において抵抗する理由は無い。

 

「あ、もしもーし。

 五条先生の携帯ですか?」

 

『どうしたの轟。』

 

「スパイのメカ丸先輩見つけました。」

 

『マ?』

 

「マ。」

 

 経緯を話すと与幸吉に代わるよう頼まれた轟は素直に携帯を渡しつつ、回復した術式の試運転がてら聴力強化で盗聴を試みる。

 内容としては黒幕の呪詛師が夏油である事の再三の確認と渋谷での企みについて。

 

(妙に夏油傑に拘ってるな。

 見た目的に同年代だけど何か思い入れがあるのかな。

 昔の彼氏とか?

 あの人イケメンなのに彼女とかいないし。)

 

 個人に拘る五条悟という珍しい場面に何かあるのかと思ったが、夏油傑に関する情報を持ちあせていない轟は真面目に考えるのを止めた。

 

「轟、五条先生が話があるそうだ。」

 

「はい、轟です。」

 

『取り敢えず伊地知向かわせるから、合流して帰ってきてよ。』

 

(これ拒否したらここまで伊地知さんが迎えに来るパターンかな。)

 

 一度ふざけた思考に走ると暫く抜けない轟は下らない事を考えつつ、五条悟の指示に従う事を了承して電話を終えた。

 

「じゃ、リハビリがてら下山しますか。」

 

 道路を避けて、獣道を下山していく与幸吉と轟悟。

 ちなみに、メカ丸は湖の底に一時的に沈めてある。

 リハビリには絶対に向かない獣道でも与幸吉は生身の体で歩ける実感に喜びが絶えない。

 

「そういえば、学生の情報流してたんですよね。」

 

 雑談をふるように轟悟がもっとも聞いてほしくない話を投げてかけてくる。

 しかし、今の与幸吉に答えないという選択肢はない。

 

「…そうだ。」

 

「じゃあ、俺の私生活も丸裸ですか?」

 

「いや、俺は虎杖悠仁を優先して監視していたからごく僅かの情報だけだ、そもそもお前は知覚範囲が広く速いから監視が殆ど出来なかった。」

 

 実際、スパイとして監視する際に与幸吉が一番苦労したのは轟悟である。

 術式の都合上の知覚範囲が分からず超遠距離による監視しか行う事が出来ない上に高速戦闘を行う為、殆どまともな情報が入手出来なかったのである。

 花御との戦闘も移動が激しい事や中盤は森の中での戦いの為監視は上手く行かず、最後の激突の余波でカメラは壊れて録画すらままならなかった。

 唯一まともな情報は京都校での停学事件での戦闘能力と、花御を祓ったという文字での情報のみである。

 

(よしよし、プライベートが大丈夫ならデートに関しては問題ないな。

 戦闘も風穴事件はバレてないから良かった。)

 

 轟悟が今回の一件を全て知って一番気になったのはソコだけだった。

 既に憂さ晴らしも済んでいるので与幸吉に拘る理由は轟悟には存在しなくなったが一つ気になる事がある。

 

「真人祓える保証無いのに何で俺な訳何ですか。」

 

 轟が話を聞く限りだと、与幸吉の持つ情報で最新の映像は停学事件で最新の情報は轟が特級を単独で祓ったという事実のみで真人を祓える保証は何処にもない。

 

「俺が任務をでっち上げられる人間で、最も強いのはお前だからだ。

 それに、東堂の戦いで見たお前のポテンシャルの高さと潜在力から考えて、真人に負ける事は無いだろうしな。」

 

「ちなみに、その情報は向こうには?」

 

「俺が求められたのは情報であって意見では無いが、真人は少し警戒していたようだ。」

 

 真人という存在が警戒していたという事実は轟悟の関心を呼ばなかった。

 今回の戦闘で出し抜かれたが、次は必ず殺すという事実は既に轟悟の中で決定しているからだ。

 

「じゃあ、俺からその件に関しては特に無いんで。

 そういえば、あのメカ丸って昔のアニメの奴ですよね。」

 

「知っているのか。」

 

 メカ丸が少年時代に憧れた鋼鉄の英雄はそこそこの知名度と長きに渡りファンに愛されており、最新シリーズが今も作られている。

 勿論、与幸吉は全て鑑賞しBOXも集めている。

 

「裏でやってる番組が特番やらでやってない時に昔チラッと。」

 

 轟悟と与幸吉とは二年の差があるため知っているシリーズに違いがあるだろうが、全ての作品に詳しい与幸吉に隙は無い。

 

「そうか、BOXがあるから見るか?」

 

「あ、布教は東堂で間に合ってます。」

 

 というか、今頃ガサ入れされてBOXは無事じゃないのではと思わなくもなくもない轟悟であったが、自分の体を取り戻し五条悟と連絡を取れてある種の有頂天になっている与幸吉は気づかなかった。

 

 

 

 

  

 

 

 

 




轟悟の領域展開『天涯不等』について。
 白い空と白い大地で出来た領域。
 領域の効果としては「轟悟を絶対的勝者にする事」
 必中効果としては強制的にバフとデバフが必要に応じて発動する感じ。
 相手の全ての行動を削り落とし何もさせず、轟を最強に強化される。
 その後、轟が満足するまで強化で無理やり生かさせれて、満足したら漸く相手は死ねる。
 要するに全自動最適サンドバッグ作成結界。
 更に分かりやすく言うと『お前今から死ぬまでサンドバッグな、そしてお前の寿命は俺が決める。』

百鬼夜行について
 ほんとは技じゃないけど、呪霊ばらまくのに良い技名が思い付かないからやった。

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