轟と交戦したダムから逃れた夏油と真人は一旦の話し合いの場として、とある廃ビルにいた。
「大分持っていかれたみたいだね。」
「魂の三割が削られた。
あれ、五条悟より化け物なんじゃないの?」
訪れた時に屯していた不良達だったモノをストックとして飲み込みながら真人は轟悟の強さを思いだし、げんなりとした顔をしている。
真人としては正直、二度と戦いたくないというのが轟悟に対する感想だ。
(しかも、アイツあの場で誰にも関心が無かった。)
怒りという感情は最初から常に魂の代謝として存在していたが、真人を祓おうと動いていた時やメカ丸を助ける事に関して、魂が代謝して無かったのだ。
普通出し抜かれたら誰でも感情が揺れるし、特に味方を助ける為に敵を見逃す時は、複雑な感情が動く筈だ。
それなのに轟悟は一切の固定された怒り以外の代謝を見せずに作業として処理をしていた。
正も負も関係なくただ怒りのみを持って行動する人間を真人は初めて知った。
(どういう事をしたらアイツの感情が動くのか知りたいけど、強すぎるし面倒臭い。
宿儺の器が可愛く見えるよ本当。)
「いや、そうでもないさ。
確かに五条悟に並ぶ強さを感じたが、殺す事自体は簡単だよ。
ああいうタイプの術式は搦め手に弱いからね。
君達の協力と私の手持ちの呪霊なら勝機は充分にある。」
げんなりとする真人とは反対に夏油傑は笑みを浮かべて余裕そうに殺せると確信していた。
夏油傑は自身の経験と知識から、轟悟の術式への対抗策を既に思い付いていた。
確かに真正面から戦えば勝てる可能性は0だが、そもそも真正面から戦わないのが本来の呪術師の戦い方である。
そういう面で今の夏油傑は現代で最も抜きん出ていた。
「でも、それだと人手足りなくない?
五条悟の相手もしなくちゃいけないし。」
本来の計画では、地下に多くの一般人を閉じ込める事で五条悟にとって不利なフィールドで時間稼ぎを行い、獄門彊にて封印する筈であり、これ以上人数を割くのは計画の破綻を意味する。
「ああ、だから計画を少し変えよう。
流石に今の状況では私も動かざるを得ないしね。」
轟悟という存在の出現と与幸吉の生存により、彼らは計画を変更せざる追えなかった。
愉しそうに企みを練って、より残忍で残酷な計画へと変貌を遂げていく。
その結果が何をもたらすかは誰にも分からない。
「なるほどね、獄門疆が本物なら僕の封印も可能だろうね。」
現在、轟と与幸吉は伊地知潔隆のマンションで五条悟と対面していた。
五条悟は轟からの連絡の後に速攻で伊地知と家入硝子を巻き込んでいた。
家入硝子が伊地知潔高にストレスによる疲労の為、休養が必要であると書類を作成し、伊地知潔高は名目上『ストレス緩和の為の気晴らしのドライブ』という事で二人の迎えを行い、与幸吉を匿う仮の住みかとして伊地知潔隆を迎え入れたのだ。
そして、改めて夏油傑の計画について話し合っていた。
「獄門疆って何ですか。」
「簡単に説明すると、日本で一番強い結界みたいな物かな。
僕も実在するとは思ってなかったけどね。」
獄門疆とは平安時代に活躍し、生きた結界と呼ばれた術師源信が死して呪いに転じ生まれた呪物と言われているお伽噺レベルの存在だったが、与幸吉の話を信じるならばそれが現在まで現存している事になる。
(それを持っている夏油傑らしき人物は何者なんだ?)
既に轟には五条悟から、生きていた頃の夏油傑の末路は聞いているが、今回は混乱を生むため夏油傑で通している。
獄門疆というお伽噺レベルの呪具を所有し、人の体を奪い理性を保つ怪物というのが轟悟の評価であった。
「まあ、向こうは計画を変えて来るだろうけど時間的に、大幅な変更は無いだろうね。」
「人手という意味では虎杖達が九相図の二体を倒したのは良かったですね。」
「いや、呪霊側はともかく夏油自身は捨て駒と見ていたみたいだ。」
人手が減ったという点を評価する轟に対して、与幸吉が意見を上げる。
「メカ丸先輩の話を聞く限り、夏油傑は特級達を使い潰す気満々って感じですね。
……今思ったんですけど、真人って超レアかつ有用な術式ですよね?
初めて確認された虎杖の事件でも一般人を呪詛師に仕立て上げたし。」
轟の読んだ報告書では、呪詛師として処理された青年は呪術とは全く無縁の人生を送ってきた事から真人によって仕立て上げられた可能性があると七海から指摘されていた。
「……つまり、傑の体を使ってる糞野郎は僕の封印と真人を取り込むのが目的って事?」
それならある意味全体の辻褄が合うと轟は考えていた。
真人は術式の関係上祓うのが困難な存在であり、現状二つの魂を持つ虎杖悠仁と反転術式を戦闘に利用出来る轟悟しか有効な存在はいない。
もし、夏油傑が宿儺の器を用意してて、有効性に気付いて高専に保護させた理由が真人を弱らせる事なら筋が通る。
(けど、そこまでの筋書きを描けたとしたら相当な化け物だぞ。)
「……奴は、宿儺の復活はスペアプランだと前に漏らしていた覚えがある。」
与幸吉の言葉で、三人は『宿儺の器を用意したのは夏油傑の体を使っている人間ではないか。』という疑念が強まってくる。
「案外、最終目的は完全復活した宿儺を乗っ取って日本支配とかですかね。」
「それは分からないけど、少し話が逸れてきたね。
一旦休憩しよう。」
五条悟の言葉で全員の気が抜ける。
ちなみに伊地知潔隆は三人の話し合いに対して耳を傾けつつ、与幸吉を匿うための書類作業を行っていたが、時たま話の規模に怯えて誤字しまくっていた。
三人とも思い思いに休憩を取り始める。
といっても五条悟だけはベットに座りながら何かを静かに考えている。
「あー喉乾いた。
伊地知さーん、冷蔵庫開けていい?」
「構いませんよ。
五条さんと、メカ丸君もよろしければどうぞ。」
「ありがとうございます。」
「僕甘いもの。」
五条悟の好みを聞きつつ、冷蔵庫を開けると与幸吉も寄ってきて二人で中身を物色する。
「……飲めるものが栄養ドリンクとコーヒーしか飲み物が無い件。」
「俺でもこの冷蔵庫が変なのは分かる。」
ドリンク類は栄養ドリンクとコーヒー後はビールしかなく、固形物は漬物等の日持ちしそうだが若者には喜ばれない物ばかりだ。
「あはは、家を空ける事が多いので自然とそんな感じに。」
伊地知は人の反応にパソコンから目を離さずに言い訳するが、逆にその姿を見た二人からは哀れみの視線が突き刺さるのを感じた。
轟は取り敢えず栄養ドリンクを二本取り出して一本を五条悟へと渡して自分も一口飲んでみる。
(甘いのに味がない。)
独特な甘さと不思議な風味は轟に取って受け入れ難い事だったが、体に良いものは不味いという話を思い出してチビチビ飲み始めた。
(これがコーヒー、これが漬物か。)
コーヒーと漬物という常人なら好まない組み合わせで二品を黙々と味わっている。
生命維持装置からの栄養補給によって命を繋いできた与幸吉に取って味覚を刺激するというだけで十分な幸福を感じていた。
二人が飲み物を飲み干した頃を見計らって五条悟が口を開く。
「取り敢えず、僕らは後手に回るしかないね。
仮に渋谷で待ち構えても人が多い場所なら何処だろうと作戦を遂行するだろうし。」
「爆弾騒ぎとかで避難させるとかは?」
古今東西、イベントを中止に追い込む方法として爆弾を仕掛けたという脅迫状は一定の成果を産む。
「それはそれで、敵が完全に自棄になる可能性もある。
どちらにせよ被害が出る可能性が高いなら敵の動きを待って確実にまとめて祓いたい。」
もし高専側が対策を取り、夏油傑と特級呪霊達が自暴自棄になり各地で殺人に走ればそれだけで多くの人間が広い範囲で死ぬ可能性が高い。
ならば、何もせずに敢えて向こうの策にのって被害を纏めた方が良い。
一般人の犠牲を前提とした考え。
虎杖悠仁や伏黒恵、釘崎野薔薇ならば憤りを感じて唇を噛み締めて拳を強く握り締めるかもしれないが、ここにいる人間は違う。
轟悟は最初から大義に興味が無く、与幸吉はスパイだった経験から呪霊達の恐ろしさを良く知っている事、そして己のもたらした情報が五条悟に伝わる事こそが最善の結果を生むという確信があった。
伊地知潔隆は心苦しいが呪術師としての五条悟を知っているため何も言わない。
全員が沈黙による肯定を示した。
「悪いけど、今日話した事は誰にも洩らさずに当日を待とう。
伊地知はメカ丸の事を暫く頼む。
それとメカ丸、君の処遇だけどそれは今回の一件が終わってから話そう。
あ、処遇って言っても心配しないで良いから。」
「わかりました。」
五条悟は与幸吉を生かすと決めていたが、具体的な考えを思い付く余裕が無かった。
己の親友の死体を使ってる糞野郎の目的や正体に関する事、相手が当日に打ってくる策について考えていたからだ。
「後、轟は当日は自由に動いていい。
少し前の君なら僕の指示で動いてもらうけど、今なら心配無さそうだし。」
(その少し前の自分が生まれた理由は貴方何ですけどね。)
少し前の自分とは、価値観がおかしくなってた時の事だと考えた轟は心の中で少し文句を思うが、口に出した所で恥にしかならないので堪えた。
そして、10月31日。
ハロウィンがやってくる。
主人公の行動の結果、渋谷編がちょっと変わります。
なお、真人の魂が三割削られているので弱体化食らった代わりに夏油傑が参戦する模様。
色々考えたけど、どう考えても後手に回るのがもどかしい。