話はハロウィン前日まで遡る。
高専の何時もの地下室で五条悟と轟悟は向かい合う形で椅子に座っていた。
夏油傑や特級関連の話なら二人きりなる必要は無いのに敢えて一対一の形での話の場を五条先生が設けた事に少し警戒をしていた。
(無下限を利用した結界まで張る辺り、厄介事確定だよな。)
現在二人の周りには無下限を用いた結界がされており、中からの情報は外へと届かない。
(五条先生がこれから話す内容は高専にも伊地知さんにも与田先輩にも話せないし漏らせない類の話、タイミング的に明日のハロウィンに関わる事だろうが、嫌な予感しかしない。
何より五条先生が真面目な顔で黙り込んでるのが1番困る。)
「……。」
地下室に二人が揃って暫く経つが、五条悟は轟を前にして考え込む様に口元に手を当てて動かない。
普段からどんな場所でも笑みを浮かべて巫山戯ている人間が黙り込んでいる姿のはフリかガチかの二択であるが判断出来る程、轟は五条悟を知らない。
故に轟も沈黙という待ちで対応しているが、やがて五条悟が口火を切らした。
「僕はさ、轟の事を結構信頼してるんだよね。
実力については言わずもがなだけど、性格とかに関してもね。」
「…はぁ。」
「だからさ、僕が封印された時を前提に契約を結んでほしい。」
「…信頼とは?」
轟は今の現状と自身を評価する口振りからの契約の申し出に思わず、異常者を見る目で五条悟を見た。
「五条先生が居なくなった途端に俺が裏切るとでも?」
酷い信頼だと轟は思わず天井を見上げた。
「いや裏切る事は考えてないよ。
でもさ、轟の解決手段って雑じゃん?」
「いや…まぁ、はい。」
否定しようと思ったが、五条悟が封印された後の自分の行動を予想すると認めるしか無かった。
(封印されて暫くは事前に指示があれば従うけど、途中で『俺が命令無視しても誰にも止められないんじゃね?』って気付いて…まあ、そっから、うん。)
雑などと言う話ではない。
轟悟の基本的方針は『圧倒的勝利』であり、その原点はチート使って敵を潰すの楽しい!という幼稚な動機。
故に最低の中の最低限のラインとして『勝利すれば良い』というラインが存在するが、轟の中で敗北条件は決まっていない為、『誰がどうなろうと俺がスッキリすれば良い。』という事になる。
既に今回の一件については一般人への被害は免れず、呪術師業界への打撃も予想されている時点で轟の中での勝利条件はラインギリギリまで落ちている。
故に仲間の命は無意識に勘定から外れている。
例えば虎杖が宿難に成れば虎杖の体を粉砕するし、目の前に瀕死の仲間がいても、事態の収束という名のストレス解消を最優先にする。
誰が死のうと仕方ない。
心の中でそう処理して自分の欲求を満たす為に動くのは明白だった。
「まあ、単純に言えば僕の代わりに出来るだけ皆を助けて欲しい。」
「…まあ、それくらいなら。」
「ま、僕が封印された後に乙骨憂太っていう君の先輩が帰ってくるだろうし渋谷の一件以降は二人で連携してよ。」
乙骨憂太と轟に互いの面識は無いが轟にとっては先輩達との交流を通して朧げながらに知っている特級術師の一人。
曰く、禪院真希の良い人で根っからの善人。
そして五条悟が信頼する術師の中でも最強格の存在。
(なら渋谷以降は俺が好きに動いても良いのでは?)
それとも、彼一人では対処出きない何かを予想しているのだろうか?
どちらにせよ、仲間を守る程度の話なら、態々改めて話すことでは無い。
というのが、轟の感想である。
当日に言ってくれれば、流石の轟でも封印された後も遺言として意識位はするだろう。
(つまり、この話は前座の可能性が高い。)
「分かりました。
『先生が封印されたら、皆を守るように動きます。』」
「うん、ありがとう。
それじゃあ次が本題なんだけど。
僕も只封印されるのも癪だから、嫌がらせをしたいんだよね。」
「確かに。」
「だからさ、轟に僕の眼をあげるよ。」
五条悟は目隠しを外し、2つの眼で轟を見ていた。
「は?」
轟の渾身の困惑顔をスルーして爽やかに話が続けられる。
「わざわざ封印なんてまどろっこしい事をするんだから、いちばんの嫌がらせになると思うんだよね。
両眼無くすと流石にキツイから片眼だけね。」
「いや、何言ってるんですかマジで。」
轟は予想を超えた提案に対して開いた口が塞がらない。
片眼の譲渡というが、轟には既に眼が二つある為、轟も自分の眼を抉る必要があるという問題もあるがそれ以上に五条悟の眼が普通じゃない事を本人からの自慢で轟は知っていた。
「俺の術式なら他人の眼球入れても問題は無いかも知れないですけど、五条先生の眼は特別ですよね?」
「うん、特別だし僕の術式も刻まれているから移植した瞬間に頭がハジケ飛ぶかもね。
でも轟が次の段階に進めば可能だと思う。
多分、敵も望んでいるだろうから渋谷で会得出来ると思う。」
次の段階というのは術式による魂への干渉の事だ。
轟は術式の探求の為に五条先生に相談をし、魂のサンプルケースとして釘崎野薔薇の攻撃や改造人間の検死に立ち合う等の情報収集の結果、二人は自己の魂への術式干渉は可能であると結論を出していた。
「敵が望むってどういう事ですか?」
寧ろ失敗を望んでいるのが普通ではないかと轟は考えていた。
「メカ丸から情報を貰った後に色々と考えたんだけど、何で今のタイミングで動くのか不思議でね。
だって史上最強の術師である僕がいるのに不思議じゃない?」
「確かに。」
向こうは体を奪って生きているなら、不老不死の様な存在である。
何を企んでいるにせよ五条悟が存在している時点で計画が成就するのは不可能だろう。
なのに何故この時代に動き出したのか。
「僕の学生時代に色々な事があったんだけど、結果的に天元様の同化が失敗してるんだよね。
だから狙いがそれだと思って、直接確認したんだけど長生きしすぎて存在が呪霊寄りになってるんだよ。」
「天元ってあれですよね?
結界のプロみたいな存在。」
「そ、不死の術式を持っているんだけど長生きしすぎて肉体が保たないから術式が無理矢理進化させてるんだよ。」
(術式による進化…か。
俺の魂への術式干渉は予測としては魂の強化に肉体が引っ張られて肉体を通さずに強化出来る筈。)
「つまり、魂の強化についていけなくなると俺の肉体を術式が進化させる可能性が高い。
そして進化先は呪霊寄りになるかもしれない。
そうなると呪霊操術の適応範囲になり俺は夏油傑に近付けなくなる。」
「うん。
多分、つるんでる真人とかいう呪霊を騙して轟に術式を受けさせて促す可能性が高い。」
「俺が魂への術式干渉を取得出来ても人間辞めないようにセーブする必要があるのは分かりましたけど、それと眼の移植に何の関係があるんですか。」
「魂の強化による肉体の強化は呪力に寄らない現象だから、肉体には呪力が流れない空の器って事だから僕の眼と術式の受け皿に成る筈だし強度も充分だろう。
片眼だから完全に機能はしないかもしれないけど、それでも向こうに対する牽制としてはデカいでしょ。」
「いや、でも俺も片眼無くすんですよね?
嫌ですよ流石に。」
「でも僕が封印された後に皆を助けるには必要だと思うよ。」
「そうですけど、痛そうどころの話じゃないですよね?」
「契約による譲渡なら拒否反応も少ないと思うよ。
後、拒否権無いから。」
「え?」
「『五条悟は封印された時の轟悟の行動制限への契約の対価として片眼を轟悟に譲る。』」
五条悟が先程の轟の宣言に対する対価という形で片眼を譲る事を宣言した途端、ズルリと五条悟の顔から左の眼球が外れた。
その後、顔をから落ちた眼球を右手で受け止めながら、左手を顔にかざして反転術式を行ったが失われた目は戻らず空洞のままだった。
「うんオッケー。
僕の眼は呪物に近くてこのままでも腐らないから、このまま持ってて僕が封印されたら嵌めてね。
じゃ、硝子の所行って義眼もらってくるね!」
まるで、いらない小銭を押し付けるかのように轟の手に己の眼球を一つ握らせて五条悟は地下室を後にした。
残ったのは轟悟と手のひらにある眼球が一つ。
手のひらの眼球と目が合うという貴重な経験をしながら一連の今の流れに途方に暮れていた。
「えー…。」
というわけでこれから轟弱体化します。