一般人なら彼を焼死体の仮装だと思うかもしれない。
医者ならなぜ生きていると驚愕するかもしれない。
そして呪術師なら、身に纏う呪力に対して警戒するだろう。
今の七海健人は死人に近い。
今現在、夢遊病の様にふらつきながら大鉈で改造人間を屠っているが、本人は自分が何をしているかはっきりと理解出来ていない。
呪いに焼かれ片目を失い、半身も焼けた。
咄嗟に呪われた事実を受け入れる事で抽出した呪力で無理矢理体を動かしている。
そうしてフラフラと一人でも多くの道連れを作る為に歩いていると、誰かに抱きとめられた。
「呪力が凄いことになってるから元気だと思ったけど、ギリギリじゃないですか。」
「…ああ、無事でしたか轟君。」
抱きとめられた事で意識を取り戻した七海が残された片目で抱きとめた誰かを確認すると轟悟であった。
「…火山頭の特級に…真希四級と禪院特別一級…が…襲われまし…た。
私…は無事なので…そちら…を優…先して、く、だ…さい。」
他者へ反転術式を使えないが轟悟の術式なら、肉体を強化する事で最低でも天与呪縛を受けた禪院真希なら助かる筈だと判断しそちらを優先させようとするが、返ってきた反応は溜息だった。
「はぁ全く、真希先輩も老人も助けました。
次は七海さんですよ。」
呆れながら、轟が術式を発動させて行くと七海は自分の体が楽になるのを感じた。
(いや、これは術式だけではない?)
焼けてない半身への強化だけでなく、焼けた半身にも反転術式による治癒を感じたのだ。
「うわ、この火傷と呪いを縛りにしてるから呪力が漲ってるんですか。
治療の邪魔なんでさっさと縛り破棄してください。」
「いえ、今の状態の方が今夜は戦力になります。
今ので大分楽になっ、た、ので…。」
轟の治癒によって数刻の余裕が出来た七海は縛りの出力が落ちない程度の状態を維持する為に、治癒を止めさせようと轟を見るが、その姿に言葉を失った。
轟の片目は六眼に成っていたからだ。
「…轟君、その目は?」
「ああ、五条先生から事件前に貰ったんですよ。
入れる時滅茶苦茶痛かったし、無害だとか言ってた癖にガンガン侵食してくるしで便利な反面でクソですよこれ。
ま、お陰で他人に反転術式使えるようになりましたけど。」
侵食と言われて、改めて轟の顔を見ると確かに瞼や眉が五条悟の様に白く成っていた。
轟の言い分が正しければ今も六眼からの侵食を食い止めながら他者へ術式と反転術式を使用している事になる。
術式と反転術式の同時使用でも難易度が高い技術であるのに加えて、恐らく特級クラスの呪具の侵食を抑える事が出来るのは人の業ではないと七海は現実逃避したくなった。
「取り敢えず、七海さんがこれ以上体張る必要ないんで寝ててください。
大丈夫です。
今の俺は無敵以上なんで。」
そう云う訳には行かないと応えようとしたが、言葉が喉から出てこなかった。
それほど迄に今の轟は完全なのだ。
受け継いだのは爛々と輝く六眼だけでなく五条悟本人の術式も受け継いでいると自信の満ちた姿に確信が持てた。
(『今の』と言うことは何かしら制限があるのでしょうが、成程、不完全であるが故に完全であると。)
七海には轟悟の姿に五条悟の強さが重なって見えた。
完全に理解できない向こう側の領域に居るのは間違いなかった。
「…ええ、その言葉は嘘じゃないんでしょうね。
わかりました。
今は任せます。」
七海の意識が落ちると同時に纏っていた呪力が消失する。
轟は抱きかかえながら治癒を進めていく。
(取り敢えず、呪いはかなり洗い流したし肉体も最低限は処置したけどこれ以上はプロに任せるしかないか。)
七海の状態は3人の中で一番酷かった。
禪院真希は肉体が頑丈な為、比較的マシであったし禪院直毘人は自身の肉体を守る事に全呪力を使った事で瀕死の重傷で収まっていた。
火傷の被害で言えば、七海健人が一番酷いのに生存ではなく呪術師としての責務を優先して無理矢理に呪力で体を動かした為、轟が駆けつけなければ数分で死んでいたに違い無かった。
「よっと。」
七海を抱えた轟は家入の下まで跳んだ。
既に多くの補助監督や術師も数名運ばれており、戦場と化していた。
空いているベッドに七海を寝かせると即座にスタッフの一人が駆け寄って容態を確認し、半身が焼けた姿にすぐさま見切りを付けようとしたが運んできた人が轟悟である事を知ると家入硝子を呼びに走っていた。
「次は誰だ。」
この戦場における最強たる家入硝子は既にその白衣を多くの返り血で染めていた。
「七海さんです。
大雑把に呪い祓って治癒しましたんで後は頼みます。
真希先輩は?」
「…これなら、ギリギリ何とかなるか。
良くやった轟。
真希は心配しなくていい、禪院家の当主も命は繋いだ。」
「真希先輩が無事ならヨシ!
じゃ、後は頼みます。」
短いけど書きたいシーンを書いてくスタイル。
時系列とかは後で頑張って整合性取るよう努力はします。