いや、ただ単に長くなってしまっただけです。すみません。これも全てむっちゃんの浴衣が尊いのが悪いのです。
開会式典は綾瀬市長の挨拶で始まり、来賓の紹介の時に提督と私も挨拶を求められた。提督は短いながらも真面目な内容の挨拶をして、厳かな雰囲気で盛大な拍手を受けていた。私は堅くなり過ぎないように気を付けながらも、無難な挨拶をして歓声と盛大な拍手を受け取った。その後綾瀬市長のかけ声でお祭りが始まり、いくつかの御神輿が公園の周囲を回り始めた。御神輿には飾りやら旗がいっぱいあってとっても豪華な感じね。威勢の良いかけ声と共に担がれる御神輿に目を奪われていると、綾瀬さんが近づいて来た。
「葛原提督、堂々としていて立派な挨拶をありがとうございます。これで街の人達も安心して暮らせるというものです。」
「いえ、私はやるべき事をやったまでです。」
「はっはっはっ、いつも通り真面目なお方ですなぁ。陸奥さんも先程は良い挨拶でした。凛々しく頼りになるだけではなく、親しみ易い雰囲気が出ておりました。市民の中には艦娘を怖がる者達も居りますが、そういった者達が歩み寄るきっかけとなった事でしょう。」
「あらあら、そう言って頂けると嬉しいわ。」
その後は三人で話を続けていた。内容は主にこのお祭りの事を綾瀬さんが教えてくれて、提督が懸念していたような話題にはなって無いみたいなのだけれど・・・周囲からの視線がずっと集まっているわね・・・どうやら他の来賓の人達が私達に挨拶をしようとしているみたいなのだけれど、話に割り込みにくい雰囲気で困っているみたい。本当なら街の代表である綾瀬さんが、顔合わせの紹介をするべきだと思うけど、綾瀬さんはまるで気が付いて無いみたいに話を続けて、提督も視線には絶対に気が付いているはずなのに、そこには一切触れないつもりみたい。
「ど、どうする?」
「話が一段落するまで待つしかなかろう?」
「しかしだな・・・」
こそこそと話している来賓達の視線が私に集まってチラチラと目が合う。しかし提督に話し掛ける前に私に挨拶するのはおかしいので、誰も動けずに微妙な雰囲気が漂っている・・・この状況で私から話し掛けたりしたら、絶対にこれ幸いと提督への取り次ぎを依頼されるわね・・・ここは私も気が付かないフリをしておきましょう。そうやってしばらく視線を無視していると、痺れを切らしたのか数人が私達のところに近づいて来た。
「ご歓談中失礼します。葛原提督へのご挨拶が出来ておりませんでしたので、少しお時間を頂きたいのですが?」
「おっと!?これは失礼しました。いやはや、私はこのお祭りに思い入れがありまして、ついつい時間を忘れて話し込んでしまいました。」
「はぁ・・・ご存知かと思いますが、北九州鎮守府所属の葛原です。そしてこちらが陸奥です。」
「長門型戦艦2番艦陸奥です。宜しくお願い致します。」
「これはご丁寧にありがとうございます。私はこの街の商工会の会長を務めております・・・
その後続けて新聞社の支部長や漁協組合の会長などが挨拶をして、提督と軽く受け答えをする。挨拶に来た人達は提督の軍服姿が凛々しいとか、街を守護して貰って安心して暮らせるとか、私を美人だと褒めてそんな女性を連れ歩くなど羨ましいと、とにかく褒め称えて提督のご機嫌取りを始めた。褒められれば悪い気はしないけれど、なんだか下心が見えるのがちょっとね・・・ドンドンと冷やかな表情になっていく提督の隣で、私は愛想笑いをして誤魔化していると、綾瀬さんが話に入り込んでくる。
「そう言えば陸奥さんはこういったお祭りに参加されるのは初めてですか?」
「ええ、そうですね。私だけではなく鎮守府に居る仲間達も参加した事は無いと思います。」
「やはりそうですか。日々深海棲艦との戦いに身を投じていれば、こういった娯楽に触れる機会もないでしょう・・・もし宜しければ私が葛原提督と陸奥さんをご案内させて頂けませんか?御神輿も良いですが出店も立ち並んでいますので、きっと楽しんで頂けるかと思います。」
「あらあら?それは興味深いお話ですけれど、提督、どうされますか?」
少し期待を込めた目で提督を見ていると、少しだけ考えてため息を吐く。
「せっかくですしお願いします。」
「それならばさっそくご案内致しましょう。ではこちらに。」
――――――――――――――――――
そこからは綾瀬さんと数人の警護の人達と一緒に出店を回った。提督と二人きりって訳ではなかったけれど、それでも提督と一緒にお祭りを回れるのは役得よね♪ただ華やかなお祭りの雰囲気の中で、きっちりと白い軍服を着た提督は物凄く目立つので、どこを歩いても注目のまとなのは困ったものね・・・
「おお!?提督さんと陸奥さんだ!!ぜひうちの焼きそばを食べてくだせぇ!!」
「うちのたこ焼きは絶品ですぜ!!おひとつ持って行ってください!!」
「祭りと言えば焼きとうもろこしでしょ!!お代は結構なんで召し上がってください!!」
「いやいや!!祭りにはリンゴ飴ですよ!!さあさあこちらを召し上がってください!!」
私達の姿を見つけた出店の店主達が集まって、次々と自慢の品を差し出してくれる。提督が代金を支払おうとすると、いつも守って下さるお礼ですからと言って受け取ろうとしない。だから優しく微笑んで感謝を伝えると、店主達は大喜びで去って行った。休憩所のテーブルで貰ったものを頂こうとすると、さらにあちこちの出店から店主がやって来たので、テーブルの上にはたくさんの食べ物が並んでいた。そして最初は穏やかな様子だった綾瀬さんだが、テーブルの物が増えるたびにだんだんと冷や汗をかいていく。
「あ、あの、お気持ちだけでも受け取って貰えれば大丈夫ですので・・・無理に全部を食べる必要はありませんので・・・」
「いえ、我々はまだ食事をしていませんので、ありがたく頂きます。」
「ええ、せっかくのご厚意ですから、無下には出来ませんね。」
それから提督と二人で食べたお料理の数々は、お祭りの雰囲気にも合っていてとても美味しく、これが美味しい、あれが美味しいと言いながら全て頂いた。お祭りってこんなに美味しい食べ物がいっぱいなら、赤城さんや大和さんが来たらきっと大喜びね。私はあの人達ほどは食べないからお腹いっぱいだけど、きっとあの二人ならもっと美味しい物がないか探しに行くのかしら?そんな事を考えながら、何故か唖然としている綾瀬さんに微笑みかける。
「御馳走様でした。どれもとっても美味しかったです。出店の店主さん達に改めてお礼を言いたいわ。」
そう言って感謝を伝えると、綾瀬さんは慌てたように提督の方に視線を向ける。
「そうですね。出店を回るついでに一声かけるくらいであれば、お店側のご迷惑にもならないでしょう。案内して頂けますか?」
「え、ええ、勿論です。」
綾瀬さんの案内で出店の人達に感謝を伝えていると、今度は別のお店から声がかかる。
「提督さんに陸奥さん!!是非うちでも遊んでみませんか?」
「ほう、射的ですか?私も陸奥も軍人ですが大丈夫ですか?」
「はっはっはっ、凄い自信ですね!!是非ともその腕を見せて下さい!!」
店主のその発言を聞いて、周囲に集まっていた人だかりから歓声が上がる。これはかなり期待されてしまったわね。私と提督に玩具の銃とコルクの弾が6発渡されて、店主から使い方を教えて貰う。
「では始めよう。まずは試し撃ちで小物を落としていくか。」
そう言って提督が駄菓子を狙って3発撃ち、その全てが命中して歓声が上がる。
「ふぅ~ん、提督もやるじゃない。次は私の出番ね、良いわ、やってあげる!!」
私も提督と同じように駄菓子をきっちり三つ撃ち落として、またまた歓声が上がる。普段からもっと遠くで動く敵と戦っているのだから、これくらいは余裕ね。
「流石だな。なら次は大物を狙うか。どれが欲しい?」
「そうねぇ、ならあのクマの人形にしない?一番難しそうだと思うわ。」
私は射的の棚の一番奥に置いてあった人形を指し示す。普通のクマの人形なのに、なぜかどことなくうちの球磨を思い起こさせて、なんだか気になったのよね。
「良いだろう。・・・当たったが落ちんな。」
「なら私も狙ってみようかしら・・・ふ~ん、少しはやるじゃない。」
提督も私もきっちり当てたけれど、クマの人形は少し動いただけで、全く落ちる気配が無い。
「お、流石に提督さんと陸奥さんでもあの大物は難しかった。」
あらあら?これはもしかしてお姉さんに対する挑戦かしら?でも普通にやっても落とせないのよねぇ・・・だったら・・・
「ねぇ店主さん、こっちに置いてる銃も使って良いかしら?」
「ん、銃を代えるのかい?良いよ、好きに使ってくれ。」
「うふふ、ありがとう。」
店主さんに確認をとってから使っていない銃を二つとって、一つを提督に渡す。
「提督、あの人形は強敵みたいだし、一斉射で仕留めましょ?」
「なるほど、良いだろう。」
提督はニヤリと笑い、私達は銃に弾を込めて両手に一つずつ持って狙いを定める。
「では陸奥、合図を。」
「ふふっ良いわ。主砲一斉射!!撃てぇ!!」
4つの弾が綺麗にクマの人形へと命中し、見事に打ち落とす事に成功する。周囲の観客からは大歓声が上がっていて、どうやらちゃんと期待に応えられたようだ。ちょっとパフォーマンスをしたかいがあったかしら?
「お見事!!お見事です!!まさかこの大物を仕留めるとは!!これならばこの街の海は安全安心ですな!!」
「あらあら、ありがとうございます。ご期待に沿えるように、今後も頑張りますね。」
店主からクマの人形を受け取ってお礼を言い、周囲の観客達に手を振って応えてからその場を後にする。後ろでは子供達が射的の屋台へと駆け寄り、僕達も一斉射する!!とはしゃいでいる。なんだかとっても喜んで貰えたみたいね。
「すみません、そろそろ本部の方へ戻って頂けますか?夜の部が始まりますので。」
「分かりました。」
あらあら?夜の部って事は、まだお祭りを楽しめるみたいね♪次は何があるのかしら?
むっちゃんが可愛くてついつい長くなってしまう・・・本当はこのお話も一話で収まるはずだったのに・・・