提督と一緒にお祭りの出店を楽しんだ後は、またお祭りの運営本部へと戻った。今度は何を見せてくれるのかしら?とっても楽しみね♪
夕暮れに染まる会場では先程まで担がれていた御神輿が下ろされて、旗や飾りが次々と撤去されていて、飾りのなくなった御神輿は少し寂しい雰囲気だ。出来ればこういう片付けはお客さんの目に見えないところでやって欲しいわね・・・
「御神輿はもう終わりなのかしら?」
気になって近くに居た市長の綾瀬さんに尋ねてみると、なんだか機嫌が良さそうにニコニコしている。
「いえいえ、むしろここからが本番と言うものですよ。もう少し待っていて下さいね。」
そう言われて見ていると、御神輿のところに大量の提灯が運ばれて来て、どんどんと御神輿に取り付けられていき、御神輿の上に提灯のピラミッドが出来上がっていく。提督も隣で興味深そうに観察していて、少し楽しんでいるようなのだけれど・・・私は大量の提灯の中で火が揺らめく光景に少し不安な気持ちになってくる。
火は私のトラウマだ。軍艦時代の私の最後は第三砲塔付近で起こった謎の爆発が原因だ。敵と戦って誇りと共に沈むのであれば、まだ自分の轟沈にも価値はあったと誇れたはずだ・・・だが実際には敵艦のいない日本近海で事故によって轟沈してしまった・・・
そのせいか私は艦娘として生まれ変わってからも火が苦手だ。戦闘時には砲撃をしても気にならないけれど、戦闘から離れてしまえば駆逐艦の子達が遊ぶ花火や焼き芋をするための焚き火、しまいには間宮さんが料理で使うコンロなども、見ると不安になってしまうので近づかないようにしている。
「ほう、なかなか見事なものですね。」
「そうでしょう!!これこそこの地域自慢の提灯山です!!深海棲艦の襲撃以来見ることが叶わなかったこの地域の文化です!!陸奥さんも御覧になってみてとうですか?」
提督の呟きに対して綾瀬さんはとても嬉しそうに熱弁している。よっぽど思い入れのあるお祭りだったみたいね。ここで水を差すような事を言うのは無粋よね・・・
「え、ええ、とっても綺麗で幻想的な光景だと思うわ。」
「そう言って頂けると準備をしてきた者達も報われるでしょう。しかし完全に日が沈んだ後は、暗闇の中で提灯山が輝いてもっと美しくなるのですよ!!」
「それはとっても楽しみです。」
無難な受け答えをしていると、提督がこっちを観察するような目で見ている事に気がつき、慌てて取り繕うような笑顔を浮かべる。せっかく私をお祭りに連れて来てくれたのだから、こんな事で提督のお仕事の邪魔はしたくないものね・・・幸い提督は少し怪訝な表情をしただけでまた提灯山の方に目線を移し、綾瀬さんに提灯山の歴史などを解説して貰っている。うん、大丈夫、ここから提灯山までは距離があるもの・・・きっと大丈夫なはずよ・・・
――――――――――――――――――
そこからしばらくは公園の周囲をぐるぐる回る提灯山を眺めていた。確かに綾瀬さんが自慢するだけあって、闇夜に輝く提灯山はとっても綺麗だったけれど、それを楽しむ余裕は私にはちょっとなかったみたい・・・今は提灯山は全て止まっているので、そろそろ終わりなのかな?
「おい、陸奥、調子が悪いのか?」
提督が小声で心配そうに声をかけてくれる。ちょっと表情に出てしまったのかしら?でもこの暗さならあんまり表情は見えないはずだから、もうちょっと誤魔化せるかしら?
「そんなことないわ。平気よ。」
「・・・そうか?」
「ええ、もちろんよ。」
「・・・そうか。」
な、なんとか誤魔化せたみたいね。
ヒュ~~~~ドドン!!
「ひぅ!?」
いきなり甲高い音が聞こえたと思ったら、急に打ち上げ花火が大きな音で大輪の華を咲かせる。もう!驚いて変な声が出ちゃったじゃない!!さらに最初の一発を皮切りに、たくさんの花火が夜空を飾る。けれど私にとってそれはトラウマを刺激する恐ろしい存在でしかない・・・
「はぁ・・・綾瀬さん、すみません、陸奥の調子が良くないようでして・・・」
「それは大変ですな!!すぐに帰る準備を整えましょう。慣れない人の多さに知らず知らず疲れてしまったのでしょう。」
「で、でも、提督はこの後も予定があるのでしょう?私なら大丈夫だから。」
確かお祭りが終わった後に、有力者達との交流会が控えていたはずよね?提督はすっごく嫌がっていたけれど・・・
「そんなものより陸奥の方が重要だ。」
「そうですとも!!日々我々を守って下さる陸奥さんに、万が一の事があっては一大事です!!交流会はまた後日企画すれば良いだけの話です。」
「そういう事だ。立てるか?」
そう言って提督は手を差し出してくる。もう、そんな優しくされたら困ってしまうじゃない。でもこんな機会滅多に無いかも?
「ありがとう。では皆さん、申し訳ありませんがお先に失礼します。」
提督の手をとって立ち上がり、他の来賓の方々に深々と頭を下げる。来賓の方々は口々に「お気になさらず」「お大事に」と優しく声をかけてくるが、なんとなく不満気な雰囲気を感じる。結局私達は綾瀬さんとばかり話をしていて、他の来賓の方々とはあまり話が出来なかったから、交流会を待ち望んでいたのかしら?本当に悪い事をしてしまったわ・・・
「我々はこれで失礼します。」
「では会場の外れに車を用意させております。そこまでご案内しましょう。」
――――――――――――――――――
綾瀬さんに用意していた車へと案内して貰い、提督と二人で乗り込んで鎮守府へと向かう。ここに来るまでの間ずっと花火の音が聞こえていたけれど、提督と手を繋いでいたらなんだか心強くかったので、私の心はだんだんと穏やかになっていた。そして車に乗る直前に振り返って見た花火はとっても綺麗で、この光景はずっと忘れられないものになるだろう?
「今日は大変な仕事に付き合わせて悪かった。体調はどうだ?」
「少し落ち着いたから大丈夫よ。私こそごめんなさい。本当は交流会に出る約束だったのよね?お仕事の邪魔をしてしまったわ・・・」
「そんな事を気にしていたのか?私としては参加したくはなかったからちょうど良いくらいだ。」
「でも綾瀬さんからは交流会への参加まで頼まれていたのでしょう?」
「あぁ、確かにそうなのだが・・・どうせ交流会には参加しなかったと思うぞ?」
「え?元々断るつもりだったの?」
珍しいわね。いつもなら面倒な仕事も、一度引き受けたらきちんとやっているのに・・・まあ、そのやり方に関しては色々と問題があったりするのだけど・・・
「どうやら綾瀬さんは私達と来賓の連中を近づけたくなかったみたいだからな。何かと理由を付けて我々を先に帰らせていたと思う。それが少し早まっただけだ。」
確かに綾瀬さんは私達と来賓の方々を近づけようとするどころか、会話をしないように妨害していた気がする。おかげで提督もあんまりストレスを溜めずに、お祭りを楽しめていたわね。
「あらあら?じゃあわたしは良いように使われただけって事かしら?」
「まあ、そんなところだ。だから気に病む必要は無い。」
う・・・せっかく提督が心配して優しくしてくれたと思ったら、そんな裏事情があったの?ちょっとカッコいいなぁ、って思ってたのに・・・
「あら、あらあら?じゃあ提督も私を心配してくれたのでは無いのかしら?帰るのに都合が良かっただけなの?」
「いや、陸奥の様子が心配だったのは本当だ。こんな下らない仕事で調子を崩して、いざと言うときに戦えないなんて事になってはいけない。さっさと鎮守府に帰って休むべきだ。」
もう、そんな言い方して・・・もうちょっと優しい言葉をかけて欲しかったけど、うちの提督はやっぱりこんな人よね。まったくしょうがない人なんだから♪
「そう。なら一つお願いしても良いかしら?」
「どうした?」
「もう少し手を握っていてくれないかしら?そうしたらちょっと安心するから・・・」
「ああ、良いだろう。」
「ふふっ、ありがとう。」
帰りの車の中で提督と手を繋いで、暖かい気持ちで鎮守府へと帰れた。これくらいは役得って事で良いわよね?
ちなみに今回のお祭りのモチーフとして使ったのは、北九州市で開催される戸畑祇園大山笠というお祭りです。作者の地元のお祭りで思い入れのあるお祭りだったので、むっちゃんと一緒に楽しみたいという妄想が膨らんだので、こういうお話になりました。興味のある方は調べて頂けると、お祭りの雰囲気が少しでも伝わるかと思います。