今は私は提督と二人で居酒屋鳳翔に来ている。居酒屋と言いつつも居心地が良いからと、お酒を飲まない者達もよく来る場所だ。なので基本的にお酒を楽しむ席とお酒を飲まない席でなんとなく分かれている。まあ、お酒を飲まない席で飲んでも怒られる訳ではないが、お酒を飲まない席ではあまり騒がない事が暗黙の了解だ。なので静かに飲みたい響とかは飲まない方の席で飲んでたり、逆に飲まないけれど、飲兵衛達の玩具になって騒いでいる暁みたいな娘もいる。しかし今は17時と早い時間な事もあってかなり空いていて、落ち着いた空間だ。冬季限定のこたつに入ってのんびりするには最高の時間だろう。
「なあ北上、活躍の報酬として居酒屋鳳翔で奢って欲しいという話ではなかったのか?さっきからずっとごろごろしているが・・・」
「え~大井っちがまだ入渠中なんだからさぁ~のんびり待ってようよ~」
「・・・なら大井の入渠が終わってから来れば良かったのではないか?」
「まあまあ、そう言わずにのんびりしようよ。」
ため息を吐きながらもなんだかんだで提督は私達のワガママに付き合ってくれる。なんでも『艦娘の人格矯正による性能低下の危険性』という研究があるそうだ。艦娘を普通の兵士を教育するように個性を潰し、軍人として扱い易い性格に矯正すると、艦娘本来の性能を発揮出来なくなるという研究らしい。性能低下という単語に過敏なうちの提督は、艦娘に対してずいぶんと甘くなったものだ。もちろん戦闘時には軍人として規律を守り戦果を上げることを求められるし、提督が執務中はこんなお遊びに付き合ってはくれない。だから基本的に食事中か執務時間後が狙い目だ。それが分かっているからその時間帯だとライバルも多いのが難点だが・・・予め提督と約束し、大淀さんと交渉して早めに執務を終わらせて貰うことで、やっと得られた誰にも邪魔されない貴重な時間なのだ。そう簡単に手放してなるものか。
「ほらほら、提督はいつも忙しいんだからさぁ、たまにはのんびり過ごしなよ。」
「はぁ・・・それも悪くは無いか・・・」
そう言って寝転ぶ提督を見て、私の勝利を確信する。やっぱりスーパー北上様は伊達じゃない。
「それで、わざわざ人気の無い時間帯に呼び出したんだ。何か話があるんじゃないのか?」
「ん~話したい事が無い訳じゃないけど、提督とのんびりしたかったってのが一番かなぁ~提督は人気者だからさぁ~こうやってのんびり出来る時間は貴重なのですよ。」
「最近ワガママを言う艦娘が増えたからな。本当に大変だな・・・」
う~ん、やっぱり提督もお疲れみたいだね。うちの鎮守府も今では70人を超える大所帯だ。もちろん全員が提督に好意を寄せて、構って欲しいとワガママを言う訳じゃないけど、やっぱり一人で対応するのは大変だよね。
「その代わり私達はしっかりと戦果を上げてるから、ちょっとくらい許してよ。」
「それが無ければワガママなんて聞いてないんだがなぁ・・・実際に結果が出ている以上、今更止めることは出来ないか・・・」
戦果が上がっているのは当然だ。この提督が合理主義者なのは、全ての艦娘が知っている事だ。いくら研究結果があったとしても、実際に効果が無ければ簡単に打ち切っただろう。うちの艦娘達はそれを知っているからこそ、全力で戦闘に挑んでいるし、執務中に邪魔をしないという暗黙の了解を守っている。それに艦娘同士の足の引っ張り合いなんて起きようものなら、容赦なく解体処分にされるかも知れないという怖さもある。いきなり解体は無いにしても罰は与えられるだろう。それよりも提督に見放されるほうが怖いけど・・・
「最近は全体的に練度も高くなっているし、戦闘時も性能を十分に引き出せていると思う。連携に関しても問題無いのであれば、現状維持が一番だろうな。」
「そうそう、皆提督の為に頑張ってるんだからさぁ~その気持ちを無駄にしちゃダメだよ。」
「私の為にか・・・艦娘達は人を、国を守る意識が強いのではなかったのか?」
「そりゃ~そういう気持ちもあるよ?でも顔も知らない誰かの為よりも、身近な人を守るってほうがやる気が出るものだよ。良くしてくれる人ならなおさらね。」
「なるほどな。」
まあ、そこに混じる恋心にはこの人は気が付かないだろうけど・・・うちの提督は人の悪意には敏感なくせに、好意に疎いところがあるから困ったものだ。むしろこれだけの数の艦娘から言い寄られているのに、手を出したという噂を聞かないのは異常ではないかな?美人な大人から可愛い娘まで選り取り見取りなんだけどなぁ・・・
「そ、その・・・提督はさぁ、そういう大事な人って居ないの?」
「大事な人か・・・私に家族は居ないが・・・まあ、死んで欲しくない奴等はいるな。悪友とは言えなんだかんだで良い仲間だと思っている。」
ああ・・・そっちに行っちゃったかぁ・・・確かに大事な『人』って言っちゃったけどさぁ
「提督の友達ってキャラが濃い人ばかりだったよねぇ。」
「そうだな・・・艦娘達も大概濃い奴等だが、奴等も負けて無いな。」
「あはは・・・そうだねぇ~」
「もちろんお前達艦娘にも沈んで欲しくないな。」
「え?」
おっとぉ!ここで来ますかぁ~やるねぇ~
「もちろん戦略的な意味合いもあるが、やはり長期間一緒に過ごすと、愛着も湧くものだ。いざという時は沈める覚悟も必要だろうが、そうならないように全力を尽くすさ。」
くぅ~これだからこの提督はぁ~幸いこたつに隔てられているから、表情が見られないから良いものの・・・こうやって数多の艦娘達を沈めてきたのだろう。北上さんも轟沈寸前だよ。
「こ、こほん。その辺は皆信頼してるから、安心して命を預けられるんだよ。」
「・・・そうか。」
「うん、そうだよ。」
ちょっと気まずい?いや、気恥ずかしい沈黙が流れていたが、外から誰かが走って来る音が聞こえた。
「北上さん!お待たせしました!!」
「おお~大井っち、こっちこっち。」
寝そべりながら大井っちを手招きすると、大井っちは私の隣に入ってくる。それなりに大きいこたつだが、わざわざ隣に入ってくっついてくるあたり、大井っちも甘えん坊ですなぁ~
「提督もお待たせしました。」
「いや、構わない。大井も揃ったならそろそろ始めるか。」
「はい、今夜はお鍋をご馳走して下さるんですよね?楽しみです!」
それにしても大井っちまで提督に惚れてしまうなんて予想外だったなぁ・・・最初は提督なんか眼中に無いって感じだったのに、いつの間にやらって感じだよ・・・今はまだ北上さんと一緒にいる事が多いけど、これからの事を考えるとちょっと寂しい気もするよ・・・鳳翔さんから受け取った鍋をテキパキと準備する姿は、良妻賢母って感じだし敵わないなぁ・・・
「それで、提督は北上さんとどんなお話をしていたのですか?」
「とりとめの無い話をのんびりとって感じだ。」
「そうなのですか?」
「ああ、たまにはこうやってのんびりと過ごすのも悪くない。良い息抜きになったさ。」
そう言ってくれるなら今回ワガママ言ったかいがあったってものだよ。北上さんもやっぱり良い女だよねぇ?
「フフッ、それは良かったです。北上さん、お鍋の準備も出来ましたし、一緒に食べましょう!」
「あ、ありがと。それじゃ提督の奢りで食べましょうかね?」
「おう、しっかり食べろよ。」
鍋の美味しさに舌鼓を打ちながら、提督と大井っちと三人で食事をする幸せを噛み締める。私達艦娘は人間じゃない。けれど人間じゃないからこそ許される事もある。ケッコンカッコカリをするのは一人だけって決まりは無いのだから、大井っちと一緒に結ばれる事も出来るだろう。そんな日を夢見ながらのんびりと過ごすのも悪くない。大井っちみたいに燃え上がるような恋だけが恋じゃない。北上さんは北上さんらしく、のんびりした恋があっても良いじゃないか。
北上さんとこたつで温もりたい。
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