バレンタインデーを明日に控えた食堂では、多くの艦娘達がチョコレート作りに挑戦している。ただでさえ高価なチョコレートを明石さんがまとめて大量購入してくれたので、提督に思いを寄せている娘や日頃の感謝を伝えたい娘達が頑張っている。私達白露型姉妹も例に漏れずチョコレート作りをしているのだが・・・
「ねぇ、お姉ちゃんそろそろ色々とツッコミたいんだけど良いかな?」
「え?今更かい?」
「うん、私も自分のチョコレートを作ってたから放置してたけど、これ以上放置するのもどうかと思うんだ。」
「まあ、白露姉さんがそうしたいなら僕は止めないけれど・・・」
「うん、時雨は制服の上に可愛らしいエプロン付けて、まさに恋する女の子って雰囲気だよね?」
「べ、別に良いじゃないか!!僕だって女の子なんだから!!」
「それはお姉ちゃんも良いと思うよ?でもさぁ・・・チョコレートに混ぜようとしているその粉はなに?」
まさに今溶かしたチョコレートに入れようとしている謎の粉を追及されて、時雨が目線を逸らす。やっぱり時雨は何かやるつもりだったんだね・・・
「いや、これはその・・・元気になるお薬だよ。ほら、提督っていつも激務で疲れているから元気になって欲しいなって思ったんだ。」
「怪しい・・・提督に変な薬飲ませるとか絶対に許さないからね!!」
「ちょっと待ってよ!!僕だって提督にそんな物を食べさせたりしないよ!!」
「じゃあこの粉の正体をちゃんと言いなさい!!じゃないと提督に報告するからね!!」
「マムシの粉末だよ・・・」
これ以上誤魔化すのは無理だと思ったのか時雨が気不味そうにぼそっと呟く・・・元気になるってそういう事だったか・・・
「とりあえずこれは没収ね。次に村雨!!」
「なぁに?白露姉さん?」
「村雨が作ったそれは何?」
「チョコレートケーキよ?」
「問題はその形だぁ!!完全におっぱいでしょ!!」
「う〜ん、本当は私を食べて♡とかやりたいけどそれは恥ずかしいから・・・だからせめて村雨のおっぱいの形のチョコレートをね♪」
「こんないやらしいチョコレートを渡させるかぁ!!」
「ああ!?村雨のおっぱいが!?」
村雨のおっぱいチョコを叩き潰してえっちぃ企みを阻止する。・・・・・・もう少し丹念に潰しておこう。お姉ちゃんより成長するだなんて許せない・・・
「ふぅ・・・これでよし!!」
「もう・・・村雨のおっぱいがぺちゃんこになっちゃったじゃない・・・」
「次に夕立!!」
「ぽい?」
「なんでチョコレートを袋のまま熱湯に入れようとしてるの!?」
「違うっぽい?でもレトルトカレーを作る時はこうやって湯煎してるっぽい!!」
確かにおんなじ湯煎だけど!!
「チョコレートとレトルトカレーの湯煎は違うの!!ちゃんと作り方の本を読まないとダメじゃん!!」
「ぽい・・・お勉強は嫌いっぽい・・・」
夕立ってば中途半端にしか本を読まないからこんな事に・・・夕立はチョコレートを溶かして型に入れて固めるだけの簡単な作業なのに・・・
「はぁ・・・もういい・・・後でお姉ちゃんが一緒に作ります。せめて食べられる物じゃないと提督には渡せないんだからね!!」
「ぽい・・・」
本当に手が焼ける妹達だ・・・お姉ちゃんするのも大変だなぁ・・・
「ついでに春雨。」
「は、はい!?なんですか白露姉さん?」
「その格好なに?」
「え?メイド服ですよ?」
いや、メイド服ですよ?じゃないよ・・・料理するだけなら時雨みたいにエプロンだけで良いじゃん?なんでそんな当然ですが?みたいな顔をしてるの?
「えっと・・・なんでメイド服なの?」
「その・・・バレンタインって好きな人に自分の気持ちを伝えるイベントですよね?」
「うん、まぁ、そうだね。」
「だから私の気持ち・・・愛と絶対の忠誠を伝えるならこの格好が相応しいと思いました、はい。」
「あ、うん・・・」
ヤバい・・・この娘目がマジだ・・・そりゃ私だって提督の事は好きだし、艦娘として提督の命令にはちゃんと従うけど・・・春雨の目はそんな軽いものじゃないと言っている・・・
「メイドは主に誠心誠意仕える者。私を救ってくれて温かい居場所を与えてくれた司令官に、愛を、忠誠を、私の全てを捧げたい。そんな気持ちを表現するのに相応しい服装だと思いませんか?」
「うん・・・そだね・・・」
ごめん提督・・・これは私の手に負えるものじゃないです。ちょっとだけ重い妹だけどなんとか受け止めて下さい・・・
「白露姉さん?」
「あ・・・えっと・・・春雨はチョコレート上手く作れているみたいだし大丈夫かな?」
「はい♪とっても上手に出来ました♪」
「その・・・髪の毛とか血とかは入れて無いよね?」
「当たり前です。衛生管理は料理の基本ですよ?司令官に食べて頂く物に変な物を混入させるなんてありえないです。」
「そ、そっか、じゃあ良かった。」
少なくともチョコレートはまともみたいだ・・・だったらお姉ちゃんの役目はここまでだよ・・・
「じゃ、じゃあお姉ちゃんは時雨達を見てるね。ほ、本当に手のかかる妹達なんだから・・・」
「はい、頑張って下さい♪」
普段はちょっとおどおどしている春雨が、一切視線をぶらさずに提督への愛を語るのはちょっとだけ怖かったなぁ・・・春雨って提督がからむとたまに怖い時があるんだよね・・・これが愛ってやつかな?
「ちなみに白露姉さんは何を作ったんだい?」
「チョコレートクッキーだよ。ちゃんとレシピ本通りに作ったし、味見もして美味しかったよ。」
「ふ〜ん、普通だね。」
普通かぁ・・・私も何か妹に負けない個性を手に入れるべきだろうか・・・
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コンコンコン
「失礼します。春雨です。」
「入れ。」
一日の執務を終えて、私室で最近の戦闘記録の見直しをしていたら、春雨が訪ねて来たようだ。こんな時間になんだろうか?
「ん?珍しい格好をしているな?」
「はい、メイド服です。」
たしかあれは北条のところの女性の使用人が着ている服だったと思う。なぜそんな物を春雨が着ているのだろうか?まぁ良いか。最近では艦娘達も街や明石経由で服を買って、着飾って楽しんでいるようだ。これもその一環なのだろう。特に風紀を乱すような格好でもないしとやかく言う必要も無いか。
「それで?なんの用だ?」
「今日はバレンタインなので司令官にチョコレートを渡そうと思って来ました、はい。」
「ああ、ありがたく頂こう。だがなぜわざわざ夜に来たんだ?他の姉妹は朝方一緒に来たが、何故一緒にしなかったんだ?」
「それは・・・他の人が居る時には悪雨ちゃんが出てこれないですから・・・はい・・・」
「ん?今回の件に悪雨も関わっているのか?」
「もちろんです。悪雨ちゃんも私の一部ですから、私の気持ちの中には悪雨ちゃんの気持ちもあるんです。だから司令官に私の気持ちを伝える時は、悪雨ちゃんも一緒じゃないと全部伝えきれないと思って・・・」
「なるほどな。」
春雨と悪雨はかなり複雑な関係だ。性格はかなり違うと思うのだが、完全に別の人格というわけではないらしい。たしか春雨の魂の深海棲艦に汚染された部分が悪雨だと言っていて、元々一つの魂だし分離されてるわけでも無く混ざり合っているという話だったな。この辺の事情は自分も春雨も悪雨でさえもはっきり分かっていなくて、魂の話も悪雨が苦労しながらこんなイメージだと考えてくれた話だ。
「では改めて。司令官、私を救ってくれてありがとうございます。暖かい鎮守府で生活させて下さってありがとうございます。前任者を殺めてしまった危険な私を受け入れて下さってありがとうございます。深海棲艦に堕ちようとする私を抱き締めて引き止めて下さってありがとうございます。私は司令官が大好きです。心の底から愛しています。この身が尽き果てるまで司令官に忠誠を誓います。どんな命令にも応えてみせます。だから私の気持ちをこのチョコレートと一緒に受け取って下さい。」
「・・・・・・今までに何度か言ったとは思うが、私は悪雨が深海棲艦の言葉を知る為の大きな手掛かりとなるから助けただけだ。それに春雨も悪雨もしっかり働いて成果をあげてくれている。有用な者を手放したくはないから、深海棲艦化を防ぐ為に多少のスキンシップをしているだけだ。」
「はい、もちろん知っています。でもそれだけじゃ無い事も知っています。もし本当にその理由だけで動いているような方だったら、こんなにも多くの艦娘から好かれるとは思えません。司令官は優しい方です。私達の頭を撫でて下さる時はとっても優しい手つきなんです。」
「そんなものなのか?意識した事は無かったが?」
確かに最近では駆逐艦を中心に、仕事で成果をあげたら撫でて欲しいと言う者が多い気がする。
「無意識だからではないでしょうか?私は司令官の本質は優しい人だと思います。」
「そうか・・・・・・」
自分の本質が優しい?復讐の為に多くの人間を陥れてきたのにか?どうにもしっくりこないが、春雨の目線ではそう見えるのだろうか?嘘を吐いているようには見えないしな・・・
「そうです。私が伝えたい事はお伝え出来たので、悪雨ちゃんに代わりますね・・・・・・なによ?」
見た目は全く変わらないが、雰囲気からして悪雨と交代したようだな。初めて悪雨と会った時は本当に深海棲艦のような見た目に近づいていたが、ある程度落ち着いてからは髪が変色したりしなくなった。悪雨曰く定期的なスキンシップで艦娘側に魂を引っ張っている成果だと言っていた。悪雨になると少し欲望に素直になって、多少の悪い事も許容する感じだろうか?
「なによと言われてもな・・・悪雨もなにか伝えたい事があるんじゃないのか?」
「別にもうほとんど残ってないわよ。言いたい事はだいたい春雨が言ってしまったもの。」
若干目線を逸しているのは気になるところだが、本人が言いたく無い事まで追及するような場でもないな。
「そうか。」
「でもそうね・・・私は春雨みたいな良い娘じゃないのよ。捧げるだけ捧げて満足なんてしないわ。私はもっと愛されたいの。だからいつか貴方に心から愛して貰えるように頑張るわ。」
「それは・・・難しいかもしれないな・・・」
「知ってるわよ。これだけたくさんの娘達に想われてるのに手を出さない朴念仁だもの。だけど諦める理由にはならないわ。それくらい貴方を愛しているのよ。」
「そうか・・・」
「そうよ。だからこのチョコレートを、私と春雨の気持ちを受け取って。」
そう言って悪雨はチョコレートを差し出してくる。なかなか重たいチョコレートだな。だが春雨と悪雨の気持ちを無下にはできない。
「ああ、ありがたく頂こう。」
悪雨の差し出すチョコレートを手にした瞬間、手首を捕まれて引っ張られる。前のめりに体勢を崩してしまったところに悪雨の顔が近づいて来て、一瞬頬に触れるだけのキスをして悪雨が離れる。
「な!?」
「ふふっ♪おやすみなさい、司令官♪」
悪雨は不敵な笑みを浮かべて私室から去って行った。
前半のギャグパートと後半の重めの愛の落差!!
どっちも書きたかったのです。